第八の罪、その名は
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第二章:交錯する影と暴かれる真実
7. デビルズネストの強欲と囚われの二人
ラッシュバレーで、自分の目指すべき道を見つけたウィンリィ。
「最高の機械鎧技師(オートメイルぎし)になって、エドたちを支える」と決意した彼女と笑顔で別れを告げ、エイミーはエドとアルと共に師匠の待つ街・ダブリスへと向かった。
厳しくも温かいイズミ・カーティスとの再会。
しかし、エドが年に一度の国家錬金術師の資格維持のための「査定」を受けに一時セントラルへ戻り、街を留守にしたその日のことだった。
◇
「——おいおい、随分と面白い連中が歩いてるじゃねぇか」
ダブリスの裏路地。アルとエイミーの前に突如現れたのは、キメラ(合成獣)の部下たちを従えた怪しい男たちだった
ダブリスの裏路地でキメラの部下たちに襲撃され、意識を失ったアルフォンスとエイミー。
目を覚ますと、二人はデビルズネストの地下にある別々の部屋へ隔離されていた。
エイミーが閉じ込められた薄暗い個室。
重い鉄のドアが開き、酒瓶を片手にゆっくりと入ってきたのは、黒い革ジャンを羽織ったワイルドな男だった。
「よう……お目覚めかい、お嬢ちゃん」
「っ……! あなたは……っ!?」
警戒して壁際に身を引くエイミー。
男はソファーにどっかりと腰掛け、首元に刻まれたウロボロスの刻印をあからさまに見せつけるように、ニヤリと笑った。
「俺様は『強欲のグリード』。……へぇ、てめぇ近しい匂いだな……兄妹か?」
グリードはソファーから立ち上がり、エイミーにゆっくり近づくと、フンフンと匂いを嗅ぐように鼻を鳴らした。
「……見たことねぇ顔だな。俺様がアジトを抜け出した後に作られた奴か。親父殿のやつ、また妙な落ちこぼれを作りやがって……」
グリードの言葉に、エイミーは息を飲んだ。
(この人……私が出作られる前に逃げ出した、あの……『グリード』……!?)
グリードにとってエイミーは、存在すら知らなかった15年前に生まれたばかりの「見知らぬ妹」。
だが——目の前でガタガタと酷く震え、怯えきっているエイミーの姿を見た瞬間、グリードの眉が怪訝そうに跳ね上がった。
「……おいおい、なんだその怯えようは。俺様はまだ何もしてねぇぞ?」
エイミーは身をすくめ、必死で首を振る。
その過剰な反応と、私服の隙間から見え隠れする古い擦り傷や痣、そして何より瞳の奥にへばりついた致命的な恐怖。それらを観察したグリードは、チッと嫌そうに舌打ちをした。
(……けっ。同じ兄妹(ホムンクルス)のくせに、エンヴィーの野郎あたりから相当酷いことされてきたんだな……)
自分を痛めつけ、道具として扱う他の兄姉(エンヴィーやラスト)とは違う。
目の前のグリードから向けられるのは、容赦ない暴力でも嘲笑でもなく、呆れを含んだどこか荒っぽい「気遣い」の気配だった。
(この人……他の兄姉たちと……全然違う……?)
不思議な感覚に包まれ、戸惑うエイミー。
そんな彼女に向かって、グリードは酒瓶をあおりながら語りかけた。
「……お前、なんでそんなにビクビク生きてんだ? 親父殿やあいつらの顔色見て生きるのが楽しいか?」
「だ、だって……お父様に逆らったら……殺されてしまうから……っ。それ以外の生き方なんて……っ」
「ハッ! 殺されるだぁ? 冗談じゃねぇ!」
グリードは自分の胸を強く叩き、ニヤリと不敵に笑った。
「俺様は『強欲』だぞ? 誰かの言いなりになってコソコソ生きるなんて、俺様の欲望が許さねぇんだよ! 俺様は生きたいように生き、欲しいものを手に入れる! 自分の欲望に嘘をついて死んだように生きてる奴なんて、生きてる価値もねぇ!」
グリードの言葉が、冷え切っていたエイミーの心に強い衝撃を与えた。
「お前もそうだぞ、新入りの妹よ。ビクビク恐怖から逃げるために生きてんのか? お前が本当に手に入れたい『欲望』は何なんだよ?」
「私……私の……欲……望……っ」
脳裏に浮かんだのは、お父様への恐怖でも、ホムンクルスとしての使命でもない。
自分を命懸けで庇ってくれたエドの真っ直ぐな瞳、抱きしめてくれたウィンリィの体温、そしてヒューズ家の温かい食卓。
「私は……エドワードさんたちの隣にいたい……っ! お父様の道具じゃなくて……『エイミー』として、大切な人たちを守りたい……っ!!」
初めて自分の口から溢れ出た、偽りのない心からの願い。
それをつっかえながらも必死に叫んだエイミーを見て、グリードは一瞬驚いたように目を丸くし、それから「ヒハッ!」と満足そうに笑った。
「いいじゃねぇか! 落ちこぼれなりに、上等な強欲を持ってんじゃねぇかよ!」
グリードはポンと乱暴にエイミーの頭に手を置いた。
「自分の欲望(願い)を否定するな。欲しいもんは命懸けで掴み取れ! それが……生きるってことだ!」
「グリード……っ」
100年以上生きる強欲の兄がくれた教えは、お父様の呪縛に縛られていたエイミーの心に、初めて「自分の意思で戦う」という光を灯したのだった。
