第八の罪、その名は
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第一章:鋼の少年と偽りの監視者
2. 人形が触れた体温
大総統府を出て中央市街の宿へと戻ったエドとエイミー。
部屋のドアを開けると、巨大な鋼鉄の鎧がカサカサと部屋の掃除をしていた。
「おかえり、兄さん! 大総統閣下からのお話って何だったの……って、あれ?」
鎧の頭部がカチャンと音を立てて振り返り、エドの後ろでおずおずと小さくなっているエイミーに気づく。
「アル、こいつはエイミー・ライズ。今日から俺たちの旅に同行することになった『境界の錬金術師』だ。大総統からの直々の押し付け……じゃなくて、お願いでな」
「えぇっ!? 同行って……僕たちの旅に!?」
驚くアルフォンスに向かって、エイミーーは深々と頭を下げた。
「あ、あの……! エイミー・ライズです……! 足手まといにならないよう、精一杯頑張りますので……よろしくお願いします……!」
声は小さく、肩は小さく震えている。
アルフォンスはその様子を見て、甲冑の手をあわあわと振った。
「あ、こちらこそよろしくね! 僕はアルフォンス・エルリック。……ねぇ兄さん、そんなに威圧しちゃダメじゃないか。エイミーさん、すごく怯えてるよ?」
「威圧なんてしてねぇよ! 俺は最初からこんなだ!」
不機嫌そうに吐き捨てるエドだったが、ベッドの上にエイミーの荷物をそっと置いてやると、「おい、腹減ってんだろ。下に飯食いに行くぞ」と顎でドアを示した。
◇
宿の食堂で並べられた温かいスープと焼きたてのパン。
地下の密室で、ただ生存に必要なだけの冷たい食事を与えられてきたエイミーにとって、それは信じられないほど香ばしく、温かいものだった。
「……美味しい……っ」
思わず零れ落ちた言葉に、向かいに座るエドがふんと鼻を鳴らす。
「当たり前だろ、中央(セントラル)でも評判の店なんだからな。ほら、残さず喰えよ。旅に出たら満足に食えねぇ日だってあるんだからな」
「うん。兄さん、口ではそう言いながらエイミーさんのスープに大きなお肉入れてあげてるし」
「余計なこと言うなアル! 俺が食い切れねぇから分けただけだ!」
赤くなって怒鳴るエドと、からからと笑うアルフォンス。
その光景は、エイミーの知る「ホムンクルスたちの世界」とはあまりにもかけ離れていた。
そこには冷酷な命令も、ミスをすれば即座に処分される死の恐怖もない。
ただ、互いを思いやる兄弟の温かい空気が満ちていた。
(この人たちは……こんなにも温かい……)
自分の左肩には、暗く冷たいウロボロスの刻印が刻まれている。
自分は彼らを監視し、いつか「お父様」の計画の贄として差し出すための道具でしかない。
(私は……二人を騙している……)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛む。
「臆病(Cowardice)」の名を持つ少女の心に、偽りの任務に対する激しい罪悪感と、この温もりの中にずっといたいという切ない願いが、小さく小さな芽を吹き始めていた。
「……おい、エイミー。どうかしたのか? 顔色悪いぞ」
エドが覗き込むように顔を近づけてくる。その真っ直ぐで金色の瞳に見つめられ、エイミーは慌てて首を横に振った。
「う、ううん! なんでもありません……! すごく……すごく美味しいです、エドワードさん……!」
「……そうか? ならいいけどよ。無理すんなよな」
ぶっきらぼうに言いながらも、どこか心配そうに目を細めるエド。
彼から向けられるその不器用な優しさに触れるたび、エイミーの胸の中で偽りの名が、確かに熱を帯びていくのだった。
第一章:鋼の少年と偽りの監視者
2. 人形が触れた体温
大総統府を出て中央市街の宿へと戻ったエドとエイミー。
部屋のドアを開けると、巨大な鋼鉄の鎧がカサカサと部屋の掃除をしていた。
「おかえり、兄さん! 大総統閣下からのお話って何だったの……って、あれ?」
鎧の頭部がカチャンと音を立てて振り返り、エドの後ろでおずおずと小さくなっているエイミーに気づく。
「アル、こいつはエイミー・ライズ。今日から俺たちの旅に同行することになった『境界の錬金術師』だ。大総統からの直々の押し付け……じゃなくて、お願いでな」
「えぇっ!? 同行って……僕たちの旅に!?」
驚くアルフォンスに向かって、エイミーーは深々と頭を下げた。
「あ、あの……! エイミー・ライズです……! 足手まといにならないよう、精一杯頑張りますので……よろしくお願いします……!」
声は小さく、肩は小さく震えている。
アルフォンスはその様子を見て、甲冑の手をあわあわと振った。
「あ、こちらこそよろしくね! 僕はアルフォンス・エルリック。……ねぇ兄さん、そんなに威圧しちゃダメじゃないか。エイミーさん、すごく怯えてるよ?」
「威圧なんてしてねぇよ! 俺は最初からこんなだ!」
不機嫌そうに吐き捨てるエドだったが、ベッドの上にエイミーの荷物をそっと置いてやると、「おい、腹減ってんだろ。下に飯食いに行くぞ」と顎でドアを示した。
◇
宿の食堂で並べられた温かいスープと焼きたてのパン。
地下の密室で、ただ生存に必要なだけの冷たい食事を与えられてきたエイミーにとって、それは信じられないほど香ばしく、温かいものだった。
「……美味しい……っ」
思わず零れ落ちた言葉に、向かいに座るエドがふんと鼻を鳴らす。
「当たり前だろ、中央(セントラル)でも評判の店なんだからな。ほら、残さず喰えよ。旅に出たら満足に食えねぇ日だってあるんだからな」
「うん。兄さん、口ではそう言いながらエイミーさんのスープに大きなお肉入れてあげてるし」
「余計なこと言うなアル! 俺が食い切れねぇから分けただけだ!」
赤くなって怒鳴るエドと、からからと笑うアルフォンス。
その光景は、エイミーの知る「ホムンクルスたちの世界」とはあまりにもかけ離れていた。
そこには冷酷な命令も、ミスをすれば即座に処分される死の恐怖もない。
ただ、互いを思いやる兄弟の温かい空気が満ちていた。
(この人たちは……こんなにも温かい……)
自分の左肩には、暗く冷たいウロボロスの刻印が刻まれている。
自分は彼らを監視し、いつか「お父様」の計画の贄として差し出すための道具でしかない。
(私は……二人を騙している……)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛む。
「臆病(Cowardice)」の名を持つ少女の心に、偽りの任務に対する激しい罪悪感と、この温もりの中にずっといたいという切ない願いが、小さく小さな芽を吹き始めていた。
「……おい、エイミー。どうかしたのか? 顔色悪いぞ」
エドが覗き込むように顔を近づけてくる。その真っ直ぐで金色の瞳に見つめられ、エイミーは慌てて首を横に振った。
「う、ううん! なんでもありません……! すごく……すごく美味しいです、エドワードさん……!」
「……そうか? ならいいけどよ。無理すんなよな」
ぶっきらぼうに言いながらも、どこか心配そうに目を細めるエド。
彼から向けられるその不器用な優しさに触れるたび、エイミーの胸の中で偽りの名が、確かに熱を帯びていくのだった。
