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最終章 俺のせいで生きろ
第一話:極寒の要塞と、狂気の執着
北の天険——ブリッグズ要塞。
吹雪が吹き荒れる極寒の地で一行を迎えたのは、「ブリッグズの北壁」の異名を持つオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将だった。
「——ほう。命を削る錬金術【脈動】のルイ少佐か」
氷のように冷たい青い瞳で、オリヴィエはルイを上から下まで見分めるように射抜いた。その圧迫感は、並の軍人であれば膝を折るほど鋭い。
「噂は聞いている。己の寿命を他人に分け与え、傷を癒やす異端の術……。だが言っておくぞ。このブリッグズにおいて『自傷』や『弱者の自己満足』など何の意味も持たん。死にたい奴は勝手に野垂れ死ね。ここでは『生き残る強さ』を持たぬ者に居場所はない」
容赦のない弱肉強食の理。
だが、ルイは以前のように目を伏せたり、自虐的な笑みを浮かべたりはしなかった。
「……お言葉ですが、少将」
ルイは背筋を正し、オリヴィエの視線を正面から見つめ返した。アメジスト色の瞳には、かつての死生観の影はなく、固い決意の光が宿っていた。
「私はもう、死ぬために術を使うつもりはありません。私は生き抜くために……大切な人の隣で生き続けるために、ここに立っております」
横に立つエドワードが、照れくさそうに、けれど誇らしそうにフンと鼻を鳴らす。
オリヴィエはその二人の空気感を一瞬で見抜き、フッと鼻で笑った。
「言ったな、少佐。……ならばその言葉、態度で見せてみろ」
◇
しかし、過酷な北の地に潜んでいたのは、寒さや人造人間たちの不穏な影だけではなかった。
大総統の密命を受け、賢者の石を手にブリッグズへ送り込まれてきた男——『紅蓮の錬金術師』ゾルフ・J・キンブリー。
要塞の応接室。白いスーツに身を包んだキンブリーは、優雅に紅茶のカップを傾けながら、ルイに向かって蛇のような細い目を向けた。
「やあ……お目にかかれて光栄ですよ、ルイ少佐。いえ……『生命を手繰り寄せる錬金術師』とお呼びするべきでしょうか」
「……何のご用でしょう、キンブリー中佐」
ルイが警戒感を露わにすると、キンブリーは口元を三日月のように歪め、不気味で恍惚とした笑みを浮かべた。
「素晴らしい……実に素晴らしい術だ。己の生命、己の寿命という『不可逆の対価』を支払って他者の命を繋ぎ止める……! 命の価値を理解し、それを極限まで弄び、削り取る……これほど美しく、歪で、狂おしい美学が他にあるでしょうか!」
「っ……!」
「私はね、ルイ少佐。自分の意志で命を懸ける人間が大好きなんですよ。あなたがその命を使い果たし、最後にどんな美しく惨めな表情で枯れ果てるのか……想像するだけでゾクゾクします」
キンブリーの狂気的な執着と、異様な眼差し。
ルイの【脈動】は、キンブリーにとって最高の「観察対象」であり、愉悦の餌食として狙われていた。
「ルイに近付くんじゃねぇ……! てめぇの言い分なんぞ、誰も聞いちゃいねぇんだよッ!」
エドワードがルイの前に割り込み、キンブリーを鋭く睨みつける。
「フフ……熱いですねぇ、鋼の錬金術師。ですが、意志の強さと戦場の不条理は別物だ。……見ものですね、どちらが先に折れるのか」
狂気の笑みを残して去っていくキンブリー。
北の吹雪の中に、命を賭けた苛烈な戦いの予兆が、静かに忍び寄っていた。
最終章 俺のせいで生きろ
第一話:極寒の要塞と、狂気の執着
北の天険——ブリッグズ要塞。
吹雪が吹き荒れる極寒の地で一行を迎えたのは、「ブリッグズの北壁」の異名を持つオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将だった。
「——ほう。命を削る錬金術【脈動】のルイ少佐か」
氷のように冷たい青い瞳で、オリヴィエはルイを上から下まで見分めるように射抜いた。その圧迫感は、並の軍人であれば膝を折るほど鋭い。
「噂は聞いている。己の寿命を他人に分け与え、傷を癒やす異端の術……。だが言っておくぞ。このブリッグズにおいて『自傷』や『弱者の自己満足』など何の意味も持たん。死にたい奴は勝手に野垂れ死ね。ここでは『生き残る強さ』を持たぬ者に居場所はない」
容赦のない弱肉強食の理。
だが、ルイは以前のように目を伏せたり、自虐的な笑みを浮かべたりはしなかった。
「……お言葉ですが、少将」
ルイは背筋を正し、オリヴィエの視線を正面から見つめ返した。アメジスト色の瞳には、かつての死生観の影はなく、固い決意の光が宿っていた。
「私はもう、死ぬために術を使うつもりはありません。私は生き抜くために……大切な人の隣で生き続けるために、ここに立っております」
横に立つエドワードが、照れくさそうに、けれど誇らしそうにフンと鼻を鳴らす。
オリヴィエはその二人の空気感を一瞬で見抜き、フッと鼻で笑った。
「言ったな、少佐。……ならばその言葉、態度で見せてみろ」
◇
しかし、過酷な北の地に潜んでいたのは、寒さや人造人間たちの不穏な影だけではなかった。
大総統の密命を受け、賢者の石を手にブリッグズへ送り込まれてきた男——『紅蓮の錬金術師』ゾルフ・J・キンブリー。
要塞の応接室。白いスーツに身を包んだキンブリーは、優雅に紅茶のカップを傾けながら、ルイに向かって蛇のような細い目を向けた。
「やあ……お目にかかれて光栄ですよ、ルイ少佐。いえ……『生命を手繰り寄せる錬金術師』とお呼びするべきでしょうか」
「……何のご用でしょう、キンブリー中佐」
ルイが警戒感を露わにすると、キンブリーは口元を三日月のように歪め、不気味で恍惚とした笑みを浮かべた。
「素晴らしい……実に素晴らしい術だ。己の生命、己の寿命という『不可逆の対価』を支払って他者の命を繋ぎ止める……! 命の価値を理解し、それを極限まで弄び、削り取る……これほど美しく、歪で、狂おしい美学が他にあるでしょうか!」
「っ……!」
「私はね、ルイ少佐。自分の意志で命を懸ける人間が大好きなんですよ。あなたがその命を使い果たし、最後にどんな美しく惨めな表情で枯れ果てるのか……想像するだけでゾクゾクします」
キンブリーの狂気的な執着と、異様な眼差し。
ルイの【脈動】は、キンブリーにとって最高の「観察対象」であり、愉悦の餌食として狙われていた。
「ルイに近付くんじゃねぇ……! てめぇの言い分なんぞ、誰も聞いちゃいねぇんだよッ!」
エドワードがルイの前に割り込み、キンブリーを鋭く睨みつける。
「フフ……熱いですねぇ、鋼の錬金術師。ですが、意志の強さと戦場の不条理は別物だ。……見ものですね、どちらが先に折れるのか」
狂気の笑みを残して去っていくキンブリー。
北の吹雪の中に、命を賭けた苛烈な戦いの予兆が、静かに忍び寄っていた。
