その手を掴んで明日へ行く
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第三話:暗闇の胃袋と、嘲笑う蛇
ぬめりと血の匂いが充満する、終わりなき暗闇。
グラトニーの暴走によってその巨大な口(腹)へ呑み込まれたエドワード、リン、そしてルイの三人は、どこまでも続く無機質な血の海の上に突っ立っていた。
「……くそっ、ここは一体どこなんだよ……ッ! 出口が見あたらねぇ!」
エドワードが怒声を響かせる中、遅れて闇の奥から姿を現したのは——『エンヴィー』だった。
「ここは出口なんてないよ。ここはね……あいつの腹の中。お父様が作った『疑似真理の扉』の失敗作さ」
「「……ッ!?」」
『真理の扉』——その単語が空間に響いた瞬間だった。
「……っ……ぁ……っ……」
ルイの全身が、激しく跳ね上がるように強張った。
視界が急激に色を失い、白と黒の混ざり合うあの絶望の空間——『真理の扉』の前に放り出された14歳の記憶が、フラッシュバックとなって脳裏に鮮烈に蘇る。
——「やあ、持っていくよ。君の『通行料』を」——
耳奥で鳴り響く、不気味な笑い声。腹部の奥が、持っていかれたあの日のように焼けるように疼き出す。
冷や汗が滝のように吹き出し、顔からは血の気が完全に引き、ルイは両手で自らの体を抱きしめるようにガタガタと震え出した。膝が笑い、血の海へと崩れ落ちそうになる。
「ルイ……ッ!?」
異変に気づいたエドワードが、瞬時にルイの肩を支えた。
「おい、しっかりしろルイ! ルイッ!!」
「……あ……エド、ワード……君……っ。私……私は……っ」
呼吸が浅くなり、アメジスト色の瞳は焦点を失って泳いでいる。
軍人としての冷静さも、大人としての仮面も完全に剥ぎ取られ、ただ過去のトラウマに怯える一人の傷ついた少女の姿がそこにあった。
「あははははッ! なんだいなんだい、急に面白そうな顔になっちゃってさぁ!」
その凄惨な様子を上から見下ろしていたエンヴィーが、底意地の悪いニヤけ顔を極限まで歪めた。
「へぇ……そうかぁ。そっちの『脈動』のお姉さんは、よっぽど辛〜い過去でもあるのかなぁ? 『真理の扉』って聞いただけでそんな顔になっちゃうなんてさ!」
「てめぇ……黙れエンヴィーッ!!」
エドワードが怒号を飛ばすが、エンヴィーは意にも介さず、煽るような甘い声でルイの傷口に毒を注ぎ続ける。
「知ってるよぉ? 君のその術さぁ。自分の命や寿命をガシガシ削って他人に分け与えるんだろ? ……傑作だよねぇ! 自分の命を削り続けることでしか生きていけないなんてさぁッ! どんな悲惨な過ちを犯したら、そんな惨めな生き方になっちゃうのかなぁ!ねえ、教えてよお姉さんッ!?」
「……っ……ぁ……っ」
エンヴィーの嘲笑が、ルイの胸の奥底に刺さったままの痛みを容赦なく抉り出す。
死に場所を探すように【脈動】を使い続けてきた自分。
命を生み出す権利を奪われ、自分の命を擦り減らすことでしか罪を宥められなかった惨めな自分。
「はははッ! 罪悪感でボロボロになりながら自分の命を削って……本当、人間ってバカで愚かで可哀想な生き物だよねぇッ!」
エンヴィーの甲高い高笑いが、疑似真理の扉の暗闇に不気味に響き渡る。
「——エンヴィー、てめぇ……ッ!!」
ルイの肩を抱きしめるエドワードの手が、激しい怒りで血が滲むほど固く握りしめられた。
自分の命すら大切にできず、トラウマに苛まれて震えるルイの背中。そしてそれを踏みにじるホムンクルス。
(許さねぇ……! 絶対に許さねぇぞ……ッ!!)
あの日誓った『この手で、この女を救う』という鋼の覚悟が、エドワードの胸の中で激しい炎となって燃え上がるのだった。
第三話:暗闇の胃袋と、嘲笑う蛇
ぬめりと血の匂いが充満する、終わりなき暗闇。
グラトニーの暴走によってその巨大な口(腹)へ呑み込まれたエドワード、リン、そしてルイの三人は、どこまでも続く無機質な血の海の上に突っ立っていた。
「……くそっ、ここは一体どこなんだよ……ッ! 出口が見あたらねぇ!」
エドワードが怒声を響かせる中、遅れて闇の奥から姿を現したのは——『エンヴィー』だった。
「ここは出口なんてないよ。ここはね……あいつの腹の中。お父様が作った『疑似真理の扉』の失敗作さ」
「「……ッ!?」」
『真理の扉』——その単語が空間に響いた瞬間だった。
「……っ……ぁ……っ……」
ルイの全身が、激しく跳ね上がるように強張った。
視界が急激に色を失い、白と黒の混ざり合うあの絶望の空間——『真理の扉』の前に放り出された14歳の記憶が、フラッシュバックとなって脳裏に鮮烈に蘇る。
——「やあ、持っていくよ。君の『通行料』を」——
耳奥で鳴り響く、不気味な笑い声。腹部の奥が、持っていかれたあの日のように焼けるように疼き出す。
冷や汗が滝のように吹き出し、顔からは血の気が完全に引き、ルイは両手で自らの体を抱きしめるようにガタガタと震え出した。膝が笑い、血の海へと崩れ落ちそうになる。
「ルイ……ッ!?」
異変に気づいたエドワードが、瞬時にルイの肩を支えた。
「おい、しっかりしろルイ! ルイッ!!」
「……あ……エド、ワード……君……っ。私……私は……っ」
呼吸が浅くなり、アメジスト色の瞳は焦点を失って泳いでいる。
軍人としての冷静さも、大人としての仮面も完全に剥ぎ取られ、ただ過去のトラウマに怯える一人の傷ついた少女の姿がそこにあった。
「あははははッ! なんだいなんだい、急に面白そうな顔になっちゃってさぁ!」
その凄惨な様子を上から見下ろしていたエンヴィーが、底意地の悪いニヤけ顔を極限まで歪めた。
「へぇ……そうかぁ。そっちの『脈動』のお姉さんは、よっぽど辛〜い過去でもあるのかなぁ? 『真理の扉』って聞いただけでそんな顔になっちゃうなんてさ!」
「てめぇ……黙れエンヴィーッ!!」
エドワードが怒号を飛ばすが、エンヴィーは意にも介さず、煽るような甘い声でルイの傷口に毒を注ぎ続ける。
「知ってるよぉ? 君のその術さぁ。自分の命や寿命をガシガシ削って他人に分け与えるんだろ? ……傑作だよねぇ! 自分の命を削り続けることでしか生きていけないなんてさぁッ! どんな悲惨な過ちを犯したら、そんな惨めな生き方になっちゃうのかなぁ!ねえ、教えてよお姉さんッ!?」
「……っ……ぁ……っ」
エンヴィーの嘲笑が、ルイの胸の奥底に刺さったままの痛みを容赦なく抉り出す。
死に場所を探すように【脈動】を使い続けてきた自分。
命を生み出す権利を奪われ、自分の命を擦り減らすことでしか罪を宥められなかった惨めな自分。
「はははッ! 罪悪感でボロボロになりながら自分の命を削って……本当、人間ってバカで愚かで可哀想な生き物だよねぇッ!」
エンヴィーの甲高い高笑いが、疑似真理の扉の暗闇に不気味に響き渡る。
「——エンヴィー、てめぇ……ッ!!」
ルイの肩を抱きしめるエドワードの手が、激しい怒りで血が滲むほど固く握りしめられた。
自分の命すら大切にできず、トラウマに苛まれて震えるルイの背中。そしてそれを踏みにじるホムンクルス。
(許さねぇ……! 絶対に許さねぇぞ……ッ!!)
あの日誓った『この手で、この女を救う』という鋼の覚悟が、エドワードの胸の中で激しい炎となって燃え上がるのだった。
