その手を掴んで明日へ行く
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ダブリスへの旅立ちと、口にしない足並み
数日後。病室での激論、そして大総統の不気味な来訪を経て、三人はセントラルを後にした。
「……よし! 次の目的地が決まったぞ!」
セントラルステーションのホームで、エドワードが威勢よく胸を張る。
「次はどこへ行くの、エドワード君?」
「南方都市『ダブリス』だ! 俺たちの錬金術の師匠のもとへ行く!」
「師匠……? あなたたちにこれほどの錬金術を叩き込んだ人物ね。どんな方なのかしら」
「ひっ……! し、師匠の恐ろしさは言葉じゃ説明できねえ……思い出すだけで……」
青ざめて震え上がるエドワードとアルフォンスを見て、ルイは「あらあら」と可笑しそうに目を細めた。
すると、二人の後ろから大きな旅行鞄を抱えたウィンリィが笑顔で割り込んでくる。
「ちょっとエド、置いてかないでよ! 私も途中まで一緒に行くんだからね!」
「げっ……ウィンリィ!? お前、リゼンブールに帰るんじゃなかったのかよ!?」
「ダブリスの手前に『ラッシュバレー』があるでしょ! オートメールの聖地に行かない手はないじゃない! ルイさん、よろしくお願いしますね!」
「ええ、もちろんよ。賑やかな旅になりそうで嬉しいわ、ウィンリィさん」
ルイは微笑み、エドワードの頭をポンと叩いた。
「よかったわね、エドワード君。大好きな女の子と一緒に旅ができて」
「だっ、誰が大好きだババァッ! 変なこと言ってんじゃねぇッ!」
真っ赤になって怒鳴るエドワードと、それに「ちょっとエド、ババァは失礼でしょ!」とスパナを構えるウィンリィ。そんな二人のやり取りを、ルイは大人のお姉さんらしい温かな眼差しで楽しそうに見守っていた。
◇
ダブリスへと向かう列車に乗り込み、ガタゴトと揺られる車内。
買い出しから戻ってきたエドワードは、向かいの席で静かに古文書をめくるルイの横顔を、じっと観察していた。
(……?)
ふと、エドワードの脳裏に小さな引っかかりが生まれる。
(……そういえば最近、あいつが血吐いて倒れるような無茶してねぇな……)
セントラルを出てから、ラッシュバレーや道中で何度かチンピラや小悪党との争いがあった。
以前のルイなら、迷わず自らの肌を切り裂き、血を吐きながら【脈動】の衝撃波で周囲を吹き飛ばしていたはずだ。
だが、この数日間——彼女はナイフを握ることも、血を流すことも一度もしていない。
持ち前の鋭い解剖学の知識を活かした体術と、最小限の通常の錬金術だけで、スマートに相手を制圧していた。
(……ふん。素直じゃねぇんだよ、クソ)
エドワードはフンと鼻を鳴らし、向かいの席へドカリと腰掛けた。
退院の日にルイは「怒鳴られるのが頭痛の種なのよ」と呆れ顔で強がってみせていた。
けれど、彼女は人知れず、エドワードの「一人で死ぬための錬金術なんて認めねぇ」という言葉をちゃんと抱えて、【脈動】の発動を控えていたのだ。
わざわざ「脈動使ってねぇな」なんて指摘してやらない。そんなことを言えば、またあの女は「自意識過剰なガキね」と澄ました顔で返してくるに決まっているからだ。
「……何かしら、エドワード君。人の顔をじろじろ見て」
視線に気づいたルイが、本から目を離さずに声をかけてくる。
「……別に。相変わらず可愛げのない女だと思って見てただけだ」
「あら、可愛げならアルフォンス君の分で十分足りているわ。ねえ、アルフォンス君?」
「ええっ!? ボ、ボク!?」
隣で座っていたアルフォンスが裏返った声を上げる。
窓の外には、南へと向かう温かな日差しが広がり始めていた。
言葉には出さない。けれど確実に変わった「生」への足並みを揃え、一行は賑やかにダブリスへと進んでいくのだった。
