その手を掴んで明日へ行く
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病室の来訪者たちと、芽生える視線
病室での激しい衝突を経て、エドワードとルイの間に流れる空気は、以前のようなトゲトゲしいものではなく静かで温かいものへと変わり始めていた。
そんな病室に、ドタバタと勢いよく飛び込んできたのは、出張修理のためにリゼンブールから駆けつけたウィンリィ・ロックベルだった。
「もうっ! エドのバカ! 何をやったらこんな根元から不具合を起こすのよッ! メンテナンスを怠るからでしょ!?」
「痛っ! 痛ぇよウィンリィ! 怪我人相手にスパナを振り回すなッ!」
「怪我人だからって容赦するわけないでしょ! アルもアルよ、ちゃんとエドを見張ってなきゃダメじゃない!」
「ご、ごめんウィンリィ……」
怒鳴り散らしながらも、手際よくエドワードの右腕のオートメールを分解し、真剣な眼差しで調整を施していくウィンリィ。エドワードも口では減らず口を叩きつつ、完全に彼女に全幅の信頼を寄せて身を委ねている。
ベッドの上でその様子を眺めていたルイの口元に、ふと穏やかな微笑が浮かんだ。
(……ふふ。やっぱりね)
リゼンブールでエドワードの手術を見守っていた時にも感じていた、二人だけの特別な空気感。幼馴染という枠組みを超え、命と身体を預け合う魂の深さで結ばれた二人。
(……可愛いわね。お互いに全く無自覚なところが、余計に甘酸っぱくて愛おしいわ)
ルイの温かい視線に気づいたウィンリィが、「……あ、ルイさん! すみません、うるさくしちゃって!」と赤くなって恐縮する。
「いいのよ、ウィンリィさん。賑やかなのは好きだわ。……エドワード君は幸せ者ね。こんなにもあなたを想って怒ってくれる素敵な女性がいて」
「だっ、誰が幸せ者だッ!」
「ちょっ、ルイさん何言ってるんですか!?」
二人揃って顔を真っ赤にして叫ぶ姿に、隣のアルフォンスが苦笑いを浮かべ、病室にはやわらかな温もりが広がった。
◇
その後も、お見舞いの来客は途絶えなかった。
「やあやあルイ少佐! 体調はどうだい!? うちのエリシアの最新写真を持ってきてあげたよ! ほら見てくれ、この天使のような愛くるしさをッ!」
「ヒューズ中佐……お気持ちは嬉しいですが、視界が写真で埋め尽くされて前が見えません」
親バカ全開で写真を押し付けてくるヒューズ。彼は写真を自慢し終えると、ふっと表情を柔らかくし、ルイの肩を優しく叩いた。
「……無理はすんなよ、ルイ。お前さんは真面目すぎる。子供たちの前で格好つけるのもいいが、大人が真っ先に倒れたら元も子もないだろ?」
「……肝に命じますわ、中佐殿」
続いてやってきたのは、相変わらず大号泣のアームストロング少佐だった。
「うおおおん! ルイ少佐ぁぁッ! 無事で……無事で本当によかったッ! アームストロング家に代々伝わる回復の抱擁を——」
「少佐、患者に圧迫骨折を負わせるつもりですか。お控えなさい」
ヒューズに首根っこを掴まれて制圧される少佐を見ながら、ルイはクスクスと胸を躍らせた。この軍には、鬱陶しいくらいに温かく、自分を案じてくれる大人がたくさんいる。
だが——最後にやってきた「来訪者」によって、病室の空気は一変することとなった。
「やあ、調子はどうかな、諸君」
軽やかな足取りで入ってきたのは、眼帯をつけた初老の男——大総統キング・ブラッドレイだった。
「「「大総統閣下……ッ!?」」」
病室に一瞬で緊張が走る。
ブラッドレイは気さくな「優しいおじ様」としての笑みを浮かべ、ルイのベッド脇へと歩み寄った。
「フライム少佐、君の【脈動】の噂は聞いているよ。……自らの生命力を削り、他者を救う奇跡の術。実に見事な忠義だ。……だがね」
ブラッドレイは背中に手を回し、ルイを見下ろした。その眼帯の奥にある片目が、一瞬だけ鋭く、冷ややかに光ったのをルイは見逃さなかった。
「君の命は、君一人だけのものかね? 無駄死にや過度の消耗は感心しないな。君には……軍において、いずれ果たすべき『重要な役割』があるのだからね」
(……なに……?)
ゾクリと、背筋に冷たい氷を押し付けられたような戦慄がルイを襲う。
表面上は身案じる上官の言葉。だがその裏には、「お前の死に場所も、命の使い道も、こちらの計画の管理下にある」と言わんばかりの、抗いがたい絶対的な圧力が潜んでいた。
「……お気遣い、感謝いたします、閣下」
ルイは澄ました顔で礼を述べたが、ブラッドレイが病室を去った後も、手のひらの冷や汗を感じていた。
