その手を掴んで明日へ行く
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病室の問答と、背負いし罪
第五研究所の崩壊とエンヴィーたちの撤退により、なんとか危機を脱した一行。
傷つき倒れたルイはセントラル市街の病院へと運び込まれ、翌日、集中治療室から一般病室へと移された。
白で統一された静かな病室。
ベッドの上で青白い顔をしたルイが目を覚ますと、そこには腕を組み、今にも爆発しそうな顔で立ち尽くすエドワードの姿があった。
「……目覚めたか」
「……ええ。……随分と物騒な顔で見下ろしてくれるのね、エドワード君」
ルイは掠れた声で微笑もうとしたが、エドワードは笑わなかった。その琥珀色の瞳は、激しい怒りと苛立ちで燃え上がっている。
「……なんであんな真似した」
「……何のことかしら」
「白を切るなッ!!」
エドワードがベッドの柵を激しく叩いた。大きな音が病室に響き渡る。
「なんであんな……自分の寿命を削ってまで俺を庇ったッ! 自分の命を何だと思ってやがる! あんたのやってることはな、命を救ってんじゃねぇ! 自分の命を使った自傷行為だッ!!」
「……」
ルイは静かに視線を落とし、布団を握りしめた。
「自傷行為、結構じゃない。……言ったでしょう。私の命をどう使おうと私の自由だと」
「自由なわけねぇだろッ! なんでそこまでして自分を追い詰める!? なんでそこまで死に急ぐんだよッ!!」
エドワードの叫びに諦めたルイはゆっくりと瞼を閉じ、静かに吐露し始めた。
「……14歳の時よ」
「……え?」
「14歳の時……私は病で亡くした弟を救いたくて、禁忌に手を染めたの。……『人体錬成』に」
エドワードの息が止まる。
「成果は惨痛たるものだったわ。弟は戻らず、持っていかれた『通行料』は……私の子宮。命を宿す器官だった」
ルイは自嘲気味に薄く笑った。
「命を生み出す権利を奪われ、弟をも殺した私に、生きている価値なんてない。……だから私は【脈動】を選んだの。自分の命を削り、誰かを救うことでしか……私は自分自身を許せない。そうして死んでいくことだけが、私に残された唯一の贖罪……『免罪符』なのよ」
冷徹な大人の仮面の下に隠されていたのは、6年間ずっと自分を責め続け、傷つけることでしか生きられない傷ついた少女の素顔だった。
だが——。
「——ふざけんなッ!!!!」
エドワードの怒声が、ルイの告白を真っ向からぶち破った。
「な……ッ!?」
「免罪符だあ!? 自分の命を削って罪が消えると思ってんのかッ! そんなもので赦されようとすんじゃねぇよッ!!」
エドワードは己の右腕——冷たい鋼の義手をルイの目の前に突きつけた。
「俺だってなぁ! 母親に会いたくて人体錬成をやったんだよッ! その結果がこれだ! アルは全身を奪われ、俺は右腕と左脚を失った! 俺たちだって消えねぇ罪を背負って生きてんだよッ!!」
涙を浮かべて目を見開くルイに、エドワードは泥臭く、けれど圧倒的な熱量で叫び続けた。
「自分を化け物だ、罪人だって言うなら……俺たちだって同じだッ! だがな、命を削って一人で死ぬための錬金術なんて、俺は絶対に認めねぇッ!!」
エドワードはルイの手を、その温かい左手で力いっぱい握りしめた。
「死んで免罪符を買おうとすんな! 罪が消えねぇなら、生きて、足掻いて、未来を掴んで抱えて生きろッ! あんたを一人で死なせたり絶対させねぇからなッ!!」
「……っ……ぁ……」
まっすぐに自分を見つめる少年の強さに、ルイの胸の奥で固く凍りついていた何かが、音を立てて崩れ去っていった。
誰かに怒られることも、止められることもなく、一人で死に向かって突き進んでいた自分。
それを「死なせない」と、同じ罪を背負う少年が全力で引き止め、生を突きつけてくれている。
「……本当に。……どこまでも生意気なガキね、あなたは……っ」
ルイは目元を腕で覆い、静かに泣き崩れた。
