その手を掴んで明日へ行く
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第三話・幕間:大きな鎧と、素直になれない少年
セントラルへと向かう途中で立ち寄った宿屋の部屋でのこと。
身体の修繕を終えて完璧な状態に戻ったアルフォンスは、丁寧に温かい紅茶を淹れ、優しくルイの前のテーブルへと差し出していた。
「はい、ルイさん。少し熱いから気をつけて飲んでね」
「ありがとう、アルフォンス君。……ふふ、本当に君は気遣いができて、言葉遣いも丁寧で良い子ね。どこかの誰かさんに見習ってほしいくらいだわ」
ルイは穏やかに目を細めると、背伸びをするでもなく自然な動作で手を伸ばした。立ち上がると2メートルを超える巨大な鎧には頭まで手が届かないため、腰帯の金具の上や肘の関節あたりを「よしよし」と慈しむように撫で回す。
「うわっ……! ルイさん……っ、鎧の上からだと、なんだか変な感じが……っ」
アルフォンスは困ったように甲冑の頭を掻くが、手は振り払わない。むしろ、ルイが座っている時には頭を撫でやすいように自分からすっと目線を低くしてかがみ込むくらいには、この温かいスキンシップを心地よく受け入れていた。
10歳で止まった亡き弟の面影と重なりつつも、14歳の少年として素直で優しいアルフォンスの存在は、ルイの凍りついた心を優しく解かしていくのだった。
「偉い偉い、素直で、優しくて、可愛い子……」
惜しみなくアルフォンスを褒めちぎるルイ。
「ちょっと、ルイさん、くすぐったいよ……」
和やかな空気が流れるテーブルの端で、カリカリと不機嫌な音を立てて硬いパンを噛みちぎっている男が一人。
エドワードだった。
腕を組み、脚を組み、深く椅子に深く腰掛けたエドワードは、あからさまに面白くなさそうな顔で二人を睨みつけている。
「……けッ。お茶一杯運んだくらいで大袈裟なんだよ」
「大袈裟じゃないわ。アルフォンス君の爪の垢でも煎じて飲んだらどうかしら、エドワード君? 君のその雑な口調と横柄な態度は、少しアルフォンス君を見習うべきよ」
ルイがいつものように、余裕ある笑みを浮かべてからかう。
普段なら「誰が雑だッ!」と怒鳴り返してくるはずのエドワードだったが、今日に限ってはその反応が違っていた。
エドワードはプイッとあからさまに顔を背けると、膝の上に視線を落とし、ぼそりと小さな声で呟いた。
「……そんなに、アルの方が良いのかよ」
「……え?」
聞き間違いかと思うほどの、低く、どこかすねたような声。
見れば、エドワードは唇を尖らせ、金色の前髪の隙間から覗く耳の先端を真っ赤に染めていた。
一瞬、時が止まった。
いつも大人ぶって突っかかってきては「ババァ」「ガキ」と怒鳴り散らしていたはずの少年が、弟ばかり褒められて素直に寂しがり、耳を真っ赤にして拗ねている。
きゅん、と胸の奥が跳ねる
(な……何、今の……!?)
その不意打ちすぎる等身大の可愛さに、ルイのアメジスト色の瞳が大きく揺れた。胸の奥で甘く鮮烈な衝撃が走り、不覚にもときめいてしまった自分に激しい動揺が走る。
(か、可愛い所もあるじゃない……)
ルイはフッと口元に余裕たっぷりの——少し意地悪で優越感に満ちた笑みを浮かべて見せた。
わざとらしく顎を少し上げ、膝の上の手に体重を預けながらエドワードを覗き込む。
「あら……ふふ、なにかしらエドワード君。もしかして、アルフォンス君ばかり撫でられて寂しくなっちゃったの?」
「な、なっ……ッ!?」
跳ね上がるように顔を上げたエドワードの顔が、一瞬で朱に染まる。
ルイは追い打ちをかけるようにくすくすと可愛らしく笑い、そっと自分の細い手をエドワードの方へと差し伸べた。
「ふふ、可愛いところがあるのね。……良いわよ、素直に甘えたいなら言って頂戴。エドワード君のことも、よしよしって撫でてあげようか?」
「だッ……誰が甘えたいかバカ野郎ッ!!!」
爆発したようなエドワードの叫び声が、部屋中に響き渡った。
「誰がそんな子供騙しに喜ぶかッ! 撫でてみろ、その腕へし折るぞッ!!」
「まあ、素直じゃないわね。顔が真っ赤よ、エドワード君?」
「うるせぇッ! 」
真っ赤になって身を乗り出し、ガミガミと怒鳴り散らすエドワード。
ルイは「はいはい」と余裕そうにあしらいながら、優雅に紅茶を一口すする。
表向きは完全に「年上の余裕」で勝った顔をしているルイ。
けれど、優雅にカップを持つ彼女の指先がほんの少しだけ震えていたことにも、胸の奥で打ち鳴らされる早鐘のような鼓動にも——当の本人はもちろん、隣で甲冑の首を傾げながら生温かい目で見守るアルフォンス以外、気づく者はいなかったのだった。
第三話・幕間:大きな鎧と、素直になれない少年
セントラルへと向かう途中で立ち寄った宿屋の部屋でのこと。
身体の修繕を終えて完璧な状態に戻ったアルフォンスは、丁寧に温かい紅茶を淹れ、優しくルイの前のテーブルへと差し出していた。
「はい、ルイさん。少し熱いから気をつけて飲んでね」
「ありがとう、アルフォンス君。……ふふ、本当に君は気遣いができて、言葉遣いも丁寧で良い子ね。どこかの誰かさんに見習ってほしいくらいだわ」
ルイは穏やかに目を細めると、背伸びをするでもなく自然な動作で手を伸ばした。立ち上がると2メートルを超える巨大な鎧には頭まで手が届かないため、腰帯の金具の上や肘の関節あたりを「よしよし」と慈しむように撫で回す。
「うわっ……! ルイさん……っ、鎧の上からだと、なんだか変な感じが……っ」
アルフォンスは困ったように甲冑の頭を掻くが、手は振り払わない。むしろ、ルイが座っている時には頭を撫でやすいように自分からすっと目線を低くしてかがみ込むくらいには、この温かいスキンシップを心地よく受け入れていた。
10歳で止まった亡き弟の面影と重なりつつも、14歳の少年として素直で優しいアルフォンスの存在は、ルイの凍りついた心を優しく解かしていくのだった。
「偉い偉い、素直で、優しくて、可愛い子……」
惜しみなくアルフォンスを褒めちぎるルイ。
「ちょっと、ルイさん、くすぐったいよ……」
和やかな空気が流れるテーブルの端で、カリカリと不機嫌な音を立てて硬いパンを噛みちぎっている男が一人。
エドワードだった。
腕を組み、脚を組み、深く椅子に深く腰掛けたエドワードは、あからさまに面白くなさそうな顔で二人を睨みつけている。
「……けッ。お茶一杯運んだくらいで大袈裟なんだよ」
「大袈裟じゃないわ。アルフォンス君の爪の垢でも煎じて飲んだらどうかしら、エドワード君? 君のその雑な口調と横柄な態度は、少しアルフォンス君を見習うべきよ」
ルイがいつものように、余裕ある笑みを浮かべてからかう。
普段なら「誰が雑だッ!」と怒鳴り返してくるはずのエドワードだったが、今日に限ってはその反応が違っていた。
エドワードはプイッとあからさまに顔を背けると、膝の上に視線を落とし、ぼそりと小さな声で呟いた。
「……そんなに、アルの方が良いのかよ」
「……え?」
聞き間違いかと思うほどの、低く、どこかすねたような声。
見れば、エドワードは唇を尖らせ、金色の前髪の隙間から覗く耳の先端を真っ赤に染めていた。
一瞬、時が止まった。
いつも大人ぶって突っかかってきては「ババァ」「ガキ」と怒鳴り散らしていたはずの少年が、弟ばかり褒められて素直に寂しがり、耳を真っ赤にして拗ねている。
きゅん、と胸の奥が跳ねる
(な……何、今の……!?)
その不意打ちすぎる等身大の可愛さに、ルイのアメジスト色の瞳が大きく揺れた。胸の奥で甘く鮮烈な衝撃が走り、不覚にもときめいてしまった自分に激しい動揺が走る。
(か、可愛い所もあるじゃない……)
ルイはフッと口元に余裕たっぷりの——少し意地悪で優越感に満ちた笑みを浮かべて見せた。
わざとらしく顎を少し上げ、膝の上の手に体重を預けながらエドワードを覗き込む。
「あら……ふふ、なにかしらエドワード君。もしかして、アルフォンス君ばかり撫でられて寂しくなっちゃったの?」
「な、なっ……ッ!?」
跳ね上がるように顔を上げたエドワードの顔が、一瞬で朱に染まる。
ルイは追い打ちをかけるようにくすくすと可愛らしく笑い、そっと自分の細い手をエドワードの方へと差し伸べた。
「ふふ、可愛いところがあるのね。……良いわよ、素直に甘えたいなら言って頂戴。エドワード君のことも、よしよしって撫でてあげようか?」
「だッ……誰が甘えたいかバカ野郎ッ!!!」
爆発したようなエドワードの叫び声が、部屋中に響き渡った。
「誰がそんな子供騙しに喜ぶかッ! 撫でてみろ、その腕へし折るぞッ!!」
「まあ、素直じゃないわね。顔が真っ赤よ、エドワード君?」
「うるせぇッ! 」
真っ赤になって身を乗り出し、ガミガミと怒鳴り散らすエドワード。
ルイは「はいはい」と余裕そうにあしらいながら、優雅に紅茶を一口すする。
表向きは完全に「年上の余裕」で勝った顔をしているルイ。
けれど、優雅にカップを持つ彼女の指先がほんの少しだけ震えていたことにも、胸の奥で打ち鳴らされる早鐘のような鼓動にも——当の本人はもちろん、隣で甲冑の首を傾げながら生温かい目で見守るアルフォンス以外、気づく者はいなかったのだった。
