第八の罪、その名は
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プロローグ:偽りの名
人間を模して造られたその人形(カラクリ)には、最初から心の居場所など存在しなかった。
地下深くの薄暗い密室。湿った冷気が肌を刺すその場所で、少女はただ膝を抱え、小さく肩を震わせていた。
彼女に与えられた罪の名は、【臆病(Cowardice)】。
「お父様」と呼ばれる存在によって生み出された、八番目のホムンクルス。
戦闘の才能もなく、恐ろしい兄弟たちの間でただ怯えるだけの出来損ない。
「使えない」「処分すべきだ」と蔑む声が飛び交う中、冷徹な少年の姿をした一番目の兄——プライドだけは、冷ややかな瞳で彼女を見下ろしていた。
「戦闘力が皆無なら、知識を詰め込めばいい。……お父様、『人柱』を間近で観察し、飼い殺すための駒として彼女を使いましょう」
それが、彼女に与えられた唯一の存在理由だった。
苛烈を極める暗記と試練の日々。徹夜で膨大な錬金術の理論や軍事知識を頭へ叩き込まれ、失敗すれば即座に「廃棄」という死の恐怖に晒される毎日。
十四歳を迎えた頃、彼女は言われるがまま『国家錬金術師』の資格を手に入れた。
その際、表社会に潜入するための「偽りの戸籍」としてプライドから適当にあつらえて与えられた名——
『エイミー・ライズ』
「人間らしく見える記号だ。せいぜい使い物になる証明をしてみせろ」
そう吐き捨てられて与えられたその名前は、道具として生きるための偽装でしかなかった。
◇
「——大総統閣下からの直接の特命だ」
軍の最高権力者・ラース(ブラッドレイ大総統)から下された命は極めてシンプルだった。
軍部に潜入し『境界の錬金術師』として活動しながら、最重要の人柱候補——『鋼の錬金術師』エドワード・エルリックの旅に「監視役」兼「護衛」として密着すること。
いつお父様から不要と判断され、ゴミのように捨てられるか分からない恐怖。
監視を少しでも怠れば、兄たちからどんな凄惨な報復を受けるか分からない恐怖。
冷たいウロボロスの刻印が刻まれた左肩を抱きしめながら、エイミーは暗い暗闇の中で息を殺す。
(私はただの道具……偽物の人間……)
自分は決して愛されることのない、忌むべき八番目の罪。
そう自分に言い聞かせながら、彼女は太陽の光が眩しい地上へと足を踏み出した。
あの、太陽のように真っ直ぐで泥臭い——『鋼の錬金術師』と出会うために。
