花は落ちて果実となる
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第1章:エルリックの名
セントラル郊外に佇む格式高い屋敷——エルリック邸。
通された落ち着いた雰囲気の応接間には、温かい紅茶と焼きたての焼き菓子の甘い香りが漂っていた。
フカフカのソファに腰掛け、温かいカップを両手で包み込むエドワードと、その隣で静かに佇む巨躯の甲冑・アルフォンス。
過酷な旅と激しい感情の揺れで冷え切っていた二人の身体に、お茶の温もりがじんわりと染み渡っていく。
「ふぅ……」
息を吐き、ほんの一瞬だけ「大人の温もり」に包まれて緊張を緩めた二人へ、向かいの席に座るフローラが柔らかく微笑みかけた。
「大丈夫? 少しは落ち着いたかしら?」
おっとりとした声で二人の顔を交互に見つめると、彼女はそっと自分の胸に手を当てて優しく名乗った。
「私はフローラ。……フローラ・エルリックよ。あなたたちのお名前は?」
——カチャッ。
手が滑り、エドワードの持つカップがソーサーの上で甲高い音を立てた。
次の瞬間、二人の頭の中で導火線に火がつく。
「……っ!? エルリック……!?!?」
ガタッと激しい音を立てて椅子が蹴倒され、エドワードが目を見開いて勢いよく立ち上がった。
「うわっ……!? え、エルリック!?」
同時にアルフォンスの巨体も跳ね起き、重い金属音が部屋中に響き渡る。
「あらあら……? どうされたの、二人とも急に立ち上がったりして……」
あまりに激しい二人の反応に、フローラはおっとりと目を丸くし、不思議そうに首を傾げた。
フローラの無防備な様子に、エドワードはゴクリと喉を鳴らした。
肩を激しく上下させ、目の前に立つトリシャそっくりの美しい女性を鋭い金色の瞳で凝視する。
「あんた……っ、今『エルリック』って言ったか……!?」
「ええ。そうよ? この屋敷の当主を務めております、フローラ・エルリックですけれど……」
「俺は……っ! 俺はエドワード・エルリックだ!! こっちは弟のアルフォンス!!」
絞り出すようなエドワードの叫びが、静かな応接間に響き渡った。
「……えっ……?」
その言葉を聞いた瞬間、フローラの動きがピタリと止まった。
おっとりとしていた瞳が、驚きで大きく見開かれる。
エドワード・エルリック。
アルフォンス・エルリック。
自分たちと同じ苗字を名乗る少年たち。
目の前で息を荒げる金の髪と瞳を持つ少年と、その隣に佇む大きな甲冑。
(エルリック……エドワードと、アルフォンス……?)
フローラの脳裏に、遠い昔の記憶が鮮やかによみがえる。
一族の反対を押し切り、愛する男と駆け落ちして家を飛び出していった、大好きだった年の離れた姉・トリシャ。
残された自分は厳しく育てられ、家を守る当主となったが、胸の奥ではずっと、どこかで生きているはずの姉とその家族を案じ続けていた。
目の前の二人の中に、フローラはかつての姉の面影を——そして、姉が愛した男の面影を、はっきりと見出した。
(ああ……! 姉様の……トリシャ姉様の……子たち……!)
「家名を汚した存在」として表向きは捜すことも許されず、ずっと逢いたいと願い続けていた愛しい血族。
その忘れ形見である幼い甥たちが今、奇跡のような巡り合わせで自分の目の前に立っている。
胸の奥から湧き上がるのは、自分でも驚くほどの激しく愛おしい感情。
熱いものが胸を締め付け、フローラは込み上げる涙を抑えるように、微かに、そして愛おしそうに唇をほころばせた。
さっきまでの「迷子の少年を心配する親切な女性」の雰囲気は消え去り、彼女は優しくも、エルリック家の当主としての品格と威厳を宿した凛とした声色で、静かに二人へ問いかけた。
「……そうですか。あなたたちが……トリシャ姉様の子たちなのね?」
「っ……!?」
死んだ母の名を、自分たちと同じ苗字を持つこの美しい女性の口から聞かされた瞬間、エドワードとアルフォンスは息を呑み、言葉を失って立ち尽くした。
第1章:エルリックの名
セントラル郊外に佇む格式高い屋敷——エルリック邸。
通された落ち着いた雰囲気の応接間には、温かい紅茶と焼きたての焼き菓子の甘い香りが漂っていた。
フカフカのソファに腰掛け、温かいカップを両手で包み込むエドワードと、その隣で静かに佇む巨躯の甲冑・アルフォンス。
過酷な旅と激しい感情の揺れで冷え切っていた二人の身体に、お茶の温もりがじんわりと染み渡っていく。
「ふぅ……」
息を吐き、ほんの一瞬だけ「大人の温もり」に包まれて緊張を緩めた二人へ、向かいの席に座るフローラが柔らかく微笑みかけた。
「大丈夫? 少しは落ち着いたかしら?」
おっとりとした声で二人の顔を交互に見つめると、彼女はそっと自分の胸に手を当てて優しく名乗った。
「私はフローラ。……フローラ・エルリックよ。あなたたちのお名前は?」
——カチャッ。
手が滑り、エドワードの持つカップがソーサーの上で甲高い音を立てた。
次の瞬間、二人の頭の中で導火線に火がつく。
「……っ!? エルリック……!?!?」
ガタッと激しい音を立てて椅子が蹴倒され、エドワードが目を見開いて勢いよく立ち上がった。
「うわっ……!? え、エルリック!?」
同時にアルフォンスの巨体も跳ね起き、重い金属音が部屋中に響き渡る。
「あらあら……? どうされたの、二人とも急に立ち上がったりして……」
あまりに激しい二人の反応に、フローラはおっとりと目を丸くし、不思議そうに首を傾げた。
フローラの無防備な様子に、エドワードはゴクリと喉を鳴らした。
肩を激しく上下させ、目の前に立つトリシャそっくりの美しい女性を鋭い金色の瞳で凝視する。
「あんた……っ、今『エルリック』って言ったか……!?」
「ええ。そうよ? この屋敷の当主を務めております、フローラ・エルリックですけれど……」
「俺は……っ! 俺はエドワード・エルリックだ!! こっちは弟のアルフォンス!!」
絞り出すようなエドワードの叫びが、静かな応接間に響き渡った。
「……えっ……?」
その言葉を聞いた瞬間、フローラの動きがピタリと止まった。
おっとりとしていた瞳が、驚きで大きく見開かれる。
エドワード・エルリック。
アルフォンス・エルリック。
自分たちと同じ苗字を名乗る少年たち。
目の前で息を荒げる金の髪と瞳を持つ少年と、その隣に佇む大きな甲冑。
(エルリック……エドワードと、アルフォンス……?)
フローラの脳裏に、遠い昔の記憶が鮮やかによみがえる。
一族の反対を押し切り、愛する男と駆け落ちして家を飛び出していった、大好きだった年の離れた姉・トリシャ。
残された自分は厳しく育てられ、家を守る当主となったが、胸の奥ではずっと、どこかで生きているはずの姉とその家族を案じ続けていた。
目の前の二人の中に、フローラはかつての姉の面影を——そして、姉が愛した男の面影を、はっきりと見出した。
(ああ……! 姉様の……トリシャ姉様の……子たち……!)
「家名を汚した存在」として表向きは捜すことも許されず、ずっと逢いたいと願い続けていた愛しい血族。
その忘れ形見である幼い甥たちが今、奇跡のような巡り合わせで自分の目の前に立っている。
胸の奥から湧き上がるのは、自分でも驚くほどの激しく愛おしい感情。
熱いものが胸を締め付け、フローラは込み上げる涙を抑えるように、微かに、そして愛おしそうに唇をほころばせた。
さっきまでの「迷子の少年を心配する親切な女性」の雰囲気は消え去り、彼女は優しくも、エルリック家の当主としての品格と威厳を宿した凛とした声色で、静かに二人へ問いかけた。
「……そうですか。あなたたちが……トリシャ姉様の子たちなのね?」
「っ……!?」
死んだ母の名を、自分たちと同じ苗字を持つこの美しい女性の口から聞かされた瞬間、エドワードとアルフォンスは息を呑み、言葉を失って立ち尽くした。
