凪に涙の波紋
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番外編:水底の孤影と周囲の眼差し
一、歪みの芽生え
あさきが鬼殺隊の剣士として腕を伸ばし、柱合会議の場に初めて姿を見せた、ある春の日。
無惨との戦いに向け、鬼殺隊の主軸となる柱たちが一堂に会する場。緊張感のある会議が終わり、隊士たちが解散の途に就こうとしたその時だった。
「……義勇!」
必死に声を張り上げたのは、木蓮色の髪をなびかせたあさきだった。
何年もの間、逢うことすら叶わなかった幼馴染であり、かけがえのない存在。あさきは縋るような想いで義勇に駆け寄り、その袖へ手を伸ばした。
だが、水柱・冨岡義勇は、振り返りもせず冷たく言い放った。
「……俺に関わるな。話すことなど何もない」
義勇はあさきの差し出した手を冷ややかに払い、目も合わさずに背を向けて去っていく。払われたあさきの手が空を切る。
「義勇……待って、お願い……!」
あさきの手の甲には赤みが残り、涙が大きな瞳から零れ落ちた。それでも彼女は、右手の指輪を痛いほど強く握り締め、溢れる涙を必死に堪えながら背筋を伸ばしてその場に立ち尽くしていた。
その一連の光景を、少し離れた柱敷地の縁側から見ていた面々の間に、氷のような沈黙と苛立ちが走った。
「……ハッ、派手に胸糞悪いな」
腕を組み、額の宝石をキラリと光らせた音柱・宇髄天元が、心底忌々しそうに吐き捨てた。
「命懸けでお前を追ってきた女一人、満足に抱き締められねぇで何が柱だ。あんな真似して恥ずかしくねぇのかね」
「ハッキリ物言わねぇから周りを傷つけるんだよ、あの野郎は」
不死川実弥が鋭い眼光であさきの後ろ姿を見つめ、殺気立った声で低く唸る。
「なに被害者面して背を向けてやがる。あさきがどれだけ必死に手を伸ばしてんのか目に入らねぇのか」
「……南無阿弥陀仏」
悲鳴嶼行冥が大きな念珠をジャラリと鳴らし、静かに涙を流す。
「あさきの胸を刺すような悲しみも……冨岡の自らを苛む深い呪縛の音も、あまりにも痛ましい……。互いを想いながら、何故あれほど傷つけ合わねばならぬのか……」
そして、涙を浮べて佇むあさきの元へ、胡蝶カナエが静かに歩み寄った。
羽織をふわりと揺らし、あさきの肩をそっと抱き寄せる。
「あさきさん……大丈夫ですか? 辛かったですね……」
「カナエさん……ごめんなさい、私……」
あさきの背中を優しく撫でた。
だが、あさきは零れ落ちる涙を必死に指で拭い、右手の指輪をぎゅっと握りしめながら、庇うように首を振ったのだった。
「……みなさん、すみません……! こんな見苦しい所をお見せして……っ」
あさきは声を震わせながら、悲しそうに、少し諦めたように微笑んで見せた。
「本当の義勇は……とっても優しくて、温かい人なんです。私が……私が何か義勇の気に触るようなことや、嫌われるようなことをしてしまったのかもしれません……。義勇が悪いのじゃなくて、私がダメなんです……」
自分自身を責め、傷つきながらも義勇の優しさを信じて疑わないあさきの言葉。
そのあまりにも健気で痛々しい弁明に、怒っていた柱たちは思わず言葉を失ってしまう。
悲鳴嶼行冥が大きな念珠をジャラリと鳴らし、静かに涙を流す。
「優しさが余計に痛ましい……。己を責めてまで相手を庇うあさきの心音も、自らを呪縛に閉じ込める冨岡の音も……あぁ、なんと悲しいすれ違いか……」
「あさきさん……あなたは何も悪くありませんよ」
胡蝶カナエがあさきを静かに優しく抱きしめ、離れていく義勇の背中に切ない眼差しを向けていた。
番外編:水底の孤影と周囲の眼差し
一、歪みの芽生え
あさきが鬼殺隊の剣士として腕を伸ばし、柱合会議の場に初めて姿を見せた、ある春の日。
無惨との戦いに向け、鬼殺隊の主軸となる柱たちが一堂に会する場。緊張感のある会議が終わり、隊士たちが解散の途に就こうとしたその時だった。
「……義勇!」
必死に声を張り上げたのは、木蓮色の髪をなびかせたあさきだった。
何年もの間、逢うことすら叶わなかった幼馴染であり、かけがえのない存在。あさきは縋るような想いで義勇に駆け寄り、その袖へ手を伸ばした。
だが、水柱・冨岡義勇は、振り返りもせず冷たく言い放った。
「……俺に関わるな。話すことなど何もない」
義勇はあさきの差し出した手を冷ややかに払い、目も合わさずに背を向けて去っていく。払われたあさきの手が空を切る。
「義勇……待って、お願い……!」
あさきの手の甲には赤みが残り、涙が大きな瞳から零れ落ちた。それでも彼女は、右手の指輪を痛いほど強く握り締め、溢れる涙を必死に堪えながら背筋を伸ばしてその場に立ち尽くしていた。
その一連の光景を、少し離れた柱敷地の縁側から見ていた面々の間に、氷のような沈黙と苛立ちが走った。
「……ハッ、派手に胸糞悪いな」
腕を組み、額の宝石をキラリと光らせた音柱・宇髄天元が、心底忌々しそうに吐き捨てた。
「命懸けでお前を追ってきた女一人、満足に抱き締められねぇで何が柱だ。あんな真似して恥ずかしくねぇのかね」
「ハッキリ物言わねぇから周りを傷つけるんだよ、あの野郎は」
不死川実弥が鋭い眼光であさきの後ろ姿を見つめ、殺気立った声で低く唸る。
「なに被害者面して背を向けてやがる。あさきがどれだけ必死に手を伸ばしてんのか目に入らねぇのか」
「……南無阿弥陀仏」
悲鳴嶼行冥が大きな念珠をジャラリと鳴らし、静かに涙を流す。
「あさきの胸を刺すような悲しみも……冨岡の自らを苛む深い呪縛の音も、あまりにも痛ましい……。互いを想いながら、何故あれほど傷つけ合わねばならぬのか……」
そして、涙を浮べて佇むあさきの元へ、胡蝶カナエが静かに歩み寄った。
羽織をふわりと揺らし、あさきの肩をそっと抱き寄せる。
「あさきさん……大丈夫ですか? 辛かったですね……」
「カナエさん……ごめんなさい、私……」
あさきの背中を優しく撫でた。
だが、あさきは零れ落ちる涙を必死に指で拭い、右手の指輪をぎゅっと握りしめながら、庇うように首を振ったのだった。
「……みなさん、すみません……! こんな見苦しい所をお見せして……っ」
あさきは声を震わせながら、悲しそうに、少し諦めたように微笑んで見せた。
「本当の義勇は……とっても優しくて、温かい人なんです。私が……私が何か義勇の気に触るようなことや、嫌われるようなことをしてしまったのかもしれません……。義勇が悪いのじゃなくて、私がダメなんです……」
自分自身を責め、傷つきながらも義勇の優しさを信じて疑わないあさきの言葉。
そのあまりにも健気で痛々しい弁明に、怒っていた柱たちは思わず言葉を失ってしまう。
悲鳴嶼行冥が大きな念珠をジャラリと鳴らし、静かに涙を流す。
「優しさが余計に痛ましい……。己を責めてまで相手を庇うあさきの心音も、自らを呪縛に閉じ込める冨岡の音も……あぁ、なんと悲しいすれ違いか……」
「あさきさん……あなたは何も悪くありませんよ」
胡蝶カナエがあさきを静かに優しく抱きしめ、離れていく義勇の背中に切ない眼差しを向けていた。
