捧げた心臓の在処
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第8.7話:生者の告白(104期生とアルミンの追憶)
ウォール・マリア奪還作戦の熱狂が去り、兵舎に残されたのは静まり返った空気と、数少ない生き残りたちの痛々しい傷痕だった。
あの「白夜」の屋根の上で、あさきが血まみれになりながらリヴァイの足元にすがりつき、「エルヴィンを助けて」と泣き叫んだ姿。
そのあまりに痛絶な光景は、現場にいた104期生たちの胸に、消えることのない深い刺青のように刻み込まれていた。
「あさきさん……」
食堂の隅で、一人静かにスープを口にするあさきの姿を、ミカサとジャン、サシャ、コニーが見つめていた。
「俺たち……あさきさんに、なんて声をかければいいのか分かんねえよ……」
コニーが痛々しそうに呟く。
彼らにとってあさきは、常に冷静沈着で美しく、自分たち新兵を道標のように導いてくれた「完璧な上官」だった。そのあさきが、たった一人の男のために少女のように泣きじゃくり、すべてを振り捨てて懇願したのだ。
「あさきさんがどれだけエルヴィン団長を愛していたか……あの日、嫌というほど分かったから……」
サシャが俯きながら言った。ジャンもまた、重い心地で拳を握りしめる。
「俺たちがアルミンを選んだせいで……あさきさんから『すべてはを奪っちまったんじゃないかって……そう思うと、顔を直視できねえんだ」
104期生たちは全員、あさきに対して激しい申し訳なさと、彼女の破滅的な悲しみに触れることへの恐怖(負い目)を抱えていた。
ただ一人、フロックだけは違っていた。
廊下ですれ違った際、フロックは歩みを止め、冷ややかな、けれど歪んだ敬意を込めた瞳であさきを見つめた。
「あさき補佐官。……俺は今でも、あの注射はエルヴィン団長に打つべきだったと思っています」
容赦のないフロックの言葉。あさきは足を止め、フロックを見つめ返す。
「団長を悪魔として繋ぎ止め、地獄を率いさせることができるのは彼だけだった。……あなたがあの日、ボロボロになって団長の生を乞うた姿を見て、俺は確信しました。あなただけが、あの人を真に理解し、共に地獄を歩める人だったと」
フロックは深々と頭を下げた。
「あなたを絶望させたこの兵団の選択を、俺は一生許さない。……ですが、あなたが死なずにいてくれたことだけは、感謝します」
フロックなりの、冷徹で歪んだ「生き残った悪魔の補佐官」への執着。あさきはその言葉を否定も肯定もせず、静かに頭を下げて通り過ぎた。
そして――最も深い暗闇の中にいたのは、アルミンだった。
ある日の夕暮れ。あさきが兵舎の裏手にあるエルヴィンの慰霊碑に花を手向けに行くと、そこには一人、膝をついて激しく肩を震わせるアルミンの姿があった。
「……っ、う……うぁぁぁっ……!」
頭を地面に押し付け、血が出るほど唇を噛み締めながら泣き叫ぶアルミン。
「アルミン……?」
あさきが声をかけると、アルミンは弾かれたように跳ね起き、真っ青な顔で後ずさった。その瞳は狂気と激しい罪悪感に揺れている。
「あ、あさきさん……っ! ごめんなさい……! ごめんなさいっ!!」
アルミンはあさきの足元に崩れ落ち、頭を擦り付けた。
「僕なんです……僕が生き残ってしまったせいで……っ! 人類の希望だったエルヴィン団長が……あさきさんの大切な人が……死んでしまった……っ! 僕なんか……僕なんかが生き残るべきじゃなかったんだ……っ!!」
アルミンは自分の髪を掻きむしり、過呼吸を起こしながら泣きじゃくった。
自分が超大型巨人の力を継承したことへの重圧、そして何より、あさきの「愛する人」を奪って生き延びてしまったという殺人的な罪悪感。
「僕を……僕を恨んでくださいあさきさん……! 罵ってください……っ! 僕が団長を殺したんです……っ!!」
自分を責め立て、壊れそうになるアルミン。
あさきは静かに膝をつくと、震えるアルミンの華奢な肩を、優しく、けれど力強く抱きしめた。
「……あさき……さん……?」
「アルミン……自分を責めるのは、おやめなさい」
あさきの声は、驚くほど温かく、そして澄んでいた。
「あの日……泣き叫んでエルヴィンを求め、あなたから生きる機会を奪おうとしたのは、私よ。……補佐官としての責任も、大局を見る目も捨てて、ただの醜い感情であなたたちを苦しめた……。謝らなければいけないのは、私の方です」
あさきはアルミンの涙を、自分の指先で優しく拭った。
「エルヴィンはね、私に手を振り払って見せたの。……あれは、『もう俺に縛られるな』という彼からの命だったわ。そして、リヴァイ兵長があなたを選んだ。それが……調査兵団の、人類の選択だったのよ」
あさきはアルミンの目を真っ直ぐに見つめた。
「あなたが背負っているのは、エルヴィンの死という命の重さよ。……なら、アルミン。あなたがやるべきことは、自分を責めて死にたがることじゃない」
「っ……」
「生きなさい、アルミン。エルヴィンの命と引き換えに手に入れたその頭脳で……彼が見たかった『壁の向こうの世界』を、私に見せなさい。それが……あなたが彼にできる、唯一の贖罪であり、受け継いだ者の義務よ」
あさきの言葉は、暗闇の中で溺れていたアルミンの魂を、救い上げる光となった。
アルミンはあさきの胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いた。けれどそれは、もう自責の涙ではなく、受け継いだ命を全うするという「覚悟」の涙だった。
「……はい……っ! はい、あさきさん……っ!! 僕……僕、絶対に……世界の真実を確かめてみせます……っ!!」
夕暮れの光の中、抱き合う二人。
104期生たちの葛藤を受け止め、アルミンの絶望を救い上げたことで、あさき自身もまた「エルヴィンを失った過去」から「彼らの未来を守る現在」へと完全に足を踏み出すことができたのだった。
第8.7話:生者の告白(104期生とアルミンの追憶)
ウォール・マリア奪還作戦の熱狂が去り、兵舎に残されたのは静まり返った空気と、数少ない生き残りたちの痛々しい傷痕だった。
あの「白夜」の屋根の上で、あさきが血まみれになりながらリヴァイの足元にすがりつき、「エルヴィンを助けて」と泣き叫んだ姿。
そのあまりに痛絶な光景は、現場にいた104期生たちの胸に、消えることのない深い刺青のように刻み込まれていた。
「あさきさん……」
食堂の隅で、一人静かにスープを口にするあさきの姿を、ミカサとジャン、サシャ、コニーが見つめていた。
「俺たち……あさきさんに、なんて声をかければいいのか分かんねえよ……」
コニーが痛々しそうに呟く。
彼らにとってあさきは、常に冷静沈着で美しく、自分たち新兵を道標のように導いてくれた「完璧な上官」だった。そのあさきが、たった一人の男のために少女のように泣きじゃくり、すべてを振り捨てて懇願したのだ。
「あさきさんがどれだけエルヴィン団長を愛していたか……あの日、嫌というほど分かったから……」
サシャが俯きながら言った。ジャンもまた、重い心地で拳を握りしめる。
「俺たちがアルミンを選んだせいで……あさきさんから『すべてはを奪っちまったんじゃないかって……そう思うと、顔を直視できねえんだ」
104期生たちは全員、あさきに対して激しい申し訳なさと、彼女の破滅的な悲しみに触れることへの恐怖(負い目)を抱えていた。
ただ一人、フロックだけは違っていた。
廊下ですれ違った際、フロックは歩みを止め、冷ややかな、けれど歪んだ敬意を込めた瞳であさきを見つめた。
「あさき補佐官。……俺は今でも、あの注射はエルヴィン団長に打つべきだったと思っています」
容赦のないフロックの言葉。あさきは足を止め、フロックを見つめ返す。
「団長を悪魔として繋ぎ止め、地獄を率いさせることができるのは彼だけだった。……あなたがあの日、ボロボロになって団長の生を乞うた姿を見て、俺は確信しました。あなただけが、あの人を真に理解し、共に地獄を歩める人だったと」
フロックは深々と頭を下げた。
「あなたを絶望させたこの兵団の選択を、俺は一生許さない。……ですが、あなたが死なずにいてくれたことだけは、感謝します」
フロックなりの、冷徹で歪んだ「生き残った悪魔の補佐官」への執着。あさきはその言葉を否定も肯定もせず、静かに頭を下げて通り過ぎた。
そして――最も深い暗闇の中にいたのは、アルミンだった。
ある日の夕暮れ。あさきが兵舎の裏手にあるエルヴィンの慰霊碑に花を手向けに行くと、そこには一人、膝をついて激しく肩を震わせるアルミンの姿があった。
「……っ、う……うぁぁぁっ……!」
頭を地面に押し付け、血が出るほど唇を噛み締めながら泣き叫ぶアルミン。
「アルミン……?」
あさきが声をかけると、アルミンは弾かれたように跳ね起き、真っ青な顔で後ずさった。その瞳は狂気と激しい罪悪感に揺れている。
「あ、あさきさん……っ! ごめんなさい……! ごめんなさいっ!!」
アルミンはあさきの足元に崩れ落ち、頭を擦り付けた。
「僕なんです……僕が生き残ってしまったせいで……っ! 人類の希望だったエルヴィン団長が……あさきさんの大切な人が……死んでしまった……っ! 僕なんか……僕なんかが生き残るべきじゃなかったんだ……っ!!」
アルミンは自分の髪を掻きむしり、過呼吸を起こしながら泣きじゃくった。
自分が超大型巨人の力を継承したことへの重圧、そして何より、あさきの「愛する人」を奪って生き延びてしまったという殺人的な罪悪感。
「僕を……僕を恨んでくださいあさきさん……! 罵ってください……っ! 僕が団長を殺したんです……っ!!」
自分を責め立て、壊れそうになるアルミン。
あさきは静かに膝をつくと、震えるアルミンの華奢な肩を、優しく、けれど力強く抱きしめた。
「……あさき……さん……?」
「アルミン……自分を責めるのは、おやめなさい」
あさきの声は、驚くほど温かく、そして澄んでいた。
「あの日……泣き叫んでエルヴィンを求め、あなたから生きる機会を奪おうとしたのは、私よ。……補佐官としての責任も、大局を見る目も捨てて、ただの醜い感情であなたたちを苦しめた……。謝らなければいけないのは、私の方です」
あさきはアルミンの涙を、自分の指先で優しく拭った。
「エルヴィンはね、私に手を振り払って見せたの。……あれは、『もう俺に縛られるな』という彼からの命だったわ。そして、リヴァイ兵長があなたを選んだ。それが……調査兵団の、人類の選択だったのよ」
あさきはアルミンの目を真っ直ぐに見つめた。
「あなたが背負っているのは、エルヴィンの死という命の重さよ。……なら、アルミン。あなたがやるべきことは、自分を責めて死にたがることじゃない」
「っ……」
「生きなさい、アルミン。エルヴィンの命と引き換えに手に入れたその頭脳で……彼が見たかった『壁の向こうの世界』を、私に見せなさい。それが……あなたが彼にできる、唯一の贖罪であり、受け継いだ者の義務よ」
あさきの言葉は、暗闇の中で溺れていたアルミンの魂を、救い上げる光となった。
アルミンはあさきの胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いた。けれどそれは、もう自責の涙ではなく、受け継いだ命を全うするという「覚悟」の涙だった。
「……はい……っ! はい、あさきさん……っ!! 僕……僕、絶対に……世界の真実を確かめてみせます……っ!!」
夕暮れの光の中、抱き合う二人。
104期生たちの葛藤を受け止め、アルミンの絶望を救い上げたことで、あさき自身もまた「エルヴィンを失った過去」から「彼らの未来を守る現在」へと完全に足を踏み出すことができたのだった。
17/17ページ
