捧げた心臓の在処
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第7話:絶望の壁と、悪魔の補佐官
王都でのクーデター完遂から数ヶ月。
偽りの王を廃し、ヒストリア・レイスを女王として即位させた調査兵団は、全人類の悲願である「ウォール・マリア奪還作戦」へと出撃した。
夜陰に紛れてシガンシナ区へと進軍する兵士たち。
その最前線、馬を走らせるエルヴィンの隣には、いつものように寸分の隙もない姿勢で馬を操るあさきの姿があった。
「あさき」
並走する馬の上から、左手で手綱を握るエルヴィンが低く声をかける。右袖は寂しく風になびいているが、その青い瞳には凄絶な意志が宿っていた。
「……王政では見事だった。君が王都の貴族どもと憲兵の手足を完全に縛ってくれたおかげで、無駄な血を流さずに済んだ」
「当然のことをしたまでです、団長。……ですが、本当の地獄はこれからですわ」
あさきは前方の闇にそびえ立つ、ウォール・マリアの巨大な壁を見上げた。
この作戦の裏に隠された、エルヴィンの真の目的――「地下室に行き、世界の真実を確かめること」。その少年のように純粋で、悪魔のように残酷な夢を、あさきは誰よりも理解していた。
「絶対に……地下室へお連れします。あなたがその目で真実を見るまで、私は死んでもあなたを死なせません」
「……ああ。頼む」
二人の間に交わされた、熱い視線と揺るぎない覚悟。
少し後ろを走るエレンは、前を行く二人の背中を、闇の中でじっと見つめていた。
王政の潜伏期間中、あさきが語った雨の日の過去――エルヴィンにあさきが救われ、すべてを捧げているという事実。
(あさきさんは……どこまでもエルヴィン団長のために戦う……)
胸の奥を掻き毟られるような狂おしい激痛。
(俺が……俺がライナーたちをぶっ潰して、この壁の外の世界を全部更地にしたら……あさきさんは、俺だけを見てくれるのかな……)
エレンの瞳に宿る暗い炎は、もはや誰にも止められない領域へと達していた。
シガンシナ区に到着し、エレンの硬質化能力によって外門を塞ぐことに成功した瞬間。
勝利の予感が漂ったのも束の間、地獄の蓋が開いた。
投石によって退路を断つ「獣の巨人」、そして現れた大量の巨人の群れ。
内側には「鎧の巨人」と「超大型巨人」。調査兵団は壁の完全に内外で分断され、絶体絶命の包囲網へと叩き落とされた。
「くっ……! 投石が止まらない! 前線が壊滅していく!」
悲鳴と肉片が舞い散るシガンシナ区の惨状。
壁の麓、馬を守る新兵たちが恐怖で狂乱し、次々と岩の雨に打ち砕かれていく。
その絶望の渦中で、エルヴィンは膝を折り、腰を下ろしていた。
「……あさき」
掠れた声。エルヴィンの顔から「悪魔の指導者」の面影が消え、夢を目前にして散っていく一人の儚い人間の顔が覗いていた。
「……目と鼻の先にあるのだ。地下室が……。私たちが追い求めた真実が……そこにあるというのに……っ」
無念さに震えるエルヴィンの左手。
あさきは躊躇うことなくその場に膝をつき、エルヴィンの震える手を両手で強く包み込んだ。
「……エルヴィン」
「……私は、このままあの新兵たちを率いて……獣の巨人へ死の突撃を敢行する。彼らを囮にし、リヴァイに獣の首を討たせる……。それしか、人類が生き残る道はない」
あさきは息を呑んだ。
それが何を意味するか。エルヴィン自身がその突撃の先頭に立ち、真っ先に命を散らすという決定的な死の宣告だった。
「……いやだ」
あさきの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。
ストヘス区の夜も、右腕を失った日も、決して折れなかった鉄の補佐官の心が、音を立てて崩れ落ちる。
「いやです、エルヴィン……っ! 私に……私にあなたを死に追いやる書類を書かせないで……っ! 一緒に地下室へ行くって……約束したじゃないですか……っ!」
あさきはエルヴィンの膝に額を押し当て、子供のように声を上げて泣きじゃくった。
エルヴィンは残された左手で、愛おしそうに、そして今生の別れを告げるように、あさきの髪を優しく優しく撫でた。
「……あさき。君と出会えて、私の人生は救われた。君という最高の補佐官が……いや、愛する女性が私の隣にいてくれたからこそ、私は今日まで『悪魔』でいられたのだ」
「エルヴィン……っ」
「……感謝している、あさき。……私の心臓は、最期まで君のものだ」
エルヴィンはあさきの顔を持ち上げると、涙で濡れた彼女の唇に、最後にして最も深く、甘く、切ないキスを贈った。
「……誇り高き私の補佐官よ。……生き残りなさい」
立ち上がるエルヴィン。
彼は絶望に震える新兵たちの前に進み出ると、悪魔の顔を取り戻し、狂気の咆哮を上げた。
「兵士よ怒れ! 兵士よ叫べ! 兵士よ戦え!!」
吹き荒れる投石の嵐の中へ、馬を走らせて突撃していくエルヴィンと新兵たち。
「エルヴィン―――っ!!」
あさきの悲痛な叫びが、シガンシナの空へ空しく響き渡るのだった。
第7話:絶望の壁と、悪魔の補佐官
王都でのクーデター完遂から数ヶ月。
偽りの王を廃し、ヒストリア・レイスを女王として即位させた調査兵団は、全人類の悲願である「ウォール・マリア奪還作戦」へと出撃した。
夜陰に紛れてシガンシナ区へと進軍する兵士たち。
その最前線、馬を走らせるエルヴィンの隣には、いつものように寸分の隙もない姿勢で馬を操るあさきの姿があった。
「あさき」
並走する馬の上から、左手で手綱を握るエルヴィンが低く声をかける。右袖は寂しく風になびいているが、その青い瞳には凄絶な意志が宿っていた。
「……王政では見事だった。君が王都の貴族どもと憲兵の手足を完全に縛ってくれたおかげで、無駄な血を流さずに済んだ」
「当然のことをしたまでです、団長。……ですが、本当の地獄はこれからですわ」
あさきは前方の闇にそびえ立つ、ウォール・マリアの巨大な壁を見上げた。
この作戦の裏に隠された、エルヴィンの真の目的――「地下室に行き、世界の真実を確かめること」。その少年のように純粋で、悪魔のように残酷な夢を、あさきは誰よりも理解していた。
「絶対に……地下室へお連れします。あなたがその目で真実を見るまで、私は死んでもあなたを死なせません」
「……ああ。頼む」
二人の間に交わされた、熱い視線と揺るぎない覚悟。
少し後ろを走るエレンは、前を行く二人の背中を、闇の中でじっと見つめていた。
王政の潜伏期間中、あさきが語った雨の日の過去――エルヴィンにあさきが救われ、すべてを捧げているという事実。
(あさきさんは……どこまでもエルヴィン団長のために戦う……)
胸の奥を掻き毟られるような狂おしい激痛。
(俺が……俺がライナーたちをぶっ潰して、この壁の外の世界を全部更地にしたら……あさきさんは、俺だけを見てくれるのかな……)
エレンの瞳に宿る暗い炎は、もはや誰にも止められない領域へと達していた。
シガンシナ区に到着し、エレンの硬質化能力によって外門を塞ぐことに成功した瞬間。
勝利の予感が漂ったのも束の間、地獄の蓋が開いた。
投石によって退路を断つ「獣の巨人」、そして現れた大量の巨人の群れ。
内側には「鎧の巨人」と「超大型巨人」。調査兵団は壁の完全に内外で分断され、絶体絶命の包囲網へと叩き落とされた。
「くっ……! 投石が止まらない! 前線が壊滅していく!」
悲鳴と肉片が舞い散るシガンシナ区の惨状。
壁の麓、馬を守る新兵たちが恐怖で狂乱し、次々と岩の雨に打ち砕かれていく。
その絶望の渦中で、エルヴィンは膝を折り、腰を下ろしていた。
「……あさき」
掠れた声。エルヴィンの顔から「悪魔の指導者」の面影が消え、夢を目前にして散っていく一人の儚い人間の顔が覗いていた。
「……目と鼻の先にあるのだ。地下室が……。私たちが追い求めた真実が……そこにあるというのに……っ」
無念さに震えるエルヴィンの左手。
あさきは躊躇うことなくその場に膝をつき、エルヴィンの震える手を両手で強く包み込んだ。
「……エルヴィン」
「……私は、このままあの新兵たちを率いて……獣の巨人へ死の突撃を敢行する。彼らを囮にし、リヴァイに獣の首を討たせる……。それしか、人類が生き残る道はない」
あさきは息を呑んだ。
それが何を意味するか。エルヴィン自身がその突撃の先頭に立ち、真っ先に命を散らすという決定的な死の宣告だった。
「……いやだ」
あさきの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。
ストヘス区の夜も、右腕を失った日も、決して折れなかった鉄の補佐官の心が、音を立てて崩れ落ちる。
「いやです、エルヴィン……っ! 私に……私にあなたを死に追いやる書類を書かせないで……っ! 一緒に地下室へ行くって……約束したじゃないですか……っ!」
あさきはエルヴィンの膝に額を押し当て、子供のように声を上げて泣きじゃくった。
エルヴィンは残された左手で、愛おしそうに、そして今生の別れを告げるように、あさきの髪を優しく優しく撫でた。
「……あさき。君と出会えて、私の人生は救われた。君という最高の補佐官が……いや、愛する女性が私の隣にいてくれたからこそ、私は今日まで『悪魔』でいられたのだ」
「エルヴィン……っ」
「……感謝している、あさき。……私の心臓は、最期まで君のものだ」
エルヴィンはあさきの顔を持ち上げると、涙で濡れた彼女の唇に、最後にして最も深く、甘く、切ないキスを贈った。
「……誇り高き私の補佐官よ。……生き残りなさい」
立ち上がるエルヴィン。
彼は絶望に震える新兵たちの前に進み出ると、悪魔の顔を取り戻し、狂気の咆哮を上げた。
「兵士よ怒れ! 兵士よ叫べ! 兵士よ戦え!!」
吹き荒れる投石の嵐の中へ、馬を走らせて突撃していくエルヴィンと新兵たち。
「エルヴィン―――っ!!」
あさきの悲痛な叫びが、シガンシナの空へ空しく響き渡るのだった。
