捧げた心臓の在処
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第6話:偽りの王都と、雨の日の誓い
中央憲兵によるニック司祭の拷問死、そして中央の圧迫。
壁内の真実を隠蔽しようとする王政府の手はついに調査兵団へと伸び、エルヴィンは反逆の疑いで逮捕・王都召喚へと追い込まれた。
リヴァイ班とお尋ね者となった調査兵団が森の中に潜伏する中、あさきは一人、深緑のマントを脱ぎ捨て、元貴族令嬢としての洗練されたドレスを身に纏っていた。
王都・ウォール・シーナの華やかでどこか腐臭の漂う街並み。
かつて自分が生まれ、育ち、そして捨て去った場所。
あさきは旧知の貴族や憲兵上層部のパイプを潜り抜け、完璧な法律知識と裏工作を駆使して、エルヴィン救出とクーデターのための書類や根回しを極秘裏に進めていた。
夜、潜伏先のアジトである古い小屋へと戻ってきたあさき。
灯される小さなランプの光の中、疲弊した顔を見せる彼女の元へ、リヴァイが不機嫌そうに温かいスープの皿を持ってきた。
「……おい。元貴族様の仮面を被っての裏工作は、首尾よくいっているのか」
「ええ、リヴァイ。貴族の欲と面子を突けば、動かすのは容易いわ。……エルヴィン団長が処刑台に送られる前に、必ず舞台(クーデター)を整えてみせる」
あさきはスープを一口口にすると、遠い目をして窓の外の闇を見つめた。
「……懐かしいわね。この街の空気は、相変わらず偽りと保身の匂いがする」
「フン……てめえの実家(貴族家)も、その一端だったんだろ」
リヴァイの言葉に、あさきは微かに目を細め、静かに過去を語り始めた。
【過去回想:842年・雨の日の勘当と出会い】
「壁外調査に資金を投じるだと!? たかが豚どもの餌に税金を払えというのか!」
冷たい石造りの貴族の邸宅。
父の怒号と、顔に叩きつけられた一冊の帳簿。
元貴族の家に生まれたあさきは、幼い頃から領地経営や軍政法律、財務を叩き込まれていた。しかし、彼女が目を向けたのは王都の贅沢な暮らしではなく、壁外で命を落としていく調査兵団と、貧困に喘ぐ下層の民の姿だった。
あさきは貴族の権力を使い、調査兵団への物資支援や不正手形の告発を裏で進めていたが、それが実家に露見したのだ。
「調査兵団などという正気ではない狂人の集まりに肩入れするなど、我が家の恥晒しだ! 今すぐ兵団との関わりを断ち、結婚に応じろ!」
「お断りいたします、父上。……民の血税を貪り、壁の中で豚のように肥え太るだけのこの生活に、何の誇りがあるというのですか」
「貴様……ッ! 今すぐこの家から出て行け! 二度と我が家の敷居を跨ぐな! 勘当だ!!」
濡れ衣を着せられ、着の身着のままで邸宅を追い出されたあさき。
激しい雨が打ちつける王都の路上。
泥水に濡れたドレス、冷え切った身体。実家からも、貴族社会からも捨てられ、行くあてを失った少年期終わりの少女。
寒さと絶望で震え、路地裏で膝を抱えていたあさきの頭上に、すっと雨を遮る影が差した。
見上げると、そこに立っていたのは――調査兵団の分隊長(当時)、エルヴィン・スミスだった。
深緑のマントを羽織り、透き通るような青い瞳であさきを見つめる男。
『……君が、私に裏で調査兵団への資材ルートを回してくれていた貴族の令嬢か』
『……私はもう、令嬢ではありません。家を追われ、すべてを失いました……』
雨音の中に消えそうなあさきの声。
するとエルヴィンは静かに膝をつくと、自分が羽織っていた調査兵団の温かいマントを脱ぎ、あさきの細い肩へと優しく掛けた。
『すべてを失ってなどいない。……君のその高い知性と、真実を見抜く意志は本物だ』
エルヴィンは力強い右手をあさきへと差し伸べた。
『どうだろう、あさき。……君のその知性と手腕を、人類の未来のために貸してくれないか。地獄のような場所だが……君の居場所なら、私が作ろう』
雨の中で差し出された、大きくて温かい手。
その手を取った瞬間、あさきの止まっていた世界が動き出した。
『……はい。私を……あなたの兵士にしてください、エルヴィン様』
【アジトの夜:誓い】
「……あの日、雨の中でエルヴィンが私を救ってくれた」
あさきは胸元の自由の翼の紋章にそっと手を触れた。
「だから……今度は私が彼を救う番よ。王政が彼を『悪魔』として殺そうとするなら、私は喜んで王政を叩き潰す悪魔の片棒を担ぐわ」
あさきの揺るぎない強い眼差しを見つめ、リヴァイはふっと口元を緩めた。
「……フン。相変わらず重い愛だな、お前は」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ」
その時、暗闇の中から足音が響いた。
「あさきさん……」
立っていたのは、手当てを終えたエレンだった。
物陰で、あさきの過去とエルヴィンへの絶対的な愛の告白をすべて聞いていたエレン。
エレンの胸の奥で、嫉妬と哀しみ、そして狂暴なまでの決意が渦を巻く。
(あさきさんを……救ったのはエルヴィン団長だ……。だからあさきさんは、あの人にすべてを捧げている……)
(なら……俺があさきさんのために世界をすべて壊したら……あさきさんは俺だけを見てくれるのか……?)
エレンの瞳に、暗く深い執着の光が宿る。
二人の強い絆を知ったことで、エレンの「あさきへの歪んだ愛」がさらに危険な領域へと進むのだった
第6話:偽りの王都と、雨の日の誓い
中央憲兵によるニック司祭の拷問死、そして中央の圧迫。
壁内の真実を隠蔽しようとする王政府の手はついに調査兵団へと伸び、エルヴィンは反逆の疑いで逮捕・王都召喚へと追い込まれた。
リヴァイ班とお尋ね者となった調査兵団が森の中に潜伏する中、あさきは一人、深緑のマントを脱ぎ捨て、元貴族令嬢としての洗練されたドレスを身に纏っていた。
王都・ウォール・シーナの華やかでどこか腐臭の漂う街並み。
かつて自分が生まれ、育ち、そして捨て去った場所。
あさきは旧知の貴族や憲兵上層部のパイプを潜り抜け、完璧な法律知識と裏工作を駆使して、エルヴィン救出とクーデターのための書類や根回しを極秘裏に進めていた。
夜、潜伏先のアジトである古い小屋へと戻ってきたあさき。
灯される小さなランプの光の中、疲弊した顔を見せる彼女の元へ、リヴァイが不機嫌そうに温かいスープの皿を持ってきた。
「……おい。元貴族様の仮面を被っての裏工作は、首尾よくいっているのか」
「ええ、リヴァイ。貴族の欲と面子を突けば、動かすのは容易いわ。……エルヴィン団長が処刑台に送られる前に、必ず舞台(クーデター)を整えてみせる」
あさきはスープを一口口にすると、遠い目をして窓の外の闇を見つめた。
「……懐かしいわね。この街の空気は、相変わらず偽りと保身の匂いがする」
「フン……てめえの実家(貴族家)も、その一端だったんだろ」
リヴァイの言葉に、あさきは微かに目を細め、静かに過去を語り始めた。
【過去回想:842年・雨の日の勘当と出会い】
「壁外調査に資金を投じるだと!? たかが豚どもの餌に税金を払えというのか!」
冷たい石造りの貴族の邸宅。
父の怒号と、顔に叩きつけられた一冊の帳簿。
元貴族の家に生まれたあさきは、幼い頃から領地経営や軍政法律、財務を叩き込まれていた。しかし、彼女が目を向けたのは王都の贅沢な暮らしではなく、壁外で命を落としていく調査兵団と、貧困に喘ぐ下層の民の姿だった。
あさきは貴族の権力を使い、調査兵団への物資支援や不正手形の告発を裏で進めていたが、それが実家に露見したのだ。
「調査兵団などという正気ではない狂人の集まりに肩入れするなど、我が家の恥晒しだ! 今すぐ兵団との関わりを断ち、結婚に応じろ!」
「お断りいたします、父上。……民の血税を貪り、壁の中で豚のように肥え太るだけのこの生活に、何の誇りがあるというのですか」
「貴様……ッ! 今すぐこの家から出て行け! 二度と我が家の敷居を跨ぐな! 勘当だ!!」
濡れ衣を着せられ、着の身着のままで邸宅を追い出されたあさき。
激しい雨が打ちつける王都の路上。
泥水に濡れたドレス、冷え切った身体。実家からも、貴族社会からも捨てられ、行くあてを失った少年期終わりの少女。
寒さと絶望で震え、路地裏で膝を抱えていたあさきの頭上に、すっと雨を遮る影が差した。
見上げると、そこに立っていたのは――調査兵団の分隊長(当時)、エルヴィン・スミスだった。
深緑のマントを羽織り、透き通るような青い瞳であさきを見つめる男。
『……君が、私に裏で調査兵団への資材ルートを回してくれていた貴族の令嬢か』
『……私はもう、令嬢ではありません。家を追われ、すべてを失いました……』
雨音の中に消えそうなあさきの声。
するとエルヴィンは静かに膝をつくと、自分が羽織っていた調査兵団の温かいマントを脱ぎ、あさきの細い肩へと優しく掛けた。
『すべてを失ってなどいない。……君のその高い知性と、真実を見抜く意志は本物だ』
エルヴィンは力強い右手をあさきへと差し伸べた。
『どうだろう、あさき。……君のその知性と手腕を、人類の未来のために貸してくれないか。地獄のような場所だが……君の居場所なら、私が作ろう』
雨の中で差し出された、大きくて温かい手。
その手を取った瞬間、あさきの止まっていた世界が動き出した。
『……はい。私を……あなたの兵士にしてください、エルヴィン様』
【アジトの夜:誓い】
「……あの日、雨の中でエルヴィンが私を救ってくれた」
あさきは胸元の自由の翼の紋章にそっと手を触れた。
「だから……今度は私が彼を救う番よ。王政が彼を『悪魔』として殺そうとするなら、私は喜んで王政を叩き潰す悪魔の片棒を担ぐわ」
あさきの揺るぎない強い眼差しを見つめ、リヴァイはふっと口元を緩めた。
「……フン。相変わらず重い愛だな、お前は」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ」
その時、暗闇の中から足音が響いた。
「あさきさん……」
立っていたのは、手当てを終えたエレンだった。
物陰で、あさきの過去とエルヴィンへの絶対的な愛の告白をすべて聞いていたエレン。
エレンの胸の奥で、嫉妬と哀しみ、そして狂暴なまでの決意が渦を巻く。
(あさきさんを……救ったのはエルヴィン団長だ……。だからあさきさんは、あの人にすべてを捧げている……)
(なら……俺があさきさんのために世界をすべて壊したら……あさきさんは俺だけを見てくれるのか……?)
エレンの瞳に、暗く深い執着の光が宿る。
二人の強い絆を知ったことで、エレンの「あさきへの歪んだ愛」がさらに危険な領域へと進むのだった
