ナイチンゲールと籠の鳥
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公安の地下深く、冷たい機械音だけが響く情報処理室。
二重スパイとしての任務を始める直前、ホークスは端末に向かい、雄英高校の副担任として新しく着任したヒーロー——Ms.フローレンスのデータベースを開いていた。
公安の特権アクセス権限で開かれた画面には、一般には一切伏せられている彼女の個性の詳細と、過去の膨大な医療記録がずらりと並んでいた。
『名前:ナイチンゲールフローラ』
『ヒーロー名:Ms.フローレンス』
『個性:生命譲渡(治癒)』
『概要:対象の傷病・損傷に対し、自身の生命力(寿命・細胞維持力)を直接譲渡して完全回復させる』
『注記事項:過剰発動は自身の即死、または著しい寿命削減を引き起こす。過去のプロ活動4年間において、重症者数十名を救護。自身の推定獲得寿命、大幅減退の痕跡あり』
画面をスクロールするホークスの黄金色の瞳が、かすかに揺れた。
「……は……? なんですか、これ……」
プロヒーローとして華々しい戦果を挙げてきた彼女の陰に隠された、あまりにも不条理で過酷な現実。
彼女は誰かを救うたびに、自分の命をすり潰して差し出してきたのだ。
18歳で雄英を卒業し、現場の泥に塗れながら4年間たたき上げてきたプロ活動。
それは彼女にとって、救うための戦いであると同時に、「自らの命を削り続ける削り節のような4年間」でもあったのだ。
ホークスは自身の手元を見つめた。
自分もまた、幼少期から公安に「道具」として拾われ、10代でトップヒーローの座に押し上げられ、その羽を千切りながら日本の平和を支えてきた。
(俺と……同世代なのに……)
プロの厳しさも、トップが背負う重圧も誰より理解できる。
だが、目の前の画面が示しているのは、そんな自分すらも絶句させるような、愚かなほどまっすぐな「自己犠牲」の記録だった。
画面の隅には、公安上層部による冷酷な査定コメントが残されていた。
『※有事の際、最重要ヒーローの生還率を底上げする「特命治癒機関」として極めて有用。個人の生存率は優先事項外とする』
「…………ッ」
ホークスは思わず、キーボードを叩く手にぐっと力を込めた。背中の剛羽がピリッと殺気を孕んで逆立つ。
公安にとって、自分は「使い捨てのスパイ」であり、彼女は「都合の良い使い捨ての命(道具)」なのだ。
世間が「頼もしいプロヒーロー」と持て囃す裏で、この国は自分たちのような若い世代の命を擦り減らして成り立っている。
「……ふざけてますね、ホント」
冷ややかな吐息が漏れる。
画面の中に映る、少し控えめで、けれど芯の強い光を宿した彼女の顔写真。
(いつも『1-Aの副担任』としてキリッとした顔をして……生徒たちに優しく微笑んでるくせに)
(裏ではこんな……自分を削るようなマネをしてたんですか、あなたは)
胸の奥が、激しく締め付けられるような痛みを覚えた。
それは、自分と同じ「大人たちに都合よくすり減らされた同世代」への痛切な共感であり、同時に——「こんな温かい人を、公安のゴミ捨て場みたいな思惑で潰させてたまるか」という、暗く強い怒りだった。
ホークスは端末の電源を落とし、暗くなった画面に映る自分の冷めた顔を見つめた。
自分はこれから、二重スパイとして泥に塗れ、手を汚していく。
公安の道具として、誰からも理解されない暗闇の中へ飛び込んでいく。
けれど——。
(あなたが誰かのために命を削るなら……俺は、あなたのために命を張りますよ)
(これ以上、あなたに命を削らせなんてさせない。……あなたを道具扱いする奴らからも、危険なヴィランからも……俺が絶対に守ってみせる)
まだ直接言葉を交わす前の、ただの「資料越しの出会い」。
だがこの時すでに、ホークスの胸の奥深くには、彼女という存在に対する生涯解けない「重く暗い執着と誓い」が打ち込まれていたのだった。
公安の地下深く、冷たい機械音だけが響く情報処理室。
二重スパイとしての任務を始める直前、ホークスは端末に向かい、雄英高校の副担任として新しく着任したヒーロー——Ms.フローレンスのデータベースを開いていた。
公安の特権アクセス権限で開かれた画面には、一般には一切伏せられている彼女の個性の詳細と、過去の膨大な医療記録がずらりと並んでいた。
『名前:ナイチンゲールフローラ』
『ヒーロー名:Ms.フローレンス』
『個性:生命譲渡(治癒)』
『概要:対象の傷病・損傷に対し、自身の生命力(寿命・細胞維持力)を直接譲渡して完全回復させる』
『注記事項:過剰発動は自身の即死、または著しい寿命削減を引き起こす。過去のプロ活動4年間において、重症者数十名を救護。自身の推定獲得寿命、大幅減退の痕跡あり』
画面をスクロールするホークスの黄金色の瞳が、かすかに揺れた。
「……は……? なんですか、これ……」
プロヒーローとして華々しい戦果を挙げてきた彼女の陰に隠された、あまりにも不条理で過酷な現実。
彼女は誰かを救うたびに、自分の命をすり潰して差し出してきたのだ。
18歳で雄英を卒業し、現場の泥に塗れながら4年間たたき上げてきたプロ活動。
それは彼女にとって、救うための戦いであると同時に、「自らの命を削り続ける削り節のような4年間」でもあったのだ。
ホークスは自身の手元を見つめた。
自分もまた、幼少期から公安に「道具」として拾われ、10代でトップヒーローの座に押し上げられ、その羽を千切りながら日本の平和を支えてきた。
(俺と……同世代なのに……)
プロの厳しさも、トップが背負う重圧も誰より理解できる。
だが、目の前の画面が示しているのは、そんな自分すらも絶句させるような、愚かなほどまっすぐな「自己犠牲」の記録だった。
画面の隅には、公安上層部による冷酷な査定コメントが残されていた。
『※有事の際、最重要ヒーローの生還率を底上げする「特命治癒機関」として極めて有用。個人の生存率は優先事項外とする』
「…………ッ」
ホークスは思わず、キーボードを叩く手にぐっと力を込めた。背中の剛羽がピリッと殺気を孕んで逆立つ。
公安にとって、自分は「使い捨てのスパイ」であり、彼女は「都合の良い使い捨ての命(道具)」なのだ。
世間が「頼もしいプロヒーロー」と持て囃す裏で、この国は自分たちのような若い世代の命を擦り減らして成り立っている。
「……ふざけてますね、ホント」
冷ややかな吐息が漏れる。
画面の中に映る、少し控えめで、けれど芯の強い光を宿した彼女の顔写真。
(いつも『1-Aの副担任』としてキリッとした顔をして……生徒たちに優しく微笑んでるくせに)
(裏ではこんな……自分を削るようなマネをしてたんですか、あなたは)
胸の奥が、激しく締め付けられるような痛みを覚えた。
それは、自分と同じ「大人たちに都合よくすり減らされた同世代」への痛切な共感であり、同時に——「こんな温かい人を、公安のゴミ捨て場みたいな思惑で潰させてたまるか」という、暗く強い怒りだった。
ホークスは端末の電源を落とし、暗くなった画面に映る自分の冷めた顔を見つめた。
自分はこれから、二重スパイとして泥に塗れ、手を汚していく。
公安の道具として、誰からも理解されない暗闇の中へ飛び込んでいく。
けれど——。
(あなたが誰かのために命を削るなら……俺は、あなたのために命を張りますよ)
(これ以上、あなたに命を削らせなんてさせない。……あなたを道具扱いする奴らからも、危険なヴィランからも……俺が絶対に守ってみせる)
まだ直接言葉を交わす前の、ただの「資料越しの出会い」。
だがこの時すでに、ホークスの胸の奥深くには、彼女という存在に対する生涯解けない「重く暗い執着と誓い」が打ち込まれていたのだった。
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