ナイチンゲールの影にキス
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命を賭した【愛と治癒】の解放
「ハハハハハ! 終わりだ、死柄木弔! お前の身体も、憎悪も、すべて私が貰い受ける……!」
決戦の地、天空の雄英。
死柄木の身体の深層から、禍々しいオール・フォー・ワン(AFO)の巨大な怨念が浮き上がり、死柄木自身の意識を飲み込もうとしていた。
「がはっ……!? あ……あぁぁぁぁッ!! 痛い……頭が……! 出て行け……ッ!!」
二重の激痛と精神支配に狂乱する死柄木。
その姿に、フローラは逃げ場のない共依存を超えた「志村転弧という一人の人間への純粋で強い愛」を溢れさせる。
(この人を……転弧くんを……あの悪魔(AFO)の手に渡させない……!)
フローラは暴走する崩壊の衝撃波の中へ飛び込み、激痛に叫ぶ死柄木へ抱きついた。自分の額を彼の額へと強く押し当て、魂のすべてを注ぎ込んで【治癒】の光を放つ。
それは肉体の傷ではなく、死柄木の心にへばりつく「AFOの毒(憎悪)」を内側から溶かす浄化の光だった。
『ヌぐあぁぁぁぁぁッ!? なんだこの光は……! 怨念が……消えていく……だと……っ!?』
死柄木の精神世界で、AFOの巨大な影が叫び声を上げて消滅していく。
フローラの無条件の愛が、死柄木を長年縛り続けていた呪縛を完全に打ち破ったのだ。
「一人の人間」としての最期
光が収まった時、荒れ狂っていた崩壊の波がぴたりと止まった。
「……はぁ……はぁ……」
黒い憎悪のモヤが消え去り、瞳から狂気が失われた死柄木——いいえ、一人の青年「志村転弧」がそこにいた。
だが、AFOの支配から解放された代償と、これまでの肉体の過負荷により、転弧の命の灯火は今まさに潰えようとしていた。
「……転弧くん……っ!」
フローラは崩れ落ちる彼の身体を、しっかりと腕の中で抱きしめた。
転弧は力が入らなくなった四本の指で、そっとフローラの涙を拭った。その手つきは、世界を壊そうとしていたヴィランのそれではなく、愛する人をいとおしむ、ごく普通の男の手だった。
「……分かったよ、フローラ。……僕……最後の最後に……君に救われたんだね」
「転弧くん……死なないで……お願い……っ!」
「泣かないで……。世界は、やっぱり大嫌いだけど……。君が生まれたこの世界を……壊さなくて、よかった」
転弧は優しく微笑むと、フローラの唇に、最初で最後の静かなキスの雨を降らせた。
「ありがとう……フローラ。……僕を、愛してくれて。……君は、生きて」
「……転弧くん……! 転弧くんっ……!!」
フローラの胸の中で、志村転弧は安らかな満足気な表情を浮かべ、静かに息を引き取った。
彼を蝕んでいた激痛も、孤独も、世界への苛立ちも消え去り、最後は「愛された一人の人間」として、彼女の腕の中で眠りについたのだ。
愛を抱えて生きていく決意
戦いが終わり、静まり返った現場。
冷たくなった転弧の身体を抱きしめたまま、フローラはただ声を上げて泣き続けた。
駆けつけた相澤消太は、片目でその光景を見つめ、静かに二人の元へ歩み寄った。
「……フローラ」
「……相澤先生……。私……私……」
泣きじゃくるフローラに、相澤は静かに膝をつき、彼女の肩を優しく抱きかかえた。
相澤には分かっていた。彼女がヴィランを討伐したのではなく、一人の壊れた青年の心を、その愛で救い切ったのだということを。
