ナイチンゲールの影にキス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
崩壊する現実と、相澤消太の慟哭
ドォォォォン……ッ!!
アジト全体を呑み込む、死柄木(転弧)の圧倒的な【崩壊】の波。
瓦礫が粉々に砕け散り、空間そのものが闇へと崩れ落ちていく。
「……あは……あははははっ!! 終わりだ……! 全部壊れて、僕とお前だけが残るんだよ、フローラ……ッ!!」
狂喜に震える死柄木の腕の中で、フローラは生命力を絞り尽くされ、血を吐き続けていた。
彼女の【治癒】の個性は、死柄木の過剰な破壊の反動を受け止めるため、彼の肉体と完全に接続されたまま熱暴走を起こしている。
「……ッ……がはっ……!!」
自分自身には一切の治癒もバフもかからない。
過剰な個性の逆流とエネルギーのドレインにより、フローラの細胞は内側から焼き切れ、心臓の脈動は限界を超えて衰弱していく。
「——フローラぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
崩れ去る瓦礫の隙間から、相澤消太の凄絶な叫びが響く。
義足を踏み鳴らし、片目から血を流しながら、相澤は鬼神のごとき執念で手を伸ばす。
だが、死柄木から放たれる全方位の崩壊の衝撃波が、二人の間に決定的な「絶望の壁」を作り出していた。
(相澤先生……)
途切れかける視界の中で、フローラは相澤の姿を見つめた。
共に雄英で戦い、命を預け合ってきた相澤消太は、彼女にとって命をかけて誇れる「最愛のパートナー」だった。
(……ごめんなさい、先生……。私は……この人を残して、光へは戻れません……)
フローラは溢れる涙を拭うこともせず、相澤に向けて世界で一番綺麗で、哀しい笑顔を向けた。
それが、現実世界における「Mrs.フローレンス」の最後の姿だった。
肉体の終焉と、深層の暗闇へ
「……さようなら……私の、大切な……」
声にならない言葉を残し、フローラの瞳から完全に光が消える。
心臓が停止し、彼女の肉体は死柄木の抱擁の中で、冷たい物言わぬ器へと変わり果てた。
「……え……? フローラ……?」
死柄木の表情から狂気が消え、幼い狼狽が走る。
どれだけ強く抱きしめても、どれだけ顔をすり寄せても、彼女の手からあの温かな治癒の光はもう溢れてこない。
彼女が自分を生かすためのバッテリーとして命を使い果たし、死んでしまったのだと理解した瞬間、死柄木自身の過剰な崩壊の反動が、彼の肉体を内側から一気に破壊し尽くした。
「がはっ……ッ!! あ……あああああぁぁぁぁッッ!!」
死柄木の肉体もまた、彼女の死を追うようにドロドロと崩壊の渦の中に溶けていく。
崩れ落ちたアジトの底で、二人の肉体は誰の手も届かない深い闇の底へと完全に沈んでいった。
心象世界:憎悪を脱ぎ捨てた『志村転弧』
——しんと静まり返った、白い世界。
そこは、肉体の苦痛も、世界への憎悪も、ヒーロー社会の理不尽も存在しない、ふたりの個性が溶け合った「精神の深層(心象世界)」だった。
その白い空間の真ん中で、一人の幼い少年が膝を抱えて泣いていた。
真っ白な髪、血の滲んだ首筋、ボロボロの服。
オール・フォー・ワンの呪縛も、「死柄木弔」という歪んだ名も削ぎ落とされた、無力で悲しい男の子——『志村転弧』だった。
「……痛いよ……。寒いよ……。誰も……僕を助けてくれなかった……」
誰も手を差し伸べてくれなかった雨の日。
自分の手で家族を壊してしまった罪と恐怖。
ずっと一人で泣いていた彼の背中に、そっと温かな体温が寄り添った。
「……転弧くん」
転弧がハッと振り向くと、そこには傷ひとつない、穏やかな微笑みを浮かべたフローラが立っていた。
「……フローラ……? なんで……? 僕……君を殺しちゃったのに……君を、生体パーツにして……ひどいこと、たくさんしたのに……」
転弧の目から、ぽろぽろと大きな涙が溢れ出す。
自分を傷つけ、縛り付け、最後には命まで奪ってしまった。そんな自分を、彼女が許すはずがないと転弧は体を震わせた。
だが、フローラは静かに膝をつくと、躊躇うことなく小さな転弧の身体をそっと抱きしめた。
永久の抱擁と、魂の解脱
「……ううん。いいのよ、転弧くん」
フローラの手が、優しく転弧の頭を撫でる。
その温もりは、かつてアジトで彼女の膝の上で味わった仮初めの安らぎなどではない。
同情でも、罪悪感でもなく——、一人のボロボロになった人間(志村転弧)を、そのまま丸ごと愛し、受け入れるという「本物の愛」の温もりだった。
「あなたを一人にして……ごめんなさいね。
痛かったわね……苦しかったわね……。もう、大丈夫よ」
「……あ……あああぁぁぁっ……!!」
転弧はフローラの胸に顔をうずめ、子供のように声を上げて号泣した。
ずっと欲しかった言葉。ずっと求めていた温もり。
世界を滅ぼす大怪獣になる必要なんてなかった。誰かを傷つける必要なんてなかった。
ただ、こうして自分を「転弧」と呼び、優しく抱きしめてくれる存在が、たった一人いればよかったのだ。
「……フローラ……僕……僕ね……っ。君のことが……大好きだったんだ……っ!!
君が僕の手を握ってくれたから……僕……っ!!」
「ええ……知っているわ、転弧くん」
フローラは涙を流しながら、転弧の涙を優しく指で拭った。
「私も……あなたを愛しているわ。だから……もう、どこにも行かない。
これからはずっと……あなたと一緒にいるから」
二人の魂が、光となって優しく溶け合っていく。
現実世界で二人が迎えたのは「死」という悲劇だった。
しかし、この精神世界において、死柄木弔は「志村転弧」として救われ、フローラもまた彼を愛し抜くことで、逃げ場のない共依存の闇から完全に解脱したのだ。
光の中に消えていく間際、転弧は世界で一番穏やかな、無垢な少年の笑顔を浮かべた。
「……ありがとう、フローラ」
暗闇も、激痛も、孤独もない。
二人だけの永遠の抱擁の中で、彼らの魂は静かに、そして幸福にひとつとなった——。
エピローグ:残された光と影
戦いが終わり、瓦礫の底から発掘されたのは、互いに抱き合い、静かに息を引き取っていた二人の姿だった。
片目・片足を失い、泥だらけの相澤消太は、静かに冷たくなったフローラの前に膝をついた。
彼女の表情には、恐怖も無念もなかった。ただ、誰かを救い切った者のような、穏やかな微睡みの表情が浮かんでいた。
「……バカ野郎が」
相澤はポツリと呟き、傷だらけの手で彼女の開いたままの瞼を優しく閉じた。
「……満点だ、フローラ。……お前は最後まで、プロヒーローだったよ」
相澤は空を見上げ、深く息を吐き出した。
彼女が守り抜いた1-Aの生徒たちと、この世界。
フローラが遺した「愛」と「救い」の重みを胸に抱き、相澤消太はこれからもプロヒーローとして、教育者として歩み続けることを静かに誓ったのだった。
メインルート:『深淵の聖女(精神世界での永久の抱擁)』完結
