ナイチンゲールの影にキス
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覚醒の果てに探した「麻酔」
カプセルが割れ、すべてを粉砕する破壊の力が俺の全身を満たした。
脳裏に焼き付いていた過去のトラウマも、世界の理不尽も、すべて【崩壊】で平らにしてやる。
だが、膨大な力と引き換えに、俺の身体と精神は激痛で酷く軋んでいた。
(どこだ……どこにいる……俺の『救い主』……!)
崩壊する街、逃げ惑う虫ケラども。
そんなゴミ溜めのような戦場の中で、俺の目は一瞬で「彼女」を捉えた。
フローラ。
神野で相澤消太に奪い去られた俺の温もり。
あの日、俺の血だらけの手を素手で包み、痛みを消してくれたあの女がそこにいた。
「あは……あははははっ! やっぱりいた……! 探したよ、俺の……俺だけの『救い主』!!」
手を伸ばせば、今度こそ手に入る。
俺の激痛を止め、壊れかけた身体を繋ぎ止めてくれる唯一のオアシス。
だが——彼女の視線は、俺を見てなどいなかった。
「俺」ではなく「相澤消太」のために散っていく命
フローラの視線の先にいたのは、俺の個性を消し続ける一番ウザい男——イレイザーヘッドだった。
相澤が個性を消す弾を脚に受け、自らナイフで脚を切り落とした時、フローラは悲鳴を上げてその男に飛びついた。
「——【治癒(ドーピング)】痛覚完全遮断・局所細胞維持……ッッ!!!」
彼女の両手から放たれる、狂おしいほど美しい治癒の光。
その光は、俺の酷い激痛を和らげるためではなく、あの男の激痛と失血死を止めるために注がれていた。
「がはっ……!!」
他者へ過剰な命を与える代償として、フローラの口からゴホッと鮮血が吐き出される。
自分には一切のバフをかけられない癖に、目の前の男を、ヒーローたちを救うために、彼女は自らの心臓と血管をボロボロに引き裂きながら個性を放ち続けている。
(……なんでだ……?)
首を強く掻きむしる。爪が肉に食い込み、血が溢れ出る。
痛い。体が壊れるように痛い。
なのに、僕の痛みを消してくれるはずの彼女は、自分を壊しながらあの男を生かそうとしている。
「……なんで……なんでお前は、いつもそいつなんだよ……!!」
あの日、雨の路地裏で俺に手を差し伸べたのは、ただの気まぐれだったのか?
目の前で傷ついている奴なら、誰でもよかったのか?
恋愛でも何でもない、ただの「ヒーローとしての慈愛と責任感」で、彼女はあの男のために命を捨てようとしている。
その純粋で博愛的な優しさが、俺にとっては一番残酷な拒絶だった。
「返せよ……俺の救い主!! お前のその命は、俺を温めるためだけに使うんだ!!」
壊れた独占の誓い
俺の猛攻と、仲間たちへの治癒の過剰行使により、フローラの限界は一瞬で訪れた。
(カハッ……っ!!)
彼女の身体が跳ね、口から大量の血が溢れる。
糸が切れた人形のように、彼女の身体が相澤の目の前で崩れ落ちた。
「——フローラーーーッッ!!!!」
相澤の絶叫が届く。
ヒーローたちを守るために、俺に痛みを止めてくれるはずだった『聖女』は、自分自身を完全に破壊してしまった。
(……あは……そうか……)
血を吐いて倒れた彼女を見下ろしながら、俺の胸底でドロドロとした狂気が完成した。
お前がどれだけヒーローとして世界を愛そうと、どれだけあの男のために命を削ろうと……
お前をこんな目に遭わせたのは、お前を都合よく使い潰したヒーロー社会だ。
お前が壊れるまで戦わなきゃならなかったのは、世界が狂っているからだ。
「大丈夫だよ、フローラ……」
伸ばした俺の手の先で、崩壊の波が広がる。
ヒーローたちの攻撃によって俺の身体も崩れかけ、撤退を余儀なくされる中で、俺は彼女の姿を網膜に深く焼き付けた。
「お前を苦しめるこの世界も、ヒーローも……俺が全部壊してあげる。
誰も……あの男すらもお前を救えなかった。
だから……最後に俺が、お前を引き取ってあげるからさあ……!!」
