ナイチンゲールに捧ぐ勝利を
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元々、フローラは雄英高校で相澤先生のサポートを務めていた頃から、メディアの取材を一切拒否していた。
自分にバフがかからない体質ゆえに余計な注目を浴びたくないことや、何より「先生」として黒衣に徹する美学があったからだ。ヒーロー界の一部では「相澤消太の背後にいる、顔も名前も明かさない幻の最強サポーター」と噂される都市伝説のような存在だった。
だが——爆豪勝己の専属サイドキックになってから、状況は一変する。
何しろ、相棒(そして夫)である爆豪は、毎日のようにメディアに取り上げられる超注目株のトップヒーローだ。
現場で『大・爆・殺・神ダイナマイト』が縦横無尽に暴れ回る傍らで、完璧なタイミングで捕縛布とバフを打ち込み、鮮やかに事件を解決へ導く美しきサイドキックの姿は、否応なしにテレビの生中継やSNSのカメラに捉えられてしまう。
「あのダイナマイトの横にいるめちゃくちゃ綺麗な女性ヒーローは誰だ!?」
「『Ms.フローレンス』って名前らしいぞ! 雄英高校の先生もやってるらしい!」
「あのダイナマイトの暴走を笑顔ひとつでコントロールしてる……女神か!?」
ネットやTVのトレンドは連日「フローレンス」「ダイナマイトのサイドキック」の話題で持ちきりになった。
メディア露出を避けていたはずが、世間の認知度は鰻登り。ついには「好きなヒーローランキング(女性部門)」や「なりたい顔ランキング」にまで上位ランクインしてしまう始末。
事務所の応接室。
「……爆豪くん、どうしましょう。なんだか最近、街を歩くだけでサインを求められたり、雑誌の単独インタビューの依頼が届いたりしているのだけれど……」
困り顔で大量の取材オファーの書類を見つめるフローラ。
「ハッ、断れ断れ!! 全部突っぱねろ!!」
爆豪は机に足を放り投げ、書類の山を睨みつけながら不機嫌そうに舌打ちをした。
世間にフローラの凄さと美しさが広まっていくのは、彼女の実力を正当に評価してほしい爆豪にとっても誇らしいことではあった。だがそれ以上に、「俺だけのクソバフ女を、世間の有象無象が興味本位でチラチラ見てんじゃねぇ」という猛烈な独占欲と嫉妬心が爆発していたのだ。
「でも、事務所の広報の方からは『ダイナマイト事務所のイメージアップのために、少しだけでもメディアに出てほしい』って頼まれて……」
「却下だ!! お前の顔も、お前の声も、お前のその凄さも……一番近くで見ていいのは俺だけだ!!」
「ふふ、勝己くんったら……相変わらず強引なんだから」
バッサリと言い放つ爆豪の独占欲全開な言葉に、フローラは困ったように、けれど心底嬉しそうに目を細めた。
結局、フローラ本人の「裏方に徹したい」という希望と、爆豪の「俺以外の前で目立つな」という利害が一致(?)し、単独でのTV出演やアイドル的な取材はすべて爆豪が力づくで突っぱねることに。
だが、二人が夫婦として連名で受けるヒーローインタビューや、現場での夫婦での圧倒的な連携プレイが放送されるたびに、世間のファンは「またダイナマイトが奥さんをガードしてる!」「Ms.フローレンス、守られつつも爆豪を完璧に手懐けてて最強」と大盛り上がり。
「露出を避けたいのに、爆豪の隣にいるせいで勝手に知名度が爆上がっていく」という、愛とドタバタに満ちた最高のサイドキック生活が続いていくのだった。
