ナイチンゲールに捧ぐ勝利を
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卒業から2年が経ち、爆豪勝己はプロヒーロー『大・爆・殺・神ダイナマイト』としてトップ前線を駆け抜けていた。
ランキングを駆け上がり、多忙を極める日々の中でも、彼は変わらなかった。
数週間に一度、あるいは大きな事件を解決した直後、彼は必ずフローラの部屋の前へとやって来る。
「おい、クソバフ女。飯行くぞ」
「爆豪くん……また来たの? 今日のトップニュースで見かけたけれど、怪我はないの?」
「あんなザコで怪我すっかアホ。ほら着替えろ」
高級料亭でも気取ったレストランでもなく、彼が連れて行くのは地元の美味い定食屋や、フローラが好きだと漏らしていた和菓子屋。
どれだけプロとして有名になろうと、爆豪はフローラの前では飾り気のないそのままの姿で、けれど圧倒的な熱量と過保護さで彼女の周囲を固めていった。
「……爆豪くん。私には教員としての誇りがあるのよ。あなたももう立派なプロなのだから、あんまり頻繁に来ると……」
「何度言ったら分かるんだアホ。お前がどんな矜持抱えてようが知るか。『教え子』の時代は終わったんだよ。俺はお前を奪いに来てるって言っただろ」
フローラが「大人の一線」を引こうとするたび、爆豪はその壁を真っ向から粉砕するように言葉を叩きつける。
「……本当に強引なんだから」
口では呆れてみせながらも、彼が自分に向ける熱い視線と、過剰なまでの大切さに、フローラの胸は日ごとに甘く痺れていった。
そして、卒業から2年が経った春の夜。
その日、大規模なヴィラン退治を完封勝利で終わらせた爆豪は、その足でそのままフローラのマンションを訪れていた。
ヒーロースーツの上着を脱ぎ、私服のシャツ姿でベランダに立つ彼。夜風に金の髪が揺れている。
「……爆豪くん、お茶が入ったわよ」
温かいマグカップを差し出すフローラ。
爆豪はそれを受け取ると、ふと彼女の細い手首を掴み、逃げられないようにそっと引き寄せた。
「……っ、爆豪くん……?」
「2年だ」
低い、どこまでも真剣な声。
「プロになって2年。事務所も軌道に乗せた。ナンバーズ(上位)の背中も掴んだ。……これでもまだ、お前の中じゃ俺は『爆豪くん』で『教え子』のガキか?」
「それは……」
「俺がどんだけお前だけを見てるか、分かってんだろ。もう言い訳すんな……お前のその目、俺を『生徒』として見てねぇよ」
爆豪の赤く燃える瞳が、逃げ場をなくすようにフローラを射抜く。
どれだけ爆豪が真剣に自分を求め、男としての熱量をぶつけてきてくれても、フローラの胸の奥にはどうしても消えない「重い鎖」があった。
(私は……あなたより歳上で、かつてあなたの先生だった……)
彼がプロとして世界へ羽ばたいていく姿を見るたび、誇らしさと同時に胸が締め付けられる。
同世代の素敵な女性と出会う機会だってこれからいくらでもあるはずだ。自分の存在が、彼の輝かしい未来の選択肢や可能性を狭めてしまうのではないか——そんな罪悪感と葛藤が、フローラの足を止めさせていた。
「……爆豪くん、もう本当に来ちゃダメよ」
ベランダで夜風に当たる爆豪の背中に、フローラは静かに、けれど固い決意を込めて声をかけた。
「私ね、あなたの未来が心配なの。……私はあなたよりずっと歳上だし、元教員よ。私なんかに縛られていたら、あなたの無限の可能性や未来の選択肢を……私が狭めてしまうかもしれないの」
「……あァ?」
爆豪がゆっくりと振り返る。
その赤く燃える瞳は、フローラの言葉に隠された「自分への愛ゆえの諦め」を見抜いていた。
「あなたがこれから出会う素晴らしい人たちとの未来を、私が奪いたくないの……だから——」
(ガシッ!!)
言葉の途中で、強引に腕を引かれた。
気づいた時には、フローラの身体はベランダの手すりと爆豪の逞しい身体の間に挟み込まれ、逃げ場を完全に塞がれていた。
「……勝手に俺の未来決めてんじゃねぇよ、アホが」
頭の上から降ってくる、低く、鼓膜を揺らす怒号。
爆豪はフローラの頬を大きな手で包み込み、指先で彼女の涙を乱暴にぐいっと拭った。
「歳の差だ? 未来の選択肢だ? ……ハッ、くだらねぇ理由探して逃げてんじゃねぇよ!」
「爆豪……くん……」
「俺が選んだ道だぞ!? 誰と出会おうが、どんな選択肢があろうが……俺が一番欲しくて、俺の隣に必要なのは最初からお前だけなんだよ!!」
圧倒的な熱量。
フローラが抱えていた繊細な不安や葛藤を、爆豪はすべて正面から自分の言葉で叩き潰していく。
「『未来を狭める』だと? ふざけんな。お前を奪って、てっぺんも獲って、お前を世界で一番幸せにして……俺の選択が正しかったって、俺が証明してやるよ!!」
「……っ……!」
フローラの大きな瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
自分の未来を心配し、身を引こうとするフローラの優しさすらも、爆豪勝己という男はまるごと背負い、力づくで奪い去っていく。
どこまでも自分を真っ直ぐに、圧倒的な強さで求めてくれるこの男の熱に、フローラの心の鍵は完全に砕け散った。
(あぁ……、もう、ダメね……)
「……勝てないわね、あなたには」
フローラは溢れる涙を拭いもせず、震える手を伸ばすと、彼の胸板に額をそっと押し付けた。
自分を縛っていた「先生」としてのプライドも、「未来を狭める」という言い訳も、すべて夜風の中に消えていく。
「……私の負けよ。……ごめんなさい。ずっと、あなたが好きだった……勝己くん」
——勝己くん。
その名前が彼女の唇から零れ落ちた瞬間、爆豪は息を呑み、力強く彼女の体を抱き寄せた。
「……言っただろ。……絶対離さねぇって」
夜空の下、教員と生徒という一線を完全に超え、一人の男と女として結ばれた二人の鼓動が、温かく重なり合っていたのだった。
卒業から2年が経ち、爆豪勝己はプロヒーロー『大・爆・殺・神ダイナマイト』としてトップ前線を駆け抜けていた。
ランキングを駆け上がり、多忙を極める日々の中でも、彼は変わらなかった。
数週間に一度、あるいは大きな事件を解決した直後、彼は必ずフローラの部屋の前へとやって来る。
「おい、クソバフ女。飯行くぞ」
「爆豪くん……また来たの? 今日のトップニュースで見かけたけれど、怪我はないの?」
「あんなザコで怪我すっかアホ。ほら着替えろ」
高級料亭でも気取ったレストランでもなく、彼が連れて行くのは地元の美味い定食屋や、フローラが好きだと漏らしていた和菓子屋。
どれだけプロとして有名になろうと、爆豪はフローラの前では飾り気のないそのままの姿で、けれど圧倒的な熱量と過保護さで彼女の周囲を固めていった。
「……爆豪くん。私には教員としての誇りがあるのよ。あなたももう立派なプロなのだから、あんまり頻繁に来ると……」
「何度言ったら分かるんだアホ。お前がどんな矜持抱えてようが知るか。『教え子』の時代は終わったんだよ。俺はお前を奪いに来てるって言っただろ」
フローラが「大人の一線」を引こうとするたび、爆豪はその壁を真っ向から粉砕するように言葉を叩きつける。
「……本当に強引なんだから」
口では呆れてみせながらも、彼が自分に向ける熱い視線と、過剰なまでの大切さに、フローラの胸は日ごとに甘く痺れていった。
そして、卒業から2年が経った春の夜。
その日、大規模なヴィラン退治を完封勝利で終わらせた爆豪は、その足でそのままフローラのマンションを訪れていた。
ヒーロースーツの上着を脱ぎ、私服のシャツ姿でベランダに立つ彼。夜風に金の髪が揺れている。
「……爆豪くん、お茶が入ったわよ」
温かいマグカップを差し出すフローラ。
爆豪はそれを受け取ると、ふと彼女の細い手首を掴み、逃げられないようにそっと引き寄せた。
「……っ、爆豪くん……?」
「2年だ」
低い、どこまでも真剣な声。
「プロになって2年。事務所も軌道に乗せた。ナンバーズ(上位)の背中も掴んだ。……これでもまだ、お前の中じゃ俺は『爆豪くん』で『教え子』のガキか?」
「それは……」
「俺がどんだけお前だけを見てるか、分かってんだろ。もう言い訳すんな……お前のその目、俺を『生徒』として見てねぇよ」
爆豪の赤く燃える瞳が、逃げ場をなくすようにフローラを射抜く。
どれだけ爆豪が真剣に自分を求め、男としての熱量をぶつけてきてくれても、フローラの胸の奥にはどうしても消えない「重い鎖」があった。
(私は……あなたより歳上で、かつてあなたの先生だった……)
彼がプロとして世界へ羽ばたいていく姿を見るたび、誇らしさと同時に胸が締め付けられる。
同世代の素敵な女性と出会う機会だってこれからいくらでもあるはずだ。自分の存在が、彼の輝かしい未来の選択肢や可能性を狭めてしまうのではないか——そんな罪悪感と葛藤が、フローラの足を止めさせていた。
「……爆豪くん、もう本当に来ちゃダメよ」
ベランダで夜風に当たる爆豪の背中に、フローラは静かに、けれど固い決意を込めて声をかけた。
「私ね、あなたの未来が心配なの。……私はあなたよりずっと歳上だし、元教員よ。私なんかに縛られていたら、あなたの無限の可能性や未来の選択肢を……私が狭めてしまうかもしれないの」
「……あァ?」
爆豪がゆっくりと振り返る。
その赤く燃える瞳は、フローラの言葉に隠された「自分への愛ゆえの諦め」を見抜いていた。
「あなたがこれから出会う素晴らしい人たちとの未来を、私が奪いたくないの……だから——」
(ガシッ!!)
言葉の途中で、強引に腕を引かれた。
気づいた時には、フローラの身体はベランダの手すりと爆豪の逞しい身体の間に挟み込まれ、逃げ場を完全に塞がれていた。
「……勝手に俺の未来決めてんじゃねぇよ、アホが」
頭の上から降ってくる、低く、鼓膜を揺らす怒号。
爆豪はフローラの頬を大きな手で包み込み、指先で彼女の涙を乱暴にぐいっと拭った。
「歳の差だ? 未来の選択肢だ? ……ハッ、くだらねぇ理由探して逃げてんじゃねぇよ!」
「爆豪……くん……」
「俺が選んだ道だぞ!? 誰と出会おうが、どんな選択肢があろうが……俺が一番欲しくて、俺の隣に必要なのは最初からお前だけなんだよ!!」
圧倒的な熱量。
フローラが抱えていた繊細な不安や葛藤を、爆豪はすべて正面から自分の言葉で叩き潰していく。
「『未来を狭める』だと? ふざけんな。お前を奪って、てっぺんも獲って、お前を世界で一番幸せにして……俺の選択が正しかったって、俺が証明してやるよ!!」
「……っ……!」
フローラの大きな瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
自分の未来を心配し、身を引こうとするフローラの優しさすらも、爆豪勝己という男はまるごと背負い、力づくで奪い去っていく。
どこまでも自分を真っ直ぐに、圧倒的な強さで求めてくれるこの男の熱に、フローラの心の鍵は完全に砕け散った。
(あぁ……、もう、ダメね……)
「……勝てないわね、あなたには」
フローラは溢れる涙を拭いもせず、震える手を伸ばすと、彼の胸板に額をそっと押し付けた。
自分を縛っていた「先生」としてのプライドも、「未来を狭める」という言い訳も、すべて夜風の中に消えていく。
「……私の負けよ。……ごめんなさい。ずっと、あなたが好きだった……勝己くん」
——勝己くん。
その名前が彼女の唇から零れ落ちた瞬間、爆豪は息を呑み、力強く彼女の体を抱き寄せた。
「……言っただろ。……絶対離さねぇって」
夜空の下、教員と生徒という一線を完全に超え、一人の男と女として結ばれた二人の鼓動が、温かく重なり合っていたのだった。
