ナイチンゲールに捧ぐ勝利を
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病院の白い廊下に、俺の荒い足音が虚しく響いていた。
全面戦争は終わった。だが、勝利なんて生ぬるい言葉で片付けられるようなもんじゃねぇ。
街は破壊され、多くのヒーローが倒れた。俺自身も身体中に重傷を負い、全身が悲鳴を上げていたが、そんな痛みはどうでもよかった。
俺の頭の中にあったのは、ただ一つ。
(あいつは……あのクソバフ女はどこだ……!!)
搬送先を聞き出し、処置室の廊下へ走り込んだ俺の目に飛び込んできたのは、壁に背を預けて座り込む相澤のオッサンの姿だった。
片足を失い、全身痛々しい包帯で覆われたオッサンは、死人のような顔で集中治療室(ICU)の扉を見つめていた。
「……相澤のオッサン! あのクソバフ女は…フローラはどこだ!!」
俺の叫び声に、相澤はゆっくりと血の気のない顔を上げた。その眼差しには、絶望と深い自責の色が沈んでいた。
「……爆豪か。……あいつは、中だ」
ICUの重々しい扉。その上には赤く『処置中』のライトが点滅している。
「……何があった」
喉の奥がカラカラに乾いていた。
「……あいつは……俺を死なせないために、己の命のストックをすべて吐き出した」
相澤の声が小さく震える
。
「俺が足を切断した時……その激痛で俺がショック死しないよう、痛覚を遮断し、死柄木との死闘が終わるまで……戦況が落ち着くその瞬間まで、自分にバフがかからない身体で命の糸を繋ぎ止めていたんだ。……そして、全員の無事を見届けた途端……心肺が停止した」
——心肺停止。
ドクン、と胸の奥で嫌な音が出た。
視界がぐにゃりと歪む。
「……一時は完全に心臓が止まった。今、蘇生措置を行ってどうにか息を吹き返したが……脳死状態に近い瀕死だ。……面会謝絶。身内以外の立ち入りは一切許されない」
「……な……に言ってんだよ……」
拳を握りしめる。爪が肉に食い込み、血が噴き出す。
(ふざけんな……ふざけんなよ……!!)
夕暮れの演習場で、泥まみれになりながら俺と拳を交わしたあの女。
「私には何も与えられていない」と涙ぐみながら、俺の「俺が認めてる」って言葉に嬉しそうに微笑んだあのクソバフ女が——なんで今、命の灯火を消しかけてんだよ!!
「開けろ……!!」
俺はICUの自動ドアへ取っ付き、扉を激しく叩いた。
「開けろクソが!! おいクソバフ女!! 聞こえてんだろ!! 勝手にくたばってんじゃねぇよ!!」
「やめろ爆豪!! 今刺激を与えたら本当に……!」
相澤が立ち上がり、俺の肩を掴んで引き剥がそうとする。
「放せ!! あんたを庇って死にそうになってんだぞ!? なんで黙って見てんだよ!!」
「一番分かってるのは俺だ!!! 自責で押し潰されそうなのも、今すぐ代わってやりたいのも俺だ!!!」
相澤の叫び声が廊下に響き渡る。
相澤の目からも、ボロボロと溢れ出す涙。
フローラが相澤を「尊敬する恩師」として命がけで守ったことも、相澤がフローラを「かけがえのない大切な存在」として背負ってきたことも、俺は知っている。
だからこそ——腹が立って、悔しくて、狂いそうだった。
俺は引き剥がされた手で、冷たいICUのガラス扉に額を押し付けた。
ガラスの向こう、幾重もの医療機器とチューブに繋がれ、死人のように横たわる彼女の影が見える。
「……おい、クソバフ女……」
低く、震える声が漏れた。
「『俺だけがお前を認めてる』って言っただろ……。お前の泥臭ぇ強さを一番評価してんのは俺だ。……なのに、勝手に満足して死にかけ届いてんじゃねぇよ……!!」
神野のアジトで、届かなかった手。
死柄木に気やすく触れられ、涙を浮かべていた顔。
あんな思いは二度とさせねぇって、俺がてっぺんに行って誰よりも強く守ってやるって誓っただろ!
「起きろ……!! 起きて俺の前に立てアホ!!
卒業したら……俺がプロになったら、お前を相澤の影から引きずり出して、俺の隣に立たせてやるって決めてんだよ……!!」
扉越しに叫ぶ俺の言葉は、集中治療室の静寂の中に消えていく。
だが、俺は閉ざされたドアから視線を外さなかった。
「……死んだら絶対に許さねぇ。生きて……俺の勝ちを見届けろ。……一生離さねぇって言っただろ……!!」
面会謝絶の冷たい扉の前で、爆豪勝己は全身から血を流しながら、彼女の命を繋ぎ止めるように、ただひたすらに叫び続けたのだった。
病院の白い廊下に、俺の荒い足音が虚しく響いていた。
全面戦争は終わった。だが、勝利なんて生ぬるい言葉で片付けられるようなもんじゃねぇ。
街は破壊され、多くのヒーローが倒れた。俺自身も身体中に重傷を負い、全身が悲鳴を上げていたが、そんな痛みはどうでもよかった。
俺の頭の中にあったのは、ただ一つ。
(あいつは……あのクソバフ女はどこだ……!!)
搬送先を聞き出し、処置室の廊下へ走り込んだ俺の目に飛び込んできたのは、壁に背を預けて座り込む相澤のオッサンの姿だった。
片足を失い、全身痛々しい包帯で覆われたオッサンは、死人のような顔で集中治療室(ICU)の扉を見つめていた。
「……相澤のオッサン! あのクソバフ女は…フローラはどこだ!!」
俺の叫び声に、相澤はゆっくりと血の気のない顔を上げた。その眼差しには、絶望と深い自責の色が沈んでいた。
「……爆豪か。……あいつは、中だ」
ICUの重々しい扉。その上には赤く『処置中』のライトが点滅している。
「……何があった」
喉の奥がカラカラに乾いていた。
「……あいつは……俺を死なせないために、己の命のストックをすべて吐き出した」
相澤の声が小さく震える
。
「俺が足を切断した時……その激痛で俺がショック死しないよう、痛覚を遮断し、死柄木との死闘が終わるまで……戦況が落ち着くその瞬間まで、自分にバフがかからない身体で命の糸を繋ぎ止めていたんだ。……そして、全員の無事を見届けた途端……心肺が停止した」
——心肺停止。
ドクン、と胸の奥で嫌な音が出た。
視界がぐにゃりと歪む。
「……一時は完全に心臓が止まった。今、蘇生措置を行ってどうにか息を吹き返したが……脳死状態に近い瀕死だ。……面会謝絶。身内以外の立ち入りは一切許されない」
「……な……に言ってんだよ……」
拳を握りしめる。爪が肉に食い込み、血が噴き出す。
(ふざけんな……ふざけんなよ……!!)
夕暮れの演習場で、泥まみれになりながら俺と拳を交わしたあの女。
「私には何も与えられていない」と涙ぐみながら、俺の「俺が認めてる」って言葉に嬉しそうに微笑んだあのクソバフ女が——なんで今、命の灯火を消しかけてんだよ!!
「開けろ……!!」
俺はICUの自動ドアへ取っ付き、扉を激しく叩いた。
「開けろクソが!! おいクソバフ女!! 聞こえてんだろ!! 勝手にくたばってんじゃねぇよ!!」
「やめろ爆豪!! 今刺激を与えたら本当に……!」
相澤が立ち上がり、俺の肩を掴んで引き剥がそうとする。
「放せ!! あんたを庇って死にそうになってんだぞ!? なんで黙って見てんだよ!!」
「一番分かってるのは俺だ!!! 自責で押し潰されそうなのも、今すぐ代わってやりたいのも俺だ!!!」
相澤の叫び声が廊下に響き渡る。
相澤の目からも、ボロボロと溢れ出す涙。
フローラが相澤を「尊敬する恩師」として命がけで守ったことも、相澤がフローラを「かけがえのない大切な存在」として背負ってきたことも、俺は知っている。
だからこそ——腹が立って、悔しくて、狂いそうだった。
俺は引き剥がされた手で、冷たいICUのガラス扉に額を押し付けた。
ガラスの向こう、幾重もの医療機器とチューブに繋がれ、死人のように横たわる彼女の影が見える。
「……おい、クソバフ女……」
低く、震える声が漏れた。
「『俺だけがお前を認めてる』って言っただろ……。お前の泥臭ぇ強さを一番評価してんのは俺だ。……なのに、勝手に満足して死にかけ届いてんじゃねぇよ……!!」
神野のアジトで、届かなかった手。
死柄木に気やすく触れられ、涙を浮かべていた顔。
あんな思いは二度とさせねぇって、俺がてっぺんに行って誰よりも強く守ってやるって誓っただろ!
「起きろ……!! 起きて俺の前に立てアホ!!
卒業したら……俺がプロになったら、お前を相澤の影から引きずり出して、俺の隣に立たせてやるって決めてんだよ……!!」
扉越しに叫ぶ俺の言葉は、集中治療室の静寂の中に消えていく。
だが、俺は閉ざされたドアから視線を外さなかった。
「……死んだら絶対に許さねぇ。生きて……俺の勝ちを見届けろ。……一生離さねぇって言っただろ……!!」
面会謝絶の冷たい扉の前で、爆豪勝己は全身から血を流しながら、彼女の命を繋ぎ止めるように、ただひたすらに叫び続けたのだった。
