ナイチンゲールに捧ぐ勝利を
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(ドカァン……!!)
「はぁっ……! はぁっ……!!」
何十回目の打ち合いだったか、もう分からない。
俺の爆炎を間一髪でいなし、捕縛布で俺の軸を崩しようとしたフローラと、それを力任せに引き剥がそうとした俺は、お互いに均衡を崩してそのまま土煙の舞うグラウンドへ倒れ込んだ。
二人揃って、地面に背中を投げ出し、仰向けになる。
肩が激しく上下し、荒い息が赤く染まり始めた夕空に消えていく。
汗で濡れた前髪が額にへばりつき、全身が泥と擦り傷だらけだ。
隣を見れば、フローラも同じように両腕の包帯(捕縛布)を解けかけさせたまま、ぐったりと空を見上げていた。
「……はぁ……ふぅ……。凄いわね、爆豪くん……。もう私の崩しに……完全に目が慣れてきてる……」
息を切らしながら、どこか嬉しそうに呟くクソバフ女。
俺は荒い呼吸を整えながら、肘で目元を覆い、オレンジ色に染まる雲を睨みつけた。
心臓が激しく脈打っているのは、疲れのせいだけじゃない。こいつと拳を交わすたび、その肌から伝わってくる『覚悟の重さ』に、胸の奥が熱く焼かれるからだ。
「……おい」
「ん……?」
俺は目元を覆っていた腕をどけ、横顔だけで隣の女を見た。
「……お前、自分にバフかけらんねぇからって……諦めなかったんだな」
ポツリと、泥のついた口端から漏れ出た言葉。
「他人にしかバフがかからねぇ……自分は丸腰の置物。世間の連中も、クラスのモブどもも、お前を『優しい支援の先生』としか見てねぇ。後ろで守られてヘラヘラ笑ってりゃいいポジションだ。……なのに、お前は相澤のオッサンにしがみついて、腕に包帯巻きつけて……前線で戦えるまで己を叩き上げた」
フローラが息を呑み、ゆっくりとこちらへ顔を向けるのが分かった。
俺は体を少し起こし、肘を膝について、泥で汚れた彼女の手元をじっと睨みつけた。
「その泥臭ぇ努力も、泥舐めてきた時間も……全部、本物だ。周りがどう見ようが関係ねぇ。他の誰でもねぇ……俺が、お前を一番強ぇヒーローだと認めてんだよ」
「……っ」
「世間の評価なんざ知るか。お前がどんだけ血吐いてここまで来たか、一番近くでこの技食らってる俺が一番知ってんだ。……だから笑って誤魔化すな、クソ格好いいじゃねぇか」
フローラの大きな瞳が丸くなり、それから目元がじわっと潤むのが見えた。
世間や他の誰も気づかない自分の血の滲むような努力と覚悟を、誰よりも誇り高く一番を目指す爆豪勝己という男が、「俺が認めてる」と力強く全肯定してくれたこと。
それがどれだけ彼女の心を救ったか、言葉にならない静けさが物語っていた。
「……ふふ。……ありがとう、爆豪くん」
フローラは目元を腕で隠しながら、声をごろつかせて笑った。
「私ね……『自分には何も与えられていない』って、どこかでずっと悔しかったの。でも……あなたにそう言ってもらえたら、私が泥まみれになって歩んできた時間は、間違いじゃなかったんだって思えるわ」
夕空の下、柔らかく微笑む彼女の横顔。
汗をかいて頬に張り付いた髪も、泥のついた白い肌も、全部がやたらと綺麗に見えて、俺は慌てて舌打ちをして立ち上がった。
「……チッ、調子乗んんじゃねぇクソバフ女!! 褒めてねぇ、事実を言っただけだ!! 立つぞ、まだ終わってねぇ!!」
「あはは、本当につれないんだから! 待ちなさいってば!」
——グラウンドに身体を投げ出して交わした、たった数秒の会話。
だが、「俺だけはお前を認めてる」という強い一言は、夕暮れの空気と共に彼女の心を解かし、爆豪勝己にとっても生涯消えない執着の火種として焼き付いたのだった。
(ドカァン……!!)
「はぁっ……! はぁっ……!!」
何十回目の打ち合いだったか、もう分からない。
俺の爆炎を間一髪でいなし、捕縛布で俺の軸を崩しようとしたフローラと、それを力任せに引き剥がそうとした俺は、お互いに均衡を崩してそのまま土煙の舞うグラウンドへ倒れ込んだ。
二人揃って、地面に背中を投げ出し、仰向けになる。
肩が激しく上下し、荒い息が赤く染まり始めた夕空に消えていく。
汗で濡れた前髪が額にへばりつき、全身が泥と擦り傷だらけだ。
隣を見れば、フローラも同じように両腕の包帯(捕縛布)を解けかけさせたまま、ぐったりと空を見上げていた。
「……はぁ……ふぅ……。凄いわね、爆豪くん……。もう私の崩しに……完全に目が慣れてきてる……」
息を切らしながら、どこか嬉しそうに呟くクソバフ女。
俺は荒い呼吸を整えながら、肘で目元を覆い、オレンジ色に染まる雲を睨みつけた。
心臓が激しく脈打っているのは、疲れのせいだけじゃない。こいつと拳を交わすたび、その肌から伝わってくる『覚悟の重さ』に、胸の奥が熱く焼かれるからだ。
「……おい」
「ん……?」
俺は目元を覆っていた腕をどけ、横顔だけで隣の女を見た。
「……お前、自分にバフかけらんねぇからって……諦めなかったんだな」
ポツリと、泥のついた口端から漏れ出た言葉。
「他人にしかバフがかからねぇ……自分は丸腰の置物。世間の連中も、クラスのモブどもも、お前を『優しい支援の先生』としか見てねぇ。後ろで守られてヘラヘラ笑ってりゃいいポジションだ。……なのに、お前は相澤のオッサンにしがみついて、腕に包帯巻きつけて……前線で戦えるまで己を叩き上げた」
フローラが息を呑み、ゆっくりとこちらへ顔を向けるのが分かった。
俺は体を少し起こし、肘を膝について、泥で汚れた彼女の手元をじっと睨みつけた。
「その泥臭ぇ努力も、泥舐めてきた時間も……全部、本物だ。周りがどう見ようが関係ねぇ。他の誰でもねぇ……俺が、お前を一番強ぇヒーローだと認めてんだよ」
「……っ」
「世間の評価なんざ知るか。お前がどんだけ血吐いてここまで来たか、一番近くでこの技食らってる俺が一番知ってんだ。……だから笑って誤魔化すな、クソ格好いいじゃねぇか」
フローラの大きな瞳が丸くなり、それから目元がじわっと潤むのが見えた。
世間や他の誰も気づかない自分の血の滲むような努力と覚悟を、誰よりも誇り高く一番を目指す爆豪勝己という男が、「俺が認めてる」と力強く全肯定してくれたこと。
それがどれだけ彼女の心を救ったか、言葉にならない静けさが物語っていた。
「……ふふ。……ありがとう、爆豪くん」
フローラは目元を腕で隠しながら、声をごろつかせて笑った。
「私ね……『自分には何も与えられていない』って、どこかでずっと悔しかったの。でも……あなたにそう言ってもらえたら、私が泥まみれになって歩んできた時間は、間違いじゃなかったんだって思えるわ」
夕空の下、柔らかく微笑む彼女の横顔。
汗をかいて頬に張り付いた髪も、泥のついた白い肌も、全部がやたらと綺麗に見えて、俺は慌てて舌打ちをして立ち上がった。
「……チッ、調子乗んんじゃねぇクソバフ女!! 褒めてねぇ、事実を言っただけだ!! 立つぞ、まだ終わってねぇ!!」
「あはは、本当につれないんだから! 待ちなさいってば!」
——グラウンドに身体を投げ出して交わした、たった数秒の会話。
だが、「俺だけはお前を認めてる」という強い一言は、夕暮れの空気と共に彼女の心を解かし、爆豪勝己にとっても生涯消えない執着の火種として焼き付いたのだった。
