ナイチンゲールに捧ぐ勝利を
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「……手に入れたんだ。やっと、俺のところに帰ってきてくれた……」
死柄木弔が、拘束されたフローラの身体を愛おしそうに、強く抱きしめた。
首元を掻きむしっていたその手から、親指を立てた『四本の指』がそっと伸び、フローラの背中や髪を気味悪く撫で上げる。
(……あァ……!?)
俺の視界が、真っ赤に染まった。
あと一本。小指一本触れりゃ、あの女は骨も残さず灰になる。
一歩間違えれば即死する極限の恐怖の中で、フローラは歯を食いしばり、必死に耐えている。
だが、死柄木の歪んだ執着は止まらねぇ。
死柄木はうっとりとした表情で顔を近づけると、逃げ場のないフローラの頬や額、そして唇へ、強引に何度も何度も己の口付けを重ねてやがった。
「あは……温かいや。僕の身体の激痛を止めてくれた……温かい手……。ねぇ、僕のためだけに、その個性を使い続けてくれればいい……」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
放課後、夕暮れの演習場で泥まみれになりながら俺と向き合っていたあの女。
自分にバフがかからねぇ癖に、血反吐吐いて対人戦を極めてきた気高ぇプロヒーローが、俺のすぐ横で、薄汚いヴィランの所有欲を満たすためだけに弄ばれてやがる。
(触んじゃねぇ……ッ! その汚ねぇ面を、あの女に近づけんじゃねぇ……ッ!!!!)
奥歯が割れそうなほど力が入った。
拘束器具が皮膚を裂き、手首から血が噴き出すのも構わず、俺は狂ったように暴れた。
自分のピンチなんかどうでもいい。
目の前で自分以外の男——それもクソみたいなヴィランに触れられて涙を浮かべているフローラを見て、胸の奥から湧き上がってきたのは、正義感なんかじゃねぇ。
ど黒い【殺意】と、どロどロした【独占欲】だった。
「——おい、ふざけたことしてんじゃねぇぞ、手だらけのクソ野郎が!!!(ドォン!!)」
俺の腕のニトロが、限界を超えて大爆発を起こす。
「あ?」
死柄木がうっとりとした顔を離し、苛立ちの籠もった視線を俺に向ける。
俺は血走った両目で死柄木を睨みつけ、地獄の底から引きずり出したような声で言い放った。
「さっさとその薄汚い手を引っ込めろ。その人に気安く触れてんじゃねぇ!! 汚ねぇ面遠ざけろや、吹き飛ばすぞ……ッ!!」
フローラが息を呑み、涙の滲んだ目で俺を見つめる。
俺は死柄木から視線を外さないまま、心の中で誓っていた。
(あの相澤先生の影だろうが、この死柄木の執着だろうが関係ねぇ。
ここから生きて出たら……絶対に俺が強くなって、誰の手も届かねぇ俺の隣(てっぺん)にこの女を引きずり開けてやる……!!)
