ナイチンゲールに捧ぐ勝利を
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薄暗く、カビと埃の匂いが充満するアジトの静寂を破るように、重々しい金属音が響いた。
「……くそがっ……!!」
椅子に強固な金属器具で固定された俺は、牙を剥き出しにして拘束を撒き散らそうと暴れていた。だが、俺の意識の九割は、自分の体じゃなく隣に向けられている。
同じように頑丈な鎖で身動きを封じられているフローラだ。
「無駄な足掻きはやめろ、爆豪勝己。それから……Ms.フローレンス」
死柄木弔が、俺たちを見下ろすようにゆっくりと踏み出してきた。
その濁った赤黒い瞳は、俺の存在なんか最初から視界に入ってねぇみたいに、ただひたすらにフローラの一点だけを凝視していた。
「……やっと、手に入れた」
死柄木が乾いた声で呟き、首元をカリカリと掻きむしりながら膝をつく。
あいつはフローラの前に顔を近づけると、その白い頬や手に触れようと、ゆっくりと枯れ木のような手を伸ばしやがった。
「ねぇ……もうヒーローなんて辞めなよ。あんな奴らのところへ帰る必要なんてない。ここで……俺のためだけに、その個性を使い続けてくれればいい……」
気持ち悪ィ欲望と、幼いガキみたいな所有欲を剥き出しにする死柄木。
俺の目の前で、あの腕の包帯を叩き直して俺を地面に沈めた強いプロヒーローが、泥みたいなヴィランの手に汚されようとしてやがる。
(ふざけんな……指一本でも触れてみろ……ッ!!)
拘束器具が皮膚に食い込み、血が滲むのも構わずに俺は全身の力で暴れた。
だが、俺の怒りを余所に、フローラは一切視線を逸らさなかった。恐怖で震えるどころか、相澤のオッサン譲りの冷たく鋭い眼差しで、真っ直ぐに死柄木を見据え返したんだ。
「……お断りします。私は雄英高校の副担任であり、人を救うために立つプロヒーローです。あなたの個人的な執着のために個性を動かすつもりはありません」
一切の揺らぎがない、毅然とした声。
だが、俺には分かっていた。放課後、何度も拳を交えてきたからこそ分かる。
こいつは自分にバフがかからねぇ。この至近距離で死柄木に触れられりゃ、一瞬で肉体が崩壊して死ぬ。
そんな絶対的な恐怖と隣り合わせの癖に、生徒である俺の前だからって、必死に『プロヒーロー』の面を張ってやがるんだ。
(……このクソバフ女が……ッ! 誰のために無理して強がってんだよ!!)
「……あはは! そう言うと思ってたよ」
死柄木が歪んだ笑みを浮かべ、さらに手を伸ばそうとしたその瞬間——俺の中でニトロが弾けた。
「……おい、そこの手だらけのクソ野郎」
地獄の底から引きずり出したような低音に、死柄木が疎ましそうに俺へ視線を向ける。
俺は拘束具を軋ませ、殺気立つ両目で目の前のヴィランを睨みつけ、言い放った。
「さっさとその薄汚い手を引っ込めろ。この人に二度と無駄な命削らせんじゃねぇ……ッ!! これ以上指一本でも触れてみろ、テメェの顔面吹き飛ばすぞ……!!」
自分の立場がピンチだなんだと知るか。
俺が対人戦で勝つために教えを乞い、その背中の泥臭い強さを認めた女だ。
俺の目の前で、こんな奴らに命を弄ばれてたまるか。
「爆豪くん……っ」
驚いたように目を見開くフローラ。
俺は死柄木から視線を逸らさないまま、歯が折れるほど奥歯を噛みしめた。
(俺が……俺がプロになって、誰よりも強くなってやる。
こんなクソみたいな奴らに脅かされねぇように……二度と誰の前でも死にそうな顔させねぇように、俺が一番近くで守り切ってやる……!!)
モニター越しに聞こえるオール・フォー・ワンの不気味な声も、周りのヴィランどもの視線も、全部どうでもよかった。
俺の中で燃え上がる殺意と執着は、もう「副担任を助ける」なんて綺麗な枠組みを完全に踏み越えていたのだった。
薄暗く、カビと埃の匂いが充満するアジトの静寂を破るように、重々しい金属音が響いた。
「……くそがっ……!!」
椅子に強固な金属器具で固定された俺は、牙を剥き出しにして拘束を撒き散らそうと暴れていた。だが、俺の意識の九割は、自分の体じゃなく隣に向けられている。
同じように頑丈な鎖で身動きを封じられているフローラだ。
「無駄な足掻きはやめろ、爆豪勝己。それから……Ms.フローレンス」
死柄木弔が、俺たちを見下ろすようにゆっくりと踏み出してきた。
その濁った赤黒い瞳は、俺の存在なんか最初から視界に入ってねぇみたいに、ただひたすらにフローラの一点だけを凝視していた。
「……やっと、手に入れた」
死柄木が乾いた声で呟き、首元をカリカリと掻きむしりながら膝をつく。
あいつはフローラの前に顔を近づけると、その白い頬や手に触れようと、ゆっくりと枯れ木のような手を伸ばしやがった。
「ねぇ……もうヒーローなんて辞めなよ。あんな奴らのところへ帰る必要なんてない。ここで……俺のためだけに、その個性を使い続けてくれればいい……」
気持ち悪ィ欲望と、幼いガキみたいな所有欲を剥き出しにする死柄木。
俺の目の前で、あの腕の包帯を叩き直して俺を地面に沈めた強いプロヒーローが、泥みたいなヴィランの手に汚されようとしてやがる。
(ふざけんな……指一本でも触れてみろ……ッ!!)
拘束器具が皮膚に食い込み、血が滲むのも構わずに俺は全身の力で暴れた。
だが、俺の怒りを余所に、フローラは一切視線を逸らさなかった。恐怖で震えるどころか、相澤のオッサン譲りの冷たく鋭い眼差しで、真っ直ぐに死柄木を見据え返したんだ。
「……お断りします。私は雄英高校の副担任であり、人を救うために立つプロヒーローです。あなたの個人的な執着のために個性を動かすつもりはありません」
一切の揺らぎがない、毅然とした声。
だが、俺には分かっていた。放課後、何度も拳を交えてきたからこそ分かる。
こいつは自分にバフがかからねぇ。この至近距離で死柄木に触れられりゃ、一瞬で肉体が崩壊して死ぬ。
そんな絶対的な恐怖と隣り合わせの癖に、生徒である俺の前だからって、必死に『プロヒーロー』の面を張ってやがるんだ。
(……このクソバフ女が……ッ! 誰のために無理して強がってんだよ!!)
「……あはは! そう言うと思ってたよ」
死柄木が歪んだ笑みを浮かべ、さらに手を伸ばそうとしたその瞬間——俺の中でニトロが弾けた。
「……おい、そこの手だらけのクソ野郎」
地獄の底から引きずり出したような低音に、死柄木が疎ましそうに俺へ視線を向ける。
俺は拘束具を軋ませ、殺気立つ両目で目の前のヴィランを睨みつけ、言い放った。
「さっさとその薄汚い手を引っ込めろ。この人に二度と無駄な命削らせんじゃねぇ……ッ!! これ以上指一本でも触れてみろ、テメェの顔面吹き飛ばすぞ……!!」
自分の立場がピンチだなんだと知るか。
俺が対人戦で勝つために教えを乞い、その背中の泥臭い強さを認めた女だ。
俺の目の前で、こんな奴らに命を弄ばれてたまるか。
「爆豪くん……っ」
驚いたように目を見開くフローラ。
俺は死柄木から視線を逸らさないまま、歯が折れるほど奥歯を噛みしめた。
(俺が……俺がプロになって、誰よりも強くなってやる。
こんなクソみたいな奴らに脅かされねぇように……二度と誰の前でも死にそうな顔させねぇように、俺が一番近くで守り切ってやる……!!)
モニター越しに聞こえるオール・フォー・ワンの不気味な声も、周りのヴィランどもの視線も、全部どうでもよかった。
俺の中で燃え上がる殺意と執着は、もう「副担任を助ける」なんて綺麗な枠組みを完全に踏み越えていたのだった。
