ナイチンゲールの杞憂
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【全面戦争前夜:教員寮のベランダ】
明日には超常解放戦線(ヴィラン連合)への一斉突入作戦が始まる。
静まり返った教員寮のベランダで、夜風に当たっていたフローラの隣に、相澤消太が静かに並び立った。
「……相澤先生。明日……いよいよですね」
「……ああ」
相澤は夜空を見上げたまま、首元の捕縛布を少しだけ撫でた。
神野事件、死穢八斎會、そして心操の指導——いくつもの死線と日常を共にしてきた。フローラを「外堀から埋める」ように過保護に囲い込んできた相澤だったが、この決戦を前にして、その瞳には溢れんばかりの切実さが宿っていた。
「フローラ」
「はい?」
「……この作戦が終わって、無事に帰ってきたら……お前に話さなきゃならないことがある」
珍しく少しだけ躊躇うように言葉を濁した相澤。
フローラが不思議そうに首をかしげると、相澤は彼女の肩を強い力で引き寄せ、その直視を逃がさないように射抜いた。
「『指導』でも『お説教』でもねぇ。……俺とお前個人の話だ。……だから、絶対に生きて戻ってこい。俺の指示(命令)だ」
「……っ!」
相澤の手の温もりと、言葉の奥にある「激重な熱量」。
いつものスパルタ指導とは違う何かに胸を打たれ、フローラはドクンと跳ねる心臓を押さえながら、力強く頷いた。
「……はい! 約束します、相澤先生。必ず……一緒に帰ってきましょうね!」
【蛇腔病院・決戦:死柄木の目覚めと執着】
しかし、現実はあまりにも残酷だった。
カプセルから目覚めた死柄木弔は、もはや「人間」を超越した怪物と化していた。圧倒的な【崩壊】の波が街を飲み込み、幾人ものプロヒーローが命を落としていく。
相澤は【抹消】で死柄木の個性を封じ続けるが、死柄木は「個性がなくても超人的な肉体」で相澤へと迫る。相澤の目を潰そうと死柄木の指先が伸びた——その瞬間。
「——させないッッ!!!【治癒(ドーピング)】超・限界駆動(オーバーリミット)!!」
風を切り裂いて飛び込んできたのは、相澤の背中を追ってきたフローラだった!
「ガっ……!? フローラ……来んなと言ったはずだ……っ!!」
「相澤先生を……誰も死なせません……ッ!!」
フローラは捕縛布を縦横無尽に操り、相澤を庇うように死柄木との間に割り込んだ。
死柄木はその濁った赤い瞳を大きく見開き、歓喜と狂気に歪んだ笑みを浮かべる。
「あは……あははははっ! やっぱり……! 探したよ、俺の……俺だけの『救い主』!!」
「っ……!」
「また俺を温めてくれるんだね……? あの雨の日みたいに、傷ついた俺を治してくれるんだろ!? 返せよ、その手を俺に!!」
死柄木の怪物じみた手が、フローラへと伸びる。
神野のアジトで頬や唇に触れられたあの記憶が蘇るが、フローラは怯まなかった。
「私は……あなたのおもちゃじゃない!! 」
フローラは自分には一切バフを掛けられないリスクを完全に無視し、相澤、そして駆けつけた緑谷や爆豪たちへ向けて、自身の「生命力のストック」を際限なく放出し始めた。
