ナイチンゲールの杞憂
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雄英高校の演習場。
ガシャン、と重い音を立てて捕縛布が地面へ落ちた。
相澤先生に言われた通りの軌道を意識するも、布に振り回されて上手くコントロールできず、ハァハァと息を乱す心操。
汗だくになった心操人使が、肩で息をしながら腕の捕縛布を巻き直していた。
それを見つめていた相澤消太は、ポケットに手を入れたまま淡々と言い放つ。
「……違う。肘の位置が低い。重力に逆らうな。布の先端に意識を引っ張られているから軸がブレて威力が散るんだ。……やり直し」
「……っす。(言葉足らずで感覚的すぎる……! どう身体を動かせばいいんだ……?)……くそっ。やっぱり、しなる瞬間の軌道がブレる……」
言われた通りに肘を上げて構え直す心操だったが、どこか力みが抜けず、動きの硬さが拭えない。相澤の指導は完璧に合理的だが、言葉数が少なく感覚的な部分も多いため、初心者の心操には「具体的にどう身体を連動させればいいのか」が掴みきれないのだ。
そこへ、差し入れのスポーツドリンクを持ったフローラが歩み寄ってきた。
「はい、二人とも一度休憩にしましょう! 心操くん、タオルとドリンクどうぞ」
「……あ、Ms.フローレンス。ありがとうございます」
心操がドリンクを受け取り息を整えていると、フローラは足元に落ちた捕縛布を拾い上げ、手渡した。
「心操くん、捕縛布の扱い……すごく上達しているわ。」
心操の腕や捕縛布の持ち方を見つめてフローラはふんわり微笑んだ。
「ふふ、でもちょっと苦戦してるわね。……相澤先生の説明、ちょっと短くて分かりにくかったでしょう?」
「……えッ!? い、いえ……そんなことは……」
「さっき相澤先生が言っていた『肘の位置』、少しコツがあるのよ」
「コツ……ですか?」
心操が首をかしげると、フローラは自分の両腕に巻いた捕縛布を軽く手に取り、滑らかな動作で構えて見せた。
「相澤先生はね、腕の力だけで飛ばしているように見えて、実は『肩甲骨の引き』と『腰の重心の移動』を同時に行っているの。先生は無意識にやっているから言葉にしないけれど……肘を高く上げるというより、『肘で後ろの空気を押す』イメージで引き引くと、次の捕縛や引き寄せの動きにスムーズに移行できるのよ」
「……肘で後ろの空気を押す……」
「ええ。そうすると捕縛布の先端にまで遠心力が乗って、先生みたいに一瞬で相手の退路を断てるようになるわ。ね? 相澤先生!」
「……」
相澤は腕を組んだまま、気まずそうに視線を逸らした。
自分の体の癖や無意識の体の使い方まで完璧に把握され、それを的確に言語化して弟子に教えているフローラ。
心操は、フローラのアドバイス通りに構え直し、イメージを重ねて捕縛布を放った。
(——シュバッ……ッ!!)
先ほどとは見違えるほど鋭い軌道を描き、捕縛布が遠くの仮想的に完璧に巻き付く。
「(……すごい。相澤先生のあの独特で無駄のない動きを、完璧に言語化して理解してる……!)できた……! 動きが全然引っかからない……!」
心操は自分の手元を見て目を見開いた。
「すごい……! 相澤先生の言葉足らずなところ、全部フォローされてる……。さすがMs.フローレンスです。相澤先生のこと、本当に人一倍理解してるんですね」
心操からの素直な感心と尊敬の言葉に、フローラは少し照れくさそうに頬を緩めた。
「ふふん、だって私、相澤先生の副担任だもの。先生のやりたいことは、言われなくても手に取るようにわかるのよ!」
と誇らしげにするフローラ。
しかし、その横で相澤の顔はみるみるうちに真っ赤になり、捕縛布で口元を隠すように顔を覆っていた。
(……『手に取るようにわかる』……だと……?)
自分の戦闘スタイルだけでなく、思考や癖まで全てを見抜かれているという事実。そしてそれを「副担任だから」と屈託のない笑顔で言いのけるフローラの愛おしさに、相澤の激重な心臓が限界突破の音を立てていた。
「……おい、心操」
「あ、はい」
「……今の感覚を忘れるな。今日はもう終わりだ」
相澤は低く掠れた声でそう吐き捨てると、ぐるりと向きを変えて歩き出した。
「えっ、相澤先生? まだ時間ありますよ!?」
追いかけようとするフローラの腕を、相澤は歩きながら引き寄せるように掴み、自分の隣へ固定した。
「……お前が俺の解説を完璧にしすぎるせいで、指導計画が狂った。責任を取って……教員寮で俺の指導案作成を手伝え」
「えぇっ!? 私、何か間違ったこと言いましたか……っ!?」
「……合っていすぎて腹が立つんだよ、大バカ」
文句を言いながらも、腕を掴んで離さない相澤。
その後ろ姿を見送りながら、心操はスポーツドリンクを飲みつつ、しみじみと呟くのだった。
「……相澤先生、完全にMs.フローレンスに手のひらで転がされてんな……」
雄英高校の演習場。
ガシャン、と重い音を立てて捕縛布が地面へ落ちた。
相澤先生に言われた通りの軌道を意識するも、布に振り回されて上手くコントロールできず、ハァハァと息を乱す心操。
汗だくになった心操人使が、肩で息をしながら腕の捕縛布を巻き直していた。
それを見つめていた相澤消太は、ポケットに手を入れたまま淡々と言い放つ。
「……違う。肘の位置が低い。重力に逆らうな。布の先端に意識を引っ張られているから軸がブレて威力が散るんだ。……やり直し」
「……っす。(言葉足らずで感覚的すぎる……! どう身体を動かせばいいんだ……?)……くそっ。やっぱり、しなる瞬間の軌道がブレる……」
言われた通りに肘を上げて構え直す心操だったが、どこか力みが抜けず、動きの硬さが拭えない。相澤の指導は完璧に合理的だが、言葉数が少なく感覚的な部分も多いため、初心者の心操には「具体的にどう身体を連動させればいいのか」が掴みきれないのだ。
そこへ、差し入れのスポーツドリンクを持ったフローラが歩み寄ってきた。
「はい、二人とも一度休憩にしましょう! 心操くん、タオルとドリンクどうぞ」
「……あ、Ms.フローレンス。ありがとうございます」
心操がドリンクを受け取り息を整えていると、フローラは足元に落ちた捕縛布を拾い上げ、手渡した。
「心操くん、捕縛布の扱い……すごく上達しているわ。」
心操の腕や捕縛布の持ち方を見つめてフローラはふんわり微笑んだ。
「ふふ、でもちょっと苦戦してるわね。……相澤先生の説明、ちょっと短くて分かりにくかったでしょう?」
「……えッ!? い、いえ……そんなことは……」
「さっき相澤先生が言っていた『肘の位置』、少しコツがあるのよ」
「コツ……ですか?」
心操が首をかしげると、フローラは自分の両腕に巻いた捕縛布を軽く手に取り、滑らかな動作で構えて見せた。
「相澤先生はね、腕の力だけで飛ばしているように見えて、実は『肩甲骨の引き』と『腰の重心の移動』を同時に行っているの。先生は無意識にやっているから言葉にしないけれど……肘を高く上げるというより、『肘で後ろの空気を押す』イメージで引き引くと、次の捕縛や引き寄せの動きにスムーズに移行できるのよ」
「……肘で後ろの空気を押す……」
「ええ。そうすると捕縛布の先端にまで遠心力が乗って、先生みたいに一瞬で相手の退路を断てるようになるわ。ね? 相澤先生!」
「……」
相澤は腕を組んだまま、気まずそうに視線を逸らした。
自分の体の癖や無意識の体の使い方まで完璧に把握され、それを的確に言語化して弟子に教えているフローラ。
心操は、フローラのアドバイス通りに構え直し、イメージを重ねて捕縛布を放った。
(——シュバッ……ッ!!)
先ほどとは見違えるほど鋭い軌道を描き、捕縛布が遠くの仮想的に完璧に巻き付く。
「(……すごい。相澤先生のあの独特で無駄のない動きを、完璧に言語化して理解してる……!)できた……! 動きが全然引っかからない……!」
心操は自分の手元を見て目を見開いた。
「すごい……! 相澤先生の言葉足らずなところ、全部フォローされてる……。さすがMs.フローレンスです。相澤先生のこと、本当に人一倍理解してるんですね」
心操からの素直な感心と尊敬の言葉に、フローラは少し照れくさそうに頬を緩めた。
「ふふん、だって私、相澤先生の副担任だもの。先生のやりたいことは、言われなくても手に取るようにわかるのよ!」
と誇らしげにするフローラ。
しかし、その横で相澤の顔はみるみるうちに真っ赤になり、捕縛布で口元を隠すように顔を覆っていた。
(……『手に取るようにわかる』……だと……?)
自分の戦闘スタイルだけでなく、思考や癖まで全てを見抜かれているという事実。そしてそれを「副担任だから」と屈託のない笑顔で言いのけるフローラの愛おしさに、相澤の激重な心臓が限界突破の音を立てていた。
「……おい、心操」
「あ、はい」
「……今の感覚を忘れるな。今日はもう終わりだ」
相澤は低く掠れた声でそう吐き捨てると、ぐるりと向きを変えて歩き出した。
「えっ、相澤先生? まだ時間ありますよ!?」
追いかけようとするフローラの腕を、相澤は歩きながら引き寄せるように掴み、自分の隣へ固定した。
「……お前が俺の解説を完璧にしすぎるせいで、指導計画が狂った。責任を取って……教員寮で俺の指導案作成を手伝え」
「えぇっ!? 私、何か間違ったこと言いましたか……っ!?」
「……合っていすぎて腹が立つんだよ、大バカ」
文句を言いながらも、腕を掴んで離さない相澤。
その後ろ姿を見送りながら、心操はスポーツドリンクを飲みつつ、しみじみと呟くのだった。
「……相澤先生、完全にMs.フローレンスに手のひらで転がされてんな……」
