ナイチンゲールの杞憂
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合同戦闘訓練が幕を閉じ、見事な立ち振る舞いと成長を見せた心操人使の「ヒーロー科編入」が正式に決定した。
その報告を受けた日の放課後。
フローラは職員室で、相澤のデスクの隣にちょこんと腰掛け、胸の前で両手をギュッと握りしめていた。その瞳は、キラキラとした尊敬の光で満ちあふれている。
「……相澤先生。心操くん、本当によかったですね……! A組への編入が決まるなんて……!」
「……フン、あいつが自分で掴み取った結果だ。俺は最低限の手解きをしたに過ぎん」
相澤はパソコンの画面から目を離さず、淡々と返した。
しかし、首元の捕縛布を少し直すその仕草には、手塩にかけて育てた弟子への確かな満足感が滲み出ている。
「そんなことありません! あの相澤先生が自ら時間を作って、捕縛布の扱いまで叩き込んだんですよ? 『あの合理的の塊な相澤先生に見初められた』ってだけで、心操くんはもう……本当にすごいです……っ!」
フローラは極まった様子で熱弁を振るう。
それもそのはず、フローラにとって相澤消太というヒーローは、命を預けられるパートナーであると同時に、プロとしての圧倒的な憧れの対象だ。その相澤が手塩にかけて育て上げた心操は、フローラにとって「後輩」という枠を超えて、「相澤先生の意志と技を継ぐ者」としての深い尊敬の対象だった。
だが、隣に座る相澤の目が、ふっと不機嫌そうに細められた。
「……フローラ」
「はいっ?」
「……お前、さっきから心操のことばかり喋っているな」
「え? だって、あの子は相澤先生の愛弟子ですよ! 尊敬せずにはいられません!」
純粋無垢な瞳で言い切るフローラ。
相澤はハァと重い溜息をつくと、椅子の向きを回転させてフローラと正面から向き合い、逃げ場を無くすように身を乗り出した。
「お前が誰を尊敬しようと自由だが……あいつに余計な気を回して、また自分の体を疎かにするなよ。あいつの指導は俺の仕事だ。お前は……俺のことだけ見ていればいい」
「……っ!!」
相澤の低い低音と、至近距離で見つめ返してくる激重な眼光。
「外堀埋め」が極まった相澤からの独占欲全開の言葉に、フローラはドキッと胸を跳ねさせた。
相変わらずスパルタ指導だと自分に言い聞かせつつも、赤くなる耳を隠すように俯くフローラ。
そして後日。1-Aの教室前で、準備を進めていた心操とフローラが鉢合わせる。
「あ……Ms.フローレンス」
「心操くん! 改めて、ヒーロー科編入おめでとうございます!」
フローラはパッと表情を華やがせ、心操に向かって深々と頭を下げた。
「え……あ、はい。ありがとうございます……って、なんで先生が頭を下げるんですか」
心操は急に丁寧にお辞儀をされ、困惑して後ざさりした。
「だって、心操くんはあの相澤先生に認められた特別な生徒ですもの! 合同訓練での捕縛布の扱い、本当に素晴らしかったです。私、同じヒーローとして、相澤先生の弟子であるあなたを心から尊敬しているの!」
「……っ」
ストレートで嘘偽りのない敬意と賞賛を向けられ、心操は気まずそうに首の裏を掻いた。普段、洗脳の個性ゆえに周囲から警戒されがちだった心操にとって、副担任であるプロヒーローからの真っ直ぐな尊敬の眼差しは、照れくさくも胸に温かく響くものだった。
「相澤先生ってね、本当に厳しくて……妥協を許さない人でしょう?
その先生がご自分から指導するなんて、心操くんにはそれだけの素晴らしい素質と、諦めない強い心があるからなのね……! 私、なんだか感動しちゃって……!」
「(あ……これ、俺じゃなくて相澤先生をリスペクトしてる熱量が漏れ出してるやつだな……)
相澤先生の足引っ張らないように、必死だっただけです。それに……俺なんかより、先生の方がずっと相澤先生の近くにいるじゃないですか」
心操はそう言って、チラリと廊下の奥へ視線を向けた。
そこには、教員室から出てきてフローラを探していた相澤が、凄まじい鬼気を漂わせてこちらを睨みつけていた。
「……ほら、お出ましです。……あんな顔した相澤先生、俺の訓練の時でも見たことないですよ」
心操はくすりと皮肉っぽく微笑むと、「お先に失礼します」と教室へ入っていった。
「え? 相澤先生……?」
振り返ったフローラのもとへ、相澤がずんずんと大股で歩み寄ってくる。
「……フローラ。心操と何の話をしていた」
「え? 心操くんに『相澤先生の弟子として尊敬しています』とお伝えしていただけです……っ!」
「……あいつに教えてやるより、お前に『俺の意図』を叩き込む方が遥かに難易度が高いな……」
相澤は頭を抱えて深々とため息をつくと、フローラの肩をしっかりと掴み、教員室へと引き戻すように歩き出した。
合同戦闘訓練が幕を閉じ、見事な立ち振る舞いと成長を見せた心操人使の「ヒーロー科編入」が正式に決定した。
その報告を受けた日の放課後。
フローラは職員室で、相澤のデスクの隣にちょこんと腰掛け、胸の前で両手をギュッと握りしめていた。その瞳は、キラキラとした尊敬の光で満ちあふれている。
「……相澤先生。心操くん、本当によかったですね……! A組への編入が決まるなんて……!」
「……フン、あいつが自分で掴み取った結果だ。俺は最低限の手解きをしたに過ぎん」
相澤はパソコンの画面から目を離さず、淡々と返した。
しかし、首元の捕縛布を少し直すその仕草には、手塩にかけて育てた弟子への確かな満足感が滲み出ている。
「そんなことありません! あの相澤先生が自ら時間を作って、捕縛布の扱いまで叩き込んだんですよ? 『あの合理的の塊な相澤先生に見初められた』ってだけで、心操くんはもう……本当にすごいです……っ!」
フローラは極まった様子で熱弁を振るう。
それもそのはず、フローラにとって相澤消太というヒーローは、命を預けられるパートナーであると同時に、プロとしての圧倒的な憧れの対象だ。その相澤が手塩にかけて育て上げた心操は、フローラにとって「後輩」という枠を超えて、「相澤先生の意志と技を継ぐ者」としての深い尊敬の対象だった。
だが、隣に座る相澤の目が、ふっと不機嫌そうに細められた。
「……フローラ」
「はいっ?」
「……お前、さっきから心操のことばかり喋っているな」
「え? だって、あの子は相澤先生の愛弟子ですよ! 尊敬せずにはいられません!」
純粋無垢な瞳で言い切るフローラ。
相澤はハァと重い溜息をつくと、椅子の向きを回転させてフローラと正面から向き合い、逃げ場を無くすように身を乗り出した。
「お前が誰を尊敬しようと自由だが……あいつに余計な気を回して、また自分の体を疎かにするなよ。あいつの指導は俺の仕事だ。お前は……俺のことだけ見ていればいい」
「……っ!!」
相澤の低い低音と、至近距離で見つめ返してくる激重な眼光。
「外堀埋め」が極まった相澤からの独占欲全開の言葉に、フローラはドキッと胸を跳ねさせた。
相変わらずスパルタ指導だと自分に言い聞かせつつも、赤くなる耳を隠すように俯くフローラ。
そして後日。1-Aの教室前で、準備を進めていた心操とフローラが鉢合わせる。
「あ……Ms.フローレンス」
「心操くん! 改めて、ヒーロー科編入おめでとうございます!」
フローラはパッと表情を華やがせ、心操に向かって深々と頭を下げた。
「え……あ、はい。ありがとうございます……って、なんで先生が頭を下げるんですか」
心操は急に丁寧にお辞儀をされ、困惑して後ざさりした。
「だって、心操くんはあの相澤先生に認められた特別な生徒ですもの! 合同訓練での捕縛布の扱い、本当に素晴らしかったです。私、同じヒーローとして、相澤先生の弟子であるあなたを心から尊敬しているの!」
「……っ」
ストレートで嘘偽りのない敬意と賞賛を向けられ、心操は気まずそうに首の裏を掻いた。普段、洗脳の個性ゆえに周囲から警戒されがちだった心操にとって、副担任であるプロヒーローからの真っ直ぐな尊敬の眼差しは、照れくさくも胸に温かく響くものだった。
「相澤先生ってね、本当に厳しくて……妥協を許さない人でしょう?
その先生がご自分から指導するなんて、心操くんにはそれだけの素晴らしい素質と、諦めない強い心があるからなのね……! 私、なんだか感動しちゃって……!」
「(あ……これ、俺じゃなくて相澤先生をリスペクトしてる熱量が漏れ出してるやつだな……)
相澤先生の足引っ張らないように、必死だっただけです。それに……俺なんかより、先生の方がずっと相澤先生の近くにいるじゃないですか」
心操はそう言って、チラリと廊下の奥へ視線を向けた。
そこには、教員室から出てきてフローラを探していた相澤が、凄まじい鬼気を漂わせてこちらを睨みつけていた。
「……ほら、お出ましです。……あんな顔した相澤先生、俺の訓練の時でも見たことないですよ」
心操はくすりと皮肉っぽく微笑むと、「お先に失礼します」と教室へ入っていった。
「え? 相澤先生……?」
振り返ったフローラのもとへ、相澤がずんずんと大股で歩み寄ってくる。
「……フローラ。心操と何の話をしていた」
「え? 心操くんに『相澤先生の弟子として尊敬しています』とお伝えしていただけです……っ!」
「……あいつに教えてやるより、お前に『俺の意図』を叩き込む方が遥かに難易度が高いな……」
相澤は頭を抱えて深々とため息をつくと、フローラの肩をしっかりと掴み、教員室へと引き戻すように歩き出した。
