「それでは、行ってきます。」
「ええ。貴女がホグワーツで活躍することを、期待しているわ。」

フェリシティの母は微笑んでそう言うと、フェリシティの柔らかな頬を優しく両の手のひらで包んだ。
母の隣には、普段多忙で家では顔を合わせることの少ない父が同じように笑顔を浮かべて立っている。
愛娘の門出を見送るために忙しい時間を割いてくれたのだと考えれば、親元を離れる心細さをいつまでも情けなく抱いているより、期待してくれている彼らのためにも向こうでの立派な成果を残せるよう気を強く持つべきだ。

母の手が離れるとフェリシティは後ろを向きホグワーツ特急の乗降口へ足を踏み出した。
そして再びホームの方を向いて父と母に手を振って別れると、自分が座ることのできそうなコンパートメントを探しに歩き始めた。



近くのコンパートメントはどこも満員で座れそうになかったが、しばらく探し歩くと、列車の後続に一人だけ座っているコンパートメントを見つけた。
2回ノックをして扉をあける。
窓側の座席に座って本を読んでいた男の子が、顔を上げてフェリシティを見た。

「失礼。ここに座ってもいいかしら。」
「構わないよ。」

そう答えて彼は視線を下げて、再び本に向き合う。
フェリシティは天井のラックに教科書と制服の入ったトランクを置いて、彼の前の座席に腰を下ろした。
男の子は本に視線を落としたままで、こちらを気にする様子は見られない。
フェリシティは口を開いた。

「初めまして。私はフェリシティ・シャフィクよ。貴
女の名前は？」

努めて笑顔で声をかける。

「セオドール・ノットだ。」

読んでいた本を閉じて彼は顔を挙げた。
フェリシティと彼の目が合う。

「シャフィク家か。」

「そう。貴方はノット家のご子息なのね、ミスターノット。」

純血の一族であるノット家に同い年の男の子がいることは耳にしていたが、会うのは初めてだ。

「それなら私、貴方と同学年よ。ミスターノット。仲良くしましょう。」

右手を差し出して握手を求める。
ノットでいい、と言って彼はフェリシティの差し出した右手を握り返す。
その時、停車していたホグワーツ特急が音を立ててゆっくり動き始めた。