つぶやき

『言語化の魔力』

2025/03/07 11:33
『言語化の魔力』(樺沢紫苑・幻冬舎)読了。

 精神科医で作家の著者が書いた、「これでもか!」というほどリフレーミングが細かく丁寧に書かれた本。ターゲット層が精神疾患者や精神障害者だけでなく、その手前にいる人や、そのような状況に陥らないように気をつけたがっている人向けに書かれているのだから、平易な語彙や修辞技法や分かりやすい例え話が多用されている。

 著者の書かれる本は自身が説く『睡眠・運動・朝散歩』が度々出てきては押し付けがましく見える物が多いが、この著作はそういった脳科学に訴えるメンタルヘルスは殆ど書かれておらず、また、専門用語も極力避けられている。専門用語は扁桃体とノルアドレナリンだけ覚えていればいいという潔さ。

 要約すると、著者の経験に基づいた、『論理的思考で悩みを解消しよう!』というメソッドが書かれている。

 私は何かとメモを取ったり、手帳にスケジュールを書き込んだり、日記やモーニングページで脳内を整理することで心の調律を図っているが、この本を読めば、このアナログ傾向も納得だ。と、いうのも、不安というものは扁桃体の興奮でノルアドレナリンの過剰分泌状態なのだが、興奮した扁桃体というのは言語情報を流し込むと途端に鎮静する器官なのだ。道理で、日記やモーニングページが書く瞑想だと言われているはずだ。

 人間の認知能力と認知バイアス、認知の歪みの対処なども書かれており、自分の思考がおかしな方向へ行っていないか?
目標を見誤っていないか? 真に悩んでいるのはなにか? を再確認するのに役立つ記述が多く、著者の本の中でも個人的にベスト3に入るほどに好きな本になった。

 そして、この本の冒頭にも書かれているが、『問題は解決しなくてもいい。悩みを解消せよ』と書かれている。
 正にその通りで、世の中には自分ではコントロールできない問題のほうが多い。それに対して真っ向からぶつかるのではなく、その問題に際しての悩みを解消……即ち、自分でできる範囲で悩みをコントロールしてストレスの軽減を計ることが大きな字で書かれている。「不安の96%は当たらない。厳密には80%は当たらない。残り16%は事前に手を打つことで対処できる」という、様々な実用書で書かれている言葉通りで、問題に直面すると人間は思考停止、対処方法を知らない、溢れ出るネガティブ感情などで絶望を覚える。だが、その問題もどこまで対処不能でどこから対処可能なのかという「事実と感情を切り分けた思考」で以て臨めば、『悩みのコントロール率』を上げることができる。
 『山の天辺に向かうのが目標であって、眼の前の大きな岩をどかすのが目的ではない」との例え通りに、目標が定まっていればそれに向かうのみで、障害(問題)が現れたのなら、一人で悩まず相談すればいいし、他人の力を借りればいいし、スマホで解決方法を探せばいい。

 ……この事からも分かる通りに、この本はどちらかと言うと、心理的視野狭窄に陥って生き辛さを覚えている人に最適な本だと推せる。

 レジリエンス豊かに咄嗟にリフレーミングできる人間ならこの本に書かれている事は退屈極まりないだろう。
 著者が精神科医ということもあって、数多の精神疾患者や予備軍を見て、なんとしても楽な考え方を伝授したい、どんな不器用な人でも、すぐに実行したくなるメソッドが込められた一冊である。

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