歪んだ弾道
何処か乖離した思考。三挺の拳銃の銃弾と銃声の洗礼を受けながらもどこか遠くの出来事のように感じている涼子。
自分の把握する日常から遠く離れすぎた現実の為に、処理能力が追い付いていない。その結果として、乖離を起こし、自分の体を幽体離脱して見下ろしているような感覚を覚えていた。
なので、右手側の男の影の右頸動脈から血飛沫が噴出して、喚きながら男の影がその場に崩れ落ちても、自分が撃ったタマが一人の人間に致命的な負傷を負わせたとは全く認識していなかった。……自分も銃弾で腕を掠ったが死んでいない。頸を削られても大したことは無いだろう。
その男がスッと沈み、沈黙したのを確認すると、その場から動かず、ブローニング自動拳銃を両手で構えたまま、すうっと銃口を左側へと流れるように走らせて、『神崎をどこかへ隠したに違いない男たち』に向かって銃口を向ける。
「!」
――――?
――――『殴られた?』
不意に腹部に衝撃。
全身に小さな衝撃が走り、鳩尾の右下辺りにじんわりと熱い物が広がる。
「ああ。撃たれたのね……」
表情が消えたままの涼子は自分が被弾したのにもかかわらず、その出来事が遠い国のニュースを見るような顔で弾痕からこんこんと湧き出る赤い色を見ながら呟いた。
乖離、アドレナリン、認知機能の低下、状況把握の放棄。
様々な要因が重なり、過剰に分泌された伝達物質が涼子の全身を支配している今、連中のリボルバーや小型自動拳銃程度のエネルギーでは彼女を一撃で黙らせることは難しかった。
「撃て撃て!」と、男の一人が吠えた。
涼子は迷わなかった。彼女は、腹部の負傷をガラス玉のような目で一瞥しただけで、次の瞬間には体幹を低くし、右手斜め前方に向かって走り出していた。……「ここに来て、今までに何発撃ったのか?」というカウントなど今の彼女の脳内にはない。拳銃には装弾数が有り、再装填が必要であるという概念を忘れている顔だ。
乾いた発射音が、涼子の耳朶を激しく打つ。
ブローニングM1910の小さな銃声は、左手側のコンクリの柱を遮蔽とする男たちの間に命中し、壁にめり込んで塵埃をまき散らした。
――――神崎は何処?
男たちはさらに左右に分かれた。
右手側にリボルバーの男。左手側に小型自動拳銃の男。
彼らはどうしてここに留まるのか? 自分は神崎にしか用が無い。早く何処かへ行って欲しい。邪魔だ。
舌打ちする涼子。
ハエを払うように放った一発は、小型自動拳銃の男の左脇腹に命中した。彼は呻き声を挙げ、持っていた銃を落として、左腋腹を押さえながら、力なく膝をつき倒れる。即死するような負傷ではない。銃声よりもその口から溢れる罵詈雑言の方が大きく聞こえた。
狭い空間に銃声が伸び、右手側の、更に離れた位置にあるコンクリの陰に潜んでいた男は何発も、やたらと耳障りな銃声を叩きつけながら、後退していく。
涼子はその男には特に興味はなかったので、その男がこの部屋の出入り口――涼子が吶喊してきた出入口――から姿を消しても、追う真似はしなかった。彼は知らない人間だ。神崎ではない。
冷静に判断できるのに、どこか熱に中てられたような遊離感がする。
今、彼女は、自分で自分をメタ認知的に捉えて観察する能力を完全に喪っている。……その一例が、『ブローニング自動拳銃に何発の弾丸が残っているのか?』という疑問を抱かない点だ。
だから彼女は自分の腹部に小さな弾痕が開いているのにも関わらずに、アドレナリンが痛覚を麻痺させているのを幸いに、被弾して地面に仰向けに寝転がったまま喚きたてる男の傍まで来ると、テレビのスイッチを押して消すように、銃口をその男の顔に向けて表情の無い顔で引き金を引いた。
二回引いた。もっと引き金を引いて、『もっと静かにしたかった』が、何故か弾が出なかった。そして凍り付いたようにブローニング自動拳銃の引き金はびくともしなくなった。
「?」
自分の把握する日常から遠く離れすぎた現実の為に、処理能力が追い付いていない。その結果として、乖離を起こし、自分の体を幽体離脱して見下ろしているような感覚を覚えていた。
なので、右手側の男の影の右頸動脈から血飛沫が噴出して、喚きながら男の影がその場に崩れ落ちても、自分が撃ったタマが一人の人間に致命的な負傷を負わせたとは全く認識していなかった。……自分も銃弾で腕を掠ったが死んでいない。頸を削られても大したことは無いだろう。
その男がスッと沈み、沈黙したのを確認すると、その場から動かず、ブローニング自動拳銃を両手で構えたまま、すうっと銃口を左側へと流れるように走らせて、『神崎をどこかへ隠したに違いない男たち』に向かって銃口を向ける。
「!」
――――?
――――『殴られた?』
不意に腹部に衝撃。
全身に小さな衝撃が走り、鳩尾の右下辺りにじんわりと熱い物が広がる。
「ああ。撃たれたのね……」
表情が消えたままの涼子は自分が被弾したのにもかかわらず、その出来事が遠い国のニュースを見るような顔で弾痕からこんこんと湧き出る赤い色を見ながら呟いた。
乖離、アドレナリン、認知機能の低下、状況把握の放棄。
様々な要因が重なり、過剰に分泌された伝達物質が涼子の全身を支配している今、連中のリボルバーや小型自動拳銃程度のエネルギーでは彼女を一撃で黙らせることは難しかった。
「撃て撃て!」と、男の一人が吠えた。
涼子は迷わなかった。彼女は、腹部の負傷をガラス玉のような目で一瞥しただけで、次の瞬間には体幹を低くし、右手斜め前方に向かって走り出していた。……「ここに来て、今までに何発撃ったのか?」というカウントなど今の彼女の脳内にはない。拳銃には装弾数が有り、再装填が必要であるという概念を忘れている顔だ。
乾いた発射音が、涼子の耳朶を激しく打つ。
ブローニングM1910の小さな銃声は、左手側のコンクリの柱を遮蔽とする男たちの間に命中し、壁にめり込んで塵埃をまき散らした。
――――神崎は何処?
男たちはさらに左右に分かれた。
右手側にリボルバーの男。左手側に小型自動拳銃の男。
彼らはどうしてここに留まるのか? 自分は神崎にしか用が無い。早く何処かへ行って欲しい。邪魔だ。
舌打ちする涼子。
ハエを払うように放った一発は、小型自動拳銃の男の左脇腹に命中した。彼は呻き声を挙げ、持っていた銃を落として、左腋腹を押さえながら、力なく膝をつき倒れる。即死するような負傷ではない。銃声よりもその口から溢れる罵詈雑言の方が大きく聞こえた。
狭い空間に銃声が伸び、右手側の、更に離れた位置にあるコンクリの陰に潜んでいた男は何発も、やたらと耳障りな銃声を叩きつけながら、後退していく。
涼子はその男には特に興味はなかったので、その男がこの部屋の出入り口――涼子が吶喊してきた出入口――から姿を消しても、追う真似はしなかった。彼は知らない人間だ。神崎ではない。
冷静に判断できるのに、どこか熱に中てられたような遊離感がする。
今、彼女は、自分で自分をメタ認知的に捉えて観察する能力を完全に喪っている。……その一例が、『ブローニング自動拳銃に何発の弾丸が残っているのか?』という疑問を抱かない点だ。
だから彼女は自分の腹部に小さな弾痕が開いているのにも関わらずに、アドレナリンが痛覚を麻痺させているのを幸いに、被弾して地面に仰向けに寝転がったまま喚きたてる男の傍まで来ると、テレビのスイッチを押して消すように、銃口をその男の顔に向けて表情の無い顔で引き金を引いた。
二回引いた。もっと引き金を引いて、『もっと静かにしたかった』が、何故か弾が出なかった。そして凍り付いたようにブローニング自動拳銃の引き金はびくともしなくなった。
「?」
