歪んだ弾道
――――そう、神崎! 神崎は?
内部は巨大なガランとした空間で、巨大な機械のシルエットが不気味な彫像のように並んでいる。
コンマ数秒の銃火の明かりで、神崎が居たであろう空間を把握し、自分が打ち倒すべく存在していなければならない神崎を視認し、その他の存在の位置や驚愕の顔も確認した。
全てがスローモーションの世界。
目や耳が拾う情報量が多過ぎて脳が処理できなくなり、一時的に感覚からの情報取得を緩慢にして、その分の認知的処理を前頭葉に一気に集中させた結果だ。
その全てがスローモーションの世界で、神崎に非常に酷似した男が喉仏辺りに小さな穴を拵えて、自分に何が起きたのか分からない顔をしたまま仰向けになるのが確認できた。
彼我の距離、八m。
彼女の銃にとってその距離は近いのか遠いのか判断しようがない。ただ、照準と照星というものは土壇場では思ったほど役に立たないものだという知識を得た。
神崎に酷似した男が地面に大の字になって倒れる頃には、その他の男たちも懐や腰から拳銃を抜き出すのが見えた。
何処のなんという名前の銃なのかは知らないが、短い銃身のリボルバーが一挺と、掌に乗るような小さな自動拳銃が二挺、確認できた。
撃鉄を起こす男。
小さなスライドを引く男たち。
再び大脳辺縁系が、湧き出る興奮にハッキングされた涼子が、ブローニング自動拳銃を構えて立て続けに二発、発砲した。その銃口は神崎に酷似した男が大の字に寝転がっている場所と大して離れていない部分を適当に狙う。
涼子が危機管理能力を発揮して発砲したのではない。体が勝手に反応したのだ。残弾が何発だとか、退路の確保だとか、『まだ神崎は仕留めていない』とか、そのような事柄まで考えは及んでいない。
初めて人を撃った感想を噛み締めていることも無い。元から人を殺すつもりで所持していた銃なのだから、撃てば誰かに当たり、誰かに当たれば怪我もするし死ぬこともあるだろう。
関心事は、涼子は神崎を仕留めた実感が皆無なので、彼女の頭の中では『神崎はまだどこかで無事に生きている』という認識だ。
ゆえに、神崎を探すべく、神崎を探す障害になるであろう余計な存在である三人の男を視界からどかせる感覚で引き金を引いた。
歩くのに蟻を踏み潰す事を心配する人間はいない。それと同じ心境。神崎を殺すのに邪魔な人間を視界から消すのは当たり前。
放った二発の三十二口径の弾頭は目の前の男たちを左右に飛びのかせた。誰も怪我をしていないようだ。『ああ、よかった。まだ自分は殺人者ではない』。
やがて回復する思考。脳の恒常性が、通常営業を取り戻しつつある。
「何モンだぁ! 女ぁ!」
右手側のコンクリの柱の陰に逃げ込んだ男が声を張り上げる。その男の声をかき消すような軽い銃声が涼子を襲う。
「神崎!」
涼子の声が、廃工場に響き渡った。遮蔽の陰に身を滑り込ませた男たちが互いの顔を見合わせて怪訝に首を捻る。
「何言ってんだ!? このバカ女」
左手側の小型リボルバーの男が怒鳴る。怒鳴りながらリボルバーを発砲。弾頭は涼子の脇を逸れて背後の壁に弾痕を拵える。
部屋の出入り口付近に仁王立ちのままの涼子。
涼子の左右斜め前方の陰に潜む男たち。
涼子の八m前方付近の床では神崎に酷似した男が大の字に倒れている。まだ息は有るらしい。人間は喉を撃たれたくらいでは即死に至らないという知識を得た。
両脇の遮蔽に隠れる男たちは全く連携のなっていない銃撃を浴びせるが、元から連携という概念を持ち合わせていないのか、銃弾はあっという間に撃ち尽くし、瞬間的に沈黙する。……ド素人の涼子でも分かった。参考に見ていた動画サイトでの解説であった、再装填の隙が大きいとはこのことだったのかと。
職業的な反射で即座に反応した彼らは護身用の拳銃を抜き、撃ったはいいが、いわゆる鉄砲玉や荒事師と言われるようなハジキの達人ではなかった。再装填が完了次第、涼子に向かって構える。
然し、その頃には、涼子は――左上腕部を浅く被弾していたのに――その場から動かず、右手側の遮蔽に隠れる小型自動拳銃の男の影を狙った。……光源を間接的に受けてから伸びる影なのか、本体の影なのか判断に困る。
引き金を引き絞る。
ブローニング自動拳銃がそうなのか、自動拳銃が全てそうなのかは分からないが、引き金はやや重く感じ、撃発するまでやや長く感じた。そういえばこの拳銃には撃鉄という部品が無い。シンプルでスマートすぎるデザインで衣服の何処にも引っかからないようにデザインされたのだろうか?
内部は巨大なガランとした空間で、巨大な機械のシルエットが不気味な彫像のように並んでいる。
コンマ数秒の銃火の明かりで、神崎が居たであろう空間を把握し、自分が打ち倒すべく存在していなければならない神崎を視認し、その他の存在の位置や驚愕の顔も確認した。
全てがスローモーションの世界。
目や耳が拾う情報量が多過ぎて脳が処理できなくなり、一時的に感覚からの情報取得を緩慢にして、その分の認知的処理を前頭葉に一気に集中させた結果だ。
その全てがスローモーションの世界で、神崎に非常に酷似した男が喉仏辺りに小さな穴を拵えて、自分に何が起きたのか分からない顔をしたまま仰向けになるのが確認できた。
彼我の距離、八m。
彼女の銃にとってその距離は近いのか遠いのか判断しようがない。ただ、照準と照星というものは土壇場では思ったほど役に立たないものだという知識を得た。
神崎に酷似した男が地面に大の字になって倒れる頃には、その他の男たちも懐や腰から拳銃を抜き出すのが見えた。
何処のなんという名前の銃なのかは知らないが、短い銃身のリボルバーが一挺と、掌に乗るような小さな自動拳銃が二挺、確認できた。
撃鉄を起こす男。
小さなスライドを引く男たち。
再び大脳辺縁系が、湧き出る興奮にハッキングされた涼子が、ブローニング自動拳銃を構えて立て続けに二発、発砲した。その銃口は神崎に酷似した男が大の字に寝転がっている場所と大して離れていない部分を適当に狙う。
涼子が危機管理能力を発揮して発砲したのではない。体が勝手に反応したのだ。残弾が何発だとか、退路の確保だとか、『まだ神崎は仕留めていない』とか、そのような事柄まで考えは及んでいない。
初めて人を撃った感想を噛み締めていることも無い。元から人を殺すつもりで所持していた銃なのだから、撃てば誰かに当たり、誰かに当たれば怪我もするし死ぬこともあるだろう。
関心事は、涼子は神崎を仕留めた実感が皆無なので、彼女の頭の中では『神崎はまだどこかで無事に生きている』という認識だ。
ゆえに、神崎を探すべく、神崎を探す障害になるであろう余計な存在である三人の男を視界からどかせる感覚で引き金を引いた。
歩くのに蟻を踏み潰す事を心配する人間はいない。それと同じ心境。神崎を殺すのに邪魔な人間を視界から消すのは当たり前。
放った二発の三十二口径の弾頭は目の前の男たちを左右に飛びのかせた。誰も怪我をしていないようだ。『ああ、よかった。まだ自分は殺人者ではない』。
やがて回復する思考。脳の恒常性が、通常営業を取り戻しつつある。
「何モンだぁ! 女ぁ!」
右手側のコンクリの柱の陰に逃げ込んだ男が声を張り上げる。その男の声をかき消すような軽い銃声が涼子を襲う。
「神崎!」
涼子の声が、廃工場に響き渡った。遮蔽の陰に身を滑り込ませた男たちが互いの顔を見合わせて怪訝に首を捻る。
「何言ってんだ!? このバカ女」
左手側の小型リボルバーの男が怒鳴る。怒鳴りながらリボルバーを発砲。弾頭は涼子の脇を逸れて背後の壁に弾痕を拵える。
部屋の出入り口付近に仁王立ちのままの涼子。
涼子の左右斜め前方の陰に潜む男たち。
涼子の八m前方付近の床では神崎に酷似した男が大の字に倒れている。まだ息は有るらしい。人間は喉を撃たれたくらいでは即死に至らないという知識を得た。
両脇の遮蔽に隠れる男たちは全く連携のなっていない銃撃を浴びせるが、元から連携という概念を持ち合わせていないのか、銃弾はあっという間に撃ち尽くし、瞬間的に沈黙する。……ド素人の涼子でも分かった。参考に見ていた動画サイトでの解説であった、再装填の隙が大きいとはこのことだったのかと。
職業的な反射で即座に反応した彼らは護身用の拳銃を抜き、撃ったはいいが、いわゆる鉄砲玉や荒事師と言われるようなハジキの達人ではなかった。再装填が完了次第、涼子に向かって構える。
然し、その頃には、涼子は――左上腕部を浅く被弾していたのに――その場から動かず、右手側の遮蔽に隠れる小型自動拳銃の男の影を狙った。……光源を間接的に受けてから伸びる影なのか、本体の影なのか判断に困る。
引き金を引き絞る。
ブローニング自動拳銃がそうなのか、自動拳銃が全てそうなのかは分からないが、引き金はやや重く感じ、撃発するまでやや長く感じた。そういえばこの拳銃には撃鉄という部品が無い。シンプルでスマートすぎるデザインで衣服の何処にも引っかからないようにデザインされたのだろうか?
