歪んだ弾道

「偽のSDはご安心ください。それは回収しました。……神崎が横流ししようとしたモノも偽物だと判明すれば、事態はこじれてしまいます。……神崎が自分が握った情報が大金になると勘違いしてくれたおかげで今回の筋書きが進んだようなものですから……神崎が手土産にわが社の情報を持ち出すのは計算のうちでしたから……。では、続報が入り次第連絡します」
 彼女はスマートフォンの通話を切り、誰も居ない狭い喫煙室の壁に凭れて溜息を吐いた。
 これで一つの大きな山が終わった。
 ふと窓の外を見る。夕焼けに似たやたらと赤い朝焼けだった。
 社内の情報漏洩を手引きしている人間を炙り出し、社会的に抹殺する使命を帯びた彼女は、普段はうだつの上がらないドジなOLとして社内を『ドジすぎて転々とさせられている無能なOL』の顔をしたトラブルシューターだ。会長直属の指示で動員されるトラブルバスターの一人。
 これだけの大企業にもなると必ず一枚岩では組織は成り立たない。その上で、獅子身中の虫を炙りだして、『誰にも感知されずに実働し、対象を社会的に抹殺する』のが職掌だ。
 今回は発砲事件が絡むので警察に対して幾らかの賄賂は必要だが、その賄賂も必要経費のうちとして処理される。
 巨大企業には巨大企業なりの自浄作用があり、それは時代が変わっても、機能が失われることが無く、姿と形と名前を変えて存続している。
 三平友美は夜明けの社屋の、目立たない位置にある喫煙室で一仕事終えた後の鎮静の儀式であるかのように、シガリロを銜えて、シルバーの細いライターで先端を炙り、瞑目し、『何故か』この『作戦』に絡んできた高城涼子の存在に感謝しながら紫煙を細く長く吐いた。

≪歪んだ弾頭・了≫
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