昏いうた
このホテルに侵入している連中は巴を射殺することは厭わない。寧ろ、巴がUSBメモリを……こんな小さなブツを何処かへ隠してしまうことを恐れているだろう。
自分ならば、一人の対象を殺害するよりも小さな物品を探すための人員が欲しい。巴ならばそう考える。
「!」
振り向く。即、発砲。
銃弾は廊下の向こう、20mほど離れた男の脇を抜け、背後の壁に穴を穿つ。遮蔽から身を乗り出したばかりのその男は小さな悲鳴を挙げて、再び遮蔽に身を滑り込ませる。
────思ったより早い!
────訓練はされているが……荒事の専門って訳じゃなさそうだ!
ホテルの最上階のフロアまでたどり着いた巴は、屋上へと続く非常用の扉の位置を、壁に貼られた見取り図で確認した。
このフロアで長丁場の銃撃戦は身を滅ぼす。元から階下へ向かって、フィットの元へと辿り着けるとは思っていない。
それでも【運び屋】としては依頼を遂行しなければならない。それに、『【運び屋】は必ず車に乗っていなければならない』という決まりはない。
『自分が生きていなくとも』秘密裏にブツを運ぶことができれば勝利条件を満たしたことになる。受け渡しに立ち会う相手は訝しむだろうが、【運び屋】はブツを運ぶことを矜持としている。どんなに汚い手段だろうと『運んで渡せば』勝利なのだ。
故に、ここで連中の戦意を挫くために迎撃するのも一つの手段だった。
勿論、どさくさに紛れて逃走を図る機会を企てる。
最上階へ到着。5階。
ここで追跡者の半数を削ることができれば御の字だ。
巴は愛銃のグリップを握る。S&W M10 FBIのサービスグリップに取り付けられたグリップアダプターに、特徴的な一山のチャンネルが指に馴染む。
そろりと、左手の小指と薬指の間にスピードローダーを挟む。
長丁場は避ける。敵の殲滅が目的ではない。退路を確保。各個撃破。敵の火力が集中する前に撃破。逃走経路は壁の見取り図から数通りのパターンが計算できた。
巴は今し方登ってきた階段へと向かう。
銃口を突き出し、階下へ発砲。そこには誰も居ない。敵をこちら側の階段へと集めるためのクラッカーだ。
階段は2箇所ある。緊張を強いられている人間は緊張の緩和や緊張からの不快感を払拭するために、緊張の根源となるモノを排除しようと脳がフル稼働している。
そんな時に派手な銃声を聞けば、連携が取れていても、銃声に注意が引かれる。……連携が取れているのなら、どのように連中が行動するかも予想できる。
連携ができる。
それこそが建物内部での『逃げることを前提とした鉄火場』での強みであり弱点でもある。
多数の人間と戦うのなら連携とその練度は大きな武器だ。
だが、たった一人を追い詰めるために多数が連携するとなると……狭い空間で連携するとなると、話は違ってくる。
連中は殺してでもブツが欲しい。
巴に対して手加減するつもりはない。巴はただの【運び屋】で、殺しても生かしても契約が履行されなければ、【運び屋】としては死亡したも同然だ。
そして連中は『【運び屋】は命がけでブツを運ぶためなら手段を選ばない』事も知っている。
その上、小さなブツを運んでいるので連中からすればその小さなブツを自分達の知らぬ場所へと隠されるほうが恐ろしい。
……と、なると、『連中の実際の戦力』は大した事がない。大方の人員はブツを探して回収するための準主力かそれ以下の三下だろう。
主力以外で割と連携が取れる人間だけを選別したか、外注で技術的な面が理由で単価が安い荒事師を雇ったか。
冷静になれば意外と勝ち目が見えてくる。
連中の大前提を細分化して分析した結果だ。問題は大きいが、基本的に遍く問題解決の方法は3つしか無い。
『類似する問題を探してその場合の解決方法を見つける』
『視点を変える』
『自力で簡単に解決できる問題になるまで微分する』
巴はこの場合、『自力で簡単に解決できる問題になるまで微分する』方法を選んだ。
自分ならば、一人の対象を殺害するよりも小さな物品を探すための人員が欲しい。巴ならばそう考える。
「!」
振り向く。即、発砲。
銃弾は廊下の向こう、20mほど離れた男の脇を抜け、背後の壁に穴を穿つ。遮蔽から身を乗り出したばかりのその男は小さな悲鳴を挙げて、再び遮蔽に身を滑り込ませる。
────思ったより早い!
────訓練はされているが……荒事の専門って訳じゃなさそうだ!
ホテルの最上階のフロアまでたどり着いた巴は、屋上へと続く非常用の扉の位置を、壁に貼られた見取り図で確認した。
このフロアで長丁場の銃撃戦は身を滅ぼす。元から階下へ向かって、フィットの元へと辿り着けるとは思っていない。
それでも【運び屋】としては依頼を遂行しなければならない。それに、『【運び屋】は必ず車に乗っていなければならない』という決まりはない。
『自分が生きていなくとも』秘密裏にブツを運ぶことができれば勝利条件を満たしたことになる。受け渡しに立ち会う相手は訝しむだろうが、【運び屋】はブツを運ぶことを矜持としている。どんなに汚い手段だろうと『運んで渡せば』勝利なのだ。
故に、ここで連中の戦意を挫くために迎撃するのも一つの手段だった。
勿論、どさくさに紛れて逃走を図る機会を企てる。
最上階へ到着。5階。
ここで追跡者の半数を削ることができれば御の字だ。
巴は愛銃のグリップを握る。S&W M10 FBIのサービスグリップに取り付けられたグリップアダプターに、特徴的な一山のチャンネルが指に馴染む。
そろりと、左手の小指と薬指の間にスピードローダーを挟む。
長丁場は避ける。敵の殲滅が目的ではない。退路を確保。各個撃破。敵の火力が集中する前に撃破。逃走経路は壁の見取り図から数通りのパターンが計算できた。
巴は今し方登ってきた階段へと向かう。
銃口を突き出し、階下へ発砲。そこには誰も居ない。敵をこちら側の階段へと集めるためのクラッカーだ。
階段は2箇所ある。緊張を強いられている人間は緊張の緩和や緊張からの不快感を払拭するために、緊張の根源となるモノを排除しようと脳がフル稼働している。
そんな時に派手な銃声を聞けば、連携が取れていても、銃声に注意が引かれる。……連携が取れているのなら、どのように連中が行動するかも予想できる。
連携ができる。
それこそが建物内部での『逃げることを前提とした鉄火場』での強みであり弱点でもある。
多数の人間と戦うのなら連携とその練度は大きな武器だ。
だが、たった一人を追い詰めるために多数が連携するとなると……狭い空間で連携するとなると、話は違ってくる。
連中は殺してでもブツが欲しい。
巴に対して手加減するつもりはない。巴はただの【運び屋】で、殺しても生かしても契約が履行されなければ、【運び屋】としては死亡したも同然だ。
そして連中は『【運び屋】は命がけでブツを運ぶためなら手段を選ばない』事も知っている。
その上、小さなブツを運んでいるので連中からすればその小さなブツを自分達の知らぬ場所へと隠されるほうが恐ろしい。
……と、なると、『連中の実際の戦力』は大した事がない。大方の人員はブツを探して回収するための準主力かそれ以下の三下だろう。
主力以外で割と連携が取れる人間だけを選別したか、外注で技術的な面が理由で単価が安い荒事師を雇ったか。
冷静になれば意外と勝ち目が見えてくる。
連中の大前提を細分化して分析した結果だ。問題は大きいが、基本的に遍く問題解決の方法は3つしか無い。
『類似する問題を探してその場合の解決方法を見つける』
『視点を変える』
『自力で簡単に解決できる問題になるまで微分する』
巴はこの場合、『自力で簡単に解決できる問題になるまで微分する』方法を選んだ。
