野良学者の没論
人間は基本的にネガティブを身近に感じて進化してきた。どんな小さな欠片からでも何百倍もの不安へと、瞬時に膨らませることができるのは人間の生物としての才能だ。
────私に、できることはないのかな?
帰宅するなり、ユキは、テーブルの脇に置かれたやや小さなトートバッグを見た。
そこには大学で学んでいる学問の資料として積読のままになっている書籍が一冊収まっている。……落ち着いて読む時間がないのだ。
これでも大学で社会心理学を学ぶ者として、集団の心理や行動パターンを分析することは得意な方だ。
もしかしたら、その知識が、警察の捜査の役に立つかもしれない……自分の身を守るのに役に立つのかもしれない……。ふとそんな事を、そんな夢想を思い描く。
こんな場合は、プロフェッショナルの警察は社会不安を煽るのを防ぐために濫りに捜査の進捗を関係者であろうと外部へ報告や連絡はしない。
ふう、と息を吐くと、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して喉を潤した。
さらに一週間経過。
ユキは、隙間の時間に、過去の似たような事件の報道を調べ始めた。
全国で発生している凶悪犯罪の事例を片っ端から読み漁る。
皮肉にも、資料を読み漁る時間を捻出するために寸暇を惜しみ、爪に火を灯す思いで、日常のタスクとルーティンをこなし、簡略化できる用件は後回しにするか友人の力を借りた。結果的に、誰よりも時間の作り方に秀でた生活サイクルが出来上がった。
犯罪心理学を中心にした資料を読む。
その中で、ある共通点に気づいた。……否、想像していた事例の裏付けが取れたと言った方が正しいか。
犯行現場が、どれも比較的人通りの少ない住宅街の路地裏であること。
そして、被害者の殆どが女性の一人歩きであること。
「予想通り過ぎて……逆に……」
────自分の無自覚に残念。
被害者は自ら、犯罪心理学で言うところの、犯罪機会理論の被害者になるべく、無自覚に行動している。
警戒心が薄い人間が犯罪が多発する時間帯に、犯罪が多発する場所へ行けば、犯罪に遭遇する可能性は飛躍的に跳ね上がる。
ユキはその中で確信した事が一つ有った。
この連続する事件には、他に例が少ないポイントが存在する。
それは、『犯人たち』が特定のターゲットを選び、計画的に犯行に及んでいることを示唆していた。
ユキの専門である社会心理学の観点からすれば、これは機会理論における、特定の状況下で犯罪機会が増加するという典型例だ。
『犯人たち』は、人通りの少ない夜道、そして一人歩きの女性という、まさに標的の適合性が高い状況を選んでいる。そう……『犯人たち』だ。複数なのだ。
女性をターゲットにした犯罪は大雑把に3つに分けられる。金と愛と性的嗜好だ。
金と愛では殆どの場合、顔見知りの犯行……昨今ではSNSでのパラソーシャルな関係も含めて、必ず互いに接触のあるケースが殆だ。
だが、性癖や性的嗜好ともなると話は違ってくる。
単純にサイコパス型とソシオパス型に分けられないのが、ユキが気付いたポイントだった。
『犯人は複数』。
ユキは2人の男に襲われた。
それも路上強盗としての『位置取り』ではなかった。路上強盗なら『静かに速やかに気取られずに』をモットーに行動する。そのために複数で行動するが、その場合は分け前ができるだけ多くなるように、統計として2人が多い。
だが、あの2人の男は違った。
無駄口が多かった。
無駄な行動が大きかった。
自分たちの優位性を見せつけて萎縮させようとする心理が働いている。
十分に萎縮させて少しばかり、腕力を奮えば被害者は大人しくなるだろうと考えているのだと分かる。
それを雄弁に語るのが、ユキの銃による反撃に対して心底、驚愕し、目撃者のユキを追いかける防衛的反応すら見せなかった点だ。
────私に、できることはないのかな?
帰宅するなり、ユキは、テーブルの脇に置かれたやや小さなトートバッグを見た。
そこには大学で学んでいる学問の資料として積読のままになっている書籍が一冊収まっている。……落ち着いて読む時間がないのだ。
これでも大学で社会心理学を学ぶ者として、集団の心理や行動パターンを分析することは得意な方だ。
もしかしたら、その知識が、警察の捜査の役に立つかもしれない……自分の身を守るのに役に立つのかもしれない……。ふとそんな事を、そんな夢想を思い描く。
こんな場合は、プロフェッショナルの警察は社会不安を煽るのを防ぐために濫りに捜査の進捗を関係者であろうと外部へ報告や連絡はしない。
ふう、と息を吐くと、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して喉を潤した。
さらに一週間経過。
ユキは、隙間の時間に、過去の似たような事件の報道を調べ始めた。
全国で発生している凶悪犯罪の事例を片っ端から読み漁る。
皮肉にも、資料を読み漁る時間を捻出するために寸暇を惜しみ、爪に火を灯す思いで、日常のタスクとルーティンをこなし、簡略化できる用件は後回しにするか友人の力を借りた。結果的に、誰よりも時間の作り方に秀でた生活サイクルが出来上がった。
犯罪心理学を中心にした資料を読む。
その中で、ある共通点に気づいた。……否、想像していた事例の裏付けが取れたと言った方が正しいか。
犯行現場が、どれも比較的人通りの少ない住宅街の路地裏であること。
そして、被害者の殆どが女性の一人歩きであること。
「予想通り過ぎて……逆に……」
────自分の無自覚に残念。
被害者は自ら、犯罪心理学で言うところの、犯罪機会理論の被害者になるべく、無自覚に行動している。
警戒心が薄い人間が犯罪が多発する時間帯に、犯罪が多発する場所へ行けば、犯罪に遭遇する可能性は飛躍的に跳ね上がる。
ユキはその中で確信した事が一つ有った。
この連続する事件には、他に例が少ないポイントが存在する。
それは、『犯人たち』が特定のターゲットを選び、計画的に犯行に及んでいることを示唆していた。
ユキの専門である社会心理学の観点からすれば、これは機会理論における、特定の状況下で犯罪機会が増加するという典型例だ。
『犯人たち』は、人通りの少ない夜道、そして一人歩きの女性という、まさに標的の適合性が高い状況を選んでいる。そう……『犯人たち』だ。複数なのだ。
女性をターゲットにした犯罪は大雑把に3つに分けられる。金と愛と性的嗜好だ。
金と愛では殆どの場合、顔見知りの犯行……昨今ではSNSでのパラソーシャルな関係も含めて、必ず互いに接触のあるケースが殆だ。
だが、性癖や性的嗜好ともなると話は違ってくる。
単純にサイコパス型とソシオパス型に分けられないのが、ユキが気付いたポイントだった。
『犯人は複数』。
ユキは2人の男に襲われた。
それも路上強盗としての『位置取り』ではなかった。路上強盗なら『静かに速やかに気取られずに』をモットーに行動する。そのために複数で行動するが、その場合は分け前ができるだけ多くなるように、統計として2人が多い。
だが、あの2人の男は違った。
無駄口が多かった。
無駄な行動が大きかった。
自分たちの優位性を見せつけて萎縮させようとする心理が働いている。
十分に萎縮させて少しばかり、腕力を奮えば被害者は大人しくなるだろうと考えているのだと分かる。
それを雄弁に語るのが、ユキの銃による反撃に対して心底、驚愕し、目撃者のユキを追いかける防衛的反応すら見せなかった点だ。
