野良学者の没論
3日後。バイトの休憩時間。
全国チェーンのファミレスで夜11時まで働いている。その休憩時間に、寸暇を惜しむように、自らのプロファイリングを形作るためにメモ帳にペンを走らせる。
「?」
────これは……!?
プロファイリングの最中にとあることに気づく。
統計から犯人像を割り出すリバプール式プロファイリングよりも、その元祖のFBI式プロファイリングの方が割と簡単に『読めていた』事に気がつく。犯人の男たちの襲撃を直接受けていたから得られた情報も多い。
今まで人力としては最新のプロファイリングの手法あったリバプール式プロファイリングに当て嵌めて犯人像の特定に注力していたが、自分のルールに固執し、さらに博打の成分まで要求する犯人なら、『今なお、時代遅れでも進化を続けている』FBI式プロファイリングのほうが犯人像を割り出しやすいのではないか? と考えが及んだ。
映画やドラマのようにプロファイラーは捜査の最前線に出ないし、取調室で心理分析はしない。FBI式は殺人が多発する大都会よりも寧ろ、人口密度が薄く、殺人事件が少ない地方の警察でこそ役に立つ。
大都会なら殺人事件のノウハウを経験で会得した捜査官が多い。却って、田舎では事件が滅多に起きないからこそ、起きた時に脆弱になる。
そんな経験の少ない捜査官しかいない警察署でも一定のテンプレートに当て嵌めて操作を潤滑にするのにFBI式は有用だった。
後にFBI式を発展改良させたリバプール式が登場しFBI式は旧い技術となるが、滅んだ技術ではなかった。歴史の遺物ではなかった。
ユキが注目した点は、犯人の男たちが衆人環視の中でも堂々と現れた場所。頭の中で近隣の地図を広げる。
コールサック効果とサークル円仮説を踏まえる。
男たちは自分達の性的嗜好に則ったルールを持つ。狩り場で罠を張り、どんな獲物が罠に掛かるかを楽しんでいる。……尚且つ、姿を隠す事は厭わず、ユキの前に再び現れてお得意の男性的優位性を発揮しようとした。それも過去の成功体験に基づいた行動だ。
被害者を弄んだだけでなく、心が疲弊していく様子を楽しむタイプ。
『普通ならば、そんな拗れた嗜好傾向を持つ人間はそうは居ない』。レアな嗜好を持つ2人が出会って犯行が簡単に起こせるようになり、また隠匿隠蔽のための工作も簡単になった。
……恐らく、警察も同じプロファイルを組み立てているだろう。
それでも進捗が芳しくないのは、『拗れた性的嗜好をした犯人』が一人でもう一人は単なる便乗の協力者だと想定して捜査をしているからだろう。
プロファイル……だけではなく、人の心を読むのを間違えると際限無く間違えた判断しかできなくなる。
屡々、世の多くの心理学者が内心で、「我々心理学者は必要以上に人の心を読む」と戒めを言い聞かせているほどだ。
ユキはメモ帳をめくり新しいページに今気づいた点のまとめを書き殴る。
唇の端に小さな笑みがこぼれる。
────この犯人たちは……近所に住んでいるタイプの物静かな人間だ。それも中流階級の人間で一般教養は低いけど、応用する知能は高い。『足し算を覚えると掛け算の存在に気がつくタイプ』の知能を持っている。
FBI式で言えば秩序型で無秩序型の類型。……犯人は秩序型か無秩序型か? そして現場の様子は秩序型か無秩序型か? ……これがFBI式プロファイリングの大きな功績であり特徴だ。
典型的な秩序・無秩序型。
自分達のルールという秩序を持っていながら、獲物を狙う基準には博打性の高い嗜癖が働いている。
それならば、被害者として、ユキも納得する点が多かった。
当初は偶然、被害に遭っただけだと思っていたが、その後の男たちからの接触が不自然過ぎてずっと気になっていた。
過去の経験や知識を元に、冷静に心理状態を読み解いて、あるいは雰囲気だけで理解して、被害者の前に姿を表してトラウマを植え付けて楽しむ様はメインデッシュの後に極上のデザートを楽しむようなものだ。
それを例外的に崩壊させたのがコンシールドキャリーライセンスを持っているユキだった。
連中の過去の事例に、『被害者が反撃してきた。被害者が怯まなかった』ことは無かったのだろう。
ユキは限のいいところまでメモ帳を埋めて、ホールに戻った。
全国チェーンのファミレスで夜11時まで働いている。その休憩時間に、寸暇を惜しむように、自らのプロファイリングを形作るためにメモ帳にペンを走らせる。
「?」
────これは……!?
プロファイリングの最中にとあることに気づく。
統計から犯人像を割り出すリバプール式プロファイリングよりも、その元祖のFBI式プロファイリングの方が割と簡単に『読めていた』事に気がつく。犯人の男たちの襲撃を直接受けていたから得られた情報も多い。
今まで人力としては最新のプロファイリングの手法あったリバプール式プロファイリングに当て嵌めて犯人像の特定に注力していたが、自分のルールに固執し、さらに博打の成分まで要求する犯人なら、『今なお、時代遅れでも進化を続けている』FBI式プロファイリングのほうが犯人像を割り出しやすいのではないか? と考えが及んだ。
映画やドラマのようにプロファイラーは捜査の最前線に出ないし、取調室で心理分析はしない。FBI式は殺人が多発する大都会よりも寧ろ、人口密度が薄く、殺人事件が少ない地方の警察でこそ役に立つ。
大都会なら殺人事件のノウハウを経験で会得した捜査官が多い。却って、田舎では事件が滅多に起きないからこそ、起きた時に脆弱になる。
そんな経験の少ない捜査官しかいない警察署でも一定のテンプレートに当て嵌めて操作を潤滑にするのにFBI式は有用だった。
後にFBI式を発展改良させたリバプール式が登場しFBI式は旧い技術となるが、滅んだ技術ではなかった。歴史の遺物ではなかった。
ユキが注目した点は、犯人の男たちが衆人環視の中でも堂々と現れた場所。頭の中で近隣の地図を広げる。
コールサック効果とサークル円仮説を踏まえる。
男たちは自分達の性的嗜好に則ったルールを持つ。狩り場で罠を張り、どんな獲物が罠に掛かるかを楽しんでいる。……尚且つ、姿を隠す事は厭わず、ユキの前に再び現れてお得意の男性的優位性を発揮しようとした。それも過去の成功体験に基づいた行動だ。
被害者を弄んだだけでなく、心が疲弊していく様子を楽しむタイプ。
『普通ならば、そんな拗れた嗜好傾向を持つ人間はそうは居ない』。レアな嗜好を持つ2人が出会って犯行が簡単に起こせるようになり、また隠匿隠蔽のための工作も簡単になった。
……恐らく、警察も同じプロファイルを組み立てているだろう。
それでも進捗が芳しくないのは、『拗れた性的嗜好をした犯人』が一人でもう一人は単なる便乗の協力者だと想定して捜査をしているからだろう。
プロファイル……だけではなく、人の心を読むのを間違えると際限無く間違えた判断しかできなくなる。
屡々、世の多くの心理学者が内心で、「我々心理学者は必要以上に人の心を読む」と戒めを言い聞かせているほどだ。
ユキはメモ帳をめくり新しいページに今気づいた点のまとめを書き殴る。
唇の端に小さな笑みがこぼれる。
────この犯人たちは……近所に住んでいるタイプの物静かな人間だ。それも中流階級の人間で一般教養は低いけど、応用する知能は高い。『足し算を覚えると掛け算の存在に気がつくタイプ』の知能を持っている。
FBI式で言えば秩序型で無秩序型の類型。……犯人は秩序型か無秩序型か? そして現場の様子は秩序型か無秩序型か? ……これがFBI式プロファイリングの大きな功績であり特徴だ。
典型的な秩序・無秩序型。
自分達のルールという秩序を持っていながら、獲物を狙う基準には博打性の高い嗜癖が働いている。
それならば、被害者として、ユキも納得する点が多かった。
当初は偶然、被害に遭っただけだと思っていたが、その後の男たちからの接触が不自然過ぎてずっと気になっていた。
過去の経験や知識を元に、冷静に心理状態を読み解いて、あるいは雰囲気だけで理解して、被害者の前に姿を表してトラウマを植え付けて楽しむ様はメインデッシュの後に極上のデザートを楽しむようなものだ。
それを例外的に崩壊させたのがコンシールドキャリーライセンスを持っているユキだった。
連中の過去の事例に、『被害者が反撃してきた。被害者が怯まなかった』ことは無かったのだろう。
ユキは限のいいところまでメモ帳を埋めて、ホールに戻った。
