透明人間の輪郭
だが、店主の言う通りに長居はできない。
ここに長く留まるわけにはいかない。『奴ら』の嗅覚は鋭い。すぐに、この寂れた日用雑貨店にまで追っ手が迫ってくるかもしれない。
店主に軽く頭を下げるときびすを返し、私は再び重い足で、朝の街へと踏み入れた。この店内でカタギを演じる必要はないだろう。
歩きながら握り飯と水を胃袋に送り込む。腹を満たしたことで、体に少しだけ力が戻ってきた気がする。それでも尚、心の奥底にある不安の影は依然として消えることはない。
ジャケットの内ポケットに右手を差し込み、そこに落していたS&W M351cをそっと撫でる。冷たい金属の感触が、微かに震える指先に伝わる。意識が辛うじて現実に繋ぎ止められているのを実感する。
こいつが心を支えてくれなかったら、今の私はただの抜け殻だっただろう。それは屍以前の問題だ。
私は朝の喧騒の中に紛れ込み、幽霊のように街の流れに身を任せた。
行く先などどこにも無い。
ただ『奴ら』の追跡から逃れて、今日一日を生き延びることだけが、今の私の唯一の願いだ。……それを365日繰り返せるとは思っていないが。
心の奥底には、小さな何かが燃えている。
どんなに過酷な状況に置かれても、決して消えることのない生き延びようとする強い意志の炎という物が有るのなら、それはこのような小さな何かが燃焼している概念なのだろう。
例え、この先にどんな道が待ち受けていようとも、私は決して諦めない。……そう思わせる闘志だ。
自分に『闘志』などという高尚な精神が有ったのには驚いたが。
S&W M351c。
それは、単なる偶然の拾い物ではない気がする。
絶望的な環境で偶然掴んだ、希望の象徴に思える。このJフレームと共に、私は必ず生き抜いてみせる。それが血塗られた、艱難辛苦しかない道であろうと……。
いつの間にか、雨は完全に止んでいた。
東の空からは、高くなった朝日が差し込んで、濡れた街を等しく照らしている。
私の心とは正反対だな、と心の中で自嘲する。
逃亡はまだ終わらない。もしかしたら逃亡の序章にも達していないのかもしれない。
私は静かに、そして確実に、生きるための道を模索し続ける。
行きずりで出会った、小さく、そして頼りにしている相棒と共に。
≪透明人間の輪郭・了≫
ここに長く留まるわけにはいかない。『奴ら』の嗅覚は鋭い。すぐに、この寂れた日用雑貨店にまで追っ手が迫ってくるかもしれない。
店主に軽く頭を下げるときびすを返し、私は再び重い足で、朝の街へと踏み入れた。この店内でカタギを演じる必要はないだろう。
歩きながら握り飯と水を胃袋に送り込む。腹を満たしたことで、体に少しだけ力が戻ってきた気がする。それでも尚、心の奥底にある不安の影は依然として消えることはない。
ジャケットの内ポケットに右手を差し込み、そこに落していたS&W M351cをそっと撫でる。冷たい金属の感触が、微かに震える指先に伝わる。意識が辛うじて現実に繋ぎ止められているのを実感する。
こいつが心を支えてくれなかったら、今の私はただの抜け殻だっただろう。それは屍以前の問題だ。
私は朝の喧騒の中に紛れ込み、幽霊のように街の流れに身を任せた。
行く先などどこにも無い。
ただ『奴ら』の追跡から逃れて、今日一日を生き延びることだけが、今の私の唯一の願いだ。……それを365日繰り返せるとは思っていないが。
心の奥底には、小さな何かが燃えている。
どんなに過酷な状況に置かれても、決して消えることのない生き延びようとする強い意志の炎という物が有るのなら、それはこのような小さな何かが燃焼している概念なのだろう。
例え、この先にどんな道が待ち受けていようとも、私は決して諦めない。……そう思わせる闘志だ。
自分に『闘志』などという高尚な精神が有ったのには驚いたが。
S&W M351c。
それは、単なる偶然の拾い物ではない気がする。
絶望的な環境で偶然掴んだ、希望の象徴に思える。このJフレームと共に、私は必ず生き抜いてみせる。それが血塗られた、艱難辛苦しかない道であろうと……。
いつの間にか、雨は完全に止んでいた。
東の空からは、高くなった朝日が差し込んで、濡れた街を等しく照らしている。
私の心とは正反対だな、と心の中で自嘲する。
逃亡はまだ終わらない。もしかしたら逃亡の序章にも達していないのかもしれない。
私は静かに、そして確実に、生きるための道を模索し続ける。
行きずりで出会った、小さく、そして頼りにしている相棒と共に。
≪透明人間の輪郭・了≫
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