6インチは今日も多忙
……ここまで来ると理想的過ぎて非現実的だ。夢想が過ぎる。作戦とは言えない。
この案は考えついた瞬間に却下した。
こんなに上手く事が運ぶのなら怪力だけを売りにする何らかのモンスターハンターは同時に大陸随一の幸運の持ち主と言う事になる。
ただ、「何としても一つの集団を壊滅させる」というのは悪くない考えだと再評価する。
この町に混乱だけを残して立ち去る事になっても、確実に懸賞金の一部は貰える訳だし、町人からは礼を言われても文句を言われる筋合いは無い訳だ。襲撃する場所に拠っては、上手くいけば更に残った集団に平等に利権を分割する訳で、このヒット&ウェイを短期間で繰り返せば、自然と町のドブ浚いは完了する。
短期間で間髪入れず第三勢力が旗揚げしない限りは。体力と命が続く限りの話しだが。
「……」
どちらにせよ宣戦布告するには、慌てる必要も無いだろう。
仕入れた情報の真偽を確かめる上でも何日かは自分の足で町をくまなく歩いてみる必要が有る。
今夜は鋭気を養う為に夜遊びに興じるだけにしておこうと、胸ポケットから取り出したイゴーラ金貨を親指で弾いた。
落下してきた金貨を再び手中に収めると、表の通りに出た。
それから4日が経過した。
この町の地域情勢を細かく掴んできた。
やはり、5つの無法者集団の存在がどこでも話題に上っている。
町の中央辺り、シュマイザー団が縄張りの表通りにあった冒険者ギルドは集団の妨害でやむ無く店仕舞いをした事も判明した。
町の人間の誰彼と無しに依頼用掲示板に、無法者集団を追い払ってくれるように頼み込む依頼が殺到しているから、癪に障ったリーダーのレナート・シュマイザーが手下のチンピラを使ってギルドに火を放ったそうだ。
今でも鎮火の跡は誰も手を付けずに残っている。
報復を恐れての事だ。
町の自警団も確たる証拠が無いので下手に動けない。
自警団自体も役員幹部が家族や財産を傷つけると脅されている者が少なくない。自警団の急先鋒を務める血気盛んな若者もドサクサ紛れに刃物で刺されて何人も命を落としている。
それでも尚、証拠が無いために自警団という組織は無法者の無法振りを黙認している状況だ。
水面下で団栗の背比べの如くシマ争いを繰り返している割りには、共通の敵を持つと恐ろしい団結力を見せるのも、連中をのさばらせている一因だろう。
「……」
宿の近所の居酒屋で昼食を摂っている時だった。
いつものように食前酒――モルト酒の果汁割り――から入った食餌を黙々と食べている時に、この辺り――町の北部――一帯を仕切るトカジプト団のチンピラ供3人がこの居酒屋のミカジメ料を徴収すべく肩をいきらせて喧しく入ってきた。一目で見分けがついた。お揃いのライトレザーブレストを装着し腰に剣を帯びている。
ゆっくり食事をしているどころの雰囲気ではない。
店の主人はミカジメ料を払うと言っているのに、鋳型製法で拵えた安物の鈍らのブロードソードを引き抜いて店内を荒らし始めた。
粉々になるガラス窓。埃を巻き上げる漆喰の壁。目前で机をひっくり返されて折角の食餌を蹂躙される町民。
止めに入った主人は鳩尾に拳を一発貰って黄水を床にブチ撒けて蹲ったまま動けない。
自分が直接的な被害を蒙った訳ではないので無視して食事を続けていたエルマだったが、自分の座るストゥールの左右にチンピラ供がへらへらした顔で近付いてきた時、食欲が引き潮のように引いていく感覚を覚えた。
エルマの『何か』の線に剃刀の刃が宛がわれた。
切る為に横に曳かず弄ぶ為に撫でる様な感触。
表現し難い感情が湧き出てくるのが止められなかった。
「なぁ。姐さん。酒、注いでくれよ」
左の席にジョッキを持って、チンピラの一人が笑った鰐を連想させる気色の悪い顔でエルマに迫った時、彼女の『何か』の線は呆気無く『剃刀』でプツンと切断された。
右手に持っていた塩茹でされた鶏の腿肉を不意に木製の皿に投げ出すと、そのまま、腹のベルトに差していた6インチをカウンターの下で抜き、撃鉄を起こして無造作に引き金を引いた。
店内に轟く雷鳴にも似た撃発音。
真っ赤な火箭を曳いて放たれた45口径の重弾頭は、左の席に凭れ掛かるように座っていた男の股間を真正面からまともに撃ち抜いた。
男の新陳代謝は一瞬停止し、至近弾の衝撃で大きく破れたズボンの穴から血の塊と供に零れ落ちた千切れた海綿体と二つの睾丸と後、何だか解らない液体を他人事の様な表情で見ていた。数瞬後、遮断されていた神経が復旧すると怪鳥のような悲鳴を挙げて股間を押さえ、失った物を拾い集めながら床を転げまわった。
「このアマぁ!」
エルマの右に座っていた男も立ち上がって大型ナイフを抜こうとするが、それよりも速くエルマの左手が閃き、右腰に伸びてショートソードを引き抜き『鍔より前、左右の刀身側面に沿う様に取り付けられた単発銃の撃鉄を起こし護拳の手前に有る引き金を引いた』。……刀身の左右に単発銃身が取り付けられた特製の短剣だ。
又しても店内を揺るがす轟音。
撃発された仕込み拳銃の45口径は違う事無く男の眉間の真ん中に吸い込まれ、顔面に風穴を開けた後、後頭部から脳漿を派手に撒き散らした。
衝撃で眼窩から両眼がドロリとはみ出る。
首が直角に後ろに折れ、鼻と耳から鮮血を迸らせて仰向けに倒れる。
男が倒れるさまは糸の切れた人形を見ているようにスローモーションだった。
首が不自然な方向に折れている。
やがて間欠泉のように口からドス黒い粘りの有る血が吹き出る。
右手に拳銃、左手に仕込みショートソードを構えて何れの銃口も残りの一人に照準を合わせると必要以上にゆっくりとしたモーションで撃鉄を起こした。
その男は拳銃などという武器がこの世に存在する事を全く知らなかったが、自分の命を一発で消し去る能力を持っている事を、二人があっという間に屠殺される瞬間を目撃した事で充分に思い知っていた。
歯をガチガチ鳴らしながらブロードソードを構えていた。
足元には小便を漏らした跡と思われる、鼻を突く溜まりを作っていた。
「掛かって来い」
抑揚の無い調子でエルマはそう言うと、一歩踏み出した。
「……っ!」
男は20代前半位の若者だったが、痴呆に罹ったように涎をだらしなく垂れさせながら鉛のように重くなった両足を3歩後退させた。
「男だろ?根性見せろよ?」
「す、すみませんでしたーっ!」
男は剣を床に落としてその場に跪いて許しを乞う。
「こ、こ、これ、からは、こ、心を入れ替えますっ! い、田舎に帰って実家のて、手伝いを」
男の言葉の最中にエルマは拳銃の引き金を引いた。
男は脳天から頭蓋骨を粉砕して高速で侵入してきた熱い45口径に脳髄を完膚なきまでに破壊されて絶命した。
頭を地面に打ち付けて尻だけを突き出した無様な死体が出来上がった。
文字通り目玉を飛び出させ、頭部の骨片と血飛沫を撒き散らし、鼻と耳と口から血を吹いた。
この男の荒くれた短い人生を飾るに相応しい最期だった。
この案は考えついた瞬間に却下した。
こんなに上手く事が運ぶのなら怪力だけを売りにする何らかのモンスターハンターは同時に大陸随一の幸運の持ち主と言う事になる。
ただ、「何としても一つの集団を壊滅させる」というのは悪くない考えだと再評価する。
この町に混乱だけを残して立ち去る事になっても、確実に懸賞金の一部は貰える訳だし、町人からは礼を言われても文句を言われる筋合いは無い訳だ。襲撃する場所に拠っては、上手くいけば更に残った集団に平等に利権を分割する訳で、このヒット&ウェイを短期間で繰り返せば、自然と町のドブ浚いは完了する。
短期間で間髪入れず第三勢力が旗揚げしない限りは。体力と命が続く限りの話しだが。
「……」
どちらにせよ宣戦布告するには、慌てる必要も無いだろう。
仕入れた情報の真偽を確かめる上でも何日かは自分の足で町をくまなく歩いてみる必要が有る。
今夜は鋭気を養う為に夜遊びに興じるだけにしておこうと、胸ポケットから取り出したイゴーラ金貨を親指で弾いた。
落下してきた金貨を再び手中に収めると、表の通りに出た。
それから4日が経過した。
この町の地域情勢を細かく掴んできた。
やはり、5つの無法者集団の存在がどこでも話題に上っている。
町の中央辺り、シュマイザー団が縄張りの表通りにあった冒険者ギルドは集団の妨害でやむ無く店仕舞いをした事も判明した。
町の人間の誰彼と無しに依頼用掲示板に、無法者集団を追い払ってくれるように頼み込む依頼が殺到しているから、癪に障ったリーダーのレナート・シュマイザーが手下のチンピラを使ってギルドに火を放ったそうだ。
今でも鎮火の跡は誰も手を付けずに残っている。
報復を恐れての事だ。
町の自警団も確たる証拠が無いので下手に動けない。
自警団自体も役員幹部が家族や財産を傷つけると脅されている者が少なくない。自警団の急先鋒を務める血気盛んな若者もドサクサ紛れに刃物で刺されて何人も命を落としている。
それでも尚、証拠が無いために自警団という組織は無法者の無法振りを黙認している状況だ。
水面下で団栗の背比べの如くシマ争いを繰り返している割りには、共通の敵を持つと恐ろしい団結力を見せるのも、連中をのさばらせている一因だろう。
「……」
宿の近所の居酒屋で昼食を摂っている時だった。
いつものように食前酒――モルト酒の果汁割り――から入った食餌を黙々と食べている時に、この辺り――町の北部――一帯を仕切るトカジプト団のチンピラ供3人がこの居酒屋のミカジメ料を徴収すべく肩をいきらせて喧しく入ってきた。一目で見分けがついた。お揃いのライトレザーブレストを装着し腰に剣を帯びている。
ゆっくり食事をしているどころの雰囲気ではない。
店の主人はミカジメ料を払うと言っているのに、鋳型製法で拵えた安物の鈍らのブロードソードを引き抜いて店内を荒らし始めた。
粉々になるガラス窓。埃を巻き上げる漆喰の壁。目前で机をひっくり返されて折角の食餌を蹂躙される町民。
止めに入った主人は鳩尾に拳を一発貰って黄水を床にブチ撒けて蹲ったまま動けない。
自分が直接的な被害を蒙った訳ではないので無視して食事を続けていたエルマだったが、自分の座るストゥールの左右にチンピラ供がへらへらした顔で近付いてきた時、食欲が引き潮のように引いていく感覚を覚えた。
エルマの『何か』の線に剃刀の刃が宛がわれた。
切る為に横に曳かず弄ぶ為に撫でる様な感触。
表現し難い感情が湧き出てくるのが止められなかった。
「なぁ。姐さん。酒、注いでくれよ」
左の席にジョッキを持って、チンピラの一人が笑った鰐を連想させる気色の悪い顔でエルマに迫った時、彼女の『何か』の線は呆気無く『剃刀』でプツンと切断された。
右手に持っていた塩茹でされた鶏の腿肉を不意に木製の皿に投げ出すと、そのまま、腹のベルトに差していた6インチをカウンターの下で抜き、撃鉄を起こして無造作に引き金を引いた。
店内に轟く雷鳴にも似た撃発音。
真っ赤な火箭を曳いて放たれた45口径の重弾頭は、左の席に凭れ掛かるように座っていた男の股間を真正面からまともに撃ち抜いた。
男の新陳代謝は一瞬停止し、至近弾の衝撃で大きく破れたズボンの穴から血の塊と供に零れ落ちた千切れた海綿体と二つの睾丸と後、何だか解らない液体を他人事の様な表情で見ていた。数瞬後、遮断されていた神経が復旧すると怪鳥のような悲鳴を挙げて股間を押さえ、失った物を拾い集めながら床を転げまわった。
「このアマぁ!」
エルマの右に座っていた男も立ち上がって大型ナイフを抜こうとするが、それよりも速くエルマの左手が閃き、右腰に伸びてショートソードを引き抜き『鍔より前、左右の刀身側面に沿う様に取り付けられた単発銃の撃鉄を起こし護拳の手前に有る引き金を引いた』。……刀身の左右に単発銃身が取り付けられた特製の短剣だ。
又しても店内を揺るがす轟音。
撃発された仕込み拳銃の45口径は違う事無く男の眉間の真ん中に吸い込まれ、顔面に風穴を開けた後、後頭部から脳漿を派手に撒き散らした。
衝撃で眼窩から両眼がドロリとはみ出る。
首が直角に後ろに折れ、鼻と耳から鮮血を迸らせて仰向けに倒れる。
男が倒れるさまは糸の切れた人形を見ているようにスローモーションだった。
首が不自然な方向に折れている。
やがて間欠泉のように口からドス黒い粘りの有る血が吹き出る。
右手に拳銃、左手に仕込みショートソードを構えて何れの銃口も残りの一人に照準を合わせると必要以上にゆっくりとしたモーションで撃鉄を起こした。
その男は拳銃などという武器がこの世に存在する事を全く知らなかったが、自分の命を一発で消し去る能力を持っている事を、二人があっという間に屠殺される瞬間を目撃した事で充分に思い知っていた。
歯をガチガチ鳴らしながらブロードソードを構えていた。
足元には小便を漏らした跡と思われる、鼻を突く溜まりを作っていた。
「掛かって来い」
抑揚の無い調子でエルマはそう言うと、一歩踏み出した。
「……っ!」
男は20代前半位の若者だったが、痴呆に罹ったように涎をだらしなく垂れさせながら鉛のように重くなった両足を3歩後退させた。
「男だろ?根性見せろよ?」
「す、すみませんでしたーっ!」
男は剣を床に落としてその場に跪いて許しを乞う。
「こ、こ、これ、からは、こ、心を入れ替えますっ! い、田舎に帰って実家のて、手伝いを」
男の言葉の最中にエルマは拳銃の引き金を引いた。
男は脳天から頭蓋骨を粉砕して高速で侵入してきた熱い45口径に脳髄を完膚なきまでに破壊されて絶命した。
頭を地面に打ち付けて尻だけを突き出した無様な死体が出来上がった。
文字通り目玉を飛び出させ、頭部の骨片と血飛沫を撒き散らし、鼻と耳と口から血を吹いた。
この男の荒くれた短い人生を飾るに相応しい最期だった。