そして紫煙は香る
機材を乱雑にボストンバッグに収める。
収集したデータが収まったSDカードは後で機材から抜くからそのままだ。
薬室に対人榴弾を装填。
窓枠に対人榴弾を3個並べる。
そっと左手で左脇を押さえる。ジャンパーの上からでもその安心感は実感できた。確かに相棒のモーゼル・パラベラムを連れてきた。
滑り込むように、ベンツが店舗兼住宅の前に停車する。
窓ガラスを開けて頭のキャンバスを跳ね除けて、無造作に引き金を引く。
的がでかい。距離が近い。狙う必要は無い。
シャンパンの栓を、低くくぐもらせたような砲撃音と供に吐き出された弾頭がベンツのボンネットに命中する。
深夜の空気を汚す爆発音。ベンツはボンネットを派手に吹っ飛ばし、車体を大きく揺らした。
対人榴弾はガラス片と供に運転手を一瞬で殺害する。運転手は上半身に無数のベアリングを叩き込まれて巨大なヤスリで削ったような肉の塊になって果てる。
M79グレネードランチャーの薬室を開放して排莢。そして再装填。
今度は正面入り口に向けて砲撃。
砲身も切り落としてあるために照準は使えない。
だが、絶対に外さない距離。動かない標的。
再び間抜けな砲撃音。正面の出入り口が完全に破砕されてガラス片が飛び散る。
もう1発、叩き込む。
正面出入り口に近付くのは危険というジェスチャーだ。
それが伝わったのか、2階3階の全ての窓に灯りが点く。両隣の店舗兼住宅へ飛び移る影も見当たらない。
念入りにもう1発、叩き込む。
今度は正面に停められた、もう動く気配が無いベンツに向かって。遁走にあらゆる自動車は使えないという無言の恫喝。
機材を詰めたボストンバッグ脇の小さな手提げ袋を手に取る。
そこには5発の40mm砲弾が詰まっている。
まだ砲撃していない対人榴弾を掴んで、右手にM79グレネードランチャーを携え、潜んでいた建物を飛び出る。
急いで建物の裏口から正面に廻り、真正面の後援会事務所窓口に立ちはだかると、涌いて出る様な三下に向けて砲撃。距離は10mもない。
アーケード街なので光源には困らない。
砲撃を只管繰り返す。この砲撃が派手な花火と成ればいい。
幹部を殺しては駄目だ。
後援会事務所窓口の建物の通りに面する一面、全てに万遍無く砲弾を叩き込む。
ガラスや建材が粉々になり、アスファルトの地面に降り注ぐ。M79グレネードランチャーは室内では使えない。
ここで全弾、撃ち切る。
撃ち尽くすと手提げ袋にM79グレネードランチャーを突っ込んで、無造作に足元に置く。
このM79グレネードランチャーもレンタル屋で借りてきた。尤も、武器専門のレンタル屋だが。
玄関のドアの木枠が小さな炎で燻る。
焦げ臭い。鼻を突く。煙が立ち込める。
その中に歩みを進める。
これだけの煙と小さな炎で燻されているのに、火災報知器が作動している様子は無い。その不徹底だけでもこの建物は『世間から叩かれるべき』だ。
奥の方で喚き声が聞こえる。
モーゼル・パラベラムを抜いてセフティをカットし、トグルジョイントをおもむろに引く。薬室に実包が送り込まれる。
このフロアの床に血痕はあっても、死体や負傷者は転がっていない。このフロアの蛍光灯は先ほどの砲撃で粉々に砕かれて、薄暗い。
奥まった廊下から漏れる光源で、辛うじて足元を確保できている。
ガラス片を踏みしめながら2階へ通じる廊下へ向かう。
「この野郎!」
突然、脇差を振りかぶった、頭から血を流した男が襲い掛かる。
階段へと折れる角で潜伏していたらしい。
だが、焦らない。
虚を衝かれない。
この男の吐息は聞こえていた。
消そうともしない殺気が溢れている。
男の振りかぶった脇差を持つ左手の肘を頭上で押さえ、一瞬固定させると、男の左胸にモーゼル・パラベラムを押し付けて引き金を引く。
くぐもった銃声。
男の灰色をしたスーツの上からの発砲だったために、銃声がある程度吸収されてマズルフラッシュも胸で阻害された。
男は目を剥いたまま仰向けに崩れる。
発砲と同時に手首に嫌な音が伝わる。
直ぐに左手でモーゼル・パラベラムのコッキングピースを引き絞る。 エジェクションポートが、噛み込んでいた空薬莢が排出されて新しい実包が送り込まれる。
モーゼル・パラベラムはショートリコイルする機構だ。
銃身を押し付けて発砲すれば、ショートリコイルの動作が阻害されて作動不良を起こす。そうなればコッキングピースを引けば大体の場合、復旧する。
三下3人。準幹部2人。幹部1。情婦らしいのが2人。
今し方、赤銅色のバッジを襟に付けた準幹部と思われる男を始末した。
上階へ進む。気配が渦巻く。蛍光灯が赤々と点る。
ドア。
店舗兼住宅なのでこのフロアと上階は住宅部分だ。
砲撃の煙がこの階に階段部分から吹き込んでくる。
気配だらけ。
無造作に右手側のドアに向かって発砲。2発発砲。
木製のドアに孔が穿ち、その向こうで呻き声と供に肉袋が落ちるような音が聞こえた。
ドアの向こうを確認。
6畳間の和室。
ドアの足元付近でジャージ姿の男がうつ伏せに倒れている。右手に38口径6連発の短い銃身をした輪胴式を握っている。
部屋は男臭く、散らかっていたが人気はほかに無い。
更にクリアリングを続ける。
「…………怪しいね」
思わず口から零れる。
正面5mの辺りに左手側にドアがある。右手側には風呂トイレに繋がる廊下。その水廻りの付近には一坪ほどの倉庫がある。
左手側のドアが『静か過ぎる』。
怪しい。
人の気配よりも、そのロケーションが怪しかった。
明らかに誰かが潜んでいる。
右手に保持していたモーゼル・パラベラムを無造作に発砲。
ドアのノブを吹き飛ばす。……途端。
短機関銃の銃声が吼える。
ドアの向こうで待ち構えている人間が居た。
三下か準幹部か。それは分からない。少なくとも待ち構え方からして素人だ。
あからさまに怪しかった。美殊も自分ならここで待ち伏せするだろう。尤も美殊の場合は足止めという意味での待ち伏せだが。
短機関銃はドアにミシンで縫ったような弾痕を作って、瞬く間に弾倉が空になる。
向かいの壁には貫通した銃弾がめり込んでいる。
衝撃でたわんで開いたドアの向こうからは、小さな罵声を吐きながら男が再装填に手間取っていた。
素早く距離を詰めてドアの奥を覘く。
「!」
「ハイ……」
男の顔が引き攣る。男は言葉を失う。
三下の若い男。手にしたサプレッサー無しのイングラムM11を一拍遅れて構え直す。弾倉は差し込まれていない。
冷静にモーゼル・パラベラムの引き金を引く。
乾いた銃声。室内の建材に吸い込まれる。
空薬莢が木目調の廊下に転がる。
イングラムM11の男は喉仏に9mmパラベラムの直撃を受けて首を直角に折り、衝撃で仰向けに倒れる。
「……!」
背後に殺気。途轍もない。
大きい殺気ではなく、鋭い殺気。
突き刺さるような殺気。
振り向き様に発砲。
弾倉に残っている実包を全て吐き出す。
牽制。それが精一杯。
腹に響く銃声。
銃弾が中空で交差し『そこに居た人物が放った銃弾』で美殊は肝を冷やされる。
振り向き様に視た。
女だ。
コルト・ピースキーパーを握った女がこちらを睨んでいた。
「!」
直ぐに廊下の奥に飛び込んで、床を這うように回転して右手側の倉庫へ通じる廊下に逃げ込む。
美殊の、その足元を銃弾が縫う。
甲高い銃声。マシンピストル。
射手の姿をちらりと見た。
女だ。3階に居たはずの……誰かの情婦だと思っていた女の姿。それは一端の遣い手だった。
収集したデータが収まったSDカードは後で機材から抜くからそのままだ。
薬室に対人榴弾を装填。
窓枠に対人榴弾を3個並べる。
そっと左手で左脇を押さえる。ジャンパーの上からでもその安心感は実感できた。確かに相棒のモーゼル・パラベラムを連れてきた。
滑り込むように、ベンツが店舗兼住宅の前に停車する。
窓ガラスを開けて頭のキャンバスを跳ね除けて、無造作に引き金を引く。
的がでかい。距離が近い。狙う必要は無い。
シャンパンの栓を、低くくぐもらせたような砲撃音と供に吐き出された弾頭がベンツのボンネットに命中する。
深夜の空気を汚す爆発音。ベンツはボンネットを派手に吹っ飛ばし、車体を大きく揺らした。
対人榴弾はガラス片と供に運転手を一瞬で殺害する。運転手は上半身に無数のベアリングを叩き込まれて巨大なヤスリで削ったような肉の塊になって果てる。
M79グレネードランチャーの薬室を開放して排莢。そして再装填。
今度は正面入り口に向けて砲撃。
砲身も切り落としてあるために照準は使えない。
だが、絶対に外さない距離。動かない標的。
再び間抜けな砲撃音。正面の出入り口が完全に破砕されてガラス片が飛び散る。
もう1発、叩き込む。
正面出入り口に近付くのは危険というジェスチャーだ。
それが伝わったのか、2階3階の全ての窓に灯りが点く。両隣の店舗兼住宅へ飛び移る影も見当たらない。
念入りにもう1発、叩き込む。
今度は正面に停められた、もう動く気配が無いベンツに向かって。遁走にあらゆる自動車は使えないという無言の恫喝。
機材を詰めたボストンバッグ脇の小さな手提げ袋を手に取る。
そこには5発の40mm砲弾が詰まっている。
まだ砲撃していない対人榴弾を掴んで、右手にM79グレネードランチャーを携え、潜んでいた建物を飛び出る。
急いで建物の裏口から正面に廻り、真正面の後援会事務所窓口に立ちはだかると、涌いて出る様な三下に向けて砲撃。距離は10mもない。
アーケード街なので光源には困らない。
砲撃を只管繰り返す。この砲撃が派手な花火と成ればいい。
幹部を殺しては駄目だ。
後援会事務所窓口の建物の通りに面する一面、全てに万遍無く砲弾を叩き込む。
ガラスや建材が粉々になり、アスファルトの地面に降り注ぐ。M79グレネードランチャーは室内では使えない。
ここで全弾、撃ち切る。
撃ち尽くすと手提げ袋にM79グレネードランチャーを突っ込んで、無造作に足元に置く。
このM79グレネードランチャーもレンタル屋で借りてきた。尤も、武器専門のレンタル屋だが。
玄関のドアの木枠が小さな炎で燻る。
焦げ臭い。鼻を突く。煙が立ち込める。
その中に歩みを進める。
これだけの煙と小さな炎で燻されているのに、火災報知器が作動している様子は無い。その不徹底だけでもこの建物は『世間から叩かれるべき』だ。
奥の方で喚き声が聞こえる。
モーゼル・パラベラムを抜いてセフティをカットし、トグルジョイントをおもむろに引く。薬室に実包が送り込まれる。
このフロアの床に血痕はあっても、死体や負傷者は転がっていない。このフロアの蛍光灯は先ほどの砲撃で粉々に砕かれて、薄暗い。
奥まった廊下から漏れる光源で、辛うじて足元を確保できている。
ガラス片を踏みしめながら2階へ通じる廊下へ向かう。
「この野郎!」
突然、脇差を振りかぶった、頭から血を流した男が襲い掛かる。
階段へと折れる角で潜伏していたらしい。
だが、焦らない。
虚を衝かれない。
この男の吐息は聞こえていた。
消そうともしない殺気が溢れている。
男の振りかぶった脇差を持つ左手の肘を頭上で押さえ、一瞬固定させると、男の左胸にモーゼル・パラベラムを押し付けて引き金を引く。
くぐもった銃声。
男の灰色をしたスーツの上からの発砲だったために、銃声がある程度吸収されてマズルフラッシュも胸で阻害された。
男は目を剥いたまま仰向けに崩れる。
発砲と同時に手首に嫌な音が伝わる。
直ぐに左手でモーゼル・パラベラムのコッキングピースを引き絞る。 エジェクションポートが、噛み込んでいた空薬莢が排出されて新しい実包が送り込まれる。
モーゼル・パラベラムはショートリコイルする機構だ。
銃身を押し付けて発砲すれば、ショートリコイルの動作が阻害されて作動不良を起こす。そうなればコッキングピースを引けば大体の場合、復旧する。
三下3人。準幹部2人。幹部1。情婦らしいのが2人。
今し方、赤銅色のバッジを襟に付けた準幹部と思われる男を始末した。
上階へ進む。気配が渦巻く。蛍光灯が赤々と点る。
ドア。
店舗兼住宅なのでこのフロアと上階は住宅部分だ。
砲撃の煙がこの階に階段部分から吹き込んでくる。
気配だらけ。
無造作に右手側のドアに向かって発砲。2発発砲。
木製のドアに孔が穿ち、その向こうで呻き声と供に肉袋が落ちるような音が聞こえた。
ドアの向こうを確認。
6畳間の和室。
ドアの足元付近でジャージ姿の男がうつ伏せに倒れている。右手に38口径6連発の短い銃身をした輪胴式を握っている。
部屋は男臭く、散らかっていたが人気はほかに無い。
更にクリアリングを続ける。
「…………怪しいね」
思わず口から零れる。
正面5mの辺りに左手側にドアがある。右手側には風呂トイレに繋がる廊下。その水廻りの付近には一坪ほどの倉庫がある。
左手側のドアが『静か過ぎる』。
怪しい。
人の気配よりも、そのロケーションが怪しかった。
明らかに誰かが潜んでいる。
右手に保持していたモーゼル・パラベラムを無造作に発砲。
ドアのノブを吹き飛ばす。……途端。
短機関銃の銃声が吼える。
ドアの向こうで待ち構えている人間が居た。
三下か準幹部か。それは分からない。少なくとも待ち構え方からして素人だ。
あからさまに怪しかった。美殊も自分ならここで待ち伏せするだろう。尤も美殊の場合は足止めという意味での待ち伏せだが。
短機関銃はドアにミシンで縫ったような弾痕を作って、瞬く間に弾倉が空になる。
向かいの壁には貫通した銃弾がめり込んでいる。
衝撃でたわんで開いたドアの向こうからは、小さな罵声を吐きながら男が再装填に手間取っていた。
素早く距離を詰めてドアの奥を覘く。
「!」
「ハイ……」
男の顔が引き攣る。男は言葉を失う。
三下の若い男。手にしたサプレッサー無しのイングラムM11を一拍遅れて構え直す。弾倉は差し込まれていない。
冷静にモーゼル・パラベラムの引き金を引く。
乾いた銃声。室内の建材に吸い込まれる。
空薬莢が木目調の廊下に転がる。
イングラムM11の男は喉仏に9mmパラベラムの直撃を受けて首を直角に折り、衝撃で仰向けに倒れる。
「……!」
背後に殺気。途轍もない。
大きい殺気ではなく、鋭い殺気。
突き刺さるような殺気。
振り向き様に発砲。
弾倉に残っている実包を全て吐き出す。
牽制。それが精一杯。
腹に響く銃声。
銃弾が中空で交差し『そこに居た人物が放った銃弾』で美殊は肝を冷やされる。
振り向き様に視た。
女だ。
コルト・ピースキーパーを握った女がこちらを睨んでいた。
「!」
直ぐに廊下の奥に飛び込んで、床を這うように回転して右手側の倉庫へ通じる廊下に逃げ込む。
美殊の、その足元を銃弾が縫う。
甲高い銃声。マシンピストル。
射手の姿をちらりと見た。
女だ。3階に居たはずの……誰かの情婦だと思っていた女の姿。それは一端の遣い手だった。