証明不可のⅩ=1

 そのお陰で『エサのはずの魅力的な報酬』が実際に懐に入ってくるのだから楽な仕事だった。
 いつの間にか、遊離感や非現実感は消え去って、ニコチンへの渇望だけが一番の望みとなっていた。
    ※ ※ ※
 亀頭へのキスから始まるフェラチオ。
 小さく唇を窄めて小鳥がついばむように、これから奉仕する男根へ『挨拶』をする。
 面倒な前置きのインタビューは既に終わった。
 今日の撮影は口唇奉仕での口内射精でフィニッシュと決まっている。
 清純なイメージを崩さない為の衣装はスタイリストが選んでくれた。セミロングを少しボーイッシュに印象付ける為に今日は白いカッターシャツに灰色のスラックスをサスペンダーで吊るしている。
 雰囲気のアクセントに赤い縁の伊達眼鏡。
 詩織としては、眼鏡は最終的に邪魔になるので余り好きではない。セックスの最中では震動が激しすぎて、眼鏡が上下にずれるし、今日のようなフェラチオがメインだとフィニッシュ近くの激しい吸い込みで眼鏡が前後にずれる。
 亀頭へのキスが終わると、遠慮気味に舌先を鈴口に押し当てて尿道口を擽る。
 まだ男優の竿は充分に勃起していない。
 竿役の傍でインタビュー役の男がカメラを保持しながら、色々と指示を出す。
 今では耳元で五月蝿いだけの、この指示のお陰で詩織は男の性感帯を細部に渡るまで研究し、覚える事が出来た。
 舌を長く這わせて裏筋の根元から先端へ向かって、何往復か舐め挙げる。
 裏筋の延長にある雁首の襟を舌先で小さく擽ると、ようやく男根に充血の色が見え始めた。
 その機会を見逃さず、大きく息を吐いて、窄めた唇から男の膨張しつつある先端をゆっくりと、やや強めのバキュームで吸い込む。
 まだ充分に竿は濡れていない。
 充分に口中に分泌させた唾液で湿りを帯びさせながら、竿全体を吸い込む。
 頭の上で男が小さく呻くような荒い息を吐いた。
 ベッドの上で男優が仰向けになった状態で、詩織が衣服を着たままの奉仕。
 右手は竿にぶら下がる睾丸を胡桃でも弄ぶように優しく握り、左手は精一杯伸ばして男の右乳首を愛撫する。
 バキュームで口の中に全てを吸い込んだまま、喉の奥を操作して咽頭の軟口蓋周辺の筋肉で、熱と硬度を帯び出した男根を締め付ける。
 臍まで反り返りそうな長大で太いモノ。
 それを完全に飲み込んで、ディープスロートで愉しませるには詩織の小さな喉の構造では無理だった。
 シックスナインでも難しかった思い出があるゆえに、詩織には喉の最奥で男を悦ばせる事が苦手になったのだろう。
 その分、小技を織り交ぜたストレートなフォラチオで魅せるしかない。
 男優に快楽を与える事よりも、カメラの向こうに居る好きモノの人間を悟られないように意識することにした。
 大きく深く剛直を吸い込む。
 そして吸い上げる。また、吸い込む。
 ゆっくりとしたストローク。右手は唇の下に宛がう。
 人差し指と親指で輪を作り、竿の周囲を優しく囲う。
 左手が男優の肛門付近から玉筋を擽るように撫で、間断無い刺激を与える。
 今回は詩織にギャラ以外の甘味は無い。口内に射精させる事がメインだ。
 時折、その場の流れで男優が交代して本番を行う事が有るが、別にギャラが発生するので文句は無い。
 今は熱心に『慣れて間もない素人の未熟なフェラ』を演技する。
 演技でなくとも、自然と体の奥が熱くなり、瞳が潤んで額に薄っすらと汗が浮かぶ。前髪が額に貼り付く。
 ただ吸い込んで舐め上げて唇で押さえながら、喉の奥まった部分で男根を舐るだけでは芸が無いので、唇を密着させたままねっとりとした動作で裏筋を唇で撫でながら下降させる。……垂れ下がる睾丸を責め始める。
 唇の感触では睾丸はしっとりと濡れていた。
 程よい重量感。表面がほんのりピンク色で可愛らしい。
 思わず詩織は頬の端に微笑を浮かべる。
 頭の中をカウパーの味で早くも攪拌されたらしい。セックスよりもフェラチオで奉仕する事が好きだ。
 一方的に責められる『弱者』を演じるよりも、一方的に責める『強者』の方が興が乗る。
 詩織自身の呼吸も自ずと荒くなる。
 荒い呼吸は口中を益々高熱にさせ、男の硬いモノを射精感へと誘う。舌先はやがて、睾丸全体を嘗め回す。
 舌先はチロチロと筋の前後を這いながら、唾液を充分に分泌させて玉の全体をぬらりと湿らせる。右手は熱く滾る竿を優しく握って上下に少し速い速度でピストン。
 この時に人差し指を立てて、中指から小指と親指を用いて握る。
 この方が素人臭くて受けがいい。
 左手は亀頭の先端を掌の内側で優しく撫で回す。小さな動物の頭を撫でるのに似た手つき。
 睾丸全体を充分に湿らせると、今度はその熱した炉のような口の中に徐に吸い込み、直ぐに舌と唇だけで押し出す。
 そしてぬるっと、口の中に吸い込む。
 先ずは右の睾丸を吸い込んだり押し出したり……。ゲル過多で厚手のコンドームの中に入った鶉の卵をイメージして絶対に過剰な圧力を掛けないように気を配る。
 右の睾丸を口に含み、舌全体を使って執拗に転がしながら軽いバキューム。
 それが終わると左の睾丸も同じく愛撫。
 右手で握る剛直が熱を更に帯びる。掌に拍動が伝わる。力強く脈を打つ20cmを超える赤黒い男根が逞しく愛しく思える。
 この不思議な感覚が好きだきだ。
 仕事だけのドライな性交と割り切っていても、いつの間にか目の前の男が……男性自身が愛らしく可愛らしく思えてしまう。
 顔がどんなに不細工でも、唇同士の唾液の交換や舌の吸い合いも進んでしてしまう。
 その現象は愛液と精液と汗が交じり合い、雄と雌の匂いが拍車を掛けたものを吸い込んで、一時的に知覚器官が錯覚を起こしているだけだと解っていても、酔うほどに濃厚なフェロモンの効果に脳味噌が蕩けてしまいそうだ。
 不思議な、理屈が解っているのに実に不思議な体験をしたくてこのバイトをしている部分もある。
 左掌の内側が自分の唾液で濡らした物とは別の粘液を察知する。
 先走りが溢れ出ている。
 口から睾丸を離し、口内で練り上げた唾液を左掌に落としてそれを亀頭に練りつける。
 淫らな粘液質な音が大きく聞こえるように、少し荒く亀頭を撫でる。再び、睾丸を口に含む。
 今度は少し無理をして両方の睾丸を一気に丸呑みする。
 唇の端が破れるかと思うほどに口の中が一杯になる。
 舌を動かそうにも、睾丸下部を舐りつけるだけで精一杯。詩織自身、呼吸が荒くなる。鼻腔から熱い息が溢れる。
 その熱い息が男優の根元に当たり、見せるために整えられた剛毛がフサっと揺れる。
 睾丸への愛撫を止めて、口から大きく膨張したように錯覚したそれを抜く。
 ちゅるんと音を立てて、唾液で唇と睾丸が繋がる。
 舌で唇を舐めてその繋がりを払う。
 悪戯っぽい笑顔。
 若しかしたら悪魔的な微笑かもしれない。
 その淫猥な表情のまま、今度は大胆に亀頭から全てを丸呑みにする。充分に熱くなった男根。
 頬の肉や舌の筋肉、歯茎も使い、射精へ向けて最後の大仕事へと向かう。
 最初はゆっくりと往復。
 10秒もしないうちに、強めのバキュームと絡みつく舌を駆使して激しい往復へと変化する。
 右手の指で作った輪で、唇の下に添えて唇の動きに合わせて往復運動。左手は睾丸全体を掌で覆い、手の体温で弄ぶ。
 男優の呼吸が一層荒くなるのに3分も掛からなかった。
 過呼吸を起こしそうなほど、呼吸が苦しい。
 頭の中が白く濁り始める。口全体が性器になった錯覚。
 単純で激しい往復の所為で目が廻る。
 一層、熱に浮かされる頭脳。
 正常な思考を放棄した頭脳。
 男の精を口で受ける事しか考えていない……否、考えると言うよりも本能で感じているだけだ。
 頭の中が、自らの激しいストロークで原形を留めないほどに掻き回される。
 男の射精が近付く。彼に合わせるように、速度を上げる。
 早く終わらせたいのではない。早く口で精液を感じたい一心だ。
 自分の思考が淫猥に沈んで、ふしだらな感情に支配されている危機感が無い。
 感情が昂ぶるにつれてより激しくなる。
 男もベッドで仰向けの状態なのに自ら腰を振り出し、更なる快楽を求めようとする。
――――あ……。
 目の前が白くなった。混濁の底に一瞬で陥った。
 その瞬間に口の中に熱湯のように熱い何かが広がる。
 生理的反応で、呼吸のタイミングを計る。下手をすれば気道にその熱い迸りが叩きつけられて一日中、喉の不快感に悩まされるのを刹那に思い出したからだ。
 男優の腰が小刻みに震える。
 詩織の口の中に遠慮無く吐き出された精液。
 詩織は男の小さな痙攣が納まるまで、鼻で呼吸を整えながら霞んだ目で呆然とする。
 口の中にまだまだ、精液は放出される。
 熱い湯で塩を溶いた片栗粉に似た舌の上の感触。
 空気に触れた途端、このかき混ぜたゼリーのような液体は酸化して特有の匂いに変化する。
 鼻腔の奥を激しく陵辱するこの匂いが大好きだ。
 この瞬間のために詩織は今日の全力を用いた。
 男優の腰が脱力して止まる。
 詩織は徐に右手の指先で睾丸の後部、肛門との中間辺りを押さえてゆっくりと亀頭側に向かって撫で上げる。
 すると、尿道に残っている精子が押し出されて吸い易くなる。
 睾丸の筋の部分だけは優しく丁寧に撫でて、竿の根元から再び強めに押しながら、亀頭へと精子を外部からの圧力で送る。
 この精液は残念ながらまだ飲み下す事を許されない。
 一滴残らず吸い出し、強烈なバキュームキスで亀頭の先端から別れる唇。唇と尿道口とが粘液で繋がる。……切れた糸が唇の端に垂れ下がる。
 この後に何をするのかは心得ている。
 口に精子を溜めたまま面倒なインタビューもどきを受けて飲み下すのだ。
 口を開けて自由に喋られない表情もまた、観ている側からすれば愉しみの一つだ。
 インタビュー役の男が何かあれこれと語りかけるが、覚めつつある心で営業用の受け応えをする。
 しっかりと喋られない。無理に喋ろうとすると口の中で唾液と精液が混ぜ合わされてトロ味がなくなってくる。
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