証明不可のⅩ=1
「皆殺しにしたら?」
「ボーナスが出るわ」
「勝利条件は?」
「現場を荒らして『痛い目を見させる』こと。これを繰り返して警告の代わりにする……気でしょ」
「実情は?」
「……本丸を見定められない焦り、かな」
「素人の方が圧倒的に多いのに、それで玄人がもぐら叩き? 悪い冗談ね。警察が黙っていないわ。その点は?」
「警察への賄賂の金策で支配者様は忙しいみたい。警察幹部の遠縁に政略結婚を『隠して仕組んで』弱みを握ろうとしている動きも有る……らしいわよ」
「……解ったわ」
眉間に浅い皺を寄せる。短くなったハンデルスゴールド・バニラをブリキの灰皿に放り込んで蓋をする。
「その仕事、貰ったわ。手配して。早い者勝ちなんでしょ?」
「じゃ、早速」
ゆかりはエクレアのクリームで汚れた指先を布巾で拭って、いつものジャージのポケットからスマートフォンを取り出し、幾つかの操作をする。
「今の『混雑』は中程度。1時間後には返信が来るわ。返信先のアドレスは詩織の携帯でいい?」
「お願い」
エクレアと牛乳を胃袋に収めたゆかりは、詩織の部屋には何も用件が無かったと言うような無関心の顔で、猫背気味の歩き方でスタスタと詩織のハイツを出た。
「!」
ゆかりが出て行って数秒後に思い出す。
詩織は自分の携帯電話を取り出してスケジュール管理のアプリを起動させる。
「……」
――――あちゃー。
明日の午前9時から撮影が入っていたのを失念していた。
今更キャンセルは出来ない。1時間後に携帯電話に舞い込むメールの内容次第では明日は『急な体調不良』で撮影を休ませてもらう羽目になる。
撮影はバイト感覚だが、撮影に携わる人間達はバイトではない。
れっきとした職業だ。プロだ。
そのプロが予定に穴を開けられるのは、女優の管理が出来ていないと叱責される事態だ。
仮病で撮影スタッフが上司から怒鳴られるのは可哀想だと、気分が沈んでしまう。
次にメール着信のバイブが作動するまで、苛立ちを消す為に2本のハンデルスゴールド・バニラを灰にした。
長い1時間だった。
翌日。午前9時。
結局、最悪の事態は避けられた。
ダブルブッキングが避けられたのは運が良かった。
撮影スタッフは誰も予定に穴を開けられなかった。
組織Ⅹの末端の取引を妨害するのは、本日の深夜……日付が変わって午前0時。……それまでには充分に撮影が終わる。
本日の撮影は珍しく最初から全裸だった。
AV撮影で多用される一般家屋を模したスタジオで、詩織が拠点にしている街よりも車で30分ほど離れた山間部に有る現場だった。
この辺りはTVの再現ドラマなどにも使われるので、割りとメジャーな撮影現場だった。
似たような造りの家屋が5軒、密集している。
山間部の、小さな開けた場所。
家屋の風のスタジオは、新興住宅のそれなのに10mも離れれば高いフェンスが立てられており、その向こうは市が管理する雑木林で定期的に木々の枝が切り落とされている。
5軒の建物のほかには5mほど離れた位置に、ライフラインを纏める事務所。
家屋内部での撮影なのだから、電気ガス水道電話線ネット回線は必要だ。
それらを纏めて管理するプレハブの事務所が近くに有る。
夏の暑い中、山間部を吹き抜ける風は涼しく、頬に心地よい。
少し前に散々騒がれたマイナスイオンの恩恵に与っているのを実感する。
ノースリーブのシャツに薄い生地のパステルオレンジのパーカーを着てきたが、撮影のために全裸になる。
儀式のようにシャワーを浴びて、エアコンが良く効いた部屋でスポーツドリンクを呷って水分と塩分を補給する。
撮影スタッフが持参したクーラーボックスには経口補水液や冷却材が入っている。
万が一から女優を守るためだ。それだけ今日の撮影はハードなのだ。
素人女優である詩織の今日のシナリオはA4の紙一枚。
軽い手扱きから、唾液を垂らして笑顔を浮かべて男優に卑猥なを恥ずかしそうに語りかけ、徐々に胸で挟んで挟射に導き、最後はお掃除フェラと言う流れ。
所謂、パイズリ物だ。
これは実は女優が一方的に体力を消耗する事が多い。
女優が仰向けになって男優が跨り、胸に男根を挟んで男優が勝手に腰を振るのなら簡単だが、今回は男優が仰向けになり、ベッドの隅の角で膝をつく。その体勢で屹立した男根を弄び、胸に挟んで自らが体を上下に跳ねるのだ。
左右から胸の肉越しに圧力をかけて肉感を愉しんでもらうためにも、胸の肉を寄せるために腕力も使う。
しかし、こう言ったフェチズムの成分が多い動画は受けが良い。
熱狂的なマニアが何としても手に入れるべく金を落とすからだ。
そして固定ファンが付けば、詩織自身のギャラも高くなる。
尤も、ギャラは高くなりすぎると、雇い難いので敬遠される傾向が有るので諸刃の剣だ。
撮影スタッフが退いて、本番が始まる。
セックスと言う意味での本番ではない。撮影開始だ。
「よろしくお願いしまーす」
と、舌足らずな演技で男優に挨拶をする。
この撮影自体にストーリーは無い。
射精産業の一翼を担う動画が撮影できればそれで良い。
演技力が試されるインタビューも無し。少し呼吸を整える。
開脚したまま膝下をだらりとベッドの縁から垂らした男優の股間に四つん這いでそろりそろりと近付く。
だらしなく垂れた戦闘準備が整っていない男根。
実に可愛らしい光景だ。これを今から手と胸だけで隆々と勃起させるのかと思うと意欲が湧く。
右手で軽く萎れている男根を掌で包む。
掌の熱でほんのりと温めてやればその気になってくれるだろうか?
左手は早くも垂れ下がる睾丸の下辺りを指先で擽る。時には筋に沿って、指先を触れるか否かの絶妙なタッチで前後させる。
……優しく扱っていると思わせて、不意に左掌全体で睾丸を包み込んで、弄ぶように揉む。
男性は睾丸を乱雑に扱うと精巣捻転を起こし、1時間以内に救急処置を施さなければ死に到ると聞いているので、睾丸には最大の敬意を払い、神経を使う。
口に含んで舌で転がす時にも決して乱暴に扱わない。
睾丸が左掌の熱に反応して収縮する。
男根がぴくりと動く。ほんの少し硬度を持つ。
右手の中でこれから大きく成長しようとするモノに、悪い笑顔で吐息を吹きかける。
亀頭から裏筋、根元まで熱い吐息を吹き付ける。
まだ半分、皮を被ったままで硬度が足りない男根の亀頭部に唾液を垂らして、指先で鈴口や皮と表面に出ている亀頭の境目を撫でる。
左手の中で睾丸がむずむずと動くのを察した。右手で保持しなくとも自立できるほどに男根が勃起する。
……竿として役目を果たすには未だ刺激が足りない。
緩いストロークで人差し指と中指と親指の腹で上下に扱く。
左手は尚も睾丸を責め立てる。
技に変化を付けるために、裏筋側の根元に軽く吸い付くキスを何度も浴びせる。この部分が弱い男性が多いらしい。この部位を刺激すれば10秒くらいで完全に勃起した男優も居た。
更に変化をもたらす為に、内太腿のリンパ腺が通る辺りにもキスをする。
女性でもクンニリングスの最中にここを不意打ちされると悦ぶ反応を示す。
撮影開始から10分経過。今日は45分ほどで終わる予定だ。
男根が徐々に硬度を増している。一気に勃起する様相を見せない。これがプロの男優だ。
カメラが回れば、背中に拳銃を突きつけられた状態でも勃起して射精できる度胸が求められる。
「ボーナスが出るわ」
「勝利条件は?」
「現場を荒らして『痛い目を見させる』こと。これを繰り返して警告の代わりにする……気でしょ」
「実情は?」
「……本丸を見定められない焦り、かな」
「素人の方が圧倒的に多いのに、それで玄人がもぐら叩き? 悪い冗談ね。警察が黙っていないわ。その点は?」
「警察への賄賂の金策で支配者様は忙しいみたい。警察幹部の遠縁に政略結婚を『隠して仕組んで』弱みを握ろうとしている動きも有る……らしいわよ」
「……解ったわ」
眉間に浅い皺を寄せる。短くなったハンデルスゴールド・バニラをブリキの灰皿に放り込んで蓋をする。
「その仕事、貰ったわ。手配して。早い者勝ちなんでしょ?」
「じゃ、早速」
ゆかりはエクレアのクリームで汚れた指先を布巾で拭って、いつものジャージのポケットからスマートフォンを取り出し、幾つかの操作をする。
「今の『混雑』は中程度。1時間後には返信が来るわ。返信先のアドレスは詩織の携帯でいい?」
「お願い」
エクレアと牛乳を胃袋に収めたゆかりは、詩織の部屋には何も用件が無かったと言うような無関心の顔で、猫背気味の歩き方でスタスタと詩織のハイツを出た。
「!」
ゆかりが出て行って数秒後に思い出す。
詩織は自分の携帯電話を取り出してスケジュール管理のアプリを起動させる。
「……」
――――あちゃー。
明日の午前9時から撮影が入っていたのを失念していた。
今更キャンセルは出来ない。1時間後に携帯電話に舞い込むメールの内容次第では明日は『急な体調不良』で撮影を休ませてもらう羽目になる。
撮影はバイト感覚だが、撮影に携わる人間達はバイトではない。
れっきとした職業だ。プロだ。
そのプロが予定に穴を開けられるのは、女優の管理が出来ていないと叱責される事態だ。
仮病で撮影スタッフが上司から怒鳴られるのは可哀想だと、気分が沈んでしまう。
次にメール着信のバイブが作動するまで、苛立ちを消す為に2本のハンデルスゴールド・バニラを灰にした。
長い1時間だった。
翌日。午前9時。
結局、最悪の事態は避けられた。
ダブルブッキングが避けられたのは運が良かった。
撮影スタッフは誰も予定に穴を開けられなかった。
組織Ⅹの末端の取引を妨害するのは、本日の深夜……日付が変わって午前0時。……それまでには充分に撮影が終わる。
本日の撮影は珍しく最初から全裸だった。
AV撮影で多用される一般家屋を模したスタジオで、詩織が拠点にしている街よりも車で30分ほど離れた山間部に有る現場だった。
この辺りはTVの再現ドラマなどにも使われるので、割りとメジャーな撮影現場だった。
似たような造りの家屋が5軒、密集している。
山間部の、小さな開けた場所。
家屋の風のスタジオは、新興住宅のそれなのに10mも離れれば高いフェンスが立てられており、その向こうは市が管理する雑木林で定期的に木々の枝が切り落とされている。
5軒の建物のほかには5mほど離れた位置に、ライフラインを纏める事務所。
家屋内部での撮影なのだから、電気ガス水道電話線ネット回線は必要だ。
それらを纏めて管理するプレハブの事務所が近くに有る。
夏の暑い中、山間部を吹き抜ける風は涼しく、頬に心地よい。
少し前に散々騒がれたマイナスイオンの恩恵に与っているのを実感する。
ノースリーブのシャツに薄い生地のパステルオレンジのパーカーを着てきたが、撮影のために全裸になる。
儀式のようにシャワーを浴びて、エアコンが良く効いた部屋でスポーツドリンクを呷って水分と塩分を補給する。
撮影スタッフが持参したクーラーボックスには経口補水液や冷却材が入っている。
万が一から女優を守るためだ。それだけ今日の撮影はハードなのだ。
素人女優である詩織の今日のシナリオはA4の紙一枚。
軽い手扱きから、唾液を垂らして笑顔を浮かべて男優に卑猥なを恥ずかしそうに語りかけ、徐々に胸で挟んで挟射に導き、最後はお掃除フェラと言う流れ。
所謂、パイズリ物だ。
これは実は女優が一方的に体力を消耗する事が多い。
女優が仰向けになって男優が跨り、胸に男根を挟んで男優が勝手に腰を振るのなら簡単だが、今回は男優が仰向けになり、ベッドの隅の角で膝をつく。その体勢で屹立した男根を弄び、胸に挟んで自らが体を上下に跳ねるのだ。
左右から胸の肉越しに圧力をかけて肉感を愉しんでもらうためにも、胸の肉を寄せるために腕力も使う。
しかし、こう言ったフェチズムの成分が多い動画は受けが良い。
熱狂的なマニアが何としても手に入れるべく金を落とすからだ。
そして固定ファンが付けば、詩織自身のギャラも高くなる。
尤も、ギャラは高くなりすぎると、雇い難いので敬遠される傾向が有るので諸刃の剣だ。
撮影スタッフが退いて、本番が始まる。
セックスと言う意味での本番ではない。撮影開始だ。
「よろしくお願いしまーす」
と、舌足らずな演技で男優に挨拶をする。
この撮影自体にストーリーは無い。
射精産業の一翼を担う動画が撮影できればそれで良い。
演技力が試されるインタビューも無し。少し呼吸を整える。
開脚したまま膝下をだらりとベッドの縁から垂らした男優の股間に四つん這いでそろりそろりと近付く。
だらしなく垂れた戦闘準備が整っていない男根。
実に可愛らしい光景だ。これを今から手と胸だけで隆々と勃起させるのかと思うと意欲が湧く。
右手で軽く萎れている男根を掌で包む。
掌の熱でほんのりと温めてやればその気になってくれるだろうか?
左手は早くも垂れ下がる睾丸の下辺りを指先で擽る。時には筋に沿って、指先を触れるか否かの絶妙なタッチで前後させる。
……優しく扱っていると思わせて、不意に左掌全体で睾丸を包み込んで、弄ぶように揉む。
男性は睾丸を乱雑に扱うと精巣捻転を起こし、1時間以内に救急処置を施さなければ死に到ると聞いているので、睾丸には最大の敬意を払い、神経を使う。
口に含んで舌で転がす時にも決して乱暴に扱わない。
睾丸が左掌の熱に反応して収縮する。
男根がぴくりと動く。ほんの少し硬度を持つ。
右手の中でこれから大きく成長しようとするモノに、悪い笑顔で吐息を吹きかける。
亀頭から裏筋、根元まで熱い吐息を吹き付ける。
まだ半分、皮を被ったままで硬度が足りない男根の亀頭部に唾液を垂らして、指先で鈴口や皮と表面に出ている亀頭の境目を撫でる。
左手の中で睾丸がむずむずと動くのを察した。右手で保持しなくとも自立できるほどに男根が勃起する。
……竿として役目を果たすには未だ刺激が足りない。
緩いストロークで人差し指と中指と親指の腹で上下に扱く。
左手は尚も睾丸を責め立てる。
技に変化を付けるために、裏筋側の根元に軽く吸い付くキスを何度も浴びせる。この部分が弱い男性が多いらしい。この部位を刺激すれば10秒くらいで完全に勃起した男優も居た。
更に変化をもたらす為に、内太腿のリンパ腺が通る辺りにもキスをする。
女性でもクンニリングスの最中にここを不意打ちされると悦ぶ反応を示す。
撮影開始から10分経過。今日は45分ほどで終わる予定だ。
男根が徐々に硬度を増している。一気に勃起する様相を見せない。これがプロの男優だ。
カメラが回れば、背中に拳銃を突きつけられた状態でも勃起して射精できる度胸が求められる。