44マグナム
理江の付近に着弾する見当違いの流れ弾すら確認できない。
撃鉄を起こす。
コンテナの角からアソセレススタンスで銃口を覗かせる。
左手をコンテナの角に密着させて固定する。依託射撃のスタンス。
闇夜に浮かぶ蛍光ドット。
サイトに刻んだ、暗がりでも咄嗟に照準を定め易くする蛍光塗料。
そのサイトの先には……銃口の先には警護要員。
呼吸、一拍。
その僅かな間に発砲。
撃鉄の何と軽い事か。
引き金の何と軽い事か。
人間を確実に死に到らしめるのに充分な破壊力を反動で思い知る。
人間の頭部をスイカのように砕く弾頭。
即ち、掌の中でそれだけの衝撃が発生している事に他ならない。
作用と反作用だ。
人間の頭蓋をも砕くエネルギーを掌で制御するのは、さしもの彼女でも上限が有る。
長丁場の発砲で無為な衝撃ばかりを体に吸収させるわけには行かない。
それだけ疲労が加速し、照準を定めるどころか愛銃を保持するだけでも大きな苦労になる。
合計4発の発砲。
4箇所に移動しての発砲。
銃火と発砲音が大き過ぎて、その場で居座っていると反撃を受け易くなる。
連中の拳銃は発砲音からして自動拳銃らしい。
仮に一般的な軍用拳銃弾の9mmパラベラムのフルメタルジャケットでも人間1人を無力化させるのに充分な威力を持つ。
速射が利いて弾倉交換が容易な分、更に数が多い分、連中の方が有利だ。
少しばかり理江の奇襲が序盤、成功しただけだ。
弾倉を開き、エジェクターロッドを軽く押す。
未使用の1発だけ左指で挟んで取り出してから、勢い良くエジェクターロッドを押す。
空薬莢が転がり出る。
同じく左手の小指と薬指の間に挟んでいたスピードローダーを空の薬室に宛がって軽く捻る。
それだけで6個の薬室が未使用の実包で埋まる。
掻き出したばかりの未使用の1発はハーフコートのハンドウォームに落とす。
8人中5人を確実に屠った。
直接脈を計ったわけではないが、確実に死んだ音がした。
頭や心臓に9mmパラベラムの3倍近い威力を持つ弾頭を叩き込まれてまともに呼吸が行える人類は理江の専門外だ。
残り3人。
ランチから降りた男は、フィールドコートの懐からマイクロUZIを抜き出し、トリガーハッピーに罹ったように乱射を続ける。
マイクロUZIは確かに優秀な短機関銃だ。
ある意味、マシンピストルよりも使い易いといえる。
だが、そのスプレーの如く9mmパラベラムを撒き散らす発射速度が仇になり、牽制以上の働きをしない。
……直ぐに弾倉が空になるのだ。
ハーフコートが汚れるのも気にせずに、地面に伏せてドラム缶の下部を遮蔽にした理江は乱射の流れ弾を除ける。
そのランチから下りた男を狙って撃つ。
距離にして50mほど。彼女の腕では問題は無い。
違える事無く、ランチから下りた男は左肩を撃たれて、小型ボートの上から独楽が回転するかのようなモーションで海中に身を投じる。
おとなしく小型ボートの中で頭を伏せていれば見逃してやったのに……。
理江の目標はこの場に居る【野川一誠会】の連中の皆殺しだけなのだ。
無意味な皆殺しではない。
自分と言う復讐者が『何者の姿も借りずにお前達を狙っている』と言うアピールを込めた皆殺しだ。
勿論、皆殺し自体、本題から逸れる。
本懐を遂げる為には玉置一の背後に潜む、あいつを目の前に引き摺り出すか、そいつの目の前に登場する必要が有る。
故に、そのランチから下りた客人はただのとばっちりを喰っただけの被害者だった。
残り2人。
きびすを返して自分達が乗ってきた乗用車に向かって走り出す。
今まで健気に連中が応戦してきた理由は、目立つ順から撃ち殺してきたので遁走を計る隙間を与えなかったからだ。
流石に残存戦力がここまで低下すると、増援を呼んでも間に合わないと判断したのだろう。
2人は2台の車に分かれて乗り込む。直線距離60m。力任せの44マグナムなら辛うじて打撃を与えられる。
並列に並ぶ国産の高級車の運転席を狙う。
右手側の乗用車。
2発、ゆっくりと叩き込む。
次に左手側の乗用車の運転席を狙う。
これもまた2発。
理江はすっくと立ち上がると小走りに走り出し、手元を見ずに再装填をする。未使用の実包は手探りで掻き出して空薬莢のみ捨てる。
未使用の実包はポケットに落とし、スピードローダーを押し込んで装填完了。
シリンダーを填め込むと、確実にラッチやギアが噛み合う心強く頼もしい感触が右手に伝わる。
運転席の後部を狙った2台の車。
そのまま運転席に座る運転手を撃ち殺したとは思っていない。
2発叩き込んで、その場に射竦める威嚇を行っただけだ。目論見通りに乗用車は発車せずに運転席から人の頭が伏せるのが見えた。
左手側の乗用車から男が転がり出るようにドアから飛び出して、自動拳銃を乱射する。
聞き慣れた9mmパラベラムの銃声だ。44マグナムと比べれば可愛い囀り。
車のドアを遮蔽にしていたその男はドアに命中した約16gの弾頭が貫通し、大きな擦過傷を左肩に作ってドアの陰から押し出される。
さしもの44マグナムの弾頭でも、それなりの硬さがある障害物を破壊した後、直進するのは稀なのだ。
威力が削がれた弾頭は男に肉を大きく削る負傷を負わせただけに留まる。尤も、その男は衝撃でドアの影から上半身を押し出してしまい、次弾で左腋下に重い弾頭を叩き込まれて絶命した。
その隙にもう一台の車がエンジンを掛け、アスファルトに焦げ臭い臭いを刻み込みながら急発進する。
理江は焦らずに腰を落としてカップ&ソーサーでS&W M29を構えて撃鉄を起こす。
空かさず発砲。
44マグナムの弾頭は右後輪をパンクさせる。
車体は大きく後部を振りながら係留柱にぶつかり、海中に落ちる寸前で止まる。エアバッグが作動する。
運転席に座っていた男は脳震盪を起こしたらしく座席から動く気配を見せない。
S&W M29をバラ弾で補弾しながら、唯一の生存者であると思われるその男に近付く。
運転席に無造作に近寄り、S&W M29の銃口を窓から差し込む。
「あー…………」
思わず声が出る。死にはしていない。
眼が虚ろで肩やハンドルに掛かる指先が小さく震えている。軽い脳震盪で一時的に運動神経が遮断されているだけだ。
体を横たえて首を固定して然るべき処置をすれば、数分もすれば正気に戻る。放っておいても命に別状は無い。
遠慮せずに男の懐を探る。
財布や携帯電話、運転免許証などを漁る。
使えそうなのは携帯電話と財布の中身の札だけだ。カード類はアシが付き易いので手を付けない。運転免許証も一応奪う。
同じく遁走を計った乗用車の運転手は既に死んでいる。その男の携帯電話も奪う。
簡単にアドレスやアドレスのフォルダ分けを見比べる。
アドレスの詳細を見なくとも、フォルダの序列を見ればどちらの男がより、序列が上なのか判断できる。
それを他の死体でも繰り返す。
勿論、最初にランチから降りた男と握手を交わした男の方がこの場で一番、序列と役職が上だった。
ランチに乗っていた男2人の正体は事前に情報屋から買った情報で判明している。……海外のマフィアの遣いっ走りで、当日は『どのような人種がどのような名前』で接触を図ってくるのか解らなかっただけだ。
撃鉄を起こす。
コンテナの角からアソセレススタンスで銃口を覗かせる。
左手をコンテナの角に密着させて固定する。依託射撃のスタンス。
闇夜に浮かぶ蛍光ドット。
サイトに刻んだ、暗がりでも咄嗟に照準を定め易くする蛍光塗料。
そのサイトの先には……銃口の先には警護要員。
呼吸、一拍。
その僅かな間に発砲。
撃鉄の何と軽い事か。
引き金の何と軽い事か。
人間を確実に死に到らしめるのに充分な破壊力を反動で思い知る。
人間の頭部をスイカのように砕く弾頭。
即ち、掌の中でそれだけの衝撃が発生している事に他ならない。
作用と反作用だ。
人間の頭蓋をも砕くエネルギーを掌で制御するのは、さしもの彼女でも上限が有る。
長丁場の発砲で無為な衝撃ばかりを体に吸収させるわけには行かない。
それだけ疲労が加速し、照準を定めるどころか愛銃を保持するだけでも大きな苦労になる。
合計4発の発砲。
4箇所に移動しての発砲。
銃火と発砲音が大き過ぎて、その場で居座っていると反撃を受け易くなる。
連中の拳銃は発砲音からして自動拳銃らしい。
仮に一般的な軍用拳銃弾の9mmパラベラムのフルメタルジャケットでも人間1人を無力化させるのに充分な威力を持つ。
速射が利いて弾倉交換が容易な分、更に数が多い分、連中の方が有利だ。
少しばかり理江の奇襲が序盤、成功しただけだ。
弾倉を開き、エジェクターロッドを軽く押す。
未使用の1発だけ左指で挟んで取り出してから、勢い良くエジェクターロッドを押す。
空薬莢が転がり出る。
同じく左手の小指と薬指の間に挟んでいたスピードローダーを空の薬室に宛がって軽く捻る。
それだけで6個の薬室が未使用の実包で埋まる。
掻き出したばかりの未使用の1発はハーフコートのハンドウォームに落とす。
8人中5人を確実に屠った。
直接脈を計ったわけではないが、確実に死んだ音がした。
頭や心臓に9mmパラベラムの3倍近い威力を持つ弾頭を叩き込まれてまともに呼吸が行える人類は理江の専門外だ。
残り3人。
ランチから降りた男は、フィールドコートの懐からマイクロUZIを抜き出し、トリガーハッピーに罹ったように乱射を続ける。
マイクロUZIは確かに優秀な短機関銃だ。
ある意味、マシンピストルよりも使い易いといえる。
だが、そのスプレーの如く9mmパラベラムを撒き散らす発射速度が仇になり、牽制以上の働きをしない。
……直ぐに弾倉が空になるのだ。
ハーフコートが汚れるのも気にせずに、地面に伏せてドラム缶の下部を遮蔽にした理江は乱射の流れ弾を除ける。
そのランチから下りた男を狙って撃つ。
距離にして50mほど。彼女の腕では問題は無い。
違える事無く、ランチから下りた男は左肩を撃たれて、小型ボートの上から独楽が回転するかのようなモーションで海中に身を投じる。
おとなしく小型ボートの中で頭を伏せていれば見逃してやったのに……。
理江の目標はこの場に居る【野川一誠会】の連中の皆殺しだけなのだ。
無意味な皆殺しではない。
自分と言う復讐者が『何者の姿も借りずにお前達を狙っている』と言うアピールを込めた皆殺しだ。
勿論、皆殺し自体、本題から逸れる。
本懐を遂げる為には玉置一の背後に潜む、あいつを目の前に引き摺り出すか、そいつの目の前に登場する必要が有る。
故に、そのランチから下りた客人はただのとばっちりを喰っただけの被害者だった。
残り2人。
きびすを返して自分達が乗ってきた乗用車に向かって走り出す。
今まで健気に連中が応戦してきた理由は、目立つ順から撃ち殺してきたので遁走を計る隙間を与えなかったからだ。
流石に残存戦力がここまで低下すると、増援を呼んでも間に合わないと判断したのだろう。
2人は2台の車に分かれて乗り込む。直線距離60m。力任せの44マグナムなら辛うじて打撃を与えられる。
並列に並ぶ国産の高級車の運転席を狙う。
右手側の乗用車。
2発、ゆっくりと叩き込む。
次に左手側の乗用車の運転席を狙う。
これもまた2発。
理江はすっくと立ち上がると小走りに走り出し、手元を見ずに再装填をする。未使用の実包は手探りで掻き出して空薬莢のみ捨てる。
未使用の実包はポケットに落とし、スピードローダーを押し込んで装填完了。
シリンダーを填め込むと、確実にラッチやギアが噛み合う心強く頼もしい感触が右手に伝わる。
運転席の後部を狙った2台の車。
そのまま運転席に座る運転手を撃ち殺したとは思っていない。
2発叩き込んで、その場に射竦める威嚇を行っただけだ。目論見通りに乗用車は発車せずに運転席から人の頭が伏せるのが見えた。
左手側の乗用車から男が転がり出るようにドアから飛び出して、自動拳銃を乱射する。
聞き慣れた9mmパラベラムの銃声だ。44マグナムと比べれば可愛い囀り。
車のドアを遮蔽にしていたその男はドアに命中した約16gの弾頭が貫通し、大きな擦過傷を左肩に作ってドアの陰から押し出される。
さしもの44マグナムの弾頭でも、それなりの硬さがある障害物を破壊した後、直進するのは稀なのだ。
威力が削がれた弾頭は男に肉を大きく削る負傷を負わせただけに留まる。尤も、その男は衝撃でドアの影から上半身を押し出してしまい、次弾で左腋下に重い弾頭を叩き込まれて絶命した。
その隙にもう一台の車がエンジンを掛け、アスファルトに焦げ臭い臭いを刻み込みながら急発進する。
理江は焦らずに腰を落としてカップ&ソーサーでS&W M29を構えて撃鉄を起こす。
空かさず発砲。
44マグナムの弾頭は右後輪をパンクさせる。
車体は大きく後部を振りながら係留柱にぶつかり、海中に落ちる寸前で止まる。エアバッグが作動する。
運転席に座っていた男は脳震盪を起こしたらしく座席から動く気配を見せない。
S&W M29をバラ弾で補弾しながら、唯一の生存者であると思われるその男に近付く。
運転席に無造作に近寄り、S&W M29の銃口を窓から差し込む。
「あー…………」
思わず声が出る。死にはしていない。
眼が虚ろで肩やハンドルに掛かる指先が小さく震えている。軽い脳震盪で一時的に運動神経が遮断されているだけだ。
体を横たえて首を固定して然るべき処置をすれば、数分もすれば正気に戻る。放っておいても命に別状は無い。
遠慮せずに男の懐を探る。
財布や携帯電話、運転免許証などを漁る。
使えそうなのは携帯電話と財布の中身の札だけだ。カード類はアシが付き易いので手を付けない。運転免許証も一応奪う。
同じく遁走を計った乗用車の運転手は既に死んでいる。その男の携帯電話も奪う。
簡単にアドレスやアドレスのフォルダ分けを見比べる。
アドレスの詳細を見なくとも、フォルダの序列を見ればどちらの男がより、序列が上なのか判断できる。
それを他の死体でも繰り返す。
勿論、最初にランチから降りた男と握手を交わした男の方がこの場で一番、序列と役職が上だった。
ランチに乗っていた男2人の正体は事前に情報屋から買った情報で判明している。……海外のマフィアの遣いっ走りで、当日は『どのような人種がどのような名前』で接触を図ってくるのか解らなかっただけだ。