御旗を基に

 たとえ弦屋正秋でも、人体の弱点が集中する正中線に13発もの9mmショートを漏れることなく叩き込まれれば生きてはいられまい。
 運良く今直ぐ救急救命に搬送されて弾丸の摘出手術を受け、それで命を取り戻しても余生をリハビリに捧げることになる。
 空になったベレッタM84の弾倉を交換すると表情のない顔で弦屋正秋の顔面に向けて両手でしっかりと保持し、止めを刺す。即興でフルオート専用に改造されたベレッタM84をしっかり保持して、頭部に1弾倉分の銃弾を叩き込む。
 脳漿と骨のかけらと血液と脳髄を派手に撒き散らしたのを見ても鉄英の顔には、何も感動の表情は戻ってこなかった。
 そればかりか、弦屋正秋の死体の傍で再び新しい弾倉を叩き込むと今度は自分の顔面に銃口を向けた。
 正反対に握ったベレッタM84を右手の親指が一気に引き絞ろうとした瞬間……。
 銃声が。銃弾が、清水一意が放った10mmオートのセミジャケッテッドホローポイントがベレッタM84の撃鉄を破壊して、ベレッタM84から拳銃としての大動脈を寸断した。
「……」
 手首を挫く痛みに、スイッチを入れたように瞳に生気が点る鉄英。
「いけません。お嬢様。死に魅せられてはいけません」
「……清水さん……」
「本懐は遂げました。早く撤収しましょう」
 言葉とは裏腹に全く慌てている気配がない清水一意。
「あ、うん……」
 満身創痍に疲労が重なって急激に足が重くなり眠気を覚える。
 負傷の痛みですら心地良い。
 血を失い過ぎたのでも致命的な負傷を負ったわけでもない。単純に眠いのだ。緊張の糸が途切れただけだろうか……。
 先を行く清水一意の背中がぼやけてくる。目蓋が重い。
 ……やがて。
 フェイドアウト。
 膝を突いて道の真ん中で崩れるように眠りこける鉄英。
 大きな寝息。静かな寝顔。
 いびきとも寝言とも思えない言語を発して瞬間的に眠りの国へ旅立つ。
「……」
 眉を落とした清水一意は背中で溜息を吐いて鉄英を担ぐ。
 そして、2人は鉄錆のように濃厚な血が立ち込める『戦場』を後にした。

  ※ ※ ※

「なあ。お嬢ちゃんたち達よ?」
 ベネリとフランキとブローニングの散弾銃が一堂に会して整然と列を作っている銃砲店の店内。
 壁に掛けた時計の針は深夜2時を報せていた。
 窓や表のシャッターは完全に閉じられ、換気扇のファンだけがこの静寂に対抗できる唯一の存在であった。
 カウンター越しに60歳直前の店主は寂しくなり始めた頭髪を掻きながら目前の珍妙な来訪者たちに戸惑っていた。
「お願い。ここしか頼めないの……」
 美人というより魅力的。精悍というより整然。
 少しばかり、猫科の動物を連想させる美少女気味な容貌。
 身長のほどは165cm以上170cm未満の肉付きの良い体躯。
 先頭にこの少女が佇んでいるので浮きだって見えるが、この少女も人込みに紛れればその他大勢に変貌する程度の存在感。
 その後に並ぶ20名近い女性……少女達。狭い店内に銃砲店には似合わない匂いが立ちこめる。
「『新しいチーム』がしばらくドンパチできるだけの鉄砲が欲しいの」
 先頭の少女が言う。
 空かさず後ろに控えていた1人の少女が口を挟む。
「姐さん、このオヤジ、『【紺兵党】』を舐めていますよ!」
 その少女を制す、先頭の少女は大型のボストンバッグをカウンターに置いて白い歯を見せてウインクした。



「ここはこの真桐鉄英の顔を立ててよ。ね?」

 左頬に薄い銃創を創った、一回り大人びた鉄英が新しい勢力を引き連れて再びこの界隈を制覇した。

 後に【紺兵党】は暴力団との交流を疑われ危険集団として公安にマークされるがそのときには既に地方一帯を治める勢力に発展していた。



 ……だが、それはまた別の話。

 今はただ、【田巻銃砲店】にチャカを揃えにきただけである。

《御旗を基に・了》
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