御旗を基に
不意打ちであっても一発必中一撃必殺が求められる。
よりによって不得手。
あのゴリラを人間にアレンジしたような体躯のどこに9mmショート1発で仕留められる弱点がある?
頭部に命中しても頭蓋骨を削って弾かれるだけのような気がする。即頭部や後頭部を撃ち抜いても『普通の人間程度』の戦闘力に低下するだけのような気がする。
だからこそ倒さねばならない。
清水一意は最大の仕事を果たしてくれた。今は、彼の助太刀は無用願いたい。視界の端にも登場して欲しくない。弦屋正秋を仕留めるのは私だ!
――――一撃?
――――一発?
――――本当に?
視野狭窄に陥る自分自身を発見して奥歯で思いっ切り舌を噛む。痛覚を刺激して正常に考えが及ぶように痛みを与えた。
――――まぁ……。
――――使ってこそだしね。
右手のベレッタM84を凝視する。
コック&ロックで待機させていたベレッタM84を強く右掌に握りこみ、心の中で「ゴメン!」と何度も謝る。
――――ホンのちょっとだけ!
――――また造ってもらうから!
――――ゴメンね!
負傷した足を引き摺って頼りにならない遮蔽物を次々と伝って弦屋正秋と距離を保つ。
ベレッタM84のコック&ロックを解除し、安全位置に撃鉄を戻す。
腹のベルトにベレッタM84を挿し、愛用のガーバーマルチツールを取り出す。
折りたたみ式の多機能プライヤーで2本のグリップ部分にはビクトリノックス並みに日用ツールから本格的に使える工具が多数折り畳まれている。
現用のベレッタM84FSでは決してできないこと。
初期モデルの初期ロットだからできるミニ4駆よりも簡単な改造。
鉄英は移動しながらベレッタM84を通常分解する。機関部が丸出しのボディ。それ以外のパーツはポケットに一旦押し込む。
「……」
これだ。
これが、【田巻銃砲店】のオヤジを本当に困らせていた理由。
鉄英の視線の先にはF字型をなすシアがある。
機関部後端、撃鉄の付け根にあるそれは現在では自作するしか代替品が手に入らない重要なパーツ。スライドの後退停止とスライド後退時の撃鉄の反復運動を司るパーツだ。
コイツを【田巻銃砲店】の店主に「しっかり作動するように磨耗したシアを削り出しのパーツと交換してくれ」といったばかりにつまらん問答になった。
……なのに。
折角、札束を積んで『宝石』の価値を落とす真似をして実用を優先したのに、再び鉄英は実用を捨てようとしている。
グリップに折り畳まれた鉄ノコでヤスリを掛けるようにF字型シアを全て削り落とした。
違法駐車の自転車が並ぶ路肩の遮蔽物に隠れての作業。
時間が無いので削ったシアにヤスリで仕上げる時間はない。
――――どうかしてる!
――――おかしいよ!
自分の行為に唾棄しながらベレッタM84を組み立てる。
薬室に実包を送り込む。しかし、起き上がった撃鉄を親指で押さえて静かに引き金を引いてダブルアクション状態で維持する。
ベレッタM84とベレッタM84FSの決定的な違い。
セフティだ。
前者はオーソドックスなクロススイッチ式セフティで、オンとオフの動作しかしない。対して後者はハンマーデコッキングと連動したセティに改められている。
――――揚げ足取りね……。
――――一撃必殺でも、一発必中である必要なんてないんだ……。
何人かの絶命した【首狩瀑布】の構成員のガバクローンを拾う。
3挺のガバクローンでコンディションの良いものを選んであとは弾倉以外を捨てる。
全ての弾倉は使いさしだったが問題無い。用があるのは弾の出るガバクローンだ。
ベレッタM84をショルダーホルスターに挿し、見え隠れする弦屋正秋に向かってガバクローン――ノリンコT-1911A1――を狙って撃つ。弦屋正秋に『無駄な抵抗』のポーズをしてみせる。
――――乗ってこい!
ガバクローンの弾倉が空になると慣れない手つきで弾倉を交換する。その間を待っていたように50AEが吼えて遮蔽物を穿つ。自転車の束では大した盾にはならない。
またもガバクローンで反撃。
慣れない銃で着弾点がバラバラだ。弦屋正秋はそのうち、体を隠して鉄英の放つ45口径を避けようともしなかった。
乱暴な反動を両手で抑えながら正面を晒して立ち上がって弦屋正秋を狙うが、当たらない。
弦屋正秋も50AEで応戦するが、着弾点が足元や遮蔽物の縁を吹き飛ばす……獲物を前に舌なめずりをするように弄ぶさまがみて取れた。
彼我の距離15mというLARグリズリーでは必殺の距離だというのに鉄英で遊びだした。
彼我の距離10m以下に迫る。
「……」
下唇を噛む鉄英。スライドが後退したガバクローンを両手で保持したまま殺意丸出しの眼でLARグリズリーの弾倉を悠々と交換している弦屋正秋を睨む。
お互いの呼吸も独り言も聞こえてきそうな距離だ。
コンディション1――大雑把に言うとコルトM1911A1と同じ構造の拳銃全てで行うことができるコック&ロック――で待機させたLARグリズリーの銃口を空に向けたまま、弦屋正秋は「よう。元気?」とヤケに白い歯を見せて笑った。
「畜生!」
自転車で構成される遮蔽物を乗り越えて弾倉が空のガバクローンを振り上げながら弦屋正秋に吶喊する鉄英。
40mの距離からそれを見ていた清水一意はペーターシュタールを両手で構えて首の骨をゴキリと鳴らす。じっくりと弦屋正秋に照準を定める。清水一意の腕なら外さない距離だ。心拍数もコンディションも好調。だが……。
「……」
だが、違和感を覚えて、発作的に解除したばかりのセフティを再び跳ね上げる。
弦屋正秋との距離が5m以下に縮まったときに不意にガバクローンを放り投げる。誰にでも目でトレースできる普通の速度だ。下投げのボール感覚で放り出されたそれを顔面に当たる前に左手で叩き落す弦屋正秋。
「!」
「よう! 元気!」
鉄英は飛んだ。……否、その場で両足の靴の裏を弦屋正秋に見せるように軽く飛び跳ねて、そのまま尻餅を搗くモーションに入る。
銃口が空を向いているLARグリズリーと抜き放ったベレッタM84。
どちらが、どちらを捉えるのが早いのかは一目瞭然だ。
ダブルアクション。
重いトリガー。
襲い来るリコイルはいつもと違う。
軽いスティックでドラムを強く連打するような聴きなれない発砲音。
……否。
連射音。
「!」
飛び跳ねてからの自重で落下し、自分の視線より下方で勝利の笑顔を浮かべる少女の顔の前に咲く美しい火花。
弦屋正秋はそれ以外に自分の身に何が起きているのか判断するのに数拍の時間を必要とした。
――――俺、『撃たれた』。
――――『たくさん、撃たれた』。
弦屋正秋の下腹部から咽頭部までミシンで縫うように9mmの弾痕が一直線に出来上がる。
鉄英が尻餅を搗いて腰部に酷い打撃を蒙ってから、まるその震動が原因のように弦屋正秋が仰向けに倒れた。
倒れる途中にささやかな抵抗を示すようにLARグリズリーの引き金を引くが、さしもの50AEも標的に命中しなければただの鉄の玉だ。
「……」
スライドを司るシアを削って即興でフルオート改造を施したベレッタM84。
またしても『銃の形をした宝石』と讃えられるこの銃の価値が下がった。今度はバレルも交換しなければならないだろう。
よりによって不得手。
あのゴリラを人間にアレンジしたような体躯のどこに9mmショート1発で仕留められる弱点がある?
頭部に命中しても頭蓋骨を削って弾かれるだけのような気がする。即頭部や後頭部を撃ち抜いても『普通の人間程度』の戦闘力に低下するだけのような気がする。
だからこそ倒さねばならない。
清水一意は最大の仕事を果たしてくれた。今は、彼の助太刀は無用願いたい。視界の端にも登場して欲しくない。弦屋正秋を仕留めるのは私だ!
――――一撃?
――――一発?
――――本当に?
視野狭窄に陥る自分自身を発見して奥歯で思いっ切り舌を噛む。痛覚を刺激して正常に考えが及ぶように痛みを与えた。
――――まぁ……。
――――使ってこそだしね。
右手のベレッタM84を凝視する。
コック&ロックで待機させていたベレッタM84を強く右掌に握りこみ、心の中で「ゴメン!」と何度も謝る。
――――ホンのちょっとだけ!
――――また造ってもらうから!
――――ゴメンね!
負傷した足を引き摺って頼りにならない遮蔽物を次々と伝って弦屋正秋と距離を保つ。
ベレッタM84のコック&ロックを解除し、安全位置に撃鉄を戻す。
腹のベルトにベレッタM84を挿し、愛用のガーバーマルチツールを取り出す。
折りたたみ式の多機能プライヤーで2本のグリップ部分にはビクトリノックス並みに日用ツールから本格的に使える工具が多数折り畳まれている。
現用のベレッタM84FSでは決してできないこと。
初期モデルの初期ロットだからできるミニ4駆よりも簡単な改造。
鉄英は移動しながらベレッタM84を通常分解する。機関部が丸出しのボディ。それ以外のパーツはポケットに一旦押し込む。
「……」
これだ。
これが、【田巻銃砲店】のオヤジを本当に困らせていた理由。
鉄英の視線の先にはF字型をなすシアがある。
機関部後端、撃鉄の付け根にあるそれは現在では自作するしか代替品が手に入らない重要なパーツ。スライドの後退停止とスライド後退時の撃鉄の反復運動を司るパーツだ。
コイツを【田巻銃砲店】の店主に「しっかり作動するように磨耗したシアを削り出しのパーツと交換してくれ」といったばかりにつまらん問答になった。
……なのに。
折角、札束を積んで『宝石』の価値を落とす真似をして実用を優先したのに、再び鉄英は実用を捨てようとしている。
グリップに折り畳まれた鉄ノコでヤスリを掛けるようにF字型シアを全て削り落とした。
違法駐車の自転車が並ぶ路肩の遮蔽物に隠れての作業。
時間が無いので削ったシアにヤスリで仕上げる時間はない。
――――どうかしてる!
――――おかしいよ!
自分の行為に唾棄しながらベレッタM84を組み立てる。
薬室に実包を送り込む。しかし、起き上がった撃鉄を親指で押さえて静かに引き金を引いてダブルアクション状態で維持する。
ベレッタM84とベレッタM84FSの決定的な違い。
セフティだ。
前者はオーソドックスなクロススイッチ式セフティで、オンとオフの動作しかしない。対して後者はハンマーデコッキングと連動したセティに改められている。
――――揚げ足取りね……。
――――一撃必殺でも、一発必中である必要なんてないんだ……。
何人かの絶命した【首狩瀑布】の構成員のガバクローンを拾う。
3挺のガバクローンでコンディションの良いものを選んであとは弾倉以外を捨てる。
全ての弾倉は使いさしだったが問題無い。用があるのは弾の出るガバクローンだ。
ベレッタM84をショルダーホルスターに挿し、見え隠れする弦屋正秋に向かってガバクローン――ノリンコT-1911A1――を狙って撃つ。弦屋正秋に『無駄な抵抗』のポーズをしてみせる。
――――乗ってこい!
ガバクローンの弾倉が空になると慣れない手つきで弾倉を交換する。その間を待っていたように50AEが吼えて遮蔽物を穿つ。自転車の束では大した盾にはならない。
またもガバクローンで反撃。
慣れない銃で着弾点がバラバラだ。弦屋正秋はそのうち、体を隠して鉄英の放つ45口径を避けようともしなかった。
乱暴な反動を両手で抑えながら正面を晒して立ち上がって弦屋正秋を狙うが、当たらない。
弦屋正秋も50AEで応戦するが、着弾点が足元や遮蔽物の縁を吹き飛ばす……獲物を前に舌なめずりをするように弄ぶさまがみて取れた。
彼我の距離15mというLARグリズリーでは必殺の距離だというのに鉄英で遊びだした。
彼我の距離10m以下に迫る。
「……」
下唇を噛む鉄英。スライドが後退したガバクローンを両手で保持したまま殺意丸出しの眼でLARグリズリーの弾倉を悠々と交換している弦屋正秋を睨む。
お互いの呼吸も独り言も聞こえてきそうな距離だ。
コンディション1――大雑把に言うとコルトM1911A1と同じ構造の拳銃全てで行うことができるコック&ロック――で待機させたLARグリズリーの銃口を空に向けたまま、弦屋正秋は「よう。元気?」とヤケに白い歯を見せて笑った。
「畜生!」
自転車で構成される遮蔽物を乗り越えて弾倉が空のガバクローンを振り上げながら弦屋正秋に吶喊する鉄英。
40mの距離からそれを見ていた清水一意はペーターシュタールを両手で構えて首の骨をゴキリと鳴らす。じっくりと弦屋正秋に照準を定める。清水一意の腕なら外さない距離だ。心拍数もコンディションも好調。だが……。
「……」
だが、違和感を覚えて、発作的に解除したばかりのセフティを再び跳ね上げる。
弦屋正秋との距離が5m以下に縮まったときに不意にガバクローンを放り投げる。誰にでも目でトレースできる普通の速度だ。下投げのボール感覚で放り出されたそれを顔面に当たる前に左手で叩き落す弦屋正秋。
「!」
「よう! 元気!」
鉄英は飛んだ。……否、その場で両足の靴の裏を弦屋正秋に見せるように軽く飛び跳ねて、そのまま尻餅を搗くモーションに入る。
銃口が空を向いているLARグリズリーと抜き放ったベレッタM84。
どちらが、どちらを捉えるのが早いのかは一目瞭然だ。
ダブルアクション。
重いトリガー。
襲い来るリコイルはいつもと違う。
軽いスティックでドラムを強く連打するような聴きなれない発砲音。
……否。
連射音。
「!」
飛び跳ねてからの自重で落下し、自分の視線より下方で勝利の笑顔を浮かべる少女の顔の前に咲く美しい火花。
弦屋正秋はそれ以外に自分の身に何が起きているのか判断するのに数拍の時間を必要とした。
――――俺、『撃たれた』。
――――『たくさん、撃たれた』。
弦屋正秋の下腹部から咽頭部までミシンで縫うように9mmの弾痕が一直線に出来上がる。
鉄英が尻餅を搗いて腰部に酷い打撃を蒙ってから、まるその震動が原因のように弦屋正秋が仰向けに倒れた。
倒れる途中にささやかな抵抗を示すようにLARグリズリーの引き金を引くが、さしもの50AEも標的に命中しなければただの鉄の玉だ。
「……」
スライドを司るシアを削って即興でフルオート改造を施したベレッタM84。
またしても『銃の形をした宝石』と讃えられるこの銃の価値が下がった。今度はバレルも交換しなければならないだろう。
