御旗を基に
前後左右だけでなく、上方からも45口径が鉄英を狙っている。
後ろ腰からノロノロと12番口径を引っ張り出す者もいたが、真っ先に9mmショートの的になる。
空薬莢を撒き散らして弾倉交換をしてスライドリリースするアクションが快感で仕方がない。
右手に握る業物が伝える感触は背中を撫でられる快感を脳髄に直接伝える。
発生する微電流に中てられて胎の奥が熱い。鉄火場のど真ん中で不覚にも人間を打ち倒す快感を許した。
人間が人間に見えない。
45口径が頬を掠り、鞭で打ったように赤く腫れ上がっても、脇腹や肩の肉を浅く削っても、新陳代謝の異常で痛みが鈍い。
誰かが喧しくも甘美に囁く。
撃て、と。
携行した半数以上の弾倉を使い切っていたが、キルレシオは低くいまだ10人程度しか打ち倒していない。
「貴方は誰ですか?」
樋川晃が問いながら、銃口から硝煙が立ち昇る12番口径のシングルショットピストルを指から滑り落とした。
15mの距離を置いて対峙する2人。
「……」
今し方、清水一意は銃撃された。
狙われたのか運が良かったのか、翳し気味だったミニミの機関部に12番口径のスラッグが命中し、使い物にならなくなった。
清水一意もミニミを足元の放り投げる。
「……」
「……」
睨み合う2人。
樋川晃以外の、清水一意が引き受けた【首狩瀑布】の構成員は全滅した。
清水一意は殆ど移動せず、裏路地の辻の真ん中で立ち竦んだまま、鬼神、悪鬼羅刹の類を髣髴とさせるミニミ捌きで銃弾をばら撒いた結果だ。
長物火器の演舞があるとすればこのような使い方が産み出されるのかも知れない。そこへ終止符を打ったのが樋川晃の12番口径。
2人供、徒手。
勿論、懐に拳銃を呑み込んでいる。
牽制は無し。
通りを挟んで向こうからは鉄英の9mmと【首狩瀑布】の45口径が交錯する銃声が聞こえる。
……牽制は無し。
水を打ったように静謐な瞳をした2人の男。
両手をだらりと提げる2人。
仕込みもタネも無しで静かに睨み合う。
睨む……どこか、相手を美術品のように鑑賞する目付き。互いが互いを讃えあっている雰囲気すら感じられる。
「『子供』……だな」
「?」
清水一意は吐き捨てた。
怪訝な表情の樋川晃。
「それだけの腕を持っていながら、なぜ一撃で私を仕留めないのか? なぜ陰から狙撃しないのか? 手勢に紛れてなぜ私を仕留めない?」
一拍置いて清水一意は続ける。
「……なぜ、『一対一の勝負を所望する?』」
質問に対して無言を貫き通すと思われていた樋川晃の唇が軽く歪んだ。
「貴方は何があっても、今ここにいる全員を許さない。真桐鉄英という人間が斃れても許さない。ならば『ことらも全滅と引き換えに貴方を斃すしかない』……という理由で納得してもらえませんか?」
「嘘は吐いていないようだが、本当の理由は別にあるようだと踏んだが?」
またも沈黙。
静かな睨み合い。
お互い敵意も殺意も始めから持ち合わせていないように静かに佇む。
「……答えですか……」
樋川晃が左足を半歩引く。
「……それは」
樋川晃のアクションに清水一意も左足を半歩引く。
「時に少年。私に対する質問の答えは良いのかね?」
清水一意も場にそぐわない、ゆったりとした声で樋川晃に問い掛ける。
樋川晃の表情がみるみる豹変する。
唇の端を吊り上げて凄惨な笑みを零す。
「僕からの質問? 貴方への答え?」
やや半眼に落ちる樋川晃の双眸。
その動作、紫電一閃。
指弾の速度で更に左足を一歩引くと、居合いを放つように樋川晃は右手を左脇から抜き――いつの間に左脇に右手を滑り込ませたのか?――コンディション1のまま待機させてあったコルト社純正のシリーズ70……コルト・ゴールドカップナショナルマッチを右手で構えて左手の握り拳を流れるモーションで心臓付近に当てる。
くぐもる、図太い、頼りになる銃声。
空薬莢が右側面の壁に当たり、無秩序に転がる。
放たれた銃弾は『樋川晃の鳩尾に命中し、存分に破壊力を内蔵に撒き散らした』。
「……僕からの質問? 貴方への答え? ……『僕を殺してから聞いて下さい』」
同じフォームを取ったのにも関わらず、樋川晃の撃鉄が落ちる瞬間よりも早く清水一意のペーターシュタールPSP87-オメガSの10mmオートは解き放たれて、樋川晃の臓物を千切り飛ばした。
とうとう、樋川晃の45口径はこの戦いで火を噴くことはなかった。
樋川晃は凄惨な笑みのままドス黒い血の塊を吐き戻すと右片膝を折り、大きく斃れた。
凄惨な笑顔が満足げに微笑む顔に変わる。
「……知っていたさ。少年」
ペーターシュタールPSP87-オメガSにセフティを掛けて銃口を下げる。
「知っていたさ。少年。『戦いたかったのだろう?』。質問も理由も本当は欲しくなかったのだろう? ……『戦いたかったのだろう?』
清水一意は誰となしに呟くと踵を返した。
彼の胸に遥か昔の『熱かった時代』が一瞬だけ去来する。
真桐財閥の雑用係としてスカウトされる前の、若い時分の取り返しがつかない時代の話しだ。
パン!
ジュースのアルミ缶内部で爆竹を破裂させたような発砲音。
頼りないと感じるか軽快と感じるかは使用者の心意気次第だ。
9mmショートの空薬莢が転がる。
左脇の白いシャツがジットリと血で濡れている。
左上腕部の被弾箇所が焼け火箸を突っ込まれたように痛い……いや、痛みを通り越して冷たさを覚えたものだが、今はやっと『痛くて痛くて洟と涙が垂れてきそうだ』。
目前の1人は罵声を小さな声で吐くと、ヘソの辺りの被弾箇所を押さえてへたり込む。額に大粒の汗が吹き出る。激痛のあまり身動きできない。
その少年を横目にベレッタM84の弾倉を交換した鉄英。
「!」
轟音。銃声ではない。『轟音』だ。
鉄英を辻の陰から襲った50口径は1mほどのオレンジの尾を曳いた。
「く!」
大小様々な痛みを、アドレナリンではカバーしきれない痛みを引き摺りながらバックステップを踏み、背後の辻角に逃げ込む。
追い討ちを掛ける12番口径。粒球の一部が右太腿を捉えて、柔肌の瑞々しい肉にめり込む。苦悶の余り、喉から内臓が迫り出すような悲鳴を挙げる。
這う這うの体で商店街の通りに出る。少しでも遠くへと這い回った結果、シャッターの閉まった店舗が一堂に並ぶ通りに出てしまった。
拙い、と舌打ち。
遮蔽物が少ない。
姿を覆うだけの陰が少ない。
この距離で50AEの前では殆どの障害物は障子紙に指を突き刺すように盾の意味をなさない。
弦屋正秋が巨体を揺らして鉄英の後を追ってくるのが足音で解る。
弦屋正秋とて人間である。巨弾を放つLARグリズリーをいつまでも連続射撃できる膂力は持ち合わせていないはずだ。
片手に50口径と12番口径を携えているのだ。『必要以上の殺人』を撒き散らすことしか考えていない銃火器のチョイス。
じっくり狙って一撃を放つLARグリズリーと適当に狙っても適当に当たるソウドオフ。真正面からの対決で勝てる要素要因は少ない。
後ろ腰からノロノロと12番口径を引っ張り出す者もいたが、真っ先に9mmショートの的になる。
空薬莢を撒き散らして弾倉交換をしてスライドリリースするアクションが快感で仕方がない。
右手に握る業物が伝える感触は背中を撫でられる快感を脳髄に直接伝える。
発生する微電流に中てられて胎の奥が熱い。鉄火場のど真ん中で不覚にも人間を打ち倒す快感を許した。
人間が人間に見えない。
45口径が頬を掠り、鞭で打ったように赤く腫れ上がっても、脇腹や肩の肉を浅く削っても、新陳代謝の異常で痛みが鈍い。
誰かが喧しくも甘美に囁く。
撃て、と。
携行した半数以上の弾倉を使い切っていたが、キルレシオは低くいまだ10人程度しか打ち倒していない。
「貴方は誰ですか?」
樋川晃が問いながら、銃口から硝煙が立ち昇る12番口径のシングルショットピストルを指から滑り落とした。
15mの距離を置いて対峙する2人。
「……」
今し方、清水一意は銃撃された。
狙われたのか運が良かったのか、翳し気味だったミニミの機関部に12番口径のスラッグが命中し、使い物にならなくなった。
清水一意もミニミを足元の放り投げる。
「……」
「……」
睨み合う2人。
樋川晃以外の、清水一意が引き受けた【首狩瀑布】の構成員は全滅した。
清水一意は殆ど移動せず、裏路地の辻の真ん中で立ち竦んだまま、鬼神、悪鬼羅刹の類を髣髴とさせるミニミ捌きで銃弾をばら撒いた結果だ。
長物火器の演舞があるとすればこのような使い方が産み出されるのかも知れない。そこへ終止符を打ったのが樋川晃の12番口径。
2人供、徒手。
勿論、懐に拳銃を呑み込んでいる。
牽制は無し。
通りを挟んで向こうからは鉄英の9mmと【首狩瀑布】の45口径が交錯する銃声が聞こえる。
……牽制は無し。
水を打ったように静謐な瞳をした2人の男。
両手をだらりと提げる2人。
仕込みもタネも無しで静かに睨み合う。
睨む……どこか、相手を美術品のように鑑賞する目付き。互いが互いを讃えあっている雰囲気すら感じられる。
「『子供』……だな」
「?」
清水一意は吐き捨てた。
怪訝な表情の樋川晃。
「それだけの腕を持っていながら、なぜ一撃で私を仕留めないのか? なぜ陰から狙撃しないのか? 手勢に紛れてなぜ私を仕留めない?」
一拍置いて清水一意は続ける。
「……なぜ、『一対一の勝負を所望する?』」
質問に対して無言を貫き通すと思われていた樋川晃の唇が軽く歪んだ。
「貴方は何があっても、今ここにいる全員を許さない。真桐鉄英という人間が斃れても許さない。ならば『ことらも全滅と引き換えに貴方を斃すしかない』……という理由で納得してもらえませんか?」
「嘘は吐いていないようだが、本当の理由は別にあるようだと踏んだが?」
またも沈黙。
静かな睨み合い。
お互い敵意も殺意も始めから持ち合わせていないように静かに佇む。
「……答えですか……」
樋川晃が左足を半歩引く。
「……それは」
樋川晃のアクションに清水一意も左足を半歩引く。
「時に少年。私に対する質問の答えは良いのかね?」
清水一意も場にそぐわない、ゆったりとした声で樋川晃に問い掛ける。
樋川晃の表情がみるみる豹変する。
唇の端を吊り上げて凄惨な笑みを零す。
「僕からの質問? 貴方への答え?」
やや半眼に落ちる樋川晃の双眸。
その動作、紫電一閃。
指弾の速度で更に左足を一歩引くと、居合いを放つように樋川晃は右手を左脇から抜き――いつの間に左脇に右手を滑り込ませたのか?――コンディション1のまま待機させてあったコルト社純正のシリーズ70……コルト・ゴールドカップナショナルマッチを右手で構えて左手の握り拳を流れるモーションで心臓付近に当てる。
くぐもる、図太い、頼りになる銃声。
空薬莢が右側面の壁に当たり、無秩序に転がる。
放たれた銃弾は『樋川晃の鳩尾に命中し、存分に破壊力を内蔵に撒き散らした』。
「……僕からの質問? 貴方への答え? ……『僕を殺してから聞いて下さい』」
同じフォームを取ったのにも関わらず、樋川晃の撃鉄が落ちる瞬間よりも早く清水一意のペーターシュタールPSP87-オメガSの10mmオートは解き放たれて、樋川晃の臓物を千切り飛ばした。
とうとう、樋川晃の45口径はこの戦いで火を噴くことはなかった。
樋川晃は凄惨な笑みのままドス黒い血の塊を吐き戻すと右片膝を折り、大きく斃れた。
凄惨な笑顔が満足げに微笑む顔に変わる。
「……知っていたさ。少年」
ペーターシュタールPSP87-オメガSにセフティを掛けて銃口を下げる。
「知っていたさ。少年。『戦いたかったのだろう?』。質問も理由も本当は欲しくなかったのだろう? ……『戦いたかったのだろう?』
清水一意は誰となしに呟くと踵を返した。
彼の胸に遥か昔の『熱かった時代』が一瞬だけ去来する。
真桐財閥の雑用係としてスカウトされる前の、若い時分の取り返しがつかない時代の話しだ。
パン!
ジュースのアルミ缶内部で爆竹を破裂させたような発砲音。
頼りないと感じるか軽快と感じるかは使用者の心意気次第だ。
9mmショートの空薬莢が転がる。
左脇の白いシャツがジットリと血で濡れている。
左上腕部の被弾箇所が焼け火箸を突っ込まれたように痛い……いや、痛みを通り越して冷たさを覚えたものだが、今はやっと『痛くて痛くて洟と涙が垂れてきそうだ』。
目前の1人は罵声を小さな声で吐くと、ヘソの辺りの被弾箇所を押さえてへたり込む。額に大粒の汗が吹き出る。激痛のあまり身動きできない。
その少年を横目にベレッタM84の弾倉を交換した鉄英。
「!」
轟音。銃声ではない。『轟音』だ。
鉄英を辻の陰から襲った50口径は1mほどのオレンジの尾を曳いた。
「く!」
大小様々な痛みを、アドレナリンではカバーしきれない痛みを引き摺りながらバックステップを踏み、背後の辻角に逃げ込む。
追い討ちを掛ける12番口径。粒球の一部が右太腿を捉えて、柔肌の瑞々しい肉にめり込む。苦悶の余り、喉から内臓が迫り出すような悲鳴を挙げる。
這う這うの体で商店街の通りに出る。少しでも遠くへと這い回った結果、シャッターの閉まった店舗が一堂に並ぶ通りに出てしまった。
拙い、と舌打ち。
遮蔽物が少ない。
姿を覆うだけの陰が少ない。
この距離で50AEの前では殆どの障害物は障子紙に指を突き刺すように盾の意味をなさない。
弦屋正秋が巨体を揺らして鉄英の後を追ってくるのが足音で解る。
弦屋正秋とて人間である。巨弾を放つLARグリズリーをいつまでも連続射撃できる膂力は持ち合わせていないはずだ。
片手に50口径と12番口径を携えているのだ。『必要以上の殺人』を撒き散らすことしか考えていない銃火器のチョイス。
じっくり狙って一撃を放つLARグリズリーと適当に狙っても適当に当たるソウドオフ。真正面からの対決で勝てる要素要因は少ない。
