斃れる迄は振り向くな
その逆はシリンダー長と内径の違いから、他種の22口径リボルバーでは22WMRを使用する事は出来ない。22WMRを使用するオートが有るが、その銃では弾倉の規格が一切合致しないので薬莢長の違う22口径弾は使えない。
22WMRに拘らなければ、22口径ならば日本国内で幾らでも入手できる。銃砲店でも路地裏の密売人からも。望みの弾頭が手に入るとは限らないが。
20番口径シェルも同じく簡単に手に入る。
欧米では20番口径は子供が初めて散弾銃を習う際に使用される弾種として有名で、日本では女性のサンデーシューターに愛用者が多い。
最近では欧米では20番口径より一回り大きな16番口径を用いて12番口径に慣れる練習を始めるので生産と需要が減少している。
それに反し、日本では女性のクレー射撃用散弾銃の弾薬として、あるいは小型から中型の間に位置する鳥獣を狩猟するのに適しているので国内のハンターにも需要が高い。
日本国内で狩猟対象になっている鳥獣は軟質皮革の中型以下が大半なので銃砲店では2.5インチから3インチまで定番商品だ。
入手が簡単であるというのは重要なファクターで、故障しないというのも理解出来る。
だが、『撃っていることを実感できる』という理由は、人間として重要な感情を欠落させている証拠としか思われても仕方がない。
七佳曰く。
「重量感も風情も無く、使い捨て感覚で製造される銃に殺される人間の気持ちを考えたことが有る? あの世に送られる魂に無礼でしょ?」
とのことだ。
引いては……。
「引き金の重さは命の重さ。相手にとっても自分にとっても相棒と呼べる仕事道具で命を賭けなければ……何の為の人生?」
と、問い返されて答えられてしまう。
七佳にとっては銃とは自らの宗教を語る上で本尊に相当する魂が込められた代物だ。
密造拳銃でも盗品でも、使う人間の信条が加えられればその瞬間から教義を語る経典へと変貌する。
無造作にユニークモデルRボーリガードを扱うことも彼女なりのマントラなのだ。
日常の中で日用品と同じポジションで肌で感じ、一体感を染み込ませている。
シャーマニズムや小乗仏教に通じる宗教色が強い。
七佳自身には既存の宗教を持つ傾向は全く無い。
偏屈な世捨て人に近いと切り捨てるのは簡単だが、それだけの理由で人間を評価するのは些か薄弱な見解だろう。
主義、主張、信条、哲学、思想、個人、権利、資格 義務……形は違えど、人間はそれぞれ自分だけの宗教を心に持っている。
何を信じ、何を排し、太く短く生きるのも、細く長く生きるのも、何かに固執するのも、何ものにも縛られないと心掛けるのも、その人間の教義だ。
『インスタント・キラー』と呼ばれる、人間の落伍者だけがなり得る職業を選ぶ七佳の信仰性を顕現したのがユニークモデルRボーリガードだ。
誰にも口を挟ませない。
誰の影響も受けたくない。
誰かの助言など後免蒙る。
時には社会的通念ですら敵となる。
外因で破折されるときは心臓が止まったときのみ。
敵と対峙する前に自分自身と対峙すべし。
禅問答のような遣り取りが、深層心理より更に下層な部位で展開されている。
自分の道を征く上で、意気を声聞縁覚に類似する境地にまで昇華させているのと同義である。
自分に言い聞かせた誓いではない。
これまでの経験の全てが蓄積されて化学変化を起こすように……あたかも、廃タイヤの山が、内部のワイヤーが酸化して酸化熱を帯びて自然発火するように、個々の小さな化学変化が次第に大きな化学変化を引き起こしたのだ。
不法投棄された廃タイヤも末路は燃えるものだと切り捨てられたわけではない。
然るべき処置を取れば安全にクリーンに処理されて、本来辿るべき炭素ブロックに変貌していた。
七佳には心を洗浄する救いが何もなかった。
いつも、自分で何かを言い聞かせるしかなかった。
その結果、常に向いてはいけない方向へベクトルが向いてしまった。
何もかもが、終焉を告げようとしている中で新しく生まれた個性だった。
七佳の形成されたドグマが再構築される日は、再び現実世界に於いて生と死の狭間を彷徨わなければ訪れないだろう。
彼女は待っているのかもしれない。
『インスタント・キラー』に堕ちることで再び新しい自分が生まれるのを。
「……」
一通りのクリーニングを終えて薬室を満たしてやると、無造作にベッドにユニークモデルRボーリガードを放り出す。常にこのような扱いなので、彼女のベッドにはガンオイルと硝煙の臭いが染み付いている。
携帯電話のPCサイトブラウザから依頼を確認する。
「……」
相変わらず満員御礼の状態だ。
それも一人当り千円から一万円の間で特定の一人を殺して欲しいと言う依頼ばかりだ。
依頼者の年齢層も様々。
小学生から、半分棺桶に足を突っ込んでいる年寄りまで。
相場や規約を一切無視して千円で1個中隊分の人間を始末して欲しいと依頼してくる人間が紛れている。
たまに、実入りの良さそうな依頼が有ると、同業者潰しを企む『インスタント・キラー・キラー』だったりする。餌で釣って誘き出し、闇討ちするのだ。
最近はその手法で同業者を葬る、同業者の偽装工作が有るので油断は出来ない。早い話が、同業者同士の相打ち狙いだ。
この様に『インスタント・キラー』の腕の見せどころは依頼の選抜から始まっている。
お陰で同業者の同士討ちが頻繁に発生して、街中での銃撃戦の半分は『インスタント・キラー』同士の殺し合いだ。『インスタント・キラー』が徒党を組んで強盗を働くのも珍しくない。
更にその『インスタント・キラー』に親しい人間を殺されたから復讐の手段として『インスタント・キラー』に依頼するという負の連鎖を招いている。
選んだ依頼が本当に「真っ当な依頼人からの依頼」かどうかは、博打に近いものがある。
基本的に口座への全額振込みを確認してから依頼を受ける。
それ以外に保険の掛けようがない。
殺し屋稼業も楽じゃない。
※ ※ ※
殺し屋稼業も楽じゃない。
全く以ってその通り。
楽な仕事は政治屋だけだ。
今ではヤクザでさえ命懸けで汗水流して拳銃の弾代を稼いでいる。
あまりに実入りが良いので暴力団事務所が本格的に日雇い専門の土木事務所を開いたと言う笑い話のような実話が有るほどだ。
年代を問わず、金と時間が有る世代が『インスタント・キラー』を雇い、開業するわけだ。
家庭を切り盛りする主婦が、小遣い稼ぎの先物取引のタネ欲しさに暇な時間に『インスタント・キラー』を開く例も多い。
残念ながら、今のように簡単に同業者の罠に嵌ることは珍しくない。
「まぁ。口座は確認したしね。片付けるしかない……ね」
これも自分に箔を付ける苦行だ。と、自嘲の微笑みを浮かべて右手に耐熱軍手を填める。左利きではないが、仕事では何故か左手の反応方が早いので、その動きを阻害するものは何も装備したくないだけだ。
22WMRに拘らなければ、22口径ならば日本国内で幾らでも入手できる。銃砲店でも路地裏の密売人からも。望みの弾頭が手に入るとは限らないが。
20番口径シェルも同じく簡単に手に入る。
欧米では20番口径は子供が初めて散弾銃を習う際に使用される弾種として有名で、日本では女性のサンデーシューターに愛用者が多い。
最近では欧米では20番口径より一回り大きな16番口径を用いて12番口径に慣れる練習を始めるので生産と需要が減少している。
それに反し、日本では女性のクレー射撃用散弾銃の弾薬として、あるいは小型から中型の間に位置する鳥獣を狩猟するのに適しているので国内のハンターにも需要が高い。
日本国内で狩猟対象になっている鳥獣は軟質皮革の中型以下が大半なので銃砲店では2.5インチから3インチまで定番商品だ。
入手が簡単であるというのは重要なファクターで、故障しないというのも理解出来る。
だが、『撃っていることを実感できる』という理由は、人間として重要な感情を欠落させている証拠としか思われても仕方がない。
七佳曰く。
「重量感も風情も無く、使い捨て感覚で製造される銃に殺される人間の気持ちを考えたことが有る? あの世に送られる魂に無礼でしょ?」
とのことだ。
引いては……。
「引き金の重さは命の重さ。相手にとっても自分にとっても相棒と呼べる仕事道具で命を賭けなければ……何の為の人生?」
と、問い返されて答えられてしまう。
七佳にとっては銃とは自らの宗教を語る上で本尊に相当する魂が込められた代物だ。
密造拳銃でも盗品でも、使う人間の信条が加えられればその瞬間から教義を語る経典へと変貌する。
無造作にユニークモデルRボーリガードを扱うことも彼女なりのマントラなのだ。
日常の中で日用品と同じポジションで肌で感じ、一体感を染み込ませている。
シャーマニズムや小乗仏教に通じる宗教色が強い。
七佳自身には既存の宗教を持つ傾向は全く無い。
偏屈な世捨て人に近いと切り捨てるのは簡単だが、それだけの理由で人間を評価するのは些か薄弱な見解だろう。
主義、主張、信条、哲学、思想、個人、権利、資格 義務……形は違えど、人間はそれぞれ自分だけの宗教を心に持っている。
何を信じ、何を排し、太く短く生きるのも、細く長く生きるのも、何かに固執するのも、何ものにも縛られないと心掛けるのも、その人間の教義だ。
『インスタント・キラー』と呼ばれる、人間の落伍者だけがなり得る職業を選ぶ七佳の信仰性を顕現したのがユニークモデルRボーリガードだ。
誰にも口を挟ませない。
誰の影響も受けたくない。
誰かの助言など後免蒙る。
時には社会的通念ですら敵となる。
外因で破折されるときは心臓が止まったときのみ。
敵と対峙する前に自分自身と対峙すべし。
禅問答のような遣り取りが、深層心理より更に下層な部位で展開されている。
自分の道を征く上で、意気を声聞縁覚に類似する境地にまで昇華させているのと同義である。
自分に言い聞かせた誓いではない。
これまでの経験の全てが蓄積されて化学変化を起こすように……あたかも、廃タイヤの山が、内部のワイヤーが酸化して酸化熱を帯びて自然発火するように、個々の小さな化学変化が次第に大きな化学変化を引き起こしたのだ。
不法投棄された廃タイヤも末路は燃えるものだと切り捨てられたわけではない。
然るべき処置を取れば安全にクリーンに処理されて、本来辿るべき炭素ブロックに変貌していた。
七佳には心を洗浄する救いが何もなかった。
いつも、自分で何かを言い聞かせるしかなかった。
その結果、常に向いてはいけない方向へベクトルが向いてしまった。
何もかもが、終焉を告げようとしている中で新しく生まれた個性だった。
七佳の形成されたドグマが再構築される日は、再び現実世界に於いて生と死の狭間を彷徨わなければ訪れないだろう。
彼女は待っているのかもしれない。
『インスタント・キラー』に堕ちることで再び新しい自分が生まれるのを。
「……」
一通りのクリーニングを終えて薬室を満たしてやると、無造作にベッドにユニークモデルRボーリガードを放り出す。常にこのような扱いなので、彼女のベッドにはガンオイルと硝煙の臭いが染み付いている。
携帯電話のPCサイトブラウザから依頼を確認する。
「……」
相変わらず満員御礼の状態だ。
それも一人当り千円から一万円の間で特定の一人を殺して欲しいと言う依頼ばかりだ。
依頼者の年齢層も様々。
小学生から、半分棺桶に足を突っ込んでいる年寄りまで。
相場や規約を一切無視して千円で1個中隊分の人間を始末して欲しいと依頼してくる人間が紛れている。
たまに、実入りの良さそうな依頼が有ると、同業者潰しを企む『インスタント・キラー・キラー』だったりする。餌で釣って誘き出し、闇討ちするのだ。
最近はその手法で同業者を葬る、同業者の偽装工作が有るので油断は出来ない。早い話が、同業者同士の相打ち狙いだ。
この様に『インスタント・キラー』の腕の見せどころは依頼の選抜から始まっている。
お陰で同業者の同士討ちが頻繁に発生して、街中での銃撃戦の半分は『インスタント・キラー』同士の殺し合いだ。『インスタント・キラー』が徒党を組んで強盗を働くのも珍しくない。
更にその『インスタント・キラー』に親しい人間を殺されたから復讐の手段として『インスタント・キラー』に依頼するという負の連鎖を招いている。
選んだ依頼が本当に「真っ当な依頼人からの依頼」かどうかは、博打に近いものがある。
基本的に口座への全額振込みを確認してから依頼を受ける。
それ以外に保険の掛けようがない。
殺し屋稼業も楽じゃない。
※ ※ ※
殺し屋稼業も楽じゃない。
全く以ってその通り。
楽な仕事は政治屋だけだ。
今ではヤクザでさえ命懸けで汗水流して拳銃の弾代を稼いでいる。
あまりに実入りが良いので暴力団事務所が本格的に日雇い専門の土木事務所を開いたと言う笑い話のような実話が有るほどだ。
年代を問わず、金と時間が有る世代が『インスタント・キラー』を雇い、開業するわけだ。
家庭を切り盛りする主婦が、小遣い稼ぎの先物取引のタネ欲しさに暇な時間に『インスタント・キラー』を開く例も多い。
残念ながら、今のように簡単に同業者の罠に嵌ることは珍しくない。
「まぁ。口座は確認したしね。片付けるしかない……ね」
これも自分に箔を付ける苦行だ。と、自嘲の微笑みを浮かべて右手に耐熱軍手を填める。左利きではないが、仕事では何故か左手の反応方が早いので、その動きを阻害するものは何も装備したくないだけだ。