RAID!
「サイティングのタイミングも場合によっちゃあ、命取りだな」
深江の背後で炸裂した40mmグレネードは着弾すると観測用の青い粉末を一瞬だけ吹き散らかす訓練用の弾頭だった。
ここに散らばっているナインティーンイレブンより凶悪な銃火器を拾って使おうかと逡巡した時、今度は本当に背後の廃材が金切り声を挙げて爆散した。
マンビルガンの砲撃が始まった。
残りの連中に実弾を装填させる時間を与えてしまった。失策だ。
両翼のチームを同時に攻略することは難しいのでそれ以上、自分を叱責するのは止めた。
M60の男の肩から奪ったバンダリヤを肩掛けして給弾ベルトを咥え込んだM60E3のキャリングハンドルを左手に掴んだ。
ナインティーンイレブンで散発的な牽制のフルオート射撃を繰り返し、連中に少しでも近い位置に有る、連中の火器が扱い難い距離に位置する遮蔽物に駆け込む。
パレットや錆びた一斗缶や歪んだドラム缶が出鱈目な山を築いていた遮蔽物。
連中の得物からすればもっと近付きたかった。
この距離だとスパス15の散弾は脅威ではないがスラッグ弾に交換されると面倒だった。
マンビルガンの安全信管が焼き切れるギリギリの距離だと目測で図ることができた。
スパス15だろうがマンビルガンだろうが、いずれも再装填に隙ができる火器には違いは無い。
連中はそれも承知しているはずだから互いをカバーする行動に出ると考えるのが普通だろう。
スパス15は様々な弾種の弾倉交換が行える脅威な存在だが、弾倉一個当りの装填弾数が少ないのがネックだ。
マンビルガンはねじを巻かないとシリンダーが回転しない上に、古式ゆかしいリボルバーの様にローディングゲートを開いて一発ずつ排莢と装填を行わなければならない。単発のM203と違って18発も休み無しで26.5mmグレネードシェルを撃ち続けることができる。
いずれを黙らせるにしても距離がキーワードだ。
M60E3を拝借したのは正解だった。
弾薬はバンダリヤの大きさからして400発近く有るので心強い。ただ、交換用銃身を奪うのを忘れたために熱暴走が少し気になった。
未だに一部でM60シリーズを採用している米軍のマニュアルでは携行用のM60シリーズは300発前後、発射するとで銃身を交換することを教えている。
熱暴走を起こせば機関部が勝手に銃弾を吐くだけでなく、銃身とその周辺のパーツが破裂して射手や付近に被害をもたらすためだ。
テレスコピック式のバイポッドを展開して遮蔽物の間から銃身を覗かせる。
右手側には新しい20連発弾倉と差し替えたナインティーンイレブンとバンダリヤから引き出した7.62mmNATO弾の50連発ベルトを2本用意する。
M60E3の発射速度は毎分550から650発程度。
これから一生の相棒になるのではない。
使いこなすか否かを考えるより、スプレーの如く弾幕を張って牽制し、あわよくば致命傷を与えれば勝ちだ。
M60E3のボルトを力一杯引くと安全装置を解除して引き金を引く。
サイティングは予め調節されているだろうが、軽機関銃ともなると、それは個人の体格に合わせたサイティングと同義だ。
あまりサイトの調節位置は気にせず、発射速度に任せて弾幕を張る。
伏せた状態でバイポッドを用いているために大きな角度で銃口を振ることは難しい。彼女の体感的に左右数度くらいにしか銃口を振ることができない。
肩がNATO弾の衝撃に小刻みに震わされる。
空薬莢が排莢口から給弾リンクと分離されて吐き出される。
距離が近過ぎて着弾点など実際は照準器を用いず、5発に1発の割合でブレンドされている曳光弾を目標に修正していく。
堅い物体を貫く無機質な着弾音が、発砲音の指弾程の隙間に聞こえてくる。
遮蔽物の材質等は関係無しにフルメタルジャケットの弾頭が、初速毎秒890mで3170Jの初活力で押し出された悪魔的な破壊力が、空気を震動させ、信頼の制圧力を見せつける。
6、7発ほどの指切り連射でも『人間をボロキレ同然の案山子にする』のは非常に簡単だった。
合計して、たった50発の連射。
明らかに10発以上のNATO弾を杭を打つように叩き込まれたスパス15の男は、地面に崩れる際に足元に向かって断末魔の12番口径を一発放った。
「……」
呆気無く一人を仕留めた。深い感慨は無い。
義務を果たすだけのように硝煙をまとう、M60E3のフィードカバーを90度の角度で大きく開き、火傷しそうなフィードトレイに次の給弾ベルトの端を載せる。
勢い良くフィードカバーを閉じてボルトを思い切り引く。
拳銃と違って弾薬は給弾リンクによって連結されているため、薬室に初弾が送り込まれた感触は全く無い。引き金がカチンと音を立てて一段下がる。ガス圧を利用するオペレーティングロッドが内部のファイアリングピンを後退させたことをその感触で知る。
「……」
再び右肩にストックを押し当て、チークパッドに左掌を押し当てる。
その左手の甲に頬を乗せる。
マンビルガンの男が隠れている辺りを銃口で探るべく照準器に視線を通す。
さずがに今の再装填で生じた大きな隙に、マンビルガンの男は位置を移動させたのか?
照準器の先に人影は覗えない。
NATO弾が捲くし立てた廃材の埃や土煙が風に流される。角と壁の一部に弾痕を穿いたプレハブ小屋が有るだけだ。
殆ど直感的にプレハブ小屋に向かって横一列に掃射して弾痕を縫い付ける。
回転速度の遅い連射で休み無く50発を吐き出す。
ボルトが閉鎖したまま弾切れを示す。
右肩に無理な反動が50連発分も襲い掛かると流石に痣ができそうな痛みを感じる。
今は興奮で一時的に新陳代謝が停止しているために殆ど痛みや負担を感じないが、生きていれば、今夜は右肩がまともに上がらないだろう。
伏せた体勢での射撃はそれ以外にも弊害をもたらす。
得物であるM60E3の連続使用時間を超えてしまった。
フルオートで射撃できる携行銃火器は、弾倉に入っている分だけの弾数を休み無く射撃できる設計されていない。
例えば、『30発装填できる短機関銃』。実際は一度引き金を引いて一挙に30発全弾を撃ち切るような使い方を繰り返しても壊れないような設計と耐久度は持っていない。指切り連射を多用して効率の良い弾幕を繰り返すための30発なのだ。
弾倉分を一切の間髪を入れず、一度に吐き出すと機関部の負担が激しくなり銃本体の寿命を極端に削る。
場合に拠っては、本体が新品でもそれだけで銃身のライフリングが全て削り取られてしまい、銃身の交換を余儀なくされる。
強力な火器にはそれなりの裏返しを持っている。
「……熱っ」
否な予感を抑えながらフォアアームラッチを指でそろそろと触れてみる。予想を裏切らず銃身とリコイルレシーバーの熱を伝導して火傷しそうだ。
このM60E3の持ち主はサイティング作業の時から銃身を交換する作業を怠っていたようだ。米軍のマニュアルではM60E3の連続射撃は15発から20発までと決められている。その上での銃身交換の目安が300発なのだ。
航空機や車載用に重量を気にせず堅牢に拵えられた軽機関銃と違って交換用銃身を専門の補弾手が持ち歩く理由がそれである。
深江は背後を振り向いた。
どこに潜んでいるか解らない相手に背中を向けて予備銃身を拾いに行くのは危険だと悟る。
深江の背後で炸裂した40mmグレネードは着弾すると観測用の青い粉末を一瞬だけ吹き散らかす訓練用の弾頭だった。
ここに散らばっているナインティーンイレブンより凶悪な銃火器を拾って使おうかと逡巡した時、今度は本当に背後の廃材が金切り声を挙げて爆散した。
マンビルガンの砲撃が始まった。
残りの連中に実弾を装填させる時間を与えてしまった。失策だ。
両翼のチームを同時に攻略することは難しいのでそれ以上、自分を叱責するのは止めた。
M60の男の肩から奪ったバンダリヤを肩掛けして給弾ベルトを咥え込んだM60E3のキャリングハンドルを左手に掴んだ。
ナインティーンイレブンで散発的な牽制のフルオート射撃を繰り返し、連中に少しでも近い位置に有る、連中の火器が扱い難い距離に位置する遮蔽物に駆け込む。
パレットや錆びた一斗缶や歪んだドラム缶が出鱈目な山を築いていた遮蔽物。
連中の得物からすればもっと近付きたかった。
この距離だとスパス15の散弾は脅威ではないがスラッグ弾に交換されると面倒だった。
マンビルガンの安全信管が焼き切れるギリギリの距離だと目測で図ることができた。
スパス15だろうがマンビルガンだろうが、いずれも再装填に隙ができる火器には違いは無い。
連中はそれも承知しているはずだから互いをカバーする行動に出ると考えるのが普通だろう。
スパス15は様々な弾種の弾倉交換が行える脅威な存在だが、弾倉一個当りの装填弾数が少ないのがネックだ。
マンビルガンはねじを巻かないとシリンダーが回転しない上に、古式ゆかしいリボルバーの様にローディングゲートを開いて一発ずつ排莢と装填を行わなければならない。単発のM203と違って18発も休み無しで26.5mmグレネードシェルを撃ち続けることができる。
いずれを黙らせるにしても距離がキーワードだ。
M60E3を拝借したのは正解だった。
弾薬はバンダリヤの大きさからして400発近く有るので心強い。ただ、交換用銃身を奪うのを忘れたために熱暴走が少し気になった。
未だに一部でM60シリーズを採用している米軍のマニュアルでは携行用のM60シリーズは300発前後、発射するとで銃身を交換することを教えている。
熱暴走を起こせば機関部が勝手に銃弾を吐くだけでなく、銃身とその周辺のパーツが破裂して射手や付近に被害をもたらすためだ。
テレスコピック式のバイポッドを展開して遮蔽物の間から銃身を覗かせる。
右手側には新しい20連発弾倉と差し替えたナインティーンイレブンとバンダリヤから引き出した7.62mmNATO弾の50連発ベルトを2本用意する。
M60E3の発射速度は毎分550から650発程度。
これから一生の相棒になるのではない。
使いこなすか否かを考えるより、スプレーの如く弾幕を張って牽制し、あわよくば致命傷を与えれば勝ちだ。
M60E3のボルトを力一杯引くと安全装置を解除して引き金を引く。
サイティングは予め調節されているだろうが、軽機関銃ともなると、それは個人の体格に合わせたサイティングと同義だ。
あまりサイトの調節位置は気にせず、発射速度に任せて弾幕を張る。
伏せた状態でバイポッドを用いているために大きな角度で銃口を振ることは難しい。彼女の体感的に左右数度くらいにしか銃口を振ることができない。
肩がNATO弾の衝撃に小刻みに震わされる。
空薬莢が排莢口から給弾リンクと分離されて吐き出される。
距離が近過ぎて着弾点など実際は照準器を用いず、5発に1発の割合でブレンドされている曳光弾を目標に修正していく。
堅い物体を貫く無機質な着弾音が、発砲音の指弾程の隙間に聞こえてくる。
遮蔽物の材質等は関係無しにフルメタルジャケットの弾頭が、初速毎秒890mで3170Jの初活力で押し出された悪魔的な破壊力が、空気を震動させ、信頼の制圧力を見せつける。
6、7発ほどの指切り連射でも『人間をボロキレ同然の案山子にする』のは非常に簡単だった。
合計して、たった50発の連射。
明らかに10発以上のNATO弾を杭を打つように叩き込まれたスパス15の男は、地面に崩れる際に足元に向かって断末魔の12番口径を一発放った。
「……」
呆気無く一人を仕留めた。深い感慨は無い。
義務を果たすだけのように硝煙をまとう、M60E3のフィードカバーを90度の角度で大きく開き、火傷しそうなフィードトレイに次の給弾ベルトの端を載せる。
勢い良くフィードカバーを閉じてボルトを思い切り引く。
拳銃と違って弾薬は給弾リンクによって連結されているため、薬室に初弾が送り込まれた感触は全く無い。引き金がカチンと音を立てて一段下がる。ガス圧を利用するオペレーティングロッドが内部のファイアリングピンを後退させたことをその感触で知る。
「……」
再び右肩にストックを押し当て、チークパッドに左掌を押し当てる。
その左手の甲に頬を乗せる。
マンビルガンの男が隠れている辺りを銃口で探るべく照準器に視線を通す。
さずがに今の再装填で生じた大きな隙に、マンビルガンの男は位置を移動させたのか?
照準器の先に人影は覗えない。
NATO弾が捲くし立てた廃材の埃や土煙が風に流される。角と壁の一部に弾痕を穿いたプレハブ小屋が有るだけだ。
殆ど直感的にプレハブ小屋に向かって横一列に掃射して弾痕を縫い付ける。
回転速度の遅い連射で休み無く50発を吐き出す。
ボルトが閉鎖したまま弾切れを示す。
右肩に無理な反動が50連発分も襲い掛かると流石に痣ができそうな痛みを感じる。
今は興奮で一時的に新陳代謝が停止しているために殆ど痛みや負担を感じないが、生きていれば、今夜は右肩がまともに上がらないだろう。
伏せた体勢での射撃はそれ以外にも弊害をもたらす。
得物であるM60E3の連続使用時間を超えてしまった。
フルオートで射撃できる携行銃火器は、弾倉に入っている分だけの弾数を休み無く射撃できる設計されていない。
例えば、『30発装填できる短機関銃』。実際は一度引き金を引いて一挙に30発全弾を撃ち切るような使い方を繰り返しても壊れないような設計と耐久度は持っていない。指切り連射を多用して効率の良い弾幕を繰り返すための30発なのだ。
弾倉分を一切の間髪を入れず、一度に吐き出すと機関部の負担が激しくなり銃本体の寿命を極端に削る。
場合に拠っては、本体が新品でもそれだけで銃身のライフリングが全て削り取られてしまい、銃身の交換を余儀なくされる。
強力な火器にはそれなりの裏返しを持っている。
「……熱っ」
否な予感を抑えながらフォアアームラッチを指でそろそろと触れてみる。予想を裏切らず銃身とリコイルレシーバーの熱を伝導して火傷しそうだ。
このM60E3の持ち主はサイティング作業の時から銃身を交換する作業を怠っていたようだ。米軍のマニュアルではM60E3の連続射撃は15発から20発までと決められている。その上での銃身交換の目安が300発なのだ。
航空機や車載用に重量を気にせず堅牢に拵えられた軽機関銃と違って交換用銃身を専門の補弾手が持ち歩く理由がそれである。
深江は背後を振り向いた。
どこに潜んでいるか解らない相手に背中を向けて予備銃身を拾いに行くのは危険だと悟る。