RAID!

 二人一組で2方向へ散り、散った先で各自の得物の優位性を瞬時に判断して前衛と後衛に展開した。
 スパス15が前衛でマンビルガンが後衛。
 ステアーLMA+M203が前衛でM60E3が後衛。
 この組み合わせで、2チームは廃材の陰や潜伏先のプレハブ小屋の陰に飛び込んだ。
 逃げ道の無いプレハブ内部に逃げ込まないのは流石だ。
「咄嗟の判断は流石。だが、隣の『バランスの悪い戦友』と同時に散ったのは少々、愚作だったな」
 スパス15はこの様な開けた場所ではパターンが拡散し過ぎて散弾の威力が著しく低下する。相棒のマンビルガンは中距離の面制圧用兵器。近接してくる、若しくは弾頭の安全信管が焼き切れる前の近距離からの攻撃には完全に対応できない。マンビルガンに本来の非致死弾が装填されているとは微塵も考えていない。そんな紳士は『ここ』には存在しないと断言できる。
 ステアーAUGの銃身を強化して延長したモデルに40mmグレネード弾を撃ち出すM203を取り付けたステアーLMA+M203とM60E3の組み合わせはどちらが前衛・後衛に付いても長所と短所は同じだった。
 双方とも分隊支援火器だ。ポイントマン、バックアップの突入部隊とその援護が存在する前提で戦術が考案されているからだ。
 再装填と銃身交換に大きな隙が出来るM60E3。
 バイポットを用いて伏せた状態での牽制攻撃を主とする簡易固定型兵装のステアー。
 実を言うと最初の一連射で4人を一薙ぎするつもりだった深江だが、ナインティーンイレブンを指切り連射で発砲しても距離が有り過ぎて着弾点がズレたのだ。勿論、反動や狙撃に不向きなサイトでの射撃だったという理由も有る。
 トレンチコートのベルトを締めて、そのベルトに20連発単列弾倉を3本挿し込む。さながら、脇差だ。
 初撃で誰にも被弾しなかったのは残念だが、イニシアチブが完全に相手に回ったとは思っていない。
 サイティング中の連中を襲ったのだ「装填されている弾薬は少なからず着弾観測・訓練用の弾頭」だ。グレネードランチャーの砲弾も炸裂しても青い粉末を撒き散らすだけ。
 半自動散弾銃も非致死弾程も威力が出ないプラスチックの粒球。連中がプロだというのなら、5.56mmも7.62mmもウッドチップ弾頭か硬質樹脂弾頭だろう。命中精度はともかく、初活力は30口径カービン弾程度の性能に落ちているだろう。
 連中の肩のバンダリヤや腰のベルトには大型ズックのような弾薬ポーチがぶら提げられていたが、それは本命の実弾だと仮定した方が賢い。
「私が……有象無象の機微ですら見逃さない殺し屋だということを思い知れ」
 テロリスト連中はハンドシグナルを用いて襲撃者の位置の割り出しに躍起になっている。
 前衛は銃弾が襲来した方向に銃口と視線を走らせ、後衛は前衛の180度反対側を警戒している。
 次の斉射で二人共が倒れないように、遮蔽物が許すだけの間隔を空けている。
 前衛が忙しなく目視で計っている一帯には既に深江は存在していない。
 採石場の廃石で出来た小さな丘の間を縫うように駆け下りて既に右翼側に回り込んでいる。
 右翼側……ステアーとM60のバディだ。目前50mで二人が明後日の方向に銃口を向けている。
「!」
 M60E3の男は左手にグリップを持ち替えて右手でいそいそと肩に掛けたバンダリヤから実弾が連なった50連発の給弾ベルトを引きずり出す。手元と付近と交互に視線を送って弾帯の交換をしている。
 彼我の距離50m。
 2度深呼吸をすればナインティーンイレブンでも命中させる事の出来る最大戦闘距離だ。
 セミオートなら。の、話だが……。
 深江は躊躇わなかった。
 『2度の深呼吸の後に少し長めの指切り連射』を敢行した。
 狙った着弾点はM60E3の男の足元。
 後は反動で勝手に釣り上がる銃口に任せて足から頭にかけて薙ぐ。
 狙撃は範疇外だったが掃射ともなると別の話。と、言わんばかりに6個の空薬莢が毎分650発の速度で排出されて大粒の砂利の地面に弾ける。
 6発の45口径の行方は掃射なので45口径に聞いてみないと判らない。
 その弾頭の行方は……男の肉にめり込む。
 元気の無い水風船が潰れた音に似た着弾音を僅かに聞かせた後に人間一人が砂利に崩れる音で理解した。
 一人、仕留めた。
 右腹部から胸部に掛けて合計2発。
 右頚部に頚骨、動脈を損傷する被弾箇所が1箇所。
 M60E3の男の首は不自然な方向に向いたまま、唐突に生命活動に了を打たれた。
 死の痙攣に襲われる、人体の断末魔すら起きない。ごく有り触れた即死だった。
 バディのステアーの男は一度立ち上がると体勢を整えて右膝を突く。 得物を肩に押し当てて深江の居ると思われる砂利山の稜線に向かって5.56mm弾を撒き散らした。
 それなりに訓練された3、4発刻みの指切り連射だった。
 毎分当りの発射速度が750発以上で、独特のプラ製弾倉はノーマルモデルで使われる30連弾倉だった。あっという間に小口径高速弾はタマ切れで沈黙する。
 クローズ機構のボルトが前進してレシーバーを叩いて弾が切れた事を報せた。
 既に砂利山の麓に降りていた深江は、高さ3mほどまで積み上げられた廃材の陰で舌を出して唇を湿らせた。
「そう。それがブルパップの欠点だ」
 ステアーAUGやFA-MAS、L85A1といった弾倉を挿し込む位置がグリップより後方、ストック付近に有るアサルトライフルでは右手でグリップを保持したまま、左手を右脇に滑り込ませる体勢で弾倉交換をしなければならない。
 排莢口は銃本体の右側面後方、肩付けパット付近に位置している為に熟練しなければ、射撃体勢を維持したまま弾倉交換を行うのはやや困難なのだ。
 銃身の長さが一般的なアサルトライフルと同じで、非常にコンパクトに作られているブルパップ型自動小銃は排莢口の位置の関係で腰溜め連射が出来ず、3点保持を崩した途端バランスを失い、直感的動作で再装填を行うことが難点。
 故に、『肉厚長銃身+銃身下部のグレネードランチャー』モデルである、そのステアーは手で保持していた場合、再装填の度に肩からストックパッドを外し、バランスが崩れ銃身側の重量に任せるまま銃口を地面に向けて弾倉を交換する動作になる。
 そこで、伏せたままの操作を有利にするバイポットを装備し、仲間の援護に専念するために『簡易固定型兵装』というポジションに『特化しなければならない武器』なのだ。
 援護の薄い状態で個別に攻撃態勢を執ろうとしたのが敗因だ。
「!」
 ステアーの男は瞬時に深江の位置を確認した。
 深江が30mほどの距離で、伏せも隠れもしない体勢でナインティーンイレブンを3点保持しているのが見えた。
 男は手から交換弾倉を咄嗟に捨て去り、右手でステアーの独特のフォアグリップを握る。左手でグレネードランチャーの防熱ハンドガードを掴み、握る。
 二人は同時に引き金を引いた。
 重なる、銃声と砲声。
 秒速257mの45口径。
 秒速87mの40mmグレネードランチャー。
「……」
 ステアーの男の胸に4つの弾痕が映画の弾着じみて嘘らしく咲く。
 深江の背後の資材に命中した40mmグレネードランチャーの砲弾が炸裂する。
「……」
 男はステアーを握ったまま仰向けに倒れた。
 痙攣を起こす前に、小さく咳き込んで唇の端から脂っぽい赤色を噴く。
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