歌え。22口径。
ヒーロー的心情で決して行動しているわけではない。
開けた位置、見晴らしの良い位置、遮蔽物が少ない区域。
それらを猛然と走り抜けている。逆にプロでは有り得ない行動に3人は少々戸惑い気味でそれが原因で互いを怒鳴り合っているらしい。
「ああっもうっ! 鬱陶しい!」
自分の後を追う銃弾はまるで志保を試しているかのように執拗だった。
実際は連中が射線を重ねてはいけないと勝手に思い込んでいるために的確な1発を繰り出せないで居る。
弾幕を張らずに点で追う。
プロゆえの癖がお互いに足を引っ張り合っている。
「ホント。鬱陶しいよ……。カタ、付ける」
イサカの散弾銃を腰溜めにした長身痩躯の男が9mmと50口径が交差する射線上に出て志保の20m手前に回り込む。
開けた一直線の通り。
遮蔽物も何も無く見晴らしも良い。
彼我の距離20mを置いて志保はイサカの男と対峙した。
時間にして刹那ほど。
志保の後ろからは射線が追い、前方には散弾銃を構えた男。
志保は走りながらシリンダーの22口径を吐き出す。自動拳銃の様な速射だった。
男の体に22口径が次々と食い込む音がするが、男の口から軽い笑みは全く消えない。防弾チョッキを着ているのだろうが、志保にそんなものを確認している時間は無かった。
ちゅんっ
ロケット花火を打ち上げた様な異音。
直後、シリンダーの22口径ロングライフル弾は費えた。
「?」
何の音なのか分からない志保。それよりも散弾銃の男の勝利を確信した顔がはっきり確認できる!
「!」
散弾銃のニヤけた男の顔がオレンジ色のバックブラストを受けて一瞬、志保の視界から男の顔が消える。
距離2m。男の顔からまとわりつく煙が消えた時、男は機関部がへし折れたイサカを捨てて顔面を押さえたまま呪詛を張り上げて片膝を付いた。
有り得ない、ラッキーパンチ。
10番口径の巨大な銃口から飛び込んだ22口径は薬室の10番口径マグナムを暴発させた。
散弾銃の男に止めを刺したのは、彼の脇を走り抜ける志保を追ってきた9mmパラベラム弾の掃射により頭蓋を撃ち抜かれたことでカタが付いた。断末魔を挙げる間もなく、散弾銃の男はミシンで縫われたような弾痕を体に刻まれて倒れる。
急な出来事でMP5Kの使い手が銃口を逸らすことも引き金から指を離すことも出来なかった。
「あのバカっ! 早まりやがって!」
LARグリズリーの男がスライドリリースレバーを押しながら唾を吐いた。
重々しい音を立ててスライドが前進する。
「ふっ!」
心拍数が尋常でない自分を、放棄された土管の陰に滑り込ませる。顔に疑問符を貼り付けながらシリンダーを開放する。
「え? 何? やったの?」
震える手でスピードローダーを押し込んで素早くシリンダーを填める。
志保は自分が生きていることに首を捻りながら呼吸を整える。
「くっ!」
セメントで出来た土管が轟音と共に破壊されていく。発砲音からして50AE弾。弾頭をホローポイント系から徹甲弾系に切り替えたのだろう。土管が盾を成さなくなるのも時間の問題だ。
燻り出されるように匍匐前進で這い出て錆だらけのフォークリフトに逃げ込む。
流石の50AE弾でもこのフォークリフトを破壊し尽くすのは難しいだろう。
「!」
志保に息をつく間は無かった。
背後に気配を感じて振り向いた。
「チェックメイト。終わりだ」
煙草を横咥えにしたMP5Kの男が5mの背後でゆらりと立っている。幾ら軽量と言っても片手で扱うには過ぎるはずの短機関銃を片手でホールドして銃口を志保に向けている。
「……」
「銃を捨てろ。2度は言わない」
「……っ!」
下唇を噛んで悔しがる志保。男の眼光からは志保を生かして帰す気は無いことを悟らせるのに充分な光を放っていた。
――――嫌!
――――嫌!
――――死にたくない!
眦に涙が浮かぶ。
首がゆっくり下がって志保の戦意が挫かれていく。
恐怖に膝が笑っている。奥歯がカチカチと震える。
殺される。死ぬ。怖い。悔しい。
訳も解らず消される。
何もかもが嫌で、否定の語彙が頭の中を駆け巡る。
いつかはこんな最期が訪れるとは覚悟していたが、実際に体験すると全く違った感情が溢れる。
同じように死ぬのなら、『自分で頭を撃ち抜きたい』。
冷たい銃口でいつ撃たれるのかわからない弾丸を待つのも嫌。
「おー。捕まえたか」
LARグリズリーの男がダブルハンドで構えながら慎重に歩み寄ってくる。
「何とか、な。それにしても手こずらせたな」
先程、咄嗟に構えようとしたアストラ・カデックス223。
銃口は結局、MP5Kの男に向けることは無かった。
そう。
MP5Kの男には、だ。
アストラ・カデックス223の銃口は力無くゆっくり垂れ下がって行く。
丸で志保の魂が抜け殻に変貌してゆく様を表しているようだった。
突然、LARグリズリーの男が背後から志保に大きな声を掛けた。
志保の体が電極を刺されたように硬直する。
「……ひっ」
少量の小便を漏らした途端、全身に強張った力が入る。
勿論、アストラ・カデックス223を保持していた、やる気の無い指先にも。
それは咄嗟とはいえ、嘴のようなパーツに4kgの力学的作用をもたらすのに充分な力を持っていた。
軽い発砲音。
と、同時に忌々しい9mmパラベラム弾の速射音。殆ど重なって、志保の耳朶と鼓膜を激しく叩く轟音。
「……」
「……」
「……」
2人の男は口を半開きにして目を剥いて、自分に起きた現象を理解できないまま一瞬で絶命する。
「……な、何?」
志保も理解できない。一言を口から搾り出すのに精一杯だった。
「??」
自分が握るアストラ・カデックス223の銃口から薄っすらと硝煙が昇っている。
その場にストンと尻餅を搗いて今頃激しく緊張が解れたのか股間に小便の溜まりを作る。
目の前でMP5Kの男が血の池を作っている。
左胸に大きな擂り鉢状の弾痕が穿かれている。
ゆっくり首を回して呆けた顔で背後を見る。
左脇から右肩まで多数の被弾箇所から血を溢れさせているLARグリズリーの男の死体が有る。
「?」
再び首を戻した時、目の前で絶命しているMP5Kの男の股間から小便を漏らしたような明るい色の血が零れているのを発見する。
「え? ……何?」
状況は至って簡単だった。
それは、銃口が斜め下に向いたアストラ・カデックス223を発砲した事に端を発する。
体が恐怖で硬直した志保は筋肉の緊張でアストラ・カデックス223の引き金を引いた。
装填していたイエローチップの22口径ロングライフル弾は貫徹力に優れる反面、貫通できない対象に衝突すると跳弾となる。
アスファルトの地面など勿論、貫通しない。
従って、跳ねた22口径はあろう事か、MP5Kの男の睾丸と海綿体を粉砕した。
その衝撃で更に引き金を引いたMP5Kの男。その銃口の先にはLARグリズリーの男が居た。9mm弾の不意な暴発の標的となったLARグリズリーの男は全身に銃弾を浴びて、筋肉が緊張し、引き金を引き絞ってしまった。
照準定まらない50AE弾の行き先はMP5Kの男の心臓だったと言う訳だ。
「??」
まだ良く理解していない志保。
体が生理的に機能して、最後の一滴まで小便を膀胱から押し出すと、小さく身震いした。
願わくばラッキーパンチ3発を所望していたが、たった2発で取り敢えずの危機を乗り越えた。……と、自分に言い聞かせて納得させた。
「ほう。スゴイの見た」
開けた位置、見晴らしの良い位置、遮蔽物が少ない区域。
それらを猛然と走り抜けている。逆にプロでは有り得ない行動に3人は少々戸惑い気味でそれが原因で互いを怒鳴り合っているらしい。
「ああっもうっ! 鬱陶しい!」
自分の後を追う銃弾はまるで志保を試しているかのように執拗だった。
実際は連中が射線を重ねてはいけないと勝手に思い込んでいるために的確な1発を繰り出せないで居る。
弾幕を張らずに点で追う。
プロゆえの癖がお互いに足を引っ張り合っている。
「ホント。鬱陶しいよ……。カタ、付ける」
イサカの散弾銃を腰溜めにした長身痩躯の男が9mmと50口径が交差する射線上に出て志保の20m手前に回り込む。
開けた一直線の通り。
遮蔽物も何も無く見晴らしも良い。
彼我の距離20mを置いて志保はイサカの男と対峙した。
時間にして刹那ほど。
志保の後ろからは射線が追い、前方には散弾銃を構えた男。
志保は走りながらシリンダーの22口径を吐き出す。自動拳銃の様な速射だった。
男の体に22口径が次々と食い込む音がするが、男の口から軽い笑みは全く消えない。防弾チョッキを着ているのだろうが、志保にそんなものを確認している時間は無かった。
ちゅんっ
ロケット花火を打ち上げた様な異音。
直後、シリンダーの22口径ロングライフル弾は費えた。
「?」
何の音なのか分からない志保。それよりも散弾銃の男の勝利を確信した顔がはっきり確認できる!
「!」
散弾銃のニヤけた男の顔がオレンジ色のバックブラストを受けて一瞬、志保の視界から男の顔が消える。
距離2m。男の顔からまとわりつく煙が消えた時、男は機関部がへし折れたイサカを捨てて顔面を押さえたまま呪詛を張り上げて片膝を付いた。
有り得ない、ラッキーパンチ。
10番口径の巨大な銃口から飛び込んだ22口径は薬室の10番口径マグナムを暴発させた。
散弾銃の男に止めを刺したのは、彼の脇を走り抜ける志保を追ってきた9mmパラベラム弾の掃射により頭蓋を撃ち抜かれたことでカタが付いた。断末魔を挙げる間もなく、散弾銃の男はミシンで縫われたような弾痕を体に刻まれて倒れる。
急な出来事でMP5Kの使い手が銃口を逸らすことも引き金から指を離すことも出来なかった。
「あのバカっ! 早まりやがって!」
LARグリズリーの男がスライドリリースレバーを押しながら唾を吐いた。
重々しい音を立ててスライドが前進する。
「ふっ!」
心拍数が尋常でない自分を、放棄された土管の陰に滑り込ませる。顔に疑問符を貼り付けながらシリンダーを開放する。
「え? 何? やったの?」
震える手でスピードローダーを押し込んで素早くシリンダーを填める。
志保は自分が生きていることに首を捻りながら呼吸を整える。
「くっ!」
セメントで出来た土管が轟音と共に破壊されていく。発砲音からして50AE弾。弾頭をホローポイント系から徹甲弾系に切り替えたのだろう。土管が盾を成さなくなるのも時間の問題だ。
燻り出されるように匍匐前進で這い出て錆だらけのフォークリフトに逃げ込む。
流石の50AE弾でもこのフォークリフトを破壊し尽くすのは難しいだろう。
「!」
志保に息をつく間は無かった。
背後に気配を感じて振り向いた。
「チェックメイト。終わりだ」
煙草を横咥えにしたMP5Kの男が5mの背後でゆらりと立っている。幾ら軽量と言っても片手で扱うには過ぎるはずの短機関銃を片手でホールドして銃口を志保に向けている。
「……」
「銃を捨てろ。2度は言わない」
「……っ!」
下唇を噛んで悔しがる志保。男の眼光からは志保を生かして帰す気は無いことを悟らせるのに充分な光を放っていた。
――――嫌!
――――嫌!
――――死にたくない!
眦に涙が浮かぶ。
首がゆっくり下がって志保の戦意が挫かれていく。
恐怖に膝が笑っている。奥歯がカチカチと震える。
殺される。死ぬ。怖い。悔しい。
訳も解らず消される。
何もかもが嫌で、否定の語彙が頭の中を駆け巡る。
いつかはこんな最期が訪れるとは覚悟していたが、実際に体験すると全く違った感情が溢れる。
同じように死ぬのなら、『自分で頭を撃ち抜きたい』。
冷たい銃口でいつ撃たれるのかわからない弾丸を待つのも嫌。
「おー。捕まえたか」
LARグリズリーの男がダブルハンドで構えながら慎重に歩み寄ってくる。
「何とか、な。それにしても手こずらせたな」
先程、咄嗟に構えようとしたアストラ・カデックス223。
銃口は結局、MP5Kの男に向けることは無かった。
そう。
MP5Kの男には、だ。
アストラ・カデックス223の銃口は力無くゆっくり垂れ下がって行く。
丸で志保の魂が抜け殻に変貌してゆく様を表しているようだった。
突然、LARグリズリーの男が背後から志保に大きな声を掛けた。
志保の体が電極を刺されたように硬直する。
「……ひっ」
少量の小便を漏らした途端、全身に強張った力が入る。
勿論、アストラ・カデックス223を保持していた、やる気の無い指先にも。
それは咄嗟とはいえ、嘴のようなパーツに4kgの力学的作用をもたらすのに充分な力を持っていた。
軽い発砲音。
と、同時に忌々しい9mmパラベラム弾の速射音。殆ど重なって、志保の耳朶と鼓膜を激しく叩く轟音。
「……」
「……」
「……」
2人の男は口を半開きにして目を剥いて、自分に起きた現象を理解できないまま一瞬で絶命する。
「……な、何?」
志保も理解できない。一言を口から搾り出すのに精一杯だった。
「??」
自分が握るアストラ・カデックス223の銃口から薄っすらと硝煙が昇っている。
その場にストンと尻餅を搗いて今頃激しく緊張が解れたのか股間に小便の溜まりを作る。
目の前でMP5Kの男が血の池を作っている。
左胸に大きな擂り鉢状の弾痕が穿かれている。
ゆっくり首を回して呆けた顔で背後を見る。
左脇から右肩まで多数の被弾箇所から血を溢れさせているLARグリズリーの男の死体が有る。
「?」
再び首を戻した時、目の前で絶命しているMP5Kの男の股間から小便を漏らしたような明るい色の血が零れているのを発見する。
「え? ……何?」
状況は至って簡単だった。
それは、銃口が斜め下に向いたアストラ・カデックス223を発砲した事に端を発する。
体が恐怖で硬直した志保は筋肉の緊張でアストラ・カデックス223の引き金を引いた。
装填していたイエローチップの22口径ロングライフル弾は貫徹力に優れる反面、貫通できない対象に衝突すると跳弾となる。
アスファルトの地面など勿論、貫通しない。
従って、跳ねた22口径はあろう事か、MP5Kの男の睾丸と海綿体を粉砕した。
その衝撃で更に引き金を引いたMP5Kの男。その銃口の先にはLARグリズリーの男が居た。9mm弾の不意な暴発の標的となったLARグリズリーの男は全身に銃弾を浴びて、筋肉が緊張し、引き金を引き絞ってしまった。
照準定まらない50AE弾の行き先はMP5Kの男の心臓だったと言う訳だ。
「??」
まだ良く理解していない志保。
体が生理的に機能して、最後の一滴まで小便を膀胱から押し出すと、小さく身震いした。
願わくばラッキーパンチ3発を所望していたが、たった2発で取り敢えずの危機を乗り越えた。……と、自分に言い聞かせて納得させた。
「ほう。スゴイの見た」