立海大付属
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ただの勘違いだった。
「ったく、遅ーなぁ。ユエちゃん何やってんだぁ?」
雅「なんじゃ、彼女に振られたんか。」
「振られる訳ないっスよ。」
雅「ま、おまんらは仲が良いからの。」
「でしょでしょ。所で仁王先輩、ユエちゃん見てないっスか?」
比「ユエさんなら先程、部室で丸井くんとお話していましたよ。」
「お、マジっスか!さんきゅー、柳生先輩!…もー俺とデートするって話なのに丸井先輩と何話してるんだよ…。」
まったく、と思いつつ丸井とユエがいる部室へ向かう。
「(…2人きりでどんな話してるんだろ。)」
切原は部室に耳を澄ませる。
ブ「……~~マジかよ!ユエ!俺も大好きだぜぃ!」
『本当ー!?あはは、嬉しい!』
「…は?」
ブ「まさか、ユエも好きだったとはなぁ。」
『むしろ気付いてなかった事に吃驚だよ。』
ブ「だってユエは赤也に一途って感じだっただろぃ?」
『あはは、赤也は関係ないでしょ。』
ブ「ユエ、お前は最高だぜぃ!」
「………んだよ、それ。」
『ブン太今日部誌書くの代わってくれるんだよね?』
ブ「そうだぜぃ。ほら、彼氏とさっさと遊んできな?」
『うん。ありがとう、ブン太。また明日部活でねー。』
ブ「おう、楽しんでこい!」
ばいばーいと手を振り部室を出て、扉を閉めるとすぐ近くに切原が居た事に気が付くユエ。
『わっ!?赤也、ごめんね、お待たせ。』
「……。」
『部誌書こうと思ったらブン太とちょっと話し込んじゃって。』
「あっそ。」
『…赤也?』
「…ふん。」
『え、ちょっと、赤也!?』
切原はユエの方を見る事なく歩み始める。ユエはその背中を追う。
『ね、ねぇ!赤也、どうしたの!?』
「うるせーな、俺に構うなよ。」
早歩きで切原はスタスタと歩いていく。身長が低く、歩幅の低いユエは小走りで追いかける。
『な、なんで怒ってるの?そんなに待たせちゃった?』
「………。」
信号待ちで足を止める。
『ねぇ、赤也ってば。』
「うるせーつってんの、分かんないの?」
信号が変わり、2人は歩き出す。
『訳を説明してくれなきゃ黙れないよ!』
「じゃあ言うけどさ。俺、今ユエちゃんの事、好きじゃないから。」
『……え…。』
「ふん。」
切原はそう言うと振り返りもせず、自宅まで早歩きで帰っていった。
「あー、くそ!」
切原はカバンを投げ捨てるように置き、ベッドへ横になった。
「………なんで……なんで丸井先輩に浮気なんか……。…俺は…ユエちゃんだけが…。」
好きなのに。そう口に出そうとしたが、言葉を飲み込んだ。はあ、と深いため息をつき、スマホを確認する。
「……メッセ…ある訳ねぇよな…。…俺が一方的に怒ってただけだし…。」
モヤモヤとした気持ちを抱えゴロゴロとベッドの上で転がる。
「……明日…謝ろ…。…でも…謝っても…丸井先輩の所に…いっちゃうのかな…。」
ご飯を終え、風呂も終え、後は寝るだけという時、またスマホを確認する。
「……ダメだ、俺……ユエちゃんのことやっぱ好きじゃねぇんだ、大好きなんだ。愛してるんだ…。丸井先輩に取られたくないし。…好きじゃなくて愛してるって、そう言って好きじゃないって言った事は弁解しよう。」
スマホを取り出し、ユエへメッセを送る。
「……うう、謝んのって緊張すんなぁ。“ユエちゃん、まだ起きてる?”っと。」
5分後、既読がつく事はなかった。
「もう寝ちゃったのか。…明日、朝練前に直接謝ろ…。」
スマホを閉じ、充電をし、毛布をかぶった。
次の日。
「メッセ…既読すらついてないな。俺よりはやく寝てるのに…。…そうとう怒らせちゃったかなぁ。」
切原は立海の朝練へ向かうと、まだ全員が集まっていない状態だった。
弦「赤也、今日は珍しく余裕があるじゃないか。」
「ま、まぁ…たまには…。」
弦「関心した。これからも続けれるよう精進しろ。」
「はーい…。」
キョロキョロと周りを確認するが、寮で暮らしているユエの姿がまだ見えていなかった。
精「ユエはいつも俺達が来る前に整備とかしてくれてるのに珍しく寝坊かな。」
弦「全くたるんどる!」
精「マネージャーなんだから1日ぐらい許してあげてもいいじゃないか。」
幸村はクスクスと笑っていた。
その日、ユエは朝練に来る事はなかった。
「(くっそー…謝る機会逃しちゃった。)」
学校が始まり、昼休み。切原はユエの教室へ向かった。
「あれ?」
「あ、切原先輩。」
「おっす。ユエちゃんいねぇの?」
「今日は朝からお休みですよ。」
「朝練もいなかったんですか?」
「そうなんだよね。」
「そういえば先生も寮暮らしの癖に連絡の1つも寄越さないとはなんだーってちょっと怒ってたよね。」
「そうだねー。」
「え、連絡もないの?」
切原はユエへ送ったメッセを見るがまだ既読もついていなかった。
「切原先輩彼女のことなのに分からないんですか?」
「きゃ~!私チャンスあります?」
「ある訳ねーよ。俺が好きなのはユエちゃんだけなの。ったく…。」
切原の発言で教室中の女子はきゃーきゃーと歓声をあげていた。
切原はユエの教室から離れ、寮の方へ向かっていた。
「……どうしようかなぁ…。」
雅「なんじゃ、赤也。そんな所でつったって。」
「うわっ!?仁王先輩かぁ…。」
雅「ユエ、いるかの。」
「いや、俺も今来た所なんで分からないっスけど…。」
比「今日は屋上でご飯を食べようという話になっていたのですが、ユエさんがいらっしゃらなくて。」
雅「風邪でも引いたんかと思っての。おーい、ユエー。」
「!」
仁王はこんこんと、ドアを叩くが反応がなかった。
切原は謝罪の言葉が纏まっていなかったので安心したような、でも何故反応がないのか分からない不安のような、分からない感情に包まれていた。
「出ないっスね…。」
雅「メッセも既読つかんの。」
比「なんだか心配ですね。風邪でも引いていなければいいのですが。」
雅「ユエは小さいからの。身体が弱そうで不安じゃき。」
比「ですねぇ…。」
「………。ちょっと、俺…先生に寮の合鍵あるか聞いてきます!」
雅「おー。」
切原全力で走り、職員室へ向かった。鍵は必ず返すという約束で借り、寮へ戻った。
「…戻りました!」
雅「お疲れ。」
比「ユエさん、レディの部屋に許可なく入るのは心苦しいですがお邪魔させて頂きます。」
切原が鍵を開けるとそこにはユエの姿がなかった。
「…あれ…。」
雅「相変わらず誰が来てもいいように整った部屋じゃき。」
比「…ですが、なんだか変ですね。」
雅「柳生も感じ取っていたか。」
「……。」
切原はゾクリと嫌な予感を感じ取っていた。部屋の奥へ入り、ユエの日記を取り出す。
比「切原くん、何を?」
「ユエちゃんの日記っス。……あ…。」
嫌な予感は的中したように、昨日の日記だけ書かれていなかった。
雅「…ユエは帰ってきておらんのか?」
比「切原くん、昨日はユエさんとお出かけをすると聞いていましたが。」
「いや…その……ちょっと喧嘩しちゃって…。…デートは結局しなかったんスよ…。」
雅「…帰り道に何かあったのかの。」
「!!お、俺…ユエちゃんを探して来なきゃ!」
比「落ち着いてください。むやみやたらに探す方が非効率ですよ。気持ちが焦るのは分かりますが此処は一度先生方に報告致しましょう。」
「……はい。」
切原と仁王と柳生は職員室へ戻って鍵を返し、日記が途切れていた事を報告すると、少しバタバタとし始めていた。
比「さあ、そろそろ休み時間がなくなってしまいます。」
雅「不安なのは俺も同じじゃき。赤也も飯ちゃんと食いんしゃい。」
「…分かってますよ。」
切原はトボトボと自分の教室に帰っていった。
放課後、レギュラー陣は部室へ集まっていた。
精「あれ、ユエは休みかい?」
弦「どうした。体調不良だったのか?」
精「心配だなぁ。」
すると、部室へ向かって走ってきた教師から驚きの言葉を告げられる。
「テニス部のマネージャーがトラックに跳ねられたそうだ!!」
全員は耳を疑っていた。
「跳ねられて、そんで!?」
「幸村の入院していた病院で入院しているらしい。」
「俺、いってきます!!!」
切原は有無を言わさずに荷物も全て放置して全速力で病院へ走っていった。
「こら、切原!」
弦「赤也!!」
精「先生、ユエの様態は?」
ユエは左足を骨折したらしいが、頭の打ち所が悪かったらしく、目が覚めないらしい。
切原は息を切らし、ユエの寝ている部屋へ到着する。
「………ユエ…ちゃん……。」
よろよろと近付き、手をそっと握る。
「…俺…謝ってねぇじゃん……謝りたいし……好きじゃなくて、愛してるなんだって…伝えたいし…。」
切原は涙ぐみ、
「…お願いだから……目を覚まして…くれよ……。」
力なく座り込んだ。
少し遅れてレギュラー陣の全員が到着する。
比「…ユエさん…。」
雅「……俺達と飯を食う約束すっぽかして、何こんな所で…寝てるんじゃ…。」
弦「約束を破るなど……たるんどるぞ…ユエ…。」
蓮「……ユエ、俺達と立海3連覇を目指すのではなかったか…?」
桑「おいおい、冗談だろ?昨日まで…あんなに笑ってたじゃねぇか。」
精「…嫌だよ、ユエ。俺が二度と見たくない光景を見せるなんて…酷いじゃないか…。」
ブ「昨日好きなアーティストが一緒で…俺の持ってるCD、今日貸すって話しただろぃ…なのになんで…。」
「……好きなアーティスト…?」
ブ「…昨日、赤也がユエとデートに行く前に話してたんだよ。アーティストの趣味が合ってよ、そのアーティストが好きだって。で、俺も好きだって…。」
「……俺…そんな…。」
弦「…?赤也?」
「(俺はユエちゃんが丸井先輩のことが好きだって…勘違いしてたって事…なのか…?勘違いで俺は…あんな酷い言葉を…態度を…。)」
ブ「……~~マジかよ!ユエ!俺も(そのアーティスト)大好きだぜぃ!」
『本当ー!?あはは、(音楽の趣味が合って)嬉しい!』
「…は?」
ブ「まさか、ユエも(そのアーティストが)好きだったとはなぁ。」
『むしろ気付いてなかった事に吃驚だよ。(私よく聴いてるのに。)』
ブ「だってユエは赤也に一途って感じだっただろぃ?」
『あはは、赤也は(音楽の趣味とは)関係ないでしょ。』
ブ「ユエ、お前は最高だぜぃ!」
「……ああ………俺……。」
精「赤也、大丈夫かい?」
ブ「おい、赤也…?」
「……俺が…ユエちゃんの方を……信号渡った…あの時に振り向いていれば……。…俺が…いつもみたいに…寮まで…ユエちゃんを……送り届けてれば……。」
雅「……。」
仁王は切原の頬をビンタする。
「は…え、仁王先輩…?」
雅「後悔してもどうにもならんじゃろ。俺らに出来る事はユエが意識を取り戻す事を祈るしか出来ん。」
「そう…ですけど…。」
雅「おまんがそう呟いても過去は変わらんぜよ。そんな事を思い出すぐらいなら、赤也はユエが起きた後に伝える言葉を考えるべきじゃ。」
精「…仁王の言う通りだよ。俺の病気だって治ったんだ…ユエの目は絶対に覚めるはずだ。」
「……すみません、先輩達。…俺、仁王先輩の言う通り…伝えたい事をもっと纏めておきます…。」
雅「プリッ。それでいいなり。」
全員が見守るが、ユエは起きる気配がなかった。
「……ユエちゃん…。」
精「そろそろ面会の時間は終わりのようだね。…ユエ、また明日来るからね。」
ブ「目、覚ましてくれよ。」
弦「赤也、行くぞ。」
ベッドへ突っ伏す切原の肩を叩く真田。
「………。」
蓮「弦一郎。少し2人きりにさせてやろう。」
弦「…仕方ない。赤也、遅くなりすぎない内に帰るのだぞ。」
切原とユエ以外のメンバーは全員病室から出て行った。
すると切原どんどんと涙がこみ上げてきていた。
「……………ユエちゃん…。」
ポツリ、ポツリと突っ伏したまま何度もユエの名を呼んだ。
すると、ユエは手を動かし切原の頭を弱く撫でる。
「!!!ユエちゃん…!?」
『…………赤也…。』
「良かった…本当に良かった!!」
『……私…どうなったんだっけ…。』
「…ユエちゃん、俺…ほんっとーにごめん!!」
切原は深く頭を下げる。
「俺、本当に無神経だったし、話聞いてなかったし、最低だった!!」
『……。』
「丸井先輩とユエちゃんの話、後半だけ聞いてたんだ。…俺、アーティストの話だと思わなくて…ユエちゃんが、俺なんて関係ないって…丸井先輩の事を好きになったのかと思って…勘違いして…!!」
「好きじゃないって言ったのもごめん、好きじゃなくて、本当に大好きで…もうそれも通り越して、ユエちゃんの事心から愛してて!」
『……。』
「俺が…嫉妬なんてしなきゃ…ユエちゃんをちゃんと寮まで送ってればこんな事にならなかったのに……本当にごめん。」
『……赤也。』
「…なに?」
『…私も…赤也の事、愛してるよ。』
「………ユエちゃん…。」
『……よしよし、泣かないの…。』
今の切原にとって“愛してる”という言葉は何よりも嬉しかった。
切原はこらえていた涙を流し、ユエは頭をまた撫でた。
『私…寂しくなっちゃって、ぼーっとしちゃったんだ。そしたらね、クラクションも気付かないでいたんだって。』
「ごめん…俺のせいで。」
『ううん。ブン太と話してて勘違いさせたのは私。赤也の分かりきった好きじゃないって嘘を信じてぼーっとしちゃってトラックに跳ねられたのも私。今こうやって赤也を泣かせてしまってるのは私だよ。』
「違うっしょ!!ユエちゃん、優しすぎるって…。」
『……じゃあ、赤也のせい。』
「う…そうだよ。」
『お願い聞いてくれる?』
「もちろん!!なんだってするって!」
『ふーん…なんだってするって言っちゃうんだ。』
「えっ!?そ、そんな怖いことさせる気なの?」
『ううん。足が治ったら、デートしよ。』
「へ…そんなの良いに決まってるじゃん!」
『ふふ、じゃあ許してあげる。』
「だから…ユエちゃんは優しすぎるって。」
切原は嬉しそうに微笑んだ。その顔を見たユエもつられて微笑む。
その日、病院の面会時間は終わり、切原は帰っていった。
次の日の朝練。
『おはよー。』
精「ユエ!?」
弦「無事か!?」
『うん、目はばっちり覚めたよ。』
蓮「松葉杖か…辛くないか?」
『ちょっと歩きなれないけど、大丈夫。』
ブ「不便だったら助けてやるからな?」
『うん、ありがとう。ブン太。』
桑「ったく、松葉杖つきながら整備するって時間かかっただろ。」
『いつもよりはね。でも、日課みたいな物だからさ、気にしないで。』
比「ご苦労様でした。ベンチにお腰掛けください。」
『うん、比呂士ありがとう。』
雅「そんで、彼氏はまた遅刻かいの。」
『あはは、いつも通りじゃない?』
噂をした途端、走ってくる切原の姿。
「すみません!遅れm…ユエちゃん!?足…もう学校平気なのか?」
『うん。松葉杖つきながらだけどね。だから移動とかは少し面倒くさくなっちゃったけど、大丈夫。足も様子見が必要だけど1ヶ月あれば治るって。』
「良かった……。」
『ふふ、私の件は良かったとは思うけど…。』
「ん?」
ゴゴゴゴゴ、と音を立てて切原の背後へ立つ真田。
「うわっ!!!」
弦「…赤也ーーー!!!」
「ゲゲッ!グラウンド走ってきまーす!!」
弦「待たんか!!!」
切原と真田は追いかけっこを始めた。
『ふふ、馬鹿だなぁ。』
雅「馬鹿じゃな。」
『実は私、1日でも立海に来れないの寂しいから無理言って退院させて貰ったんだ。』
比「そうだったのですか?」
『うん。だって、赤也はもちろん。皆の事大好きだから。』
蓮「ふっ、そうか。」
『もしかしたら迷惑かけちゃうかもしれないけど…許してね。』
雅「構わんぜよ。」
ブ「病院へリハビリに行く日があれば言えよ?まぁ、赤也がいるから俺が付きそう必要ないんだろうけどよ。」
『そうだね。でも気持ちは嬉しいよ、ありがとう。』
いつの間にか追いかけっこも終わり2人は戻ってくる。
「うう……ビンタされた…。」
『これでちょっとは気合入ったんじゃない?』
「ひでーな!慰めてよ!ユエちゃんしか慰めてくれる人いないんだからさぁ!」
『遅刻した赤也が悪いって。』
「そんなぁ…。」
そう言うと切原以外の全員がクスクスと笑っていた。
「なんスか!みんなして!」
『私はいつも通りな光景が嬉しくて。』
精「俺も同じだよ。昨日はユエがいなくてみんなおとなしかったから。」
雅「ユエがおらんと、赤也も真田も騒がんからの。」
弦「なっ、俺は騒いでなどいない!」
『ふふ…そうだったんだ。』
1ヶ月後、特に問題もなくユエの足は治っていった。
『赤也。』
「ん?」
『約束。』
「デートな!行こうぜ!」
『うん。…ふふ。』
「どうしたの、急に笑っちゃって?」
『赤也の事、大好きだなーって思って。』
「俺も愛してるって!」
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「ったく、遅ーなぁ。ユエちゃん何やってんだぁ?」
雅「なんじゃ、彼女に振られたんか。」
「振られる訳ないっスよ。」
雅「ま、おまんらは仲が良いからの。」
「でしょでしょ。所で仁王先輩、ユエちゃん見てないっスか?」
比「ユエさんなら先程、部室で丸井くんとお話していましたよ。」
「お、マジっスか!さんきゅー、柳生先輩!…もー俺とデートするって話なのに丸井先輩と何話してるんだよ…。」
まったく、と思いつつ丸井とユエがいる部室へ向かう。
「(…2人きりでどんな話してるんだろ。)」
切原は部室に耳を澄ませる。
ブ「……~~マジかよ!ユエ!俺も大好きだぜぃ!」
『本当ー!?あはは、嬉しい!』
「…は?」
ブ「まさか、ユエも好きだったとはなぁ。」
『むしろ気付いてなかった事に吃驚だよ。』
ブ「だってユエは赤也に一途って感じだっただろぃ?」
『あはは、赤也は関係ないでしょ。』
ブ「ユエ、お前は最高だぜぃ!」
「………んだよ、それ。」
『ブン太今日部誌書くの代わってくれるんだよね?』
ブ「そうだぜぃ。ほら、彼氏とさっさと遊んできな?」
『うん。ありがとう、ブン太。また明日部活でねー。』
ブ「おう、楽しんでこい!」
ばいばーいと手を振り部室を出て、扉を閉めるとすぐ近くに切原が居た事に気が付くユエ。
『わっ!?赤也、ごめんね、お待たせ。』
「……。」
『部誌書こうと思ったらブン太とちょっと話し込んじゃって。』
「あっそ。」
『…赤也?』
「…ふん。」
『え、ちょっと、赤也!?』
切原はユエの方を見る事なく歩み始める。ユエはその背中を追う。
『ね、ねぇ!赤也、どうしたの!?』
「うるせーな、俺に構うなよ。」
早歩きで切原はスタスタと歩いていく。身長が低く、歩幅の低いユエは小走りで追いかける。
『な、なんで怒ってるの?そんなに待たせちゃった?』
「………。」
信号待ちで足を止める。
『ねぇ、赤也ってば。』
「うるせーつってんの、分かんないの?」
信号が変わり、2人は歩き出す。
『訳を説明してくれなきゃ黙れないよ!』
「じゃあ言うけどさ。俺、今ユエちゃんの事、好きじゃないから。」
『……え…。』
「ふん。」
切原はそう言うと振り返りもせず、自宅まで早歩きで帰っていった。
「あー、くそ!」
切原はカバンを投げ捨てるように置き、ベッドへ横になった。
「………なんで……なんで丸井先輩に浮気なんか……。…俺は…ユエちゃんだけが…。」
好きなのに。そう口に出そうとしたが、言葉を飲み込んだ。はあ、と深いため息をつき、スマホを確認する。
「……メッセ…ある訳ねぇよな…。…俺が一方的に怒ってただけだし…。」
モヤモヤとした気持ちを抱えゴロゴロとベッドの上で転がる。
「……明日…謝ろ…。…でも…謝っても…丸井先輩の所に…いっちゃうのかな…。」
ご飯を終え、風呂も終え、後は寝るだけという時、またスマホを確認する。
「……ダメだ、俺……ユエちゃんのことやっぱ好きじゃねぇんだ、大好きなんだ。愛してるんだ…。丸井先輩に取られたくないし。…好きじゃなくて愛してるって、そう言って好きじゃないって言った事は弁解しよう。」
スマホを取り出し、ユエへメッセを送る。
「……うう、謝んのって緊張すんなぁ。“ユエちゃん、まだ起きてる?”っと。」
5分後、既読がつく事はなかった。
「もう寝ちゃったのか。…明日、朝練前に直接謝ろ…。」
スマホを閉じ、充電をし、毛布をかぶった。
次の日。
「メッセ…既読すらついてないな。俺よりはやく寝てるのに…。…そうとう怒らせちゃったかなぁ。」
切原は立海の朝練へ向かうと、まだ全員が集まっていない状態だった。
弦「赤也、今日は珍しく余裕があるじゃないか。」
「ま、まぁ…たまには…。」
弦「関心した。これからも続けれるよう精進しろ。」
「はーい…。」
キョロキョロと周りを確認するが、寮で暮らしているユエの姿がまだ見えていなかった。
精「ユエはいつも俺達が来る前に整備とかしてくれてるのに珍しく寝坊かな。」
弦「全くたるんどる!」
精「マネージャーなんだから1日ぐらい許してあげてもいいじゃないか。」
幸村はクスクスと笑っていた。
その日、ユエは朝練に来る事はなかった。
「(くっそー…謝る機会逃しちゃった。)」
学校が始まり、昼休み。切原はユエの教室へ向かった。
「あれ?」
「あ、切原先輩。」
「おっす。ユエちゃんいねぇの?」
「今日は朝からお休みですよ。」
「朝練もいなかったんですか?」
「そうなんだよね。」
「そういえば先生も寮暮らしの癖に連絡の1つも寄越さないとはなんだーってちょっと怒ってたよね。」
「そうだねー。」
「え、連絡もないの?」
切原はユエへ送ったメッセを見るがまだ既読もついていなかった。
「切原先輩彼女のことなのに分からないんですか?」
「きゃ~!私チャンスあります?」
「ある訳ねーよ。俺が好きなのはユエちゃんだけなの。ったく…。」
切原の発言で教室中の女子はきゃーきゃーと歓声をあげていた。
切原はユエの教室から離れ、寮の方へ向かっていた。
「……どうしようかなぁ…。」
雅「なんじゃ、赤也。そんな所でつったって。」
「うわっ!?仁王先輩かぁ…。」
雅「ユエ、いるかの。」
「いや、俺も今来た所なんで分からないっスけど…。」
比「今日は屋上でご飯を食べようという話になっていたのですが、ユエさんがいらっしゃらなくて。」
雅「風邪でも引いたんかと思っての。おーい、ユエー。」
「!」
仁王はこんこんと、ドアを叩くが反応がなかった。
切原は謝罪の言葉が纏まっていなかったので安心したような、でも何故反応がないのか分からない不安のような、分からない感情に包まれていた。
「出ないっスね…。」
雅「メッセも既読つかんの。」
比「なんだか心配ですね。風邪でも引いていなければいいのですが。」
雅「ユエは小さいからの。身体が弱そうで不安じゃき。」
比「ですねぇ…。」
「………。ちょっと、俺…先生に寮の合鍵あるか聞いてきます!」
雅「おー。」
切原全力で走り、職員室へ向かった。鍵は必ず返すという約束で借り、寮へ戻った。
「…戻りました!」
雅「お疲れ。」
比「ユエさん、レディの部屋に許可なく入るのは心苦しいですがお邪魔させて頂きます。」
切原が鍵を開けるとそこにはユエの姿がなかった。
「…あれ…。」
雅「相変わらず誰が来てもいいように整った部屋じゃき。」
比「…ですが、なんだか変ですね。」
雅「柳生も感じ取っていたか。」
「……。」
切原はゾクリと嫌な予感を感じ取っていた。部屋の奥へ入り、ユエの日記を取り出す。
比「切原くん、何を?」
「ユエちゃんの日記っス。……あ…。」
嫌な予感は的中したように、昨日の日記だけ書かれていなかった。
雅「…ユエは帰ってきておらんのか?」
比「切原くん、昨日はユエさんとお出かけをすると聞いていましたが。」
「いや…その……ちょっと喧嘩しちゃって…。…デートは結局しなかったんスよ…。」
雅「…帰り道に何かあったのかの。」
「!!お、俺…ユエちゃんを探して来なきゃ!」
比「落ち着いてください。むやみやたらに探す方が非効率ですよ。気持ちが焦るのは分かりますが此処は一度先生方に報告致しましょう。」
「……はい。」
切原と仁王と柳生は職員室へ戻って鍵を返し、日記が途切れていた事を報告すると、少しバタバタとし始めていた。
比「さあ、そろそろ休み時間がなくなってしまいます。」
雅「不安なのは俺も同じじゃき。赤也も飯ちゃんと食いんしゃい。」
「…分かってますよ。」
切原はトボトボと自分の教室に帰っていった。
放課後、レギュラー陣は部室へ集まっていた。
精「あれ、ユエは休みかい?」
弦「どうした。体調不良だったのか?」
精「心配だなぁ。」
すると、部室へ向かって走ってきた教師から驚きの言葉を告げられる。
「テニス部のマネージャーがトラックに跳ねられたそうだ!!」
全員は耳を疑っていた。
「跳ねられて、そんで!?」
「幸村の入院していた病院で入院しているらしい。」
「俺、いってきます!!!」
切原は有無を言わさずに荷物も全て放置して全速力で病院へ走っていった。
「こら、切原!」
弦「赤也!!」
精「先生、ユエの様態は?」
ユエは左足を骨折したらしいが、頭の打ち所が悪かったらしく、目が覚めないらしい。
切原は息を切らし、ユエの寝ている部屋へ到着する。
「………ユエ…ちゃん……。」
よろよろと近付き、手をそっと握る。
「…俺…謝ってねぇじゃん……謝りたいし……好きじゃなくて、愛してるなんだって…伝えたいし…。」
切原は涙ぐみ、
「…お願いだから……目を覚まして…くれよ……。」
力なく座り込んだ。
少し遅れてレギュラー陣の全員が到着する。
比「…ユエさん…。」
雅「……俺達と飯を食う約束すっぽかして、何こんな所で…寝てるんじゃ…。」
弦「約束を破るなど……たるんどるぞ…ユエ…。」
蓮「……ユエ、俺達と立海3連覇を目指すのではなかったか…?」
桑「おいおい、冗談だろ?昨日まで…あんなに笑ってたじゃねぇか。」
精「…嫌だよ、ユエ。俺が二度と見たくない光景を見せるなんて…酷いじゃないか…。」
ブ「昨日好きなアーティストが一緒で…俺の持ってるCD、今日貸すって話しただろぃ…なのになんで…。」
「……好きなアーティスト…?」
ブ「…昨日、赤也がユエとデートに行く前に話してたんだよ。アーティストの趣味が合ってよ、そのアーティストが好きだって。で、俺も好きだって…。」
「……俺…そんな…。」
弦「…?赤也?」
「(俺はユエちゃんが丸井先輩のことが好きだって…勘違いしてたって事…なのか…?勘違いで俺は…あんな酷い言葉を…態度を…。)」
ブ「……~~マジかよ!ユエ!俺も(そのアーティスト)大好きだぜぃ!」
『本当ー!?あはは、(音楽の趣味が合って)嬉しい!』
「…は?」
ブ「まさか、ユエも(そのアーティストが)好きだったとはなぁ。」
『むしろ気付いてなかった事に吃驚だよ。(私よく聴いてるのに。)』
ブ「だってユエは赤也に一途って感じだっただろぃ?」
『あはは、赤也は(音楽の趣味とは)関係ないでしょ。』
ブ「ユエ、お前は最高だぜぃ!」
「……ああ………俺……。」
精「赤也、大丈夫かい?」
ブ「おい、赤也…?」
「……俺が…ユエちゃんの方を……信号渡った…あの時に振り向いていれば……。…俺が…いつもみたいに…寮まで…ユエちゃんを……送り届けてれば……。」
雅「……。」
仁王は切原の頬をビンタする。
「は…え、仁王先輩…?」
雅「後悔してもどうにもならんじゃろ。俺らに出来る事はユエが意識を取り戻す事を祈るしか出来ん。」
「そう…ですけど…。」
雅「おまんがそう呟いても過去は変わらんぜよ。そんな事を思い出すぐらいなら、赤也はユエが起きた後に伝える言葉を考えるべきじゃ。」
精「…仁王の言う通りだよ。俺の病気だって治ったんだ…ユエの目は絶対に覚めるはずだ。」
「……すみません、先輩達。…俺、仁王先輩の言う通り…伝えたい事をもっと纏めておきます…。」
雅「プリッ。それでいいなり。」
全員が見守るが、ユエは起きる気配がなかった。
「……ユエちゃん…。」
精「そろそろ面会の時間は終わりのようだね。…ユエ、また明日来るからね。」
ブ「目、覚ましてくれよ。」
弦「赤也、行くぞ。」
ベッドへ突っ伏す切原の肩を叩く真田。
「………。」
蓮「弦一郎。少し2人きりにさせてやろう。」
弦「…仕方ない。赤也、遅くなりすぎない内に帰るのだぞ。」
切原とユエ以外のメンバーは全員病室から出て行った。
すると切原どんどんと涙がこみ上げてきていた。
「……………ユエちゃん…。」
ポツリ、ポツリと突っ伏したまま何度もユエの名を呼んだ。
すると、ユエは手を動かし切原の頭を弱く撫でる。
「!!!ユエちゃん…!?」
『…………赤也…。』
「良かった…本当に良かった!!」
『……私…どうなったんだっけ…。』
「…ユエちゃん、俺…ほんっとーにごめん!!」
切原は深く頭を下げる。
「俺、本当に無神経だったし、話聞いてなかったし、最低だった!!」
『……。』
「丸井先輩とユエちゃんの話、後半だけ聞いてたんだ。…俺、アーティストの話だと思わなくて…ユエちゃんが、俺なんて関係ないって…丸井先輩の事を好きになったのかと思って…勘違いして…!!」
「好きじゃないって言ったのもごめん、好きじゃなくて、本当に大好きで…もうそれも通り越して、ユエちゃんの事心から愛してて!」
『……。』
「俺が…嫉妬なんてしなきゃ…ユエちゃんをちゃんと寮まで送ってればこんな事にならなかったのに……本当にごめん。」
『……赤也。』
「…なに?」
『…私も…赤也の事、愛してるよ。』
「………ユエちゃん…。」
『……よしよし、泣かないの…。』
今の切原にとって“愛してる”という言葉は何よりも嬉しかった。
切原はこらえていた涙を流し、ユエは頭をまた撫でた。
『私…寂しくなっちゃって、ぼーっとしちゃったんだ。そしたらね、クラクションも気付かないでいたんだって。』
「ごめん…俺のせいで。」
『ううん。ブン太と話してて勘違いさせたのは私。赤也の分かりきった好きじゃないって嘘を信じてぼーっとしちゃってトラックに跳ねられたのも私。今こうやって赤也を泣かせてしまってるのは私だよ。』
「違うっしょ!!ユエちゃん、優しすぎるって…。」
『……じゃあ、赤也のせい。』
「う…そうだよ。」
『お願い聞いてくれる?』
「もちろん!!なんだってするって!」
『ふーん…なんだってするって言っちゃうんだ。』
「えっ!?そ、そんな怖いことさせる気なの?」
『ううん。足が治ったら、デートしよ。』
「へ…そんなの良いに決まってるじゃん!」
『ふふ、じゃあ許してあげる。』
「だから…ユエちゃんは優しすぎるって。」
切原は嬉しそうに微笑んだ。その顔を見たユエもつられて微笑む。
その日、病院の面会時間は終わり、切原は帰っていった。
次の日の朝練。
『おはよー。』
精「ユエ!?」
弦「無事か!?」
『うん、目はばっちり覚めたよ。』
蓮「松葉杖か…辛くないか?」
『ちょっと歩きなれないけど、大丈夫。』
ブ「不便だったら助けてやるからな?」
『うん、ありがとう。ブン太。』
桑「ったく、松葉杖つきながら整備するって時間かかっただろ。」
『いつもよりはね。でも、日課みたいな物だからさ、気にしないで。』
比「ご苦労様でした。ベンチにお腰掛けください。」
『うん、比呂士ありがとう。』
雅「そんで、彼氏はまた遅刻かいの。」
『あはは、いつも通りじゃない?』
噂をした途端、走ってくる切原の姿。
「すみません!遅れm…ユエちゃん!?足…もう学校平気なのか?」
『うん。松葉杖つきながらだけどね。だから移動とかは少し面倒くさくなっちゃったけど、大丈夫。足も様子見が必要だけど1ヶ月あれば治るって。』
「良かった……。」
『ふふ、私の件は良かったとは思うけど…。』
「ん?」
ゴゴゴゴゴ、と音を立てて切原の背後へ立つ真田。
「うわっ!!!」
弦「…赤也ーーー!!!」
「ゲゲッ!グラウンド走ってきまーす!!」
弦「待たんか!!!」
切原と真田は追いかけっこを始めた。
『ふふ、馬鹿だなぁ。』
雅「馬鹿じゃな。」
『実は私、1日でも立海に来れないの寂しいから無理言って退院させて貰ったんだ。』
比「そうだったのですか?」
『うん。だって、赤也はもちろん。皆の事大好きだから。』
蓮「ふっ、そうか。」
『もしかしたら迷惑かけちゃうかもしれないけど…許してね。』
雅「構わんぜよ。」
ブ「病院へリハビリに行く日があれば言えよ?まぁ、赤也がいるから俺が付きそう必要ないんだろうけどよ。」
『そうだね。でも気持ちは嬉しいよ、ありがとう。』
いつの間にか追いかけっこも終わり2人は戻ってくる。
「うう……ビンタされた…。」
『これでちょっとは気合入ったんじゃない?』
「ひでーな!慰めてよ!ユエちゃんしか慰めてくれる人いないんだからさぁ!」
『遅刻した赤也が悪いって。』
「そんなぁ…。」
そう言うと切原以外の全員がクスクスと笑っていた。
「なんスか!みんなして!」
『私はいつも通りな光景が嬉しくて。』
精「俺も同じだよ。昨日はユエがいなくてみんなおとなしかったから。」
雅「ユエがおらんと、赤也も真田も騒がんからの。」
弦「なっ、俺は騒いでなどいない!」
『ふふ…そうだったんだ。』
1ヶ月後、特に問題もなくユエの足は治っていった。
『赤也。』
「ん?」
『約束。』
「デートな!行こうぜ!」
『うん。…ふふ。』
「どうしたの、急に笑っちゃって?」
『赤也の事、大好きだなーって思って。』
「俺も愛してるって!」
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