その世界の私は鬼ちーと呼ばない




その日、泣く子も黙るヒールレスラーこと鬼塚庄司は自宅のマンションのリビングにて、でっかいソファーに座って気難しい表情をしていた。
時刻は16時10分。
テーブルに置いてあるスマホには、数件のLIENの通知が。
画面には、「ハッピーバースデー鬼塚くん!」「庄司、誕生日おめでとう」と祝いのコメントが表示されていた。


そう、何を言おう今日は鬼塚の誕生日なのである。

そして、彼は朝から現在にかけて悩んでいた。

友達の川口さやかに今日自分の誕生日であることを伝えるか否か。


川口さやか。
去年の終わり辺りで色々と縁があって友達になった女の子だ。
性格は一言で言うと傍若無人。
先月「私も女レスラー目指すわ!」って言って、入会したジムで女達をぶち泣かせて出禁になった。
まぁ相手が新人いじめをよくするヤツらだったらしいから、自業自得といえば自業自得だけど。
その後はけろっとした顔をしてジムの中でクレープを食べていた(すぐ追い出された)。
何かと横暴で破天荒な行動が多い川口だが、鬼塚はそんな彼女のことがわりと気に入っていた。
友達以上の感情を持ってるくらいに……。
そうであるのに、鬼塚は川口に自分の誕生日を教えていなかった。
うっかり忘れていたのもあり、なんだか恥ずかしかったのもあり。


(……別にいっか)


今更だし。
と、半日も悩んだにも関わらず、鬼塚は諦めたように目を伏せる。
もう夕方だし、急に誕生日のことを伝えられても川口が困るだけだろうし。
誕生日なんて来年もあるわけだし、今年はもういいか。
半ば言い聞かせるように、胸の内でそう思いながら、鬼塚はとりあえず来ているLIENの返事をしようとスマホに手を伸ばす。
すると、


〜〜♪、〜♪


突然着信音が鳴って、鬼塚は驚いた。
しかも、画面に映っている名前はーーーー……。
鬼塚は一瞬固まったものの慌ててスマホを取って、通話ボタンをタップする。
そして、スマホを耳に当てて戸惑いながらも、相手の名前を呼ぶ。


「どうしたんだよ、急に。……え?いや、お前、なんで知って……。……はぁ、そうかよ」


口調は気だるげでありながらも、鬼塚の頬がだんだんと緩んでいく。


「わかったわかった。じゃあまた後でな」


そう言って鬼塚は通話を切ると、機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら外に出る準備をした。




おわり
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